32話 闇に根を不規則な明日へと
少しずつではあるが最初の放送の時刻が迫る。
半竜人種の若い女性、
沢谷千華は海沿いの集落を歩いていた。
「ん……」
人影が見え、それを確かめるため足を早める。
その小さな人影は千華の姿を認識したのか、民家と民家の間の細い路地に入って逃げようとする。
千華もまたその細い路地に入るが、背中の翼が民家の壁に当たって少し痛かった。
「い、行き止まり……!? そんな……」
人影――狐の獣人の少年、
大嶋敏昌は逃げようとするも、
路地は行き止まりになっており、扉があったが固く施錠され開けられず。
袋小路に追い詰められた形となってしまった。
「逃げないで……逃げなくても良いでしょう」
「……!」
半竜人の女性が敏昌の元へやってくる。
その表情は何と言うか、笑顔では無かったが、かと言って無表情と言う訳でも無い、そんな表情。
「……」
敏昌がこの半竜人女性から逃げたのは、
最初は単純に、この殺し合いで誰とも組むつもりが無く、
出会った人の思想に関わらず逃げるつもりでいたためだったのだが、
今は違っていた。今はこの半竜人女性からえも知れぬ恐怖を、敏昌は感じていた。
一刻も早くこの女性から距離を置きたい、逃げ出したいと思っていた。
「私、沢谷千華って言うの……あなたは?」
「……お、大嶋敏昌」
「そうか大嶋君って言うんだ……」
半竜人女性、千華は狐少年の名前を確認すると、
おもむろに腰の方に手をやる。
そして取り出した物を見て、敏昌は戦慄する。
「じゃあ、死のうか」
今度ははっきりと分かるように、にっこりと笑みを浮かべて千華が言った。
その手に持たれているのは大きなナイフ。
ボウイナイフと呼ばれる物だったが、敏昌は知らない。
「う、うわ、あ」
大声で助けを呼ぼうとも思ったが、恐怖のせいか上手く声が出ず、
足も震えて言う事を聞かない。
対抗しようにも敏昌には武器になるような物は支給されていなかった。
敏昌に迫る千華。
「暴れると痛いよぉ?」
そして千華がナイフを振りかぶった。
「あぁ――――!」
敏昌は観念し目を固く閉じた。
ダァン! ダァン!
二発の銃声が響いた。
「……え?」
銃声? 千華は銃は持っていなかったし自分は銃声が鳴っても特に身体に変化は無い。
来ると思っていた千華の斬撃も一向に来る気配が無い。
どさり、と、人が倒れる音が聞こえ、敏昌は恐る恐る目を開ける。
千華が地面に崩れ落ちていた。
背中から血を流し動く様子が無い。
視線を路地の出口の方へ向けると、拳銃らしき物を持った人間の男性の姿が見えた。
「あ、あ……?」
予想だにしなかった展開に、驚き目を丸くする敏昌。
しばらく呆然としていたが、やがて、どうやら男性が自分を助けてくれたらしいと判断する。
「あ、ああ、あの、助けてくれてあり……が……」
男性に礼を言おうとした敏昌だったが、その顔色が一変する。
男性は自分に銃口を向けていた。
なぜ銃口を向けている?
この男性は自分を助けてくれた訳では無いのか?
敏昌の疑問はすぐに解決する。
ダァン!
彼の胸部へ銃弾が撃ち込まれた事によって。
敏昌は倒れこみ、胸の激痛と呼吸困難に悶絶する。
喉の奥から鉄錆味の生温い液体が溢れ地面に落ちた、その液体は赤い色をしていた。
必死に酸素を取り込もうとする敏昌の目からは大粒の涙が流れる。
敏昌は知る由も無かったが、彼を撃った男性――
窪川尚孝こそが、先刻、彼が駐在所に隠れていた時の訪問者であった。
そして尚孝は殺し合いに乗っており、一度はすれ違って難を逃れた敏昌は、今回、尚孝と出会ってしまった。
それが、彼の命運を潰えさせた。
ダァン!
さらにもう一発銃声が鳴り響く。
二発目の銃弾を撃ち込まれた狐の少年は、びくんと身体を反らせ、そして動かなくなった。
「……フー」
深く息を吐く尚孝。
これでこの殺し合いで、彼は二人目の殺人を犯した。
刑事だった頃にも、やむを得ず容疑者を射殺した事はあったが、やはり殺人は気味の良いものではない。
更に、今回は容疑者でも何でも無い一般人なのだから、尚更である。
「……娘の元へ帰るためだ……」
自分に言い聞かせるように呟く。
しかし、「娘のため」と言うのが明らかな自己満足、欺瞞でしか無いと言う事は、
それは尚孝自身も良く分かっていた。
それでも彼は、愛する自分の娘の元へ帰るため、心を鬼と化す決意でいた。
「何か持っていないか……?」
尚孝は狐少年の荷物を漁り始める。
その時、最初に撃った半竜人女性には背を向けていた。
完全に殺したと思っていたためである。
まさか、背後でその半竜人女性が起き上がってナイフを手に取るなど、尚孝は思いも寄らなかった。
尚孝が背後の殺気に気付き振り向いた時には、自分の眼前にナイフの切っ先が迫り――――衝撃の後、尚孝の意識は消えた。
半竜人女性、千華は男性の顔面に突き刺したナイフを引き抜く。
ナイフの刃にはべっとりと赤い液体が付着している。
刃は男性の顔面に刃の根元まで刺さり、恐らく男性の脳幹を破壊したであろう。
「不意打ちとはやってくれるわね……いたた……乙女の身体に穴を開けるなんて」
少し怒った口調で千華が言う。
背中を二発撃たれはしたが、半竜人である彼女は普通の人間より身体の耐久力が高く致命傷には至らなかった。
それでも痛みはあり、軽傷と言う訳では無かったが。
千華は男性の持っていた小型リボルバー拳銃、そして彼の所持していた予備の弾と手榴弾、マッチを入手する。
狐の少年の持ち物も漁ったが、役に立ちそうな物は無かった。
「まあ、拳銃手に入れられたし、良いか……」
装備をナイフからリボルバーに持ち替えると、
千華は二人の死体が転がった路地を後にした。
【大嶋敏昌 死亡】
【窪川尚孝 死亡】
【残り37人】
【早朝/A-5/北部集落】
【沢谷千華】
[状態]背中に二発被弾(盲管銃創)
[装備]ニューナンブM60(0/5)
[持物]基本支給品一式、.38スペシャル弾(10)、MkII手榴弾(3)、マッチ、ボウイナイフ
[思考]1:面白そうなので、殺し合いに乗る。
2:傷が痛い……。
[備考]※特に無し。
《参加者紹介》
【名前】沢谷千華(さわたに ちか)
【年齢】28歳
【性別】女
【職業】塾講師
【性格】何事も楽しもうとする享楽的な性格。自分の命に対して頓着が薄い
【身体的特徴】黒髪ロング。両腕の肘から先と両脚の膝から下が緑竜の物。巨乳。竜の翼と角、金色の瞳を持つ
【趣味】不明
【特技】身体能力が非常に高い
【経歴】不明
【備考】とある町の進学塾で社会科の講師をしている。
それ以前の経歴ははっきりしない、本人も語りたがらない
最終更新:2014年01月02日 22:06