8話 友達の為に心を鬼にする人間の鑑

最初に人狼の男、稲葉憲悦と遭遇した時、遠野は我が目を疑った。
遠野の世界において人狼は空想上の生物の筈だった為である。
しかし、話が通じる事、積極的に殺し合う気は無い事が分かると、遠野は警戒を解き現在は共に行動するに至っている。

「稲葉さんも人を探しているんですか?」
「ああ。柏木寛子っつーんだが……17歳の茶髪の女だ」
「僕も早く、先輩やクラスメイトと合流したいと思ってるんですが……」

互いの探し人について話し合っていた時。

グシャッ

背後から何かが地面に叩き付けられる音が響く。

二人は恐る恐る後ろを振り向く。

「……!」

遠野は息を呑んだ。
自分達が歩いてきた道路、その中央付近に、先程までは無かった筈の白い犬の死体が有った。
現在遠野と憲悦が向いている方向から見て左手側は崖になっており、その上にはレジャー施設が有るが、
この犬は崖上から落ちてきたのか、辺りに血や肉片が飛び散り、目を背けたくなるような惨状と化していた。
良く見れば首には首輪を嵌めておりこの殺し合いの参加者である事を示していた。

「何て酷い……」
「この崖の上から落ちてきたのか? いや、落とされたのか?」

崖上を見上げる憲悦。暗くて良く分からないが、動く影は見当たらない。

「あれ? 良く見たらこの犬……あの見せしめで殺された赤ちゃんの家族じゃないか」
「あ? そういやそうだな……」

その白い犬は、見せしめとして殺された野原ひまわりの家族の一員、シロだった。

シロの身に何が起きたのか、時は少し遡る。

……

……

崖上のレジャー施設、その裏手。
崖際にて、白い子犬、シロは涙を流していた。

(どうして、どうしてひまちゃんが死ななきゃいけなかったんだ……)

時折悪戯をされ酷い目にも遭わされたが、大事な家族だった野原ひまわり。
だが、その小さな命は、じゅんぺいとまひろと言う謎の二人によっていとも呆気無く奪われた。

(許せない、絶対許さない!)

ひまわりを殺したあの二人に、今まで感じた事の無い激しい怒りを覚えるシロ。
あいつらの言いなりになんてなるものか、と、殺し合いを否定する。
しんのすけ、ひろし、みさえも自分と同じように悲しんでいるだろう。
まずは三人を探さなければ。

シロがそう決心して行動を起こそうとした時。


ガンッ!


背後から、硬い物で頭を殴られた。


「!!?」

視界が大きく揺らぎ、意識が消えかけ、シロはその場に崩れ落ちる。
激しい頭痛が襲う。
起き上がろうとするが上手く行かない。
その内、シロは浮遊感を感じる。
誰かの手によって抱きかかえられ、運ばれている。
混濁する意識の中、シロは自分を抱きかかえている人物が崖に向かっている事を確認する。
そしてその人物が自分をどうしようとしているのかも察した。
逃げなければ。
だが、身体は全く言う事を聞いてくれない。
頭から垂れてくる赤い液体で視界が赤く染まり何も分からなくなる。
自分はここで死ぬのか。

(嫌だ、死にたくない、僕は、ここで殺されちゃうの?)

(いや、だよ、まだ、しんちゃんと遊びたいよ。しんちゃんのお父さんやお母さんとも、い、しょに)


シロの身体が、宙を舞う。

重力に従い、崖の下のアスファルトへと真っ逆さまに落ちていく。


(しん、ちゃん)


地面に激突する直前、シロの脳裏にはっきりと浮かんだのは、大好きな大好きな――――――。



【シロ@アニメ/クレヨンしんちゃん  死亡】

【残り  49人】




◆◆◆


「ごめんね……でも、小鉄っちゃんの為なんだ……」

中年のように老けた眼鏡の少年、金子翼は、
たった今、その辺に落ちていた石で頭を殴り付けた上に、崖から落として殺害した白い犬に向けて、
謝罪の言葉を述べると共に、自分の思いを吐露する。
白い犬の物と思われるデイパックを開けて中身を漁る翼。
彼の支給品は、彼が敬愛してやまない大沢木小鉄のリコーダーで、彼は嬉しく思ったが、
この殺し合いを戦う為には武器が必要だった。

そして出てきた物はピッケル。
登山の時の杖として使われている物だ。
先端は鋭く十分武器に成りうる。
翼はそれを回収し、装備した。

「小鉄っちゃんの為に頑張るんだ……」

大沢木小鉄を優勝させる為に、殺し合いに乗り、小鉄以外の参加者を皆殺しにする。そして自分は自決する。
それが金子翼のこの殺し合いでの行動指針であった。
全ては小鉄の為に。彼は己の心を鬼とすると決めていた。

「行こう」

ピッケルを携え、翼はレジャー施設へと歩いていく。


【深夜/C-3レジャー施設裏手】
【金子翼@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康
[装備]ピッケル@現実
[所持品]基本支給品一式、大沢木小鉄のリコーダー@漫画/浦安鉄筋家族
[思考・行動]基本:小鉄っちゃんを優勝させる為に皆殺しにする。自分は自害する。
        1:レジャー施設に入って参加者を探す。
        2:小鉄っちゃんには会いたくない。
[備考]※元祖! にて小鉄達と仲良くなった後からの参戦です。


◆◆◆


そして話は現在に戻る。

「可哀想に……埋めてあげたいけど、穴を掘れるような道具は持っていないし」
「そんな事やってる暇ねーだろ。放っておくしかねぇよ」
「そうですね……」

忍び無かったが、遠野と憲悦は白い子犬の死体をそのままにしておく事にした。
そして二人は歩みを再開する。


【深夜/C-3崖下の道路】
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:先輩やクラスメイトを探す。
        2:稲葉さんと行動する。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。

【稲葉憲悦@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]健康
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:積極的に殺し合う気は無い。寛子を探す。
        1:俺は死んだ筈なんだが……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。


《支給品紹介》
【小鉄のリコーダー@漫画/浦安鉄筋家族】
大沢木小鉄が大巨人(記憶喪失のプロレスラー)を召喚する時に使うリコーダー。
今回のロワで吹いても大巨人は来ない。ただのリコーダーと化している。

【ピッケル@現実】
積雪期の登山に使う鶴橋のような形の道具。
氷雪の斜面で足がかりを作る、滑落時の滑落停止、杖代わり等、用途は幅広い。
先端は刃物そのものなので十分武器足り得る。


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最終更新:2014年07月22日 23:57