その日の夕刻、ラ・ロシェールに到着したルイズ一行は、逗留場所を街一番の上宿『女神の杵』亭に決めると、一階にある酒場で休息していた。
「……なるほど。何で船に乗るのに海やのうて山の方に向かってるんやろと不思議に思うとったけど、そういうことやったんどすな」
ルイズ達からアルビオンが空に浮かんだ大陸であり、その周回軌道の傍にあるここラ・ロシェールに移動の手段である空飛ぶフネの発着所があるのだと説明された静留は得心が行ったという表情を浮かべた。
「こっちこそ、まさか空飛ぶフネを知らないとは思わなかったわよ。シズルのいたとこでは空を飛ぶ乗り物ってないの?」
「ありますえ。もっともフネやのうて飛行機いう翼のある乗り物やけど……」
「飛行機……どういうもの?」
「ありますえ。もっともフネやのうて飛行機いう翼のある乗り物やけど……」
「飛行機……どういうもの?」
静留がルイズの疑問に答えていると、正面に座るタバサが質問してくる。
「そやね、小さくて一人、大きいのになると400人以上の人間をシルフィードの10倍以上のスピードで運ぶことができる乗り物やね」
「……なんていうか、想像の範疇を越えてるわね」
「……なんていうか、想像の範疇を越えてるわね」
静留の答えにタバサの横に座るキュルケが、信じられないといった表情でため息を漏らす。そこに、桟橋へ乗船の交渉に言っていたワルドとギーシュが帰って来きた。
「アルビオンに渡る船は、明後日の朝にならないと出ないそうだ」
「まあ、自然が相手ですし、ワルド卿が気に病む必要はないですよ」
「まあ、自然が相手ですし、ワルド卿が気に病む必要はないですよ」
無念そうに報告するワルドにギーシュが慰めの言葉をかける。
「よく事情がわかんないけど、なんで明日はフネが出ないの?」
「明日の夜は月が重なる『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくんだよ」
「明日の夜は月が重なる『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくんだよ」
ワルドはキュルケにそう答えると、懐から取り出した鍵束をテーブルの上に置いた。
「さて、部屋も取ってあるし、今日はもう寝よう。部屋割りはキュルケ、タバサとミス・フジノが相部屋。そしてギーシュが一人部屋だ」
「まさか自分はルイズ様と一緒とかいうんやないやろね、ワルド様?」
「まさか自分はルイズ様と一緒とかいうんやないやろね、ワルド様?」
部屋割りを聞いた静留がワルドに冷ややかな視線を向けて尋ねる。
「もちろん、そのつもりだとも。婚約者だからな、当然だろう」
「そうどすか。ほんならくれぐれもルイズ様が嫌がるのを無視して最後までやったりせんよう自重しておくれやす」
「ちょっ、シズル、何言ってるのよ! ワルド様、私達まだ結婚してるわけではないですし、そういう訳には……」
「そうどすか。ほんならくれぐれもルイズ様が嫌がるのを無視して最後までやったりせんよう自重しておくれやす」
「ちょっ、シズル、何言ってるのよ! ワルド様、私達まだ結婚してるわけではないですし、そういう訳には……」
ルイズは顔を真っ赤にしてワルドに考え直すよううながすが、ワルドは首を振ってルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
ワルドとルイズの部屋は貴族相手の宿『女神の杵』亭で一番豪華な部屋だけあって、かなり立派なつくりであった。
部屋の中央にあるテーブルに座ると、ワルドはワインの栓を抜いて杯についで、それを飲み干す。
部屋の中央にあるテーブルに座ると、ワルドはワインの栓を抜いて杯についで、それを飲み干す。
「君も座って一杯、やらないか? ルイズ」
ルイズが言われたままにテーブルに着くと、ワルドがルイズの杯、ついで自分の杯にワインを満たし、それを掲げる。
「二人に」
ルイズはちょっと俯いて、杯を合わせる。室内に陶器のグラスがかちん、と触れ合う音が響く。
「姫殿下から預かった手紙はきちんと持っているかい?」
「……ええ」
「……ええ」
ポケットの上からアンリエッタから預かった封筒を抑えるルイズをワルドは愛しそうに見つめる。
「心配なのかい? 無事に皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるかどうか」
「そうね、確かに心配だわ。でも、あなたがいるんだものきっと大丈夫よ……それで、大事な話って何?」
「そうね、確かに心配だわ。でも、あなたがいるんだものきっと大丈夫よ……それで、大事な話って何?」
ワルドは遠くを見る目になって、話し始める。
「覚えているかい? あの日、屋敷の中庭で交わした約束……」
「あの秘密の場所のこと? ええ、覚えているわ。あなたは落ち込む幼い私をいつも慰めてくれた」
「あの頃の君はいつもお姉さん達と魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われていたけど……僕はそれは間違いだと思っていたよ」
「それはあなたが贔屓目で見てくれているだけ……私は今だってあの頃と同じゼロのままよ」
「あの秘密の場所のこと? ええ、覚えているわ。あなたは落ち込む幼い私をいつも慰めてくれた」
「あの頃の君はいつもお姉さん達と魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われていたけど……僕はそれは間違いだと思っていたよ」
「それはあなたが贔屓目で見てくれているだけ……私は今だってあの頃と同じゼロのままよ」
ワルドの言葉にルイズは自嘲するような笑みを浮かべた。
「そんなことはないさ。確かに君は失敗ばかりしていたけど、誰とも違うオーラを放っていた。それは君が他人にはない特別な力を持っていからだ。決して贔屓目なんかじゃない、力をつけた今の僕にはそれが分かるんだ。例えば、そう、君の使い魔……」
「……シズルのこと?」
「そうだ。これは出発前に学園長から内密に教えてもらったことだが……彼女は始祖ブリミルが用いたという伝説の使い魔ガンダールヴなんだよ」
「ガンダールヴ?」
「……シズルのこと?」
「そうだ。これは出発前に学園長から内密に教えてもらったことだが……彼女は始祖ブリミルが用いたという伝説の使い魔ガンダールヴなんだよ」
「ガンダールヴ?」
ルイズは怪訝そうに尋ねた。
「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
「信じられないわ」
「いいや、君は偉大な……そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残すような素晴らしいメイジになるに違いないと、僕は確信している」
「信じられないわ」
「いいや、君は偉大な……そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残すような素晴らしいメイジになるに違いないと、僕は確信している」
ワルドは熱っぽい口調でそう言うと、真剣な表情でルイズを見つめた。
「ルイズ、この任務が終わったら僕と結婚しよう」
「え……」
「え……」
突然のプロポーズに一瞬、呆然とした後、ルイズははっとした顔になった。
「僕はこのまま一介の隊長で終わるつもりはない。いずれはこの国、いやハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも……わ、わたし、まだ……」
「もう子供じゃない。君は十六だ、自分の事は自分で決められるし、父上のお許しもある。確かに……」
「で、でも……わ、わたし、まだ……」
「もう子供じゃない。君は十六だ、自分の事は自分で決められるし、父上のお許しもある。確かに……」
ワルドはそこで一旦言葉を切ると、ずいっ、とルイズに顔を近づける。
「確かに、任務に追われていたとはいえ、手紙を送るだけでずっと君をほったらかしだった事は謝るよ。婚約者なんていえた義理じゃないかもしれない……でも、ルイズ、僕には君が必要なんだ」
「ワルド……」
「ワルド……」
ルイズは考えた。幼い頃は本気で、私はこの人のお嫁さんになるんだと、そう思っていた憧れの人。逢うことは出来ずともゼロと呼ばれる日々の中、ワルドの手紙だけが心の支えだった。しかし、だからこそ、ここで簡単に首を縦に振ることはできない。
「ごめんなさい、ワルド……私は今それを受け入れるわけにはいかないの」
「……それは何故だい?」
「別にあなたが嫌いとかいうわけじゃないのよ……ただ、私はあなたに釣りあうような立派なメイジなりたいの。そうでないと自分自身があなたと結婚することに納得できない、だから……」
「……それは何故だい?」
「別にあなたが嫌いとかいうわけじゃないのよ……ただ、私はあなたに釣りあうような立派なメイジなりたいの。そうでないと自分自身があなたと結婚することに納得できない、だから……」
そう言って俯いたルイズを、ワルドがじっと見つめる。
「ふふふ、君ならそう言うだろうと思っていたよ……別に今すぐに返事をくれとは言わないさ。とりあえずはこの旅の間に僕を見ていてくれればいい」
ルイズは何も言えずにただ、頷く。
「それじゃあ、もう寝ようか。疲れただろう」
ワルドはルイズに近づいて、唇をよせてきた。ルイズはきゅっと目を閉じて、体を一瞬こわばらせた。
「えっ……」
唇へのキスを覚悟していたルイズは、額に唇の感触を感じて目を開いた。ワルドがルイズに微笑む
「ミス・フジノが言っていただろ、君の同意なしで事を運ばないようにと……君がそれを望むまで僕は待つよ」
「で、でも……」
「で、でも……」
ルイズがもじもじしてワルドを見つめると、ワルドは苦笑いして首を振る。
「無理はしなくてもいい……それにキスをしてしまうと、自重できずに最後までやってしまいそうだからね」
ルイズは再び、俯いた。
何故だろう、ワルドは凛々しくて、こんなにも優しいのに。ずっと憧れていたのに。結婚してくれと言われて嬉しくないわけじゃない、それなのにどうして素直にすぐ「YES」と返事が出来ないのか。
さっき言った理由も確かにある。だが、心に引っかかるのは使い魔である静留のワルドへの態度だ。表面上は笑顔だが警戒……いや、あきらかに嫌悪している。
何故だろう、ワルドは凛々しくて、こんなにも優しいのに。ずっと憧れていたのに。結婚してくれと言われて嬉しくないわけじゃない、それなのにどうして素直にすぐ「YES」と返事が出来ないのか。
さっき言った理由も確かにある。だが、心に引っかかるのは使い魔である静留のワルドへの態度だ。表面上は笑顔だが警戒……いや、あきらかに嫌悪している。
(きっと慣れないところへ行くから静留も気が立ってるだけよね……うん、そう。きっとそう。旅している間にワルドとも打ち解けてくれるはずよ)
ルイズは不安を無理やり心の奥に押し込めると、自分のベッドへと潜り込んだ。