ルイズが爆発騒ぎを起こしている頃、図書室で調べ物をしていたコルベールが本塔の最上階にある学院長室へと急行していた。
「た、大変です! オールド・オスマン……?」
「ぐおぅぉぉぉ~~、ギブ、ギブ、ギブアップじゃ~~~!」
「ぐおぅぉぉぉ~~、ギブ、ギブ、ギブアップじゃ~~~!」
大急ぎで学院長室に飛び込んだコルベールが見たのは秘書のミス・ロングビルに狼藉を働いた学院長オールド・オスマンが、彼女にチョークスリーパーによる制裁を受け、テーブルをバシバシと叩く姿だった。
「何のご用でしょうか、ミスタ・コルベール?」
「ミス・ロングビル、また学院長が貴女にご迷惑をおかけしたようですね……一応、死なれては困るんで、そこら辺でご勘弁を」
「まあ、よろしいでしょう」
「ミス・ロングビル、また学院長が貴女にご迷惑をおかけしたようですね……一応、死なれては困るんで、そこら辺でご勘弁を」
「まあ、よろしいでしょう」
ロングビルはコルベールに仕方ないという表情で答えると、チョークスリーパーを解いて秘書の席へと戻る。
「ごほごほ……死ぬかと思ったわい。で、何事じゃね?」
「これをご覧ください」
「これをご覧ください」
コルベールはオスマンに向かって手にした本を開き、そこに描かれた図版を見せる。
「ふむ、『始祖ブリミルの使い魔たち』のガンダルーヴのルーンについての頁じゃな。これがどうかしたかの?」
「では、こちらもご覧ください」
「では、こちらもご覧ください」
そう言ってコルベールが先日記憶した静留のルーンのスケッチを図版の横に置いて見せると、オスマンは表情を引き締め、秘書のロングビルを退室させた。
「それでは詳しい説明をしてもらおうかの、ミスタ・コルベール?」
爆発で授業が中止となった後、シュヴルーズにルイズと静留は罰として教室の片づけをするよう命じられた。
最初、ルイズは夕飯までかかるだろうと覚悟していたのだが、静留の提案で分担して行ったので昼休み前にはほとんど終わろうとしていた。
、
「ルイズ様、終わりましたえ」
最初、ルイズは夕飯までかかるだろうと覚悟していたのだが、静留の提案で分担して行ったので昼休み前にはほとんど終わろうとしていた。
、
「ルイズ様、終わりましたえ」
静留は最後の仕上げに床を掃き終えると静留が、教卓を拭いているルイズに声をかける。
「こっちも終わったわ……ふう」
ルイズがため息をついて顔を上げると、自分をじっと見つめる静留と目が合う。
「……なによ」
「別に何やいうわけやないんやけど……」
「別に何やいうわけやないんやけど……」
ルイズに問われた静留は眉根を寄せてしばらく逡巡した後、思い切ったように口を開く。
「もしかして……さっきのこと気にしてはるん?」
「……っ! 当然でしょ、魔法に失敗したんだから! これで分かったでしょ、皆が何故、私を『ゼロ』って呼んでるか。そうよ、貴族なのに魔法が一度も成功しない『ゼロ』って意味よ! どうせ、シズルだって心配そうなふりしてるだけでしょ」
「……っ! 当然でしょ、魔法に失敗したんだから! これで分かったでしょ、皆が何故、私を『ゼロ』って呼んでるか。そうよ、貴族なのに魔法が一度も成功しない『ゼロ』って意味よ! どうせ、シズルだって心配そうなふりしてるだけでしょ」
図星を突かれたルイズは一気にまくし立てると、涙ぐんだ顔で不貞腐れたようにそっぽを向く。
(魔法が使えんのが悔しいんやない、同情されるんが絶えられへんのやね……)
「うちは魔法のことはよう知らんけど――ルイズ様はまだ諦めてへんのやろ」
「えっ……」
「なら、それでええんと違います? ルイズ様が諦めずに努力してはるんなら誰にも恥じることなんかあらしまへん。それにうちみたいに優秀な使い魔もおることやし」
「えっ……」
「なら、それでええんと違います? ルイズ様が諦めずに努力してはるんなら誰にも恥じることなんかあらしまへん。それにうちみたいに優秀な使い魔もおることやし」
ルイズはそう言って悪戯っぽく笑う静留にあっけにとられる。何故なら魔法に関してルイズを馬鹿にしたり哀れんだりする者はいても、『誰にも恥じることはない』と言ってくれる者はいなかったからだ。
そして気がつく、確かに静留が言ってることはただの詭弁だが、彼女なりに自分を励ましてくれているのだと。
だが、それを素直に認めるのは癪なので、しかめっ面で無い胸を張って言い返す。
そして気がつく、確かに静留が言ってることはただの詭弁だが、彼女なりに自分を励ましてくれているのだと。
だが、それを素直に認めるのは癪なので、しかめっ面で無い胸を張って言い返す。
「別にシズルがいなくたって、私の実力で魔法が使えるようになってみせるわよ。大体、この私が喚び出したのよ、優秀じゃなきゃ許さないんだから」
「任せておくれやす」
「任せておくれやす」
そう笑顔で答える静留に向けられたルイズの表情は、しかめっ面と正反対の晴れやかな笑顔だった。
