「もうこれ以上は無理です、オールド・オスマン!」
コルベールが両の拳を机に叩きつけるのを、オスマンは面倒くさそうな顔で見つめていた。
用件がなんなのかは、コルベールが言わなくても分かっている。先日「ゼロのルイズ」という、
少々不名誉な二つ名を持つ少女、ルイズ・フランソワーズル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの
召喚した使い魔のことだ。
「サモン・サーヴァントで呼び出した使い魔を変えることは出来ないのはよく分かってます!
事実、私も契約を行うときに、彼女にそう説明しました!しかし、それは私の考えが甘かったと言わざるを得ません!
彼はいるだけでこの学院の、いや、このハルケギニア全土に住む人々を狂わせるのです!
彼はこの世界にいてはいけない!かれがいるべきはそれこそ天国か魔界かのどちらかです!」
「オーバーじゃのう…ワシは実際見てないからなんとも言えんが、まだそれほど被害が出とるわけでも
なかろう?ただの平民じゃし」
「…召喚したとき、周りにいた人間は全て、半日以上呆けて動けなくなりました」
「ほう。なにか術でも使ったのかの?」
「彼がミス・ヴァリエールに連れられて教室に入ったとき、教室の生徒も、教師も、男から女から使い魔にいたるまで、
彼から目を離せずに一日を終わりました。ミセス・シュヴルーズなどは授業が終わったのに気づかないばかりか、
次の授業に向かいたくないなどと言う始末でした」
「ほう。一体何をやったんじゃ?」
「彼が食堂に行ったとき、料理長が指を切断、別のコックが小火を起こして危うく全焼するとこでした」
「あとでくっついてよかったのう。ちょっとした不注意で彼がいなくなるのは困るというものじゃ」
「彼が原因で一時間に一度は生徒同士の私闘が起きるようになりました。
それもただの喧嘩ではなく、魔法も全力で使う殺し合いのレベルでです」
「ほう。私闘は禁止しとるはずじゃぞ。しかし彼が原因とはどういうことじゃ?」
オスマンとしては思ったことを口にしただけだった。しかし次の瞬間、コルベールは全身を硬直させ、
頬を桜色に染めながら…正直気持ち悪い…ゆっくりと、その原因を口にした。
「……彼が美しいからです」
「…なに?」
「彼が美しいからです。いや、美しいという言葉では彼を表現しきれない。
彼は美そのものです。彼の前では他のどんなものも無価値です」
語りながら次第にそれを思い出してきたのだろうか、次第にコルベールの顔から険が取れ、
頬だけではなく顔中が真っ赤になり、目が蕩けてきた。
気持ち悪い。今までオスマンが見てきたあらゆる物の中で、二度と見たくないものベスト3に確実に入る。
髪が薄くなり、脂の乗り始めたおっさんが恋する乙女の表情をしているのだ。正直金をもらっても見たくない。
そのせいでオスマンの顔が引きつっているのに気づいたのか、コルベールは頭からそれを振り払うようにし、
「と、とにかく!彼がいるだけであらゆる人間は彼に魅了されるのです!一刻も早く彼を、
秋せつらを元の世界に戻す手立てを考えねば!」
「しかしのう……所詮色恋沙汰じゃろう?あのくらいの年なら、いい男がおれば、
喧嘩の一つや二つはあってもおかしくないというものじゃろう」
「ですから!彼の美しさが並みでないから、そう言ってるのです!」
コルベールが再度机に拳を叩きつけるのと同時に、轟音が響いた。二人が思わずその音の方向に顔を向ける。
「あたしの使い魔に色目使うなって言ってんでしょこのホルスタイン女ああああ!!!」
「あんたなんかじゃ彼の主は務まらないって言ってるでしょ凹面鏡ボディいいいいい!!」
恥も外聞もないかのような絶叫とともに、またも鳴り響く轟音。地震かと思うほどの振動が二人の部屋を襲う。
「………」
「……分かっていただけましたか?」
「そうじゃのう……」
ちなみにその喧嘩の原因である世にも美しい男は、食堂でジュースをすすりながら、元の世界で作っていたという
「せんべい」という菓子を食べていた。
なお、後にトリステイン王国が未曾有の大戦争に巻き込まれたとき、
数多の戦を生き抜いてきた数万の大軍勢が一瞬で戦意喪失し、大敗北を喫したというのは、また別の話である。
コルベールが両の拳を机に叩きつけるのを、オスマンは面倒くさそうな顔で見つめていた。
用件がなんなのかは、コルベールが言わなくても分かっている。先日「ゼロのルイズ」という、
少々不名誉な二つ名を持つ少女、ルイズ・フランソワーズル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの
召喚した使い魔のことだ。
「サモン・サーヴァントで呼び出した使い魔を変えることは出来ないのはよく分かってます!
事実、私も契約を行うときに、彼女にそう説明しました!しかし、それは私の考えが甘かったと言わざるを得ません!
彼はいるだけでこの学院の、いや、このハルケギニア全土に住む人々を狂わせるのです!
彼はこの世界にいてはいけない!かれがいるべきはそれこそ天国か魔界かのどちらかです!」
「オーバーじゃのう…ワシは実際見てないからなんとも言えんが、まだそれほど被害が出とるわけでも
なかろう?ただの平民じゃし」
「…召喚したとき、周りにいた人間は全て、半日以上呆けて動けなくなりました」
「ほう。なにか術でも使ったのかの?」
「彼がミス・ヴァリエールに連れられて教室に入ったとき、教室の生徒も、教師も、男から女から使い魔にいたるまで、
彼から目を離せずに一日を終わりました。ミセス・シュヴルーズなどは授業が終わったのに気づかないばかりか、
次の授業に向かいたくないなどと言う始末でした」
「ほう。一体何をやったんじゃ?」
「彼が食堂に行ったとき、料理長が指を切断、別のコックが小火を起こして危うく全焼するとこでした」
「あとでくっついてよかったのう。ちょっとした不注意で彼がいなくなるのは困るというものじゃ」
「彼が原因で一時間に一度は生徒同士の私闘が起きるようになりました。
それもただの喧嘩ではなく、魔法も全力で使う殺し合いのレベルでです」
「ほう。私闘は禁止しとるはずじゃぞ。しかし彼が原因とはどういうことじゃ?」
オスマンとしては思ったことを口にしただけだった。しかし次の瞬間、コルベールは全身を硬直させ、
頬を桜色に染めながら…正直気持ち悪い…ゆっくりと、その原因を口にした。
「……彼が美しいからです」
「…なに?」
「彼が美しいからです。いや、美しいという言葉では彼を表現しきれない。
彼は美そのものです。彼の前では他のどんなものも無価値です」
語りながら次第にそれを思い出してきたのだろうか、次第にコルベールの顔から険が取れ、
頬だけではなく顔中が真っ赤になり、目が蕩けてきた。
気持ち悪い。今までオスマンが見てきたあらゆる物の中で、二度と見たくないものベスト3に確実に入る。
髪が薄くなり、脂の乗り始めたおっさんが恋する乙女の表情をしているのだ。正直金をもらっても見たくない。
そのせいでオスマンの顔が引きつっているのに気づいたのか、コルベールは頭からそれを振り払うようにし、
「と、とにかく!彼がいるだけであらゆる人間は彼に魅了されるのです!一刻も早く彼を、
秋せつらを元の世界に戻す手立てを考えねば!」
「しかしのう……所詮色恋沙汰じゃろう?あのくらいの年なら、いい男がおれば、
喧嘩の一つや二つはあってもおかしくないというものじゃろう」
「ですから!彼の美しさが並みでないから、そう言ってるのです!」
コルベールが再度机に拳を叩きつけるのと同時に、轟音が響いた。二人が思わずその音の方向に顔を向ける。
「あたしの使い魔に色目使うなって言ってんでしょこのホルスタイン女ああああ!!!」
「あんたなんかじゃ彼の主は務まらないって言ってるでしょ凹面鏡ボディいいいいい!!」
恥も外聞もないかのような絶叫とともに、またも鳴り響く轟音。地震かと思うほどの振動が二人の部屋を襲う。
「………」
「……分かっていただけましたか?」
「そうじゃのう……」
ちなみにその喧嘩の原因である世にも美しい男は、食堂でジュースをすすりながら、元の世界で作っていたという
「せんべい」という菓子を食べていた。
なお、後にトリステイン王国が未曾有の大戦争に巻き込まれたとき、
数多の戦を生き抜いてきた数万の大軍勢が一瞬で戦意喪失し、大敗北を喫したというのは、また別の話である。
-「魔界都市新宿」より秋せつらを召喚