44話 You don't know where you're going to
「B-4エリアが禁止エリアに指定されてるが……この辺って、B-4なのかそれともB-5なのかどっちなんだ?」
放送の情報が書き込んである自分の地図を見ながら飛竜、
フーベルトゥスは言う。
放送で禁止エリアに指定された五つのエリアの内、B-4エリアは、もしかしたら自分達が今いるエリアなのかもしれなかった。
それとも禁止エリアには指定されていないB-5なのかもしれなかったが、それを確実に判別する手立ては無い。
もし自分達のいる場所がB-4エリアだとすると一刻も早く退避する必要がある。
「ここがB-4なのかB-5なのか今一良く分からないけど、
念には念を入れて、移動した方が良いね……大丈夫? 佳美ちゃん」
「はい……」
フーベルトゥスの同行者二人の内の一人、薄紫髪の少女、
由比真奈紀が移動を提案し、
もう一人の同行者、茶髪ツインテールの少女、
野沢佳美にそれでも良いかどうか尋ねる。
佳美は不安そうな面持ちであったが、移動する事を承諾した。
「それじゃ、もうさっさと移動しちまおうか。
飯は……さっき食べたもんな。放送前に。佳美ちゃんも風呂入って着替えたし」
「うん、行こう」
「行きましょう……」
三人はそれぞれの荷物を持ち出発の準備を始める。
真奈紀はクロスボウ、フーベルトゥスはチェーンソー、佳美は民家で調達したゴルフクラブを所持していた。
◆◆◆
半竜人の女性、
沢谷千華は北部市街地を東に向かって移動していた。
北部市街地の西部、B-4エリアが禁止エリアに指定されているため、なるべく離れなければならない。
(首輪が作動してボンッ! なんて嫌だしね……)
左手で首輪にそっと触れながら、千華は思う。
右手には先刻殺害した男性から奪い取った小型のリボルバー拳銃が握られている。
誰か他の参加者に遭遇したなら迷わずその拳銃で撃つつもりであった。
怖いから、とか、生き残りたいから、とかでは無い、殺し合いを楽しもうと言う感情からである。
「だーれかいないかなー?」
少しふざけた調子で言いながら千華は周囲に目をやる。
「あっ」
そして、発見する。
黒髪を持った緑竜女性と、黒狼青年、銀獅子少年の三人組を。
「みーつけた」
ニヤリと、千華が不敵な笑みを浮かべた。
そしてデイパックから、拳大のパイナップルのような形をした物を取り出し、
取り付けられていたピンに指を掛けた。
◆◆◆
カンッ。コンッ、コンッ……。
何か、アスファルトの上を金属質の物が跳ねる音が響く。
その音は道路を歩いていた
宇都野霊華、菱木晄、
由木英久の耳にも届いた。
音は背後から聞こえたにで三人は振り向いて音の正体を確かめようとした。
その時。
ドゴォォォン!!!
爆風と無数の破片が三人を容赦無く襲い、吹き飛ばした。
「……あ……ああ」
身体中の激痛、朦朧とする意識の中、宇都野霊華はゆっくり上体を起こす。
粉塵が巻き起こる中見えた物は、血塗れの自分の身体と、倒れる二人の同行者。
ぴくりとも動かない。生きているようには見えない。
一体何が起きたのだろうか。
「……!」
激痛に揺らぐ視界の中に、倒れる二人に近付く、翼を持った女性の姿。
その手には大きなナイフと思しき物が握られている。
女性はナイフを逆さにして両手で持ち、英久目掛けて振り下ろした。
「がぁ゛ッ」
短く英久の悲鳴が聞こえた。
しばらく身体を震わせていた英久だったがすぐに動かなくなる。
女性は英久の身体からナイフを引き抜くと、次に晄の元へ近寄る。
「や……やめ……」
弱々しい声で懇願する晄。
しかしそれが聞き入れられず筈も無く無慈悲に刃は晄の心臓に突き立てられた。
英久と同じように、ビクビクと身体を震わせ、そして晄も脱力して動かなくなった。
「ウッ……ぐ」
このままでは殺される。間違い無く。
そう思った霊華は痛みを堪え、傍に落ちている自分の自動小銃に手を伸ばす。
ダァン!
「ギャッ!」
しかしその手は銃弾によって貫かれた。
翼を持った女性――――半竜人女性の沢谷千華が、小型リボルバーで霊華の腕を撃ち抜いたのだ。
「がああぁああ……!!」
「危ない危ない……そんなので撃たれちゃたまらないからねぇ」
千華はそう言いながら武器をリボルバーからナイフに持ち帰る。
そして霊華の頭の後ろに回り込み顎を持ち上げ、喉元に刃を押し当てた。
「じゃあね」
「まっ、待っ、ア゛ッ、ガ、ぁ……!」
鋭利な刃はいとも容易く、霊華の喉笛を切り裂いた。
真っ赤な血液が勢い良く噴き出し霊華の白い腹や胸を赤く染める。
そして霊華の命は消えた。
「さてと戦利品の徴収と洒落込もうか」
殺害した三人の持物を漁り始める千華。
銀獅子少年は自動車用緊急脱出ハンマーと六角レンチセット(どちらも100円ショップで売られているような安物)、
黒狼青年はエアダスター(ノズルから気体を放出しパソコンなどの精密機器や家具などに付着した埃を吹き飛ばすスプレー)。
緑竜女性はH&KG3A3自動小銃、マウザーHSc自動拳銃、三十年式銃剣、金属バットと豊富。
銃器もそれぞれの予備弾薬がきっちり用意されている。
幸運だ、と喜び、千華は銃器二丁と弾薬、銃剣を回収した。
「な、何してるの?」
「ん?」
突然女性の声が聞こえたので千華は声のした方へ顔を向ける。
そこには紫髪の少女、青いワイバーン、ツインテールの少女の三人が立っていた。
◆◆◆
由比真奈紀、フーベルトゥス、野沢佳美の三人はB-4エリアからの避難途中、爆発音が聞こえ足を止めた。
しかもその爆発音は明らかに自分達が進む道の先からであった。
引き返そうとも思ったが、引き返せば間違い無く禁止エリアとなったB-4にぶつかる。
そもそも今現在B-4エリアから脱出出来ているかどうかも分からない。
引き返すと言う選択肢は賢明では無かった。
脇道らしい脇道も見当たらなかったので、前進するしか無いと判断し三人は進んだ。
そして、爆発の痕跡、そこに倒れ死んでいる三人、一人だけ立っている半竜人女性の姿を見付ける。
「な、何してるの?」
真奈紀が半竜人女性に尋ねる。
状況からして、この半竜人女性が三人を殺害したと思えたが、
この半竜人女性も爆発音を聞いてここへやってきた可能性も考えられた。
「……」
しかし半竜人女性は真奈紀達に向けて無言で自動小銃を構える。
その姿を見て、明確な敵意を自分達に対して持っていると判断した真奈紀は持っていたクロスボウを女性に向けて、引き金を引いた。
女性が自動小銃の引き金を引くよりも早く、クロスボウから矢が放たれる。
しかしその矢は女性の右頬を掠めるだけに留まった。
今度は女性のターンである。
ダダダダダダッ!!!
G3A3自動小銃の銃口から放たれる無数の7.62ミリの銃弾が三人目掛けて飛んでいく。
「ふんっ!」
しかし、着弾するより早く、フーベルトゥスが真奈紀と佳美の首根っこを掴んで飛び上がった。
「!! くそっ……」
慌てて女性は照準を上に向けるが、飛竜は二人の少女と共に飛び去って行ってしまった。
「逃げられたか……ちぇっ、まあいいか……」
逃げた三人にこだわる必要も無い。
先に殺した三人の内一人から十分な武装も手に入っている。
時計を取り出して時刻を確認すると禁止エリア出現まで後20分程度。
この辺りが禁止エリアであるB-4に含まれてるかどうかは分からない、もしかしたらもう安全圏のB-5エリアなのかもしれないし、
まだB-4エリアなのかもしれない。
どちらか分からない以上、安全なB-5エリアへ近付く東方面に少しでも進んでいた方が良いのは言うまでも無い。
女性――沢谷千華は再び歩き始めた。
【由木英久 死亡】
【菱木晄 死亡】
【宇都野霊華 死亡】
【残り27人】
【朝/B-4、B-5境界線付近】
【沢谷千華】
[状態]背中に二発被弾(盲管銃創だが行動に今の所支障無し)
[装備]H&K G3A3(8/20)
[持物]基本支給品一式、H&K G3の弾倉(3)、マウザーHSc.380ACPモデル(7/7)、
マウザーHSc.380ACPモデルの弾倉(3)、三十年式銃剣、ニューナンブM60(4/5)、.38スペシャル弾(5)、
MkII手榴弾(2)、マッチ、ボウイナイフ
[思考]1:面白そうなので、殺し合いに乗る。
2:もっと東に行った方が良いよね……。
[備考]※フーベルトゥス、由比真奈紀、野沢佳美の容姿のみ記憶しました。
◆◆◆
「ふ、フーさん、苦しい……」
「私、も……」
「分かった、あそこの貯水池の辺りで降りよう」
ずっと首根っこを掴まれその状態で飛行され、息苦しくなってきた真奈紀と佳美。
これ以上は二人が窒息してしまう危険があるため、フーベルトゥスは眼下に見えた貯水池の近くに着陸する事にした。
「危険、泳ぐな!」と書かれた立て看板の前に着陸する青い飛竜とゆっくり地面に下ろされる二人の少女。
「ハァ、ハァ、く、苦しかった……」
「ゼェゼェ……」
「大丈夫か? 真奈紀ちゃん、佳美ちゃん。
悪い、すぐにあの場から逃げなきゃならなかったから……」
「大丈夫、おかげで助かった……ありがと、フーさん」
「ありがとうございます……」
「……にしても、さっきの三人、やっぱあの女が殺したんだろうか」
「多分ね……私達に対しても明確に殺意があったみたいだし」
「……あの……」
「ん? どうした佳美ちゃん」
何かを伝えたそうな佳美の様子を見て、フーベルトゥスが佳美に尋ねる。
「さっきの三人の死体の一人、私を襲った竜の女の人、だと思います」
「! マジか」
「本当?」
「はい……間違い無いと思います」
フーベルトゥス、由比真奈紀の二人と出会う前に、佳美と行動を共にしていた二人を殺害し、
佳美から武装を奪い失禁及び脱糞をさせ、着替えと入浴を余儀無くさせる張本人となった竜人女性。
先程の、自分達を銃撃してきた半竜人女性が殺害したと思しき三人の死体の一人がそれだったと、佳美は証言する。
佳美から話を伺い竜人女性には注意しなければならないと、フーベルトゥスと真奈紀は思っていたが、
その竜人女性を屠ったであろうあの半竜人女性は更に警戒しなければならない存在であると、
フーベルトゥスと真奈紀、そして佳美は認識せざるを得なかった。
【朝/C-5/貯水池】
【由比真奈紀】
[状態]健康
[装備]クロスボウ(0/1)
[持物]基本支給品一式、クロスボウの矢(10)
[思考]1:フーさん(フーベルトゥス)、佳美ちゃんと行動する。殺し合いはしたくない。
2:これからどうしようか……。
3:半竜人女性(沢谷千華)に警戒。
[備考]※宇都野霊華(名前未確認)が死亡したと判断しました。
【フーベルトゥス】
[状態]健康
[装備]チェーンソー(バッテリー残り100%)
[持物]基本支給品一式
[思考]1:真奈紀ちゃん、佳美ちゃんと行動。殺し合いはしたくない。
2:これからどうする?
3:半竜人女性(沢谷千華)に警戒。
[備考]※宇都野霊華(名前未確認)が死亡したと判断しました。
【野沢佳美】
[状態]精神的ショック(少し和らいだ)
[装備]ゴルフクラブ(調達品)
[持物]基本支給品一式
[思考]1:死にたくない。
2:由比さん、フーベルトゥスさんと行動。
3:半竜人女性(沢谷千華)に警戒。
[備考]※宇都野霊華(名前未確認)が死亡したと判断しました。
※身体を洗い、着替えました。
最終更新:2014年02月10日 19:36