ああ逃れられない!(カルマ)

14話 ああ逃れられない!(カルマ)

ひでは、D-2エリアに存在する工場の生産ラインを眺めていた。
ベルトコンベアやプレス機、幾つものスイッチが並ぶ操作盤、現場での事務作業に使うと思われる机、
作業者が書き残したらしいホワイトボードのメモ書き。
金属板をプレスして部品を作るラインのようだと言う事は想像出来る。
何の部品かまでは良く分からないが。

「あれぇ? おかしいね、誰も居ないね」

生産ラインは、終業して片付けられたと言うより、作業中に全ての従業員が消えてしまったような感じであった。
機械の電源や、天井の照明等はONになったままで、梱包途中のダンボール箱、書き終わっていない日報が放置されている。
しかしひでが今興味を持っているのは別の事だ。

「これ、玩具じゃないよね」

ひでの手に持たれている、黒色の大きな物体。
それは、FN社のサブマシンガン――厳密には「PDW」と言うジャンルの銃器にカテゴリされるが――P90。
デイパックの中には本体と共に説明書と、予備のマガジン五個が入っていた。
玩具などでは無い本物の銃が、今まで一般人として生き、実銃になど縁は無かったひでの手の中に有った。

「カッコ良い~」

しかし、ひでは銃に対して恐怖よりも興味と好奇心を大きく抱いていた。
文字通り「新しい玩具を与えられた子供」のように目を輝かせている。

ゴンッ

しかし、P90を眺めていたひでに水を差す者が現れる。
後頭部に衝撃を感じ、ひではP90を落として倒れ込んでしまう。
ひでの後ろには、右手にスパナを持った不細工顔の少年が立っていた。

「へっ、良い武器持ってんじゃねぇか。悪いけど貰うぜ」

少年――愛餓夫は薄ら笑いを浮かべながら、ひでの持っていたP90を拾い上げようとする。

「やめて!」
「!」

頭痛に苦しみながらも、ひでは自分の銃を取り返そうと餓夫の胴体にしがみつく。

「この、放しやがれ!」
「やーだ! やめてボクノ銃トラナイデ! トラナイデヨ!」
「うるせぇ!」
「痛い!」

ひでを振り払おうと蹴りを入れる餓夫だったが、その行動は逆効果をもたらした。

「痛いんだよォォォ!」

逆上しあらん限りの怒声を発しながら、ひでは渾身の力で餓夫を突き飛ばす。
その力はかなりの物で、餓夫は二メートル近く後方に吹き飛ばされ、プレス機の台座に身体を強打した。
その際にひでから奪ったP90を床に落としてしまう。

「うっ……がっ」

金属で造られた大型機械に身体を強かに打ち付ければ大抵の人間は無事では居られない。
餓夫もまた然り、身体の激痛に悶絶し、動く事が出来なかった。

「ああああああああああああああ!」

喚きながら、ひでは床に落ちていたP90を拾い上げ、銃口を餓夫に向ける。

「!? や、やめ」

餓夫は制止の声をあげたが、無情にもP90の引き金は引かれた。


ダダダダダダダダダダダッ!!


銃弾の雨が餓夫の身体を容赦無く貫き、餓夫はあっと言う間に血塗れの肉の塊に変えられてしまった。


【愛餓夫@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】

【残り  45人】



「ワーオ」

P90の威力を目の当たりにし、ひでは目を見張る。
人間が簡単に穴だらけになってしまった、とても凄い威力だ。
自分がとても大きな力を持ったようにひでには感じられた。それは錯覚以外の何物でも無いのだが彼が気付く筈も無い。
屍と化した餓夫を見下ろすひで。

「ヴォエ!」

濃密な血の臭いが鼻をつき、ひでは思わずえずいてしまう。
餓夫の身体中に空いた穴から漏れ出す血液の臭気が既に辺りに漂い始めていた。
だが、吐き気を催した以外は、ひでは「平然」と言っても良いぐらいの様子であった。
初めて殺人と言う行為を犯したのにも関わらず、彼の心の中には罪悪感や後ろめたさは殆ど無い。

「……この人が悪いんだ……僕の銃を取ろうとするから……」

そうだ、自分は悪くない。
悪いのはいきなり後ろから頭を殴ってきた上に自分の武器を奪おうとしたこの男だ。
自分は自分の身を守って武器を取り戻しただけ――だから、悪い事でも何でも無い、とひでは結論付ける。

「あ、そうだ……僕、このゲームでどうするか決めてないや」

今更ながら、ひでは殺し合いにおけるスタンスを考える。
そして程無く決定する――ゲームに乗り、優勝を目指す事を己のスタンスとした。
この殺し合いにはひでのクラスメイトも数人呼ばれていたが、
特別仲の良い者は居ない。むしろ、その内の一人、葛城蓮にはいつもいじめられていた。
この機会に日頃の恨みを晴らしても良いだろう、他のクラスメイトも、相対するのにはひでは全く躊躇いは無かった。
既に人を一人殺している。何にしても、自分はもう後戻りは出来ない。

ひでは自覚こそ無いにしろ、明らかな狂気に蝕まれながら、殺し合いに身を投じる。


【深夜/D-2工場生産ライン区画】
【ひで@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]後頭部に打撲、狂気
[装備]FN P90(24/50)@現実
[所持品]基本支給品一式、FN P90の弾倉(5)
[思考・行動]基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
       1:クラスメイトと会っても容赦しない。葛城蓮(虐待おじさん)に対しては特に。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。


◆◆◆


「おお、こりゃまた酷いな」

濃いグレーと白の毛皮を持った、痩せ気味の人狼の青年、コーディは全身に穴の空いた少年の死体を発見する。
工場内を彷徨いていた時に、機関銃か何かの銃声を聞き、恐る恐る様子を見に来た結果だ。
辺りには大量の空薬莢が散らばり、血の臭いに混じり硝煙の臭いも嗅ぎ取れた。
しかし、野生の人狼であり、命のやり取りには慣れているせいか、コーディはそれ以上少年の死体には興味は湧かなかった。

「こいつを殺した奴はもう居ないみたいだけど……何か持ってないかな」

少年の所持品を漁るコーディ。
そしてデイパックの中から、根元から千切られた電気コードを発見する。
強度と長さは有る為、拘束や首を絞めたりするのには使えそうだと、コーディはその電気コードを手に入れた。

コーディ自身も武器は一応持っている。
彼に支給されたステーキナイフ。
本来武器では無いが無いよりはましだと思いコーディは装備していた。
しかし、ステーキナイフと千切れたコードだけでは心許無い。
素手で戦う事も一応は出来るが、相手の武装次第ではそうもいかない。
それを考慮すれば武器の調達は急務であった。

コーディにとって、今回の殺し合いは二回目となる。
一度目の殺し合いでは彼はゲームに乗り、数人を殺害するも、最終的には落命した。
今回の殺し合いゲームでもコーディは、ルールに則り殺し合いをするつもりで居た。
前回は参加者の中に数人知人が居たが今回は一人も居ない、その分殺し合いもやり易いと言えた。

「工具でも漁ってみるか……」

コーディは武器になりそうな工具を探し始めた。


【深夜/D-2工場生産ライン区画】
【コーディ@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター】
[状態]健康
[装備]ステーキナイフ@自由奔放俺オリロワリピーター
[所持品]基本支給品一式、千切れた電気コード@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[思考・行動]基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
       1:武器になりそうな物を調達する。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※ひでの存在には気付いていません。



《支給品紹介》
【FN P90@現実】
FN社が1987年に開発した「Personal Defence Weapon」(略してPDW)と言う比較的新しいカテゴリに属する短機関銃。
貫通力、ストッピングパワーに優れた特殊弾薬を使用する。
自作ロワにおいて倉沢ほのかが愛用していたが、そのロワにおいてはなぜか200発と言う有り得ない装弾数だった。

【千切れた電気コード@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター】
何らかの大型家電から千切られた電源コード。強度と長さは有るため、使い道は有るかもしれない。
元ロワにおいてはフェリックス・クレイグに支給され、後に遠矢英教の手に渡り、古澤由樹を絞殺するのに使われた。

【ステーキナイフ@自由奔放俺オリロワリピーター】
ステーキを切り分けるのに使うナイフ。
元ロワにおいて浅井貴光に支給され、その後エマヌエルの手に渡ったが特に活躍の場は無かった。


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最終更新:2014年07月22日 23:59