「出席をとります。
ミス・ヴァリエール」 「はーい」
ミス・ヴァリエール」 「はーい」
「ミス・ツェルプストー」「はーい」
「あれ? 同じ声が2回聞こえたような……」
とうとうルイズは授業を休み始めた。
これ以上曹操達を放っておくと何が起こるかわからないからだ。
これ以上曹操達を放っておくと何が起こるかわからないからだ。
それから2日後……
夜になり城門が閉鎖されると、曹操はいつも執務室で本を執筆する。
その真後ろ、それこそ「あててんのよ」が炸裂しかねない程の至近距離でペンの動きを観察する一人の少女が居た。
彼女は暇さえあれば読書をしているような人物であり、時と場合によっては授業よりも読書を優先させかねない……
訂正、時と場合によっては授業よりも読書を優先させるような人である。
名をタバサといった。
彼女が王都にまで足を運んできたきっかけはわからないが、ここに留まっている理由は容易に想像がつく。
曹操が書いている本に興味を持ったからだろう。
きっとトリステイン魔法学園にあるどの本よりも。
一見すると、執筆活動の邪魔をしているようにも見えるが、何故か曹操はそんな彼女の行動を止めるつもりはないらしい。
その真後ろ、それこそ「あててんのよ」が炸裂しかねない程の至近距離でペンの動きを観察する一人の少女が居た。
彼女は暇さえあれば読書をしているような人物であり、時と場合によっては授業よりも読書を優先させかねない……
訂正、時と場合によっては授業よりも読書を優先させるような人である。
名をタバサといった。
彼女が王都にまで足を運んできたきっかけはわからないが、ここに留まっている理由は容易に想像がつく。
曹操が書いている本に興味を持ったからだろう。
きっとトリステイン魔法学園にあるどの本よりも。
一見すると、執筆活動の邪魔をしているようにも見えるが、何故か曹操はそんな彼女の行動を止めるつもりはないらしい。
「面白いのか?」
むしろ、それを黙認しているよな節すらある。
「兵法書。それも魔法が存在しない場所で成立したもの」
「『孫子』といってな、俺が前に居た国で書かれた文書だ」
「虚実、軍争、九変……実に興味深い」
「こっちには、こういった書物は無いのか?」
「ある。けど、戦争が始まってからの対処法に終始している。戦う前に何をするのかを説いた本は初めて見る」
「そうか」
……会話内容だけ見れば、およそ親しい間柄を連想できないだろう。
しかし、タバサの説明を聞く曹操はどこか嬉しそうである。
少なくとも、傍から見ているルイズからはそう見えた。
しかし、タバサの説明を聞く曹操はどこか嬉しそうである。
少なくとも、傍から見ているルイズからはそう見えた。
「それなら『孟徳新書』とでも名づけて売り出してみるか?」
「お薦めはしない」
「新しい知識は独占すべきか?」
……コク、と小さくうなずいた。
「名前は『孟徳新書』が良いと思う」
「何故だ?」
「箔がつく」
こんな和やかな会話が進んでいる間、ずっとタバサは曹操と密着したままだ。
部屋の隅で副官がガタガタと震えていた。
寒いからではない、怖いからだ。
ルイズは自分の心がドス黒い何かで覆われていくのを感じていた。
恐ろしいのは心が黒く染まっていく事ではない、染まる事に歓喜を覚えている事だ。
部屋の隅で副官がガタガタと震えていた。
寒いからではない、怖いからだ。
ルイズは自分の心がドス黒い何かで覆われていくのを感じていた。
恐ろしいのは心が黒く染まっていく事ではない、染まる事に歓喜を覚えている事だ。
「『雪風』の2つ名は、ルイズに譲った方が良いんじゃないか」
「考えておく」
……切れた、ルイズの中で何かが切れた、決定的な何かが。
その日の仕事は、ルイズの咆哮と共にお開きとなった。
……翌日。
「出席をとります。
ミス・ヴァリエール」 「はーい」
ミス・ヴァリエール」 「はーい」
「ミス・タバサ」 「はーい」
「ミス・ツェルプストー」「はーい」
「あれ? 同じ声が3回聞こえたような……」
ルイズは窓から伸びる朝日を受け、静かに眼を覚ました。
昨晩は精神力が尽きるまで暴れたせいか、体の節々が少し痛む。
窓を開けると、庭で箒を振るうメイドの姿があった。
昨晩は精神力が尽きるまで暴れたせいか、体の節々が少し痛む。
窓を開けると、庭で箒を振るうメイドの姿があった。
「ソウソウはどこ?」
「はい、ソウソウ様なら先ほど城壁修理の査察に向かわれました」
またもや自分をおいて出かけたのかと、また黒いルイズが元気になる。
メイドは敏感にそれを察知して、そそくさと退散した。
考えてみたら、ルイズが目覚めた時に曹操が傍に居た事は一度も無い。
それに対して文句を言うつもりは……あるが、もう少しくらいはご主人様に気を遣っても良いような気がする。
メイドは敏感にそれを察知して、そそくさと退散した。
考えてみたら、ルイズが目覚めた時に曹操が傍に居た事は一度も無い。
それに対して文句を言うつもりは……あるが、もう少しくらいはご主人様に気を遣っても良いような気がする。
……いや、むしろ気を遣うべきだ。それが当然の事なんだ。
脳内辞書から『譲歩』という言葉を抹消したら、ルイズはすぐさま城壁へと歩き出した。
王都トリスタニアの城壁に張り付くように、幾人もの平民が作業を行っていた。
そこにメイジの姿は無い。
貴族というものは作る、建てる、といった作業は好むが、直す、繕うといった地味で牧歌的な作業を嫌う。
貴族の肩書きを剥奪されたメイジは時折城壁修理を行っている事もあるが、少なくともこの場には一人もいなかった。
そもそも重要な建築物には固定化をかけるのが当然であり、修理をする機会自体がまれな事でもある。
今日ここで行われている作業は、どちらかというと修理ではなく、むしろ増築にあたる。
万が一トリステインに大規模な反乱が起きた時に備えての行動である。
しかし、そういう地味な作業も貴族は嫌う。
おそらく、最後の仕上げとして固定化をかける以外は全てを平民に任せるつもりだろう。
そこにメイジの姿は無い。
貴族というものは作る、建てる、といった作業は好むが、直す、繕うといった地味で牧歌的な作業を嫌う。
貴族の肩書きを剥奪されたメイジは時折城壁修理を行っている事もあるが、少なくともこの場には一人もいなかった。
そもそも重要な建築物には固定化をかけるのが当然であり、修理をする機会自体がまれな事でもある。
今日ここで行われている作業は、どちらかというと修理ではなく、むしろ増築にあたる。
万が一トリステインに大規模な反乱が起きた時に備えての行動である。
しかし、そういう地味な作業も貴族は嫌う。
おそらく、最後の仕上げとして固定化をかける以外は全てを平民に任せるつもりだろう。
曹操が馬を駆り、副官と共に査察に訪れた。
副官は満身創痍という単語が良く似合う恰好であったが、曹操の方は立派なものである。
そして積み上げられた煉瓦を見渡し、大きな声で言った。
副官は満身創痍という単語が良く似合う恰好であったが、曹操の方は立派なものである。
そして積み上げられた煉瓦を見渡し、大きな声で言った。
「ここの頭はだれだ」
「へぇ」
周りよりも一段と高くそびえる場所から、曹操の声に応えた者がいた。
「この城壁修理の作業ぶりは実に見事だ!
君に王都城壁役の長を申しつける」
君に王都城壁役の長を申しつける」
作業をしていた者達に動揺が走った。
何を言っているのだこの男は? という類の動揺である。
何を言っているのだこの男は? という類の動揺である。
「ちょ、ちょっとお待ちくだせぇ。わしゃあ卑しいただの職人で……」
「手を休めず話せ!」
曹操の一喝で、職人達が慌てて作業に戻る。
「そんな役は聞いたことねぇですし、第一わしの祖先に貴族様はおりやせん」
「馬鹿者!!」
曹操はさらに声を張り上げる。
「役職は血筋によって与えられるものでも、ゲルマニアで行われているように金で売り買いするものでもない!
役職とは必要に応じて新設し、その仕事において最大の能力を持つ者が長をやれば良いのだ!」
役職とは必要に応じて新設し、その仕事において最大の能力を持つ者が長をやれば良いのだ!」
その声は城壁を越え、王都内にも良く通った。
「シン、あの頭に城壁に関連するあらゆる権限を与えるよう手続きをとれ」
そう言い残すと、曹操はさっさと次の査察先へと駆け去った。
その2秒後、逆に副官に向かって全速力で駆けてくるナニかがあった。
その2秒後、逆に副官に向かって全速力で駆けてくるナニかがあった。
「何勝手な事を言ってるのよあんたわあああぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」
副官は爆発した。
危険を察知したのか、ただ単に運が良いだけなのか、曹操は無傷で執務室に戻っていた。
タバサは『六韜』の方に興味を移し、食い入るようにページをめくっていた。
そしてワルドが報告書を携えて主の帰還を待っていた。
タバサは『六韜』の方に興味を移し、食い入るようにページをめくっていた。
そしてワルドが報告書を携えて主の帰還を待っていた。
……さらに翌日。
「出席をとります。
ミス・ヴァリエール」
ミス・ヴァリエール」
「ミス・タバサ」 「はい」
「ミス・ツェルプストー」
「2名欠席……と」
同じ頃、学園の広場でコルベールがガラクタらしき物体を注意深く細工していた。
今は授業が行われている時間帯なので、その場所には他に人影はなかった。
今は授業が行われている時間帯なので、その場所には他に人影はなかった。
「コルベール」
どこからか、彼を呼ぶ声が聞こえた。
はて? と顔を上げてみると、曹操がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
はて? と顔を上げてみると、曹操がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
「やあ、ソウソウ君。しばらく見なかったが、どうしていたのかね?」
極めて日常的な挨拶をしてみた。
しかし、曹操は表情は極めて険しい。
それだけで彼は不穏な空気を読み取って、無意識のうちに身構えていた。
しかし、曹操は表情は極めて険しい。
それだけで彼は不穏な空気を読み取って、無意識のうちに身構えていた。
「貴様は何故生きておる!」
その言葉がきっかけとなり、コルベールは平穏な日常から乖離していく事になる。