無限に広がるようにも感じられる宇宙。数え切れないほどの星々が燦然と輝く
広大な大河を横切りながら、二つの光がすさまじい速さで飛び交っている。
一方は追う側、もう一方は追われる側と推測できるそれは、さながらカーチェイスのようであった。
広大な大河を横切りながら、二つの光がすさまじい速さで飛び交っている。
一方は追う側、もう一方は追われる側と推測できるそれは、さながらカーチェイスのようであった。
『まいったな…本当に軌道上に惑星があるじゃないか!一体誰が軌道計算を?』
見ると、二つの光の行く手には、青々と輝く美しい惑星が確認できた。
先行していた光はしめた、といった感じで何の迷いも感じられない軌道を描きながら、
その惑星に向きをとった。
先行していた光はしめた、といった感じで何の迷いも感じられない軌道を描きながら、
その惑星に向きをとった。
『…やれやれ…「流刑体(ルケイタイ)」が幾つあの惑星に衝突すると思って…違う!二千万だ。二千万!!』
やや、いらだちながら母星へ判断を仰ぐ後方の光。「彼」にとってあの惑星に「流刑体」が襲来することは、避けたい事態であるようだ。
『増援はいつ来る?…………』
二つの光は、あの惑星の衛星と思わしき二つの星を通過した、先行している光はなおも加速している。
総体距離がどんどん離されていく。
総体距離がどんどん離されていく。
『…私のバッテリーが切れるまでには来ていただきたいものだがね』
精密機械と一部の生体部品で構成されている「彼」にも、皮肉を言う個性はあった。
毒づきながらも、周囲にフィールドを形成し、大気圏突入の体勢に入るところが、機械的な冷静さとでも言うべきか。
前方の光はすでに大気圏を突破したようだった。
毒づきながらも、周囲にフィールドを形成し、大気圏突入の体勢に入るところが、機械的な冷静さとでも言うべきか。
前方の光はすでに大気圏を突破したようだった。
『間もなく「流刑体・撃針」が地表に到達だ…しばらく追尾機会を見て「回収」する。以上だ!』
地表が近い。
「「宇宙」の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさ――――」
猛烈な爆音とともに、彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの詠唱はかき消された。
もくもくと上がる爆発による煙。
彼女が魔法に失敗したときの、お決まりの光景であった。
もくもくと上がる爆発による煙。
彼女が魔法に失敗したときの、お決まりの光景であった。
「また失敗か」
「しょうがないさ、なんたってゼロのルイズだ」
「しょうがないさ、なんたってゼロのルイズだ」
おもしろ半分に見守っていた人々は、期待通りのその展開におもわずそうつぶやいた。
サモン・サーヴァント。ここトリステイン魔法学院では1年から2年に進級するにあたって、この使い魔召喚の儀を執り行うのが通例となっていた。
進級に、いやひいてはメイジとしての資質をも判断する重要なイベントである。
使い魔を見ればメイジの力がわかる、と言われているほどに。
進級に、いやひいてはメイジとしての資質をも判断する重要なイベントである。
使い魔を見ればメイジの力がわかる、と言われているほどに。
つまり、失敗することは許されないのだ。
だからこそ、ルイズも真剣だった。
彼女は目を凝らし、爆煙の中を覗いた。と、そこにはなにやら動く影が二つ。
だからこそ、ルイズも真剣だった。
彼女は目を凝らし、爆煙の中を覗いた。と、そこにはなにやら動く影が二つ。
「み、見なさい!なにかいるわ!成功したのよ!」
「!? ミス・ヴァリエール!そこを離れなさい!」
召喚の儀に立ち会っていた、教師コルベールは普段では絶対に出さない怒声を上げた。
それは、周囲に居た他の生徒もビクっと身体を震わせたほどであった。
当事者のルイズはそれ以上だ。身体が固まってしまい、その場を離れるタイミングを逸してしまった。
それは、周囲に居た他の生徒もビクっと身体を震わせたほどであった。
当事者のルイズはそれ以上だ。身体が固まってしまい、その場を離れるタイミングを逸してしまった。
次の瞬間、もうもうと上がる煙から、とてつもない勢いでなにかが宙にばら撒かれた
ばら撒くというよりも、撃ちだされた、という表現の方が的確かもしれない。
ここハルケギニアには存在しないが、マシンガンの銃撃といえばいいのだろうか。
銃撃がやむと、煙の中からノシノシと足音を立てながら、それは現れた。
ばら撒くというよりも、撃ちだされた、という表現の方が的確かもしれない。
ここハルケギニアには存在しないが、マシンガンの銃撃といえばいいのだろうか。
銃撃がやむと、煙の中からノシノシと足音を立てながら、それは現れた。
[我が名は撃針…万物すべてに平等の死を…そのために我は生を受けた]
ギギギィ、と牙をこすらせうなる、煙幕から姿をさらしたそれは、背は子供ほどだが頭部が異様に大きく、右腕と思しき部分は大木の枝のような形状をしており、先端の穴からは先ほど弾を撃ちだした為か、小さな煙が上がっている。
まさに化け物。そう形容するしかなく。少なくとも使い魔にしていいような、そんな
こちらロジックが通用しないであろうと言うことは、そこにいた全員が五感で感じ取っていた。
こちらロジックが通用しないであろうと言うことは、そこにいた全員が五感で感じ取っていた。
「タバサ!」
「わかっている」
「わかっている」
すばやく撃針に杖を向ける少女が二人、それにつられてか何人かの生徒も杖を向ける。
先頭に立つのはコルベールだ。
先頭に立つのはコルベールだ。
「ミス・ヴァリエール。動いてはいけませんよ!」
すっかり腰を抜かしているルイズにとって、その言葉は意味を成さなかった。
撃針に対する恐怖もそうだが、その後ろで微動だにしない黒い影も、彼女の恐怖を煽るには充分であった。
撃針に対する恐怖もそうだが、その後ろで微動だにしない黒い影も、彼女の恐怖を煽るには充分であった。
[どうやらここは予定していた惑星とは違うようだが…場所などこの際関係ない]
撃針はあたりを見回すと、ゆっくりと歩を進めた。が、それと同時にそれを阻むがごとく
強烈な炎が行く手を阻む。
強烈な炎が行く手を阻む。
「ミス・タバサ!迂闊だ!」
コルベールの怒声もむなしく、撃針には全く効果がなかったようだった。
[…なかなか面白い手を使う。好戦的なのは結構だが…]
そういうや否や撃針は右腕を上げ、目標をタバサに向けた。
生徒や、コルベールでさえ撃針の存在に恐怖し動けない。
生徒や、コルベールでさえ撃針の存在に恐怖し動けない。
[身の程を知ることだ…]
刹那、撃針の生体武装が火を噴いた。激しく撒き散らされる弾丸
が、そのすべては宙を切り裂いていた。
[キサマ…!]
「ミス・ヴァリエール!」
『シークエンス正常作動。全回路オールグリーン』
「さっきからギィギィうるさいのよあんたは!私に呼び出されたんならおとなしく私の言うことを――――!」
撃針の右腕の標準は、ルイズの両手によって天へとその方向を変えられていた。
だが、怒りに震える撃針はその身体を大きく揺らせ、がっしりとつかまれた右腕を大きく振り上げた。
だが、怒りに震える撃針はその身体を大きく揺らせ、がっしりとつかまれた右腕を大きく振り上げた。
「ルイズ!」
[死ね…!]
撃針の腕が一気に振り下ろされる!
「っ!-――あ、あれ?」
撃針の腕は振り下ろされることはなかった。
なぜなら、撃針の右腕は「彼」によって受け止められていたからだ。
なぜなら、撃針の右腕は「彼」によって受け止められていたからだ。
『まったく。落着のショック程度で機能が一時停止するとは。さすが旧型のユマノイドデバイスだけはあるな…』
撃針の腕を受け止めたのは、ずんぐりとした撃針とは対照的な細身の人間であった。
一応、頭に兜のようなものをかぶってはいるようだが…
一応、頭に兜のようなものをかぶってはいるようだが…
[随行体…!]
撃針は「彼」を憎憎しげに見つめる
けっして、浅からぬ縁のようだ。
けっして、浅からぬ縁のようだ。
『撃針。君には数々の星より被害の報告が寄せられている。君は「回収」対象の流刑体だ!』
[おもしろい!データ生命ごときに我を止められるものか!]
[おもしろい!データ生命ごときに我を止められるものか!]
彼をあざ笑うかのごとく、撃針は背中の補助ロケットと跳躍力で高く飛び上がる。
見かけによらず身軽なのが撃針の強さであった。
見かけによらず身軽なのが撃針の強さであった。
『おのれ…! そこの現住民。周りの仲間達にここから離れるように言ってくれ
流刑体との戦闘は危険が伴う!』
流刑体との戦闘は危険が伴う!』
その場で一番近くにいたルイズに「彼」は話しかける。
「あ、あ、ああんた!な、なにもの…!」
『錯乱しているのか… 無理もない。もう一度だけ言う。ここは危険だ。今すぐ避難するんだ!』
天空から猛スピードで落下してくる撃針。その光景を呆然と見守るコルベール達
『時間がない。私の言葉を理解し、実行できるか?」
背を向けたままだった「彼」が、業を煮やしたのか、今度はルイズの目を見据えて言った。
『回答の入力を!』