最終話 「悪・即・斬」
学院長からの頼みでルイズ達に同行してアルビオンへ向うことになった斎藤。
役立たずだと判断されたギーシュは、その場で医務室送りにされ、その代わりに斎藤の手下となったフーケを密かに尾行させていた。
役立たずだと判断されたギーシュは、その場で医務室送りにされ、その代わりに斎藤の手下となったフーケを密かに尾行させていた。
ラ・ロシェールへ向かう道中で盗賊に襲われるも、これをワルドとともに撃破。
放っておいて良いというワルドを無視し、彼らを尋問した結果、仮面の男に雇われたという情報を得る。
斎藤の戦闘を見ていたルイズに何故刀が直っているのかを問いただそうとするが、ワルドに急ぐよう促され結局有耶無耶になってしまう。
放っておいて良いというワルドを無視し、彼らを尋問した結果、仮面の男に雇われたという情報を得る。
斎藤の戦闘を見ていたルイズに何故刀が直っているのかを問いただそうとするが、ワルドに急ぐよう促され結局有耶無耶になってしまう。
「――つまり、明後日にならねばこの街を出ることは出来ないというコトだ」
ラ・ロシェールで一番上等な宿「女神の杵」の酒場で、乗船の交渉に行ってきたワルドがルイズ達にそう告げる。
「そんな……急ぎの任務なのに」
「確かにこのタイムロスは厳しいが、焦って失敗してしまったらそれこそ意味がない。明日はゆっくり休もうじゃないか」
「確かにこのタイムロスは厳しいが、焦って失敗してしまったらそれこそ意味がない。明日はゆっくり休もうじゃないか」
不安そうに呟いたルイズを気遣うように、ワルドは優しく話しかける。
そして先ほどから一言も発していない斎藤の方へ顔を向け続ける。
そして先ほどから一言も発していない斎藤の方へ顔を向け続ける。
「君の使い魔くんも、慣れない乗馬で疲れただろうからね」
ルイズもワルドに釣られて彼を見るが、当の本人は二人を無視してくつろいでいた。
こうして港町での夜は更けていくのだった。
こうして港町での夜は更けていくのだった。
翌朝、斎藤が宿の外で煙草を吸っていると、宿から出てきたワルドに声をかけられた。
「おはよう、使い魔くん。昨日はよく眠れたかね」
「何か用か。用がないなら話しかけるな」
「何か用か。用がないなら話しかけるな」
ワルドの目を見ようともしないで答える。
どうやら会話をする気はないようだ。
どうやら会話をする気はないようだ。
「おや、釣れないな。まあ用はあるから聞いてくれたまえよ」
そこで初めてワルドの顔を見る。
ニコリと笑っている顔が気に入らない。
斎藤は煙を吐き出し、話を続けるよう目で促す。
ニコリと笑っている顔が気に入らない。
斎藤は煙を吐き出し、話を続けるよう目で促す。
「君はあのフーケを捕らえたんだろう? その腕前がどれくらいか知りたくてね。手合わせ願えないだろうか」
「断る」
「断る」
即答である。
吸い終わった煙草を地面に落とし靴底で踏みつぶすと、ワルドに背を向けて街の賑わいの中へ消えていった。
吸い終わった煙草を地面に落とし靴底で踏みつぶすと、ワルドに背を向けて街の賑わいの中へ消えていった。
夜になって斎藤が宿屋へ戻ってきてみれば、そこは傭兵達とフーケが戦っている最中だった。
愉快そうに鼻をならし、先ほどから感じていた背後からの殺気に声を掛ける。
愉快そうに鼻をならし、先ほどから感じていた背後からの殺気に声を掛ける。
「貴様の差し金か? 全く、面倒なことをしてくれる」
振り返ると、そこには白い仮面をつけた男が杖を構えて佇んでいた。
そして男は彼の問いには答えず、杖で斬りかかってきた。
何度か切り結ぶ内に、剣技では敵わないと見たのか男は距離を開けようとする。
それをさせまいと男に追撃を仕掛けようとするが、エア・ハンマーでそれを防がれてしまう。
そして男は彼の問いには答えず、杖で斬りかかってきた。
何度か切り結ぶ内に、剣技では敵わないと見たのか男は距離を開けようとする。
それをさせまいと男に追撃を仕掛けようとするが、エア・ハンマーでそれを防がれてしまう。
(この魔法を喰らって無事でいたヤツはいない。その澄まし顔を恐怖で歪ませてくれる!)
「『ライトニング……ッ!?」
「『ライトニング……ッ!?」
その直後、刃が男の喉笛を凄まじい勢いで突き破った。
それと同時に男の意識と姿は、霧のように消えてしまった。
それと同時に男の意識と姿は、霧のように消えてしまった。
「こっちは片付いたよ……今のは遍在かい?」
その声がした方を見れば、フーケがゴーレムの肩に立っていた。
どうやら傭兵の掃除は既に完了したらしい。
どうやら傭兵の掃除は既に完了したらしい。
「相変わらず凄いね、遍在が使えるってことはスクエアクラスの使い手だって証拠なのに、それを瞬殺しちまうんだから」
「世辞はいらん。それよりあいつらはどうした」
「ヴァリエールのお嬢ちゃん達なら、あたしが暴れている間に桟橋へ向かったようだね。きっと今頃雲の上さ」
「世辞はいらん。それよりあいつらはどうした」
「ヴァリエールのお嬢ちゃん達なら、あたしが暴れている間に桟橋へ向かったようだね。きっと今頃雲の上さ」
斎藤はそれを聞いて何らや考える仕草を見せ、ややあってフーケに質問を投げかける。
「アルビオンへ行く方法は何かないのか?」
「え? あ、ああ、そうだね。やっぱり明日まで待たなきゃ無理だろうね」
「え? あ、ああ、そうだね。やっぱり明日まで待たなきゃ無理だろうね」
予想外の言葉だった。
彼のことだから、後は二人に任せて自分はさっさと帰るものだと思っていた。
そう告げると彼は特になんの感情も顔に浮かべず答えた。
彼のことだから、後は二人に任せて自分はさっさと帰るものだと思っていた。
そう告げると彼は特になんの感情も顔に浮かべず答えた。
「俺はとっとと元いた場所に帰りたいだけだ。コルベールとか言う禿がその方法を探すとほざいていたが全く期待出来ん。
それならばもっと組織力のあるところを使えばいいだけのコト。そして――」
「そこに王女直々の任務がアンタの主人の元へ舞い込んできた、と。なるほどねぇ。王宮の力ならなんとかなるかもだね」
「そんなところだ。明日まで何もできないのなら俺は休ませてもらう」
それならばもっと組織力のあるところを使えばいいだけのコト。そして――」
「そこに王女直々の任務がアンタの主人の元へ舞い込んできた、と。なるほどねぇ。王宮の力ならなんとかなるかもだね」
「そんなところだ。明日まで何もできないのなら俺は休ませてもらう」
三時間ほどの短い仮眠をとった後、未だ夢の中のフーケを叩き起こして船が来ているであろう桟橋へ向かった。
ちなみにフーケはアルビオン入りを心底嫌がっていたが、斎藤はそれを無視して強制的に追従させていた。
夜明けと同時にアルビオンへ着いた二人は、フーケの案内でレコン・キスタに見つかることなくニューカッスル城へたどり着く。
フーケと別れて捜索していた斎藤は、礼拝堂から聞こえたワルドの怒号でここが当たりだと確信した。
ちなみにフーケはアルビオン入りを心底嫌がっていたが、斎藤はそれを無視して強制的に追従させていた。
夜明けと同時にアルビオンへ着いた二人は、フーケの案内でレコン・キスタに見つかることなくニューカッスル城へたどり着く。
フーケと別れて捜索していた斎藤は、礼拝堂から聞こえたワルドの怒号でここが当たりだと確信した。
「やれやれ。力任せに婚約を強要とは……貴族が聞いて呆れるな」
その声に振り替えれば、ワルドにとって最大の障害が立っていた。
何故、どのようにしてアルビオンまで追って来たのか気がかりではあったが、ここいる以上始末する以外ない。
昨夜の一戦から接近戦は危険だと判断し、遠距離からのライトニング・クラウドで一気に勝負をつけようとする。
だが、斎藤はそんな彼の殺気を全く意に介さず、懐から取り出したものをただ投げるだけだった。
ワルドの足もとに落ちたそれは白い仮面だった。
その行動の意味を悟ったワルドは驚いた顔で斎藤を見る。
何故、どのようにしてアルビオンまで追って来たのか気がかりではあったが、ここいる以上始末する以外ない。
昨夜の一戦から接近戦は危険だと判断し、遠距離からのライトニング・クラウドで一気に勝負をつけようとする。
だが、斎藤はそんな彼の殺気を全く意に介さず、懐から取り出したものをただ投げるだけだった。
ワルドの足もとに落ちたそれは白い仮面だった。
その行動の意味を悟ったワルドは驚いた顔で斎藤を見る。
「何故気付いた」
「気付かれていないと思っていたのか? 御目出度いヤツだな」
「気付かれていないと思っていたのか? 御目出度いヤツだな」
ワルドの放つ殺気が一気に膨れ上がる。
その殺気を愉しそうに受け止め、斉藤は話を続ける。
その殺気を愉しそうに受け止め、斉藤は話を続ける。
「港町へ向かう途中に山賊と戦っていたお前と、仮面の男の挙動が全く同じだった。分身を使うならもっと頭を使え、ド阿呆が」
「もういい! 貴様は死ね!!」
「もういい! 貴様は死ね!!」
激昂したワルドは凄まじい勢いで多くの風の矢を放つ。
斎藤はそれらをすべて見切り、さらに追撃してきたワルドの杖を易々と受け止める。
鍔迫り合いの形になり、斉藤と目が合う。
その瞬間、ワルドを今までに感じたことのない種類の恐怖がじわりと包み込む。
斎藤はそれらをすべて見切り、さらに追撃してきたワルドの杖を易々と受け止める。
鍔迫り合いの形になり、斉藤と目が合う。
その瞬間、ワルドを今までに感じたことのない種類の恐怖がじわりと包み込む。
(何故だ! 何故俺はやつに勝てない!! 何故俺の攻撃が通じない!!)
「やはり、なんだかんだ言っても主人を守るか! 飼い慣らされた犬めが!! 自分の御主人様がそんなに愛おしいか!!」
「やはり、なんだかんだ言っても主人を守るか! 飼い慣らされた犬めが!! 自分の御主人様がそんなに愛おしいか!!」
自分の攻撃が通じず、混乱気味のワルドが自分を保つために吠える。
「フゥ……貴様は甚だしい勘違いをしているようだな」
「なんだと!」
「この俺を動かすのは唯一つ」
「なんだと!」
「この俺を動かすのは唯一つ」
斎藤の纏う空気が変わる。
ワルドの目に、誇り高い狼の姿が見えた気がした。
ワルドの目に、誇り高い狼の姿が見えた気がした。
「悪・即・斬という俺自身の正義の為だけだ! 故に、金や名誉や契約をもってしてもこの俺を飼う事など何人にも出来ん!!」
彼の発する剣気に、ワルドは一瞬動けなくなってしまった。
そしてそれが彼の人生最期の後悔となる。
ほぼゼロ距離から放たれる必殺の牙突、「牙突零式」。
刀は砕け散り、ワルドは走馬灯も見る間もなく上半身が千切れ飛び、絶命した。
そしてそれが彼の人生最期の後悔となる。
ほぼゼロ距離から放たれる必殺の牙突、「牙突零式」。
刀は砕け散り、ワルドは走馬灯も見る間もなく上半身が千切れ飛び、絶命した。
遅れてやってきたフーケがその惨状に息を飲み、すでに事切れているウェールズを見てさらに驚愕する。
そしてルイズも死んだはずのフーケが生きていることに驚愕する。
そしてルイズも死んだはずのフーケが生きていることに驚愕する。
「い、一体ここで何があったいうのさ!?」
「そういえばなんであんたが生きてんのよ! てかなんでこんなとこにいんのよ!」
「そういえばなんであんたが生きてんのよ! てかなんでこんなとこにいんのよ!」
気が動転しているフーケとルイズを尻目に、斎藤は今度こそ修復不可能になった愛刀を鞘に納める。
そして、
そして、
「阿呆どもが」
理不尽な物言いだとわかっていても、その言葉に二人は反論することが出来なかった。
足を怪我し走れないルイズをレビテーションで浮かべ、砲撃で崩壊していくニューカッスル城内を走り抜ける。
桟橋に残っていた最後の船の甲板から、船員が急げと叫んでいる。
桟橋に残っていた最後の船の甲板から、船員が急げと叫んでいる。
ルイズとフーケが乗り込んだ直後に、今までにない衝撃が走る。
度重なる砲撃の衝撃で土台が耐えきれなくなり、桟橋が崩れてしまったのだ。
度重なる砲撃の衝撃で土台が耐えきれなくなり、桟橋が崩れてしまったのだ。
「やれやれ…」
崩れていく足場を眺めながら、斎藤はゆったりとした動作で煙草に火をつける。
そして煙を吐き出しニヤリと笑う。
そして煙を吐き出しニヤリと笑う。
「ちょ、ちょっとあんた何やってんのよ!! はやくこっちへ来なさい!!」
「やめな! ……もう間に合わないっ!」
「やめな! ……もう間に合わないっ!」
手すりを乗り越えかねない勢いのルイズをフーケが抑える。
そして何もできない絶望感から、その場にへたり込み、顔を伏せてしまう。
そして何もできない絶望感から、その場にへたり込み、顔を伏せてしまう。
「阿呆が――」
ハッとルイズは顔をあげる。
「貴様らとはくぐった修羅場の数が違うんだよ」
その言葉とともに、斎藤は瓦礫の中へ消えていった。
「いやあああああああぁぁぁぁ!!」
その日、アルビオ王国はレコン・キスタの前に敗れ、その長い歴史を閉じた。
その裏で、孤高の狼が一人、ルイズの前から姿を消した。
その裏で、孤高の狼が一人、ルイズの前から姿を消した。