雨音に重なって、謳うようなルイズの詠唱が響き始める。
一体何だ、とギーシュたちは怪訝な顔でそんなルイズを見ているが、完全に詠唱に集中しきっている今の彼女にはそんな視線など何の意味もない。
何も聞こえないし、何も見えない。
ただ、自分の中で脈動する精神力を制御し、古代のルーンを唱えるだけである。
「……この子、どうしたの?」
首を傾げながら、キュルケがユーゼスに聞く。
それに対してユーゼスは面倒そうに答えた。
「分からん。御主人様のそれは、私にも不明な点が多いからな」
「?」
疑問符を浮かべるキュルケに構わず、トランス状態にある主人を一瞥するユーゼス。
そしてとうとう完成し、更にこちらに向かって迫ってくる水の竜巻を眺め、また考え込む。
「さて、それではアレをどうするか……」
「どうするかもこうするかもねえだろが。あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ、ガンダールヴ」
「……私が? 何故?」
「いや、何故ってお前……」
本当に不思議そうに言ったので、思わずデルフリンガーは絶句してしまう。
「あんなモノをまともに食らって……いや、僅かでも触れてみろ。腕か脚の二、三本程度は千切れてもおかしくないぞ」
「え、えーっと。一つ聞いていいか、ユーゼス?」
ユーゼスの言い分は確かにその通りなのだが、どうにも腑に落ちないことがあったので、デルフリンガーは以前のワルド戦においても浮かんだ疑問をもう一度投げかけてみた。
「何だ?」
「お前、あの嬢ちゃんの詠唱を聞いてて、勇気がみなぎってくるとか、安心するとか、心が落ち着くとかは……」
「無い」
「……………」
しばし沈黙するデルフリンガー。
だが、今はこの問題に関して議論を行っている場合ではない。
「と、とにかくだ! お前さんの仕事は、敵をやっつけることでも、研究することでも、あのビートルとやらを飛ばすことでもねえ! 『呪文詠唱中の主人を守る』!! お前さんの仕事はそれだけだ!!」
「……それならば、別に『私』である必要はないのではないか?」
「ああもう、屁理屈ばっかり言ってんじゃねえ! お前が望もうが望むまいが、とにかくお前はガンダールヴなんだよ!! だったらガンダールヴの仕事を果たしやがれ!!」
「…………やれやれ」
あまりにもデルフリンガーがうるさかったので、渋々ユーゼスは一同から飛び抜ける形で前に出る。
とにかく、身体を張ってでも主人を守るのがガンダールヴの仕事らしい。
とは言え。
(さすがにアレを真正面から受けるのは無謀だ……)
荒れ狂う水の竜巻が接近してくるに連れて、危機感も増していく。
自分の身体は、アレには耐え切れない。
デルフリンガーでは、アレを受け止めきれない。
それでは、どうするべきか。
(……ふむ。『反則』を使わせてもらうか)
どうも最近、自分的なタブーを犯す頻度が増えているな……などと思いつつ、ユーゼスは脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを起動させる。
実を言うと、因果律を少し操作すればこの程度の事象の消滅などはごく簡単に行うことが出来る。
つまり、あの水の竜巻を丸ごと完全に消滅させることなど造作もない。
造作もないが、うかつに丸ごと完全に消滅させてしまうと、『怪しまれる』などというだけでは済まなくなってしまう。
なので、部分的に消滅させることにする。
(『私の身体に当たる分』のみを消滅させるか……)
本体はそのままで、ごく一部を消す。
これならば大丈夫だろう。
無論、デルフリンガーに当たる部分は消したりなどしない。この剣には『魔法を吸収する』という大役があるのだ。
(何にせよ、行くか)
竜巻が寸前にまで迫る。
ド、と響く轟音に顔をしかめつつ、ユーゼスはデルフリンガーを構え、竜巻を受け止める……振りをする。
「ぐおっ!? やっぱスゲエ威力だ……!!」
「……………」
デルフリンガーがその強力さに感嘆しているが、身体に当たる水流と暴風、その衝撃、水の冷たさ、ついでにうるさいので音も遮断しているので、どの程度強力なのかユーゼスはいまいちピンと来ていなかった。
さすがに目に映る光景はカットしてはいないが、近すぎる上にあまりにも強力すぎて視界はほとんど水飛沫の白一色になってしまっているので、『見て威力を判断する』ということも出来ない。
(……む)
そのままデルフリンガーを構えながら突っ立っていると、やがて少しずつ竜巻の回転力が弱まっていく。
そして『水の竜巻』から、単なる『水の柱』程度にまで威力が弱まった時点で、ユーゼスは因果律の操作を止めた。
(やれやれ……)
軽く自己嫌悪に苛まれながら、溜息を吐くユーゼス。
まあ、後は御主人様が何らかの『虚無』の魔法を放つだけである。おそらくそれで終わるだろう。
と、ユーゼスが安心して気を抜ききっていると。
バシャーーーーンン!!
「っ!!」
魔法の支えを失った水の柱が、盛大に崩れ落ちた。
因果律の操作はもう行っていないので、ユーゼスはその衝撃をモロに受けてしまう。
その結果として、ユーゼスの手からデルフリンガーが離れてしまった。
「くっ……」
大量の水を身体で受け止めたために多少フラつきながらも、ユーゼスは後ろを確認する。
……どうやら、主人の詠唱はまだ終わっていないようだ。あと一歩か二歩、というところだろうか。
やれやれと再び溜息を吐きつつ、ユーゼスはデルフリンガーを拾おうとして……。
「っ、ユーゼス、前を!!!」
いきなり響いたエレオノールの叫び声を聞き、反射的に使い慣れたごく普通の剣を抜き放った。
エレオノールの言葉通りに前を見れば、そこには、
「……ウェールズ・テューダー!」
「君は危険だな……!」
真っ直ぐ自分に向かって駆けて来る、かつてのアルビオン王国の皇太子、ウェールズ。
その手に持つ杖には、おそらく『ブレイド』によるものだろう魔法の刃が発生している。
「チッ!」
剣を振るい、自分に向かって襲い掛かってくる魔法の刃を受け止めた。
そのまま、幾たびか剣を交差させる。
「……往生際が悪いな。『勇敢な死』とやらをレコン・キスタに見せ付けてやると息巻いていたのではなかったか?」
「フフ、『若き息吹は敗者の中から培われていく』と教えてくれたのは君だっただろう? ……そして僕は、今度こそ勝者になる! クロムウェル閣下と共に!!」
バッ、と両者は同時に飛び退る。
「だが、そのためにはまず君が邪魔だ。あのヘクサゴンスペルを耐え切るような強力な兵士がトリステインにいてもらっては困るのだよ」
「……まったく……」
本日三度目の溜息を吐いて、ユーゼスはウェールズに告げた。
「仮にも一国の皇太子だった男が、操られているとは言え使い走りにまで落ちるとはな」
「何とでも言いたまえ。僕は今のこの境遇に、この上なく満足している」
「……それは本心か?」
「そうとも!!」
ウェールズが持つ魔法の刃が霧散し、間を置かずに風の大槌が繰り出される。
放たれた特大の『エア・ハンマー』は、素晴らしい速度でユーゼスへと向かって行き、
「ぐ……っ、がああっ!!」
ユーゼスが反射的に構えた剣を打ち砕いて、その身体を盛大に吹き飛ばした。
空気のカタマリはユーゼスの胴体をしたたかに強打し、飛び散った剣のカケラは手や顔を傷付けていく。
更に手持ちの武器がなくなったので、ガンダールヴの効果も消えていく。
最後の武器として鞭があるにはあるが、どこまで通用するものか。
(やはり、メイジと正面から戦うのは無謀だな……)
倒れ込み、咳き込みながらも、あらためてそう思うユーゼス。
見れば、ウェールズは自分にトドメを刺そうと最後の呪文の詠唱を行っている。
そしてその魔法……『エア・スピアー』は、躊躇なく放たれた。
……ただし、ルイズが詠唱を完成させ、『ディスペル・マジック』を叩き込むのに2秒ほど遅れて、ではあるが。
一体何だ、とギーシュたちは怪訝な顔でそんなルイズを見ているが、完全に詠唱に集中しきっている今の彼女にはそんな視線など何の意味もない。
何も聞こえないし、何も見えない。
ただ、自分の中で脈動する精神力を制御し、古代のルーンを唱えるだけである。
「……この子、どうしたの?」
首を傾げながら、キュルケがユーゼスに聞く。
それに対してユーゼスは面倒そうに答えた。
「分からん。御主人様のそれは、私にも不明な点が多いからな」
「?」
疑問符を浮かべるキュルケに構わず、トランス状態にある主人を一瞥するユーゼス。
そしてとうとう完成し、更にこちらに向かって迫ってくる水の竜巻を眺め、また考え込む。
「さて、それではアレをどうするか……」
「どうするかもこうするかもねえだろが。あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ、ガンダールヴ」
「……私が? 何故?」
「いや、何故ってお前……」
本当に不思議そうに言ったので、思わずデルフリンガーは絶句してしまう。
「あんなモノをまともに食らって……いや、僅かでも触れてみろ。腕か脚の二、三本程度は千切れてもおかしくないぞ」
「え、えーっと。一つ聞いていいか、ユーゼス?」
ユーゼスの言い分は確かにその通りなのだが、どうにも腑に落ちないことがあったので、デルフリンガーは以前のワルド戦においても浮かんだ疑問をもう一度投げかけてみた。
「何だ?」
「お前、あの嬢ちゃんの詠唱を聞いてて、勇気がみなぎってくるとか、安心するとか、心が落ち着くとかは……」
「無い」
「……………」
しばし沈黙するデルフリンガー。
だが、今はこの問題に関して議論を行っている場合ではない。
「と、とにかくだ! お前さんの仕事は、敵をやっつけることでも、研究することでも、あのビートルとやらを飛ばすことでもねえ! 『呪文詠唱中の主人を守る』!! お前さんの仕事はそれだけだ!!」
「……それならば、別に『私』である必要はないのではないか?」
「ああもう、屁理屈ばっかり言ってんじゃねえ! お前が望もうが望むまいが、とにかくお前はガンダールヴなんだよ!! だったらガンダールヴの仕事を果たしやがれ!!」
「…………やれやれ」
あまりにもデルフリンガーがうるさかったので、渋々ユーゼスは一同から飛び抜ける形で前に出る。
とにかく、身体を張ってでも主人を守るのがガンダールヴの仕事らしい。
とは言え。
(さすがにアレを真正面から受けるのは無謀だ……)
荒れ狂う水の竜巻が接近してくるに連れて、危機感も増していく。
自分の身体は、アレには耐え切れない。
デルフリンガーでは、アレを受け止めきれない。
それでは、どうするべきか。
(……ふむ。『反則』を使わせてもらうか)
どうも最近、自分的なタブーを犯す頻度が増えているな……などと思いつつ、ユーゼスは脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを起動させる。
実を言うと、因果律を少し操作すればこの程度の事象の消滅などはごく簡単に行うことが出来る。
つまり、あの水の竜巻を丸ごと完全に消滅させることなど造作もない。
造作もないが、うかつに丸ごと完全に消滅させてしまうと、『怪しまれる』などというだけでは済まなくなってしまう。
なので、部分的に消滅させることにする。
(『私の身体に当たる分』のみを消滅させるか……)
本体はそのままで、ごく一部を消す。
これならば大丈夫だろう。
無論、デルフリンガーに当たる部分は消したりなどしない。この剣には『魔法を吸収する』という大役があるのだ。
(何にせよ、行くか)
竜巻が寸前にまで迫る。
ド、と響く轟音に顔をしかめつつ、ユーゼスはデルフリンガーを構え、竜巻を受け止める……振りをする。
「ぐおっ!? やっぱスゲエ威力だ……!!」
「……………」
デルフリンガーがその強力さに感嘆しているが、身体に当たる水流と暴風、その衝撃、水の冷たさ、ついでにうるさいので音も遮断しているので、どの程度強力なのかユーゼスはいまいちピンと来ていなかった。
さすがに目に映る光景はカットしてはいないが、近すぎる上にあまりにも強力すぎて視界はほとんど水飛沫の白一色になってしまっているので、『見て威力を判断する』ということも出来ない。
(……む)
そのままデルフリンガーを構えながら突っ立っていると、やがて少しずつ竜巻の回転力が弱まっていく。
そして『水の竜巻』から、単なる『水の柱』程度にまで威力が弱まった時点で、ユーゼスは因果律の操作を止めた。
(やれやれ……)
軽く自己嫌悪に苛まれながら、溜息を吐くユーゼス。
まあ、後は御主人様が何らかの『虚無』の魔法を放つだけである。おそらくそれで終わるだろう。
と、ユーゼスが安心して気を抜ききっていると。
バシャーーーーンン!!
「っ!!」
魔法の支えを失った水の柱が、盛大に崩れ落ちた。
因果律の操作はもう行っていないので、ユーゼスはその衝撃をモロに受けてしまう。
その結果として、ユーゼスの手からデルフリンガーが離れてしまった。
「くっ……」
大量の水を身体で受け止めたために多少フラつきながらも、ユーゼスは後ろを確認する。
……どうやら、主人の詠唱はまだ終わっていないようだ。あと一歩か二歩、というところだろうか。
やれやれと再び溜息を吐きつつ、ユーゼスはデルフリンガーを拾おうとして……。
「っ、ユーゼス、前を!!!」
いきなり響いたエレオノールの叫び声を聞き、反射的に使い慣れたごく普通の剣を抜き放った。
エレオノールの言葉通りに前を見れば、そこには、
「……ウェールズ・テューダー!」
「君は危険だな……!」
真っ直ぐ自分に向かって駆けて来る、かつてのアルビオン王国の皇太子、ウェールズ。
その手に持つ杖には、おそらく『ブレイド』によるものだろう魔法の刃が発生している。
「チッ!」
剣を振るい、自分に向かって襲い掛かってくる魔法の刃を受け止めた。
そのまま、幾たびか剣を交差させる。
「……往生際が悪いな。『勇敢な死』とやらをレコン・キスタに見せ付けてやると息巻いていたのではなかったか?」
「フフ、『若き息吹は敗者の中から培われていく』と教えてくれたのは君だっただろう? ……そして僕は、今度こそ勝者になる! クロムウェル閣下と共に!!」
バッ、と両者は同時に飛び退る。
「だが、そのためにはまず君が邪魔だ。あのヘクサゴンスペルを耐え切るような強力な兵士がトリステインにいてもらっては困るのだよ」
「……まったく……」
本日三度目の溜息を吐いて、ユーゼスはウェールズに告げた。
「仮にも一国の皇太子だった男が、操られているとは言え使い走りにまで落ちるとはな」
「何とでも言いたまえ。僕は今のこの境遇に、この上なく満足している」
「……それは本心か?」
「そうとも!!」
ウェールズが持つ魔法の刃が霧散し、間を置かずに風の大槌が繰り出される。
放たれた特大の『エア・ハンマー』は、素晴らしい速度でユーゼスへと向かって行き、
「ぐ……っ、がああっ!!」
ユーゼスが反射的に構えた剣を打ち砕いて、その身体を盛大に吹き飛ばした。
空気のカタマリはユーゼスの胴体をしたたかに強打し、飛び散った剣のカケラは手や顔を傷付けていく。
更に手持ちの武器がなくなったので、ガンダールヴの効果も消えていく。
最後の武器として鞭があるにはあるが、どこまで通用するものか。
(やはり、メイジと正面から戦うのは無謀だな……)
倒れ込み、咳き込みながらも、あらためてそう思うユーゼス。
見れば、ウェールズは自分にトドメを刺そうと最後の呪文の詠唱を行っている。
そしてその魔法……『エア・スピアー』は、躊躇なく放たれた。
……ただし、ルイズが詠唱を完成させ、『ディスペル・マジック』を叩き込むのに2秒ほど遅れて、ではあるが。
自分が唱えた魔法の光がウェールズの『エア・スピアー』を消し飛ばし、更にウェールズ本人をも包み込む有様を、ルイズは見た。
ウェールズの身体は、ドサリと地面に崩れ落ちていく。
……ふとその後ろに目をやれば、アンリエッタもまた倒れていた。
精神力の使いすぎで倒れたのだろうか。
「……………」
本来ならば、すぐにでもアンリエッタの元に駆け寄るべきなのだろうが、どうもその気が起きない。
それよりも、かねてからの悩みが少しだけ解決しつつあることの方が、ルイズにとっては重要だった。
―――自分は、自分の力である『虚無』をどう使えば良いのか?
ハッキリとした答えは、まだ分からない。
だが、何となく分かってきた。
(今みたいにして、使おう)
使いたい時に……自分が使うべきだと判断した時に、使えば良いのである。
逆に自分が使いたくない時、使うべきではないと判断したのであれば、使わない。
……そう、どんな力だって、結局使うのは『自分』なのだ。
誰かに命令されたとか、『使わなければいけない』という強制や強要とか、そういうのは違うと思う。
だが、もしもその『自分の判断』が間違っていたら……。
(…………間違ってから考えましょう)
やる前から間違ってしまうことを考えていても、しょうがない。
そもそも自分が間違っていないと思ったからこそ、自分は『虚無』を使ったのだ。
それに対する後悔など、せいぜい未来の自分にでも任せておけば良い。
「……よし」
少しだけ晴れやかな気持ちで、ルイズは一歩を踏み出す。
ユーゼスは……それほど重傷でもなさそうだから、大丈夫だろう。すぐに動ける状態でもなさそうだが。
それよりも、アンリエッタを起こして話をしなければならない。
ルイズは倒れ伏しているアンリエッタの元まで歩み寄ると、その肩を揺すり、更に声を上げて彼女に呼びかける。
すると間もなく、薄っすらとアンリエッタのまぶたが開いていった。
そして完全に目が開ききると、辺りを見回し、すぐそばに冷たくなったウェールズの死体があることを認識する。
「あ、ああ……!」
顔を両手で覆うアンリエッタ。
どうやら後悔の念に襲われているらしい。
「……わ、わたくしは……、何てことを……!」
「目が覚めましたか?」
そんな女王に向かって、ルイズは冷ややかな声で問いかける。
この事件におけるアンリエッタの行動を見て、ルイズの彼女に対する評価は大きく下がっていた。
……要するに、この女性はつい最近の自分と同じだったのだ。
そう、惚れ薬の影響下にあった頃の自分と。
しかもアンリエッタの場合、薬も何も使わずに自分から湧き出た感情の結果としてこうなってしまったため、かなり性質が悪い。
(この人も人間だった、って言えばそれまでなんだろうけど……)
幻滅した、と表現すると言い過ぎかも知れないが、少なくとももう彼女を神聖視することは出来ない。
「……何と言ってあなたに謝ればいいの? わたくしのために傷付いた人々に、何と言って許しを請えばいいの? 教えてちょうだい、ルイズ……!」
(そんなことくらい自分で考えてください)
……と言ってやりたかったが、ルイズはそれをグッと我慢しながら努めて平坦な声で言い放つ。
「それより、姫さまのお力が必要なんです」
ウェールズたちの攻撃にさらされ、しかし生き残っていたヒポグリフ隊の方を指差すルイズ。
「姫さまの『水』で、治してあげてくださいな」
出来ればユーゼスを先に治療してやりたかったが、自分の使い魔の怪我はそれほど深刻ではない。それに対して、ヒポグリフ隊の怪我は放っておけば死んでしまうほどのものだ。
さすがにどちらを優先するべきかくらいは、ルイズでも分かる。
「っ、……わ、分かったわ」
ルイズの視線の冷ややかさに気付いたのかアンリエッタは一瞬たじろぐが、すぐに気を取り直すとヒポグリフ隊の生き残りたちの元へと駆け寄り、治癒の魔法をかけていく。
そして最後にユーゼスの怪我を治すと、一同は石や氷で固められたアルビオンの騎士たちの死体を解放させつつ、敵味方を問わず死体を木陰に運んだ。
取りあえず、このまま街道の真ん中に死体を置いておく訳には行かないという判断である。
ちなみに『死体に触るのは嫌だ』という理由で、一部を除く女性陣は死体の運搬を拒否したが、人手の問題はギーシュのワルキューレに頑張ってもらうことで何とかなった。
そして最後にアンリエッタがウェールズを運ぼうとして、その冷たい頬に触れると、信じられないことが起きる。
「ぅ……」
「え?」
固く閉じられたはずのウェールズのまぶたが、弱々しくではあるが開いたのだ。
「……アンリエッタ? 君か……?」
ウェールズの身体は、ドサリと地面に崩れ落ちていく。
……ふとその後ろに目をやれば、アンリエッタもまた倒れていた。
精神力の使いすぎで倒れたのだろうか。
「……………」
本来ならば、すぐにでもアンリエッタの元に駆け寄るべきなのだろうが、どうもその気が起きない。
それよりも、かねてからの悩みが少しだけ解決しつつあることの方が、ルイズにとっては重要だった。
―――自分は、自分の力である『虚無』をどう使えば良いのか?
ハッキリとした答えは、まだ分からない。
だが、何となく分かってきた。
(今みたいにして、使おう)
使いたい時に……自分が使うべきだと判断した時に、使えば良いのである。
逆に自分が使いたくない時、使うべきではないと判断したのであれば、使わない。
……そう、どんな力だって、結局使うのは『自分』なのだ。
誰かに命令されたとか、『使わなければいけない』という強制や強要とか、そういうのは違うと思う。
だが、もしもその『自分の判断』が間違っていたら……。
(…………間違ってから考えましょう)
やる前から間違ってしまうことを考えていても、しょうがない。
そもそも自分が間違っていないと思ったからこそ、自分は『虚無』を使ったのだ。
それに対する後悔など、せいぜい未来の自分にでも任せておけば良い。
「……よし」
少しだけ晴れやかな気持ちで、ルイズは一歩を踏み出す。
ユーゼスは……それほど重傷でもなさそうだから、大丈夫だろう。すぐに動ける状態でもなさそうだが。
それよりも、アンリエッタを起こして話をしなければならない。
ルイズは倒れ伏しているアンリエッタの元まで歩み寄ると、その肩を揺すり、更に声を上げて彼女に呼びかける。
すると間もなく、薄っすらとアンリエッタのまぶたが開いていった。
そして完全に目が開ききると、辺りを見回し、すぐそばに冷たくなったウェールズの死体があることを認識する。
「あ、ああ……!」
顔を両手で覆うアンリエッタ。
どうやら後悔の念に襲われているらしい。
「……わ、わたくしは……、何てことを……!」
「目が覚めましたか?」
そんな女王に向かって、ルイズは冷ややかな声で問いかける。
この事件におけるアンリエッタの行動を見て、ルイズの彼女に対する評価は大きく下がっていた。
……要するに、この女性はつい最近の自分と同じだったのだ。
そう、惚れ薬の影響下にあった頃の自分と。
しかもアンリエッタの場合、薬も何も使わずに自分から湧き出た感情の結果としてこうなってしまったため、かなり性質が悪い。
(この人も人間だった、って言えばそれまでなんだろうけど……)
幻滅した、と表現すると言い過ぎかも知れないが、少なくとももう彼女を神聖視することは出来ない。
「……何と言ってあなたに謝ればいいの? わたくしのために傷付いた人々に、何と言って許しを請えばいいの? 教えてちょうだい、ルイズ……!」
(そんなことくらい自分で考えてください)
……と言ってやりたかったが、ルイズはそれをグッと我慢しながら努めて平坦な声で言い放つ。
「それより、姫さまのお力が必要なんです」
ウェールズたちの攻撃にさらされ、しかし生き残っていたヒポグリフ隊の方を指差すルイズ。
「姫さまの『水』で、治してあげてくださいな」
出来ればユーゼスを先に治療してやりたかったが、自分の使い魔の怪我はそれほど深刻ではない。それに対して、ヒポグリフ隊の怪我は放っておけば死んでしまうほどのものだ。
さすがにどちらを優先するべきかくらいは、ルイズでも分かる。
「っ、……わ、分かったわ」
ルイズの視線の冷ややかさに気付いたのかアンリエッタは一瞬たじろぐが、すぐに気を取り直すとヒポグリフ隊の生き残りたちの元へと駆け寄り、治癒の魔法をかけていく。
そして最後にユーゼスの怪我を治すと、一同は石や氷で固められたアルビオンの騎士たちの死体を解放させつつ、敵味方を問わず死体を木陰に運んだ。
取りあえず、このまま街道の真ん中に死体を置いておく訳には行かないという判断である。
ちなみに『死体に触るのは嫌だ』という理由で、一部を除く女性陣は死体の運搬を拒否したが、人手の問題はギーシュのワルキューレに頑張ってもらうことで何とかなった。
そして最後にアンリエッタがウェールズを運ぼうとして、その冷たい頬に触れると、信じられないことが起きる。
「ぅ……」
「え?」
固く閉じられたはずのウェールズのまぶたが、弱々しくではあるが開いたのだ。
「……アンリエッタ? 君か……?」
「終わったか……」
飛び去って行くシルフィードを見送りながら、ユーゼスは呟く。
あの後、一時的に息を吹き返したウェールズは、消えゆく命を振り絞りながら『ラグドリアン湖の湖畔に行きたい』と言った。
スピードを優先するのならば移動にはビートルを使うべきなのだが、真夜中で見通しがこの上なく悪く、しかも操縦者であるユーゼスはかなり疲弊していたため、移動はタバサのシルフィードに任せた。
ラグドリアン湖に行ったメンバーは、アンリエッタとウェールズ、シルフィードを操るタバサ、自主的に付いて行ったルイズ、同じく『見届けたい』と言ったギーシュである。
この場の事後処理は回復したヒポグリフ隊なりに任せて、残ったユーゼスとエレオノールとキュルケは休息を取りながらラグドリアン湖に行ったメンバーが戻るのを待っていた。
「……………………」
「……………………」
三人並んでその場に座る残留メンバー。しかしどうにも気まずい沈黙が場を支配していた。
まあ、元々ユーゼスは自分から会話を行うタイプではないし、エレオノールとキュルケにしても『ヴァリエールとツェルプストー』という関係からすればそう会話が弾むわけもない。
だが、この沈黙は『エレオノールがユーゼスに対して不機嫌を露わにしている』ため起こっている沈黙であった。
「……?」
そんな二人のカヤの外に置かれたキュルケなどは、これがどのような沈黙なのかすらよく分かっていない。
……実を言うと、ユーゼスにも何故自分たちが沈黙しているのか分からなかった。
しかしこのまま気まずい沈黙を続けるのも精神衛生上よろしくないので、ユーゼスはエレオノールに取りあえず当たり障りのない話題を提示してみる。
「そう言えば、雨が止んでいるな」
「……そうね」
「……………………」
「……………………」
会話が続かない。
(何なのだろう……)
エレオノールが不機嫌であるのは、何となく分かる。伊達に宝探しで10日間も一緒にいたり、その後も色々と騒動を共にしてきたわけではない。
……エレオノールの感情はそれなりに読めるのだが、一体何にそんなに苛立っているのかが分からないのだ。
分からないので、もうストレートに聞いてみることにする。
「……ミス・ヴァリエール、何を怒っているのだ?」
「怒ってなんかないわよっ!!」
どう見ても怒っているようにしか見えないエレオノールは、そのままプンプンと怒りながらユーゼスから30メイルほど離れていった。
「?」
ワケが分からずに首を傾げるユーゼス。
それを見かねたキュルケは、溜息を吐きつつユーゼスに話しかけた。
「……追いかけてフォローしてあげた方が良いんじゃない?」
「フォローと言われてもな。何に対して不機嫌になっているのかよく分からないのでは、対処のしようがない」
「はあ……。『たとえ原因が分からなくても、機嫌の悪い女をなだめる』ってのが、男の甲斐性の一つでしょうが」
「何だそれは?」
ユーゼスはキュルケの言っていることが理解出来ない。
不機嫌の対象の正体が分からないのだから、なだめられるわけがないではないか。
「……アンタって、本当に……」
そんなユーゼスを、キュルケは心底呆れた表情で見つめる。
「ああもう、一から全部教えてる暇もないか……」
そして額を右手で押さえてかぶりを振ると、取りあえずではあるが『手っ取り早い機嫌の取り方』を伝授することにした。
「……じゃあ、コレをあのカタブツに言ってごらんなさいな」
「ふむ?」
飛び去って行くシルフィードを見送りながら、ユーゼスは呟く。
あの後、一時的に息を吹き返したウェールズは、消えゆく命を振り絞りながら『ラグドリアン湖の湖畔に行きたい』と言った。
スピードを優先するのならば移動にはビートルを使うべきなのだが、真夜中で見通しがこの上なく悪く、しかも操縦者であるユーゼスはかなり疲弊していたため、移動はタバサのシルフィードに任せた。
ラグドリアン湖に行ったメンバーは、アンリエッタとウェールズ、シルフィードを操るタバサ、自主的に付いて行ったルイズ、同じく『見届けたい』と言ったギーシュである。
この場の事後処理は回復したヒポグリフ隊なりに任せて、残ったユーゼスとエレオノールとキュルケは休息を取りながらラグドリアン湖に行ったメンバーが戻るのを待っていた。
「……………………」
「……………………」
三人並んでその場に座る残留メンバー。しかしどうにも気まずい沈黙が場を支配していた。
まあ、元々ユーゼスは自分から会話を行うタイプではないし、エレオノールとキュルケにしても『ヴァリエールとツェルプストー』という関係からすればそう会話が弾むわけもない。
だが、この沈黙は『エレオノールがユーゼスに対して不機嫌を露わにしている』ため起こっている沈黙であった。
「……?」
そんな二人のカヤの外に置かれたキュルケなどは、これがどのような沈黙なのかすらよく分かっていない。
……実を言うと、ユーゼスにも何故自分たちが沈黙しているのか分からなかった。
しかしこのまま気まずい沈黙を続けるのも精神衛生上よろしくないので、ユーゼスはエレオノールに取りあえず当たり障りのない話題を提示してみる。
「そう言えば、雨が止んでいるな」
「……そうね」
「……………………」
「……………………」
会話が続かない。
(何なのだろう……)
エレオノールが不機嫌であるのは、何となく分かる。伊達に宝探しで10日間も一緒にいたり、その後も色々と騒動を共にしてきたわけではない。
……エレオノールの感情はそれなりに読めるのだが、一体何にそんなに苛立っているのかが分からないのだ。
分からないので、もうストレートに聞いてみることにする。
「……ミス・ヴァリエール、何を怒っているのだ?」
「怒ってなんかないわよっ!!」
どう見ても怒っているようにしか見えないエレオノールは、そのままプンプンと怒りながらユーゼスから30メイルほど離れていった。
「?」
ワケが分からずに首を傾げるユーゼス。
それを見かねたキュルケは、溜息を吐きつつユーゼスに話しかけた。
「……追いかけてフォローしてあげた方が良いんじゃない?」
「フォローと言われてもな。何に対して不機嫌になっているのかよく分からないのでは、対処のしようがない」
「はあ……。『たとえ原因が分からなくても、機嫌の悪い女をなだめる』ってのが、男の甲斐性の一つでしょうが」
「何だそれは?」
ユーゼスはキュルケの言っていることが理解出来ない。
不機嫌の対象の正体が分からないのだから、なだめられるわけがないではないか。
「……アンタって、本当に……」
そんなユーゼスを、キュルケは心底呆れた表情で見つめる。
「ああもう、一から全部教えてる暇もないか……」
そして額を右手で押さえてかぶりを振ると、取りあえずではあるが『手っ取り早い機嫌の取り方』を伝授することにした。
「……じゃあ、コレをあのカタブツに言ってごらんなさいな」
「ふむ?」
ゆっくりとエレオノールに歩み寄っていくユーゼス。
それに気付いたエレオノールは、ジトッとした目を銀髪の男に向ける。
「……何の用よ?」
「お前と話がしたくてな」
「……………」
ぷいっと顔を背けるエレオノール。
どうやら、まだ機嫌は直っていないらしい。
仕方がないので、キュルケから伝授されたばかりの『手っ取り早い機嫌の取り方』とやらを早速試してみる。
だがそのためには、適当な話題を投げかけなくては……。
「あのアンリエッタ女王は、これからどうするつもりなのだろうな」
「さあ? 私が分かるわけがないでしょう、そんなの」
「……ラ・ヴァリエール家はトリステインでもかなりの名門なのだろう? ならば国の舵取りをする女王の動向は、お前の家にとっても無関係ではあるまい」
「それは当主である父さまが考えることであって、私には直接関係はないわよ」
(よし、ここだ)
そう判断すると、ユーゼスは多少ぎこちないながらも『その言葉』を口にした。
「だが無関係という訳でもないだろう、……エレオノール」
「それはそうだけど……。……ん?」
気の利いた言葉の一つも言おうとしないユーゼスに更に苛立ちを募らせながら、不機嫌なままで適当に相槌を打とうとして、エレオノールは妙な違和感に気付いた。
先程のユーゼスのセリフに、どうにも引っ掛かりを感じる。
何なのかしら、とそのセリフを頭の中で反芻してみると……。
「…………っ!!!」
「ぐぁっ!」
エレオノールはいきなり顔を真っ赤にして、ポカッとユーゼスの頭を叩いた。
そして、更にユーゼスから30メイルほど離れていく。
―――残されたユーゼスは、叩かれた頭を押さえながら思案に耽り出した。
「……むう……」
やはり駄目だったか。
怒っているのとは微妙に違うような気がするし、チラチラとこちらを窺っている様子ではあるから、エレオノールの機嫌も多少は改善されたのだろうが……根本的な解決になっていない以上、失敗したと見るべきだろう。
ふとエレオノールの様子を見てみると、いつかと同じように慌てて目を逸らされたので、機嫌は悪いままだと思われる。
(ミス・ツェルプストーのアドバイスも、当てにはならんな……)
そう考えつつ、キュルケのアドバイスを思い出す。
(……やはり『“ミス”も付けずに名前で呼ぶ』というのは逆効果だったか)
いくら何でも馴れ馴れし過ぎるし、何より不敬だったのだろう。
そう判断したユーゼスは、次からエレオノールに対する呼び方を『ミス・ヴァリエール』に戻した。
……しかし、そうしたら前よりももっと不機嫌になってしまった。
何故だろう。
(全く分からない……)
少し離れた所でキュルケが笑いを堪えているが、一体何がおかしいと言うのだろうか。
まあ、ともかく。
これ以降、ユーゼスのエレオノールに対する呼び方は、少なくともプライベートにおいては『エレオノール』で一貫されることになるのだった。
それに気付いたエレオノールは、ジトッとした目を銀髪の男に向ける。
「……何の用よ?」
「お前と話がしたくてな」
「……………」
ぷいっと顔を背けるエレオノール。
どうやら、まだ機嫌は直っていないらしい。
仕方がないので、キュルケから伝授されたばかりの『手っ取り早い機嫌の取り方』とやらを早速試してみる。
だがそのためには、適当な話題を投げかけなくては……。
「あのアンリエッタ女王は、これからどうするつもりなのだろうな」
「さあ? 私が分かるわけがないでしょう、そんなの」
「……ラ・ヴァリエール家はトリステインでもかなりの名門なのだろう? ならば国の舵取りをする女王の動向は、お前の家にとっても無関係ではあるまい」
「それは当主である父さまが考えることであって、私には直接関係はないわよ」
(よし、ここだ)
そう判断すると、ユーゼスは多少ぎこちないながらも『その言葉』を口にした。
「だが無関係という訳でもないだろう、……エレオノール」
「それはそうだけど……。……ん?」
気の利いた言葉の一つも言おうとしないユーゼスに更に苛立ちを募らせながら、不機嫌なままで適当に相槌を打とうとして、エレオノールは妙な違和感に気付いた。
先程のユーゼスのセリフに、どうにも引っ掛かりを感じる。
何なのかしら、とそのセリフを頭の中で反芻してみると……。
「…………っ!!!」
「ぐぁっ!」
エレオノールはいきなり顔を真っ赤にして、ポカッとユーゼスの頭を叩いた。
そして、更にユーゼスから30メイルほど離れていく。
―――残されたユーゼスは、叩かれた頭を押さえながら思案に耽り出した。
「……むう……」
やはり駄目だったか。
怒っているのとは微妙に違うような気がするし、チラチラとこちらを窺っている様子ではあるから、エレオノールの機嫌も多少は改善されたのだろうが……根本的な解決になっていない以上、失敗したと見るべきだろう。
ふとエレオノールの様子を見てみると、いつかと同じように慌てて目を逸らされたので、機嫌は悪いままだと思われる。
(ミス・ツェルプストーのアドバイスも、当てにはならんな……)
そう考えつつ、キュルケのアドバイスを思い出す。
(……やはり『“ミス”も付けずに名前で呼ぶ』というのは逆効果だったか)
いくら何でも馴れ馴れし過ぎるし、何より不敬だったのだろう。
そう判断したユーゼスは、次からエレオノールに対する呼び方を『ミス・ヴァリエール』に戻した。
……しかし、そうしたら前よりももっと不機嫌になってしまった。
何故だろう。
(全く分からない……)
少し離れた所でキュルケが笑いを堪えているが、一体何がおかしいと言うのだろうか。
まあ、ともかく。
これ以降、ユーゼスのエレオノールに対する呼び方は、少なくともプライベートにおいては『エレオノール』で一貫されることになるのだった。