17話 踊る狂狗! ガオガモン
大きな池の畔に造られたボート乗り場。
オール式のボートの他、スワンボートも繋留されている。
僅かに水音が響くのみで、辺りはとても静かだった。
「また殺し合いか……」
白の毛皮に黒目、青い瞳を持つ狼獣人の青年、フーゴは桟橋の上で機嫌の悪い表情を浮かべていた。
殺し合いに巻き込まれ、命を落とした、かと思えば、復活してまた殺し合いをさせられると言う、
理不尽この上ない展開に、苛立ちを隠せない。
「生き返ったってまた殺し合いの中じゃ何の意味も無ぇよ!
……取り敢えず支給品でも見るか」
最早起こってしまったものに幾ら文句を付けても仕方無いと観念し、
フーゴは桟橋の街灯の下に移動し、自分の支給品を確認する。
「何だこりゃ?」
出てきた物は小瓶に入った大量の錠剤。
ラベルには大きな文字で「流血」と書かれている。
おおよそ薬品の類には似つかわしくない物騒な言葉だ。
しかも、ラベルにはその言葉以外、効能も原材料も製造元も何も書かれていない。
少なくとも、まともな薬剤では無い事は察する事が出来た。
「訳の分かんねぇ薬だけかよ……前の時はサブマシンガンだったってのに」
以前の殺し合いでの支給品と比較して、今回の支給品の落差に不平を漏らすフーゴ。
そのフーゴの背後から忍び寄る大きな影が有った。
青と白の毛皮を持ち、背中から赤い二つの触手を生やした巨躯の犬。
「!」
気配に気付いたフーゴが後ろを振り向く。
街灯の明かりに照らされ、気配の元が良く視認出来た。
「何だお前……ん? お前、開催式の時、まひろに質問していた犬じゃねぇか?」
「ああ、そうだよ……なぁ、あんた」
「あ?」
「まひろは『優勝すれば生きて帰れる』って言ってたけど、本当だと思うか?」
唐突な犬の質問。
「……」
しばし考えた後、フーゴは返答した。
「さあな、俺に訊かれても困るよ……ただ『死者を生き返らせる』的な事も言ってただろ?
あれは本当だと思うぜ」
「どうしてそう思うんだ?」
「俺は一回死んでるんだよ」
「!?」
「言っとくが冗談でも何でも無いマジ話だ。
俺は別の殺し合いで、首と胸を撃たれて死んだ筈なんだよ。
でも今こうして生きている。傷も綺麗に消えている。
じゃあ誰が俺を生き返らせたのか……この殺し合いの主催者だろうな。
じゅんぺいが言っていた『主』とか言う奴が怪しいが……少なくとも、まひろとじゅんぺいでは無いだろ。
……信じる信じないはお前次第だけどな」
「……」
「あー、お前の質問にまともに答えてねぇなこりゃ、悪い」
「いや、十分だよ。ありがとう」
「?」
「まひろが言っていた事は信じても良さそうだ」
少しトーンを落とした声でそう言うや否や、犬は背中の触手でフーゴに掴みかかった。
突然の事に、フーゴは避ける事も出来ずあっさりと捕らえられてしまう。
大きな触手の手はフーゴの首をがっちりと掴み、その身体を持ち上げた。
「グッ、ガァ……!」
苦しげな呻き声を発しながら、犬の触手から逃れようともがくフーゴ。
だが、触手はびくともせず、首を締め上げる力は更に強くなっていく。
息が出来ないだけで無く、首の骨が軋む音も響き始め、耐え難い苦痛がフーゴを襲う。
「俺は決めたよ……優勝して生きて帰る。
こんな所で死にたくない、もっと生きていたいからさ……。
死人を蘇らせられるのが本当なら、優勝すれば帰れるってのもきっと本当だよ」
「な、何だその、超理論は」
死人を蘇らせられるのが本当だとしても、優勝者を生きて帰すのが本当だとは限らないと、
フーゴは言おうとしたが、犬が触手に込める力を更に強くして、それは叶わなかった。
「あぐ、ァ……!」
「希望が見い出せたよ。ありがとう、ええと……白い狼さん。そして――――」
「や、め……!!」
「さようなら」
ゴキッ
鈍い音が響き、もがいていたフーゴの身体がビクンと大きく震えた直後、糸の切れた操り人形のように脱力した。
バシャアン!!
屍と化した白狼獣人の青年を池に放り捨てる犬――ガオガモン。
フーゴのデイパックを漁って、錠剤の詰まった「流血」と書かれた瓶を取り、自分のデイパックに押し込む。
「優勝してやる、死にたくない、死にたくないからね……! 絶対、絶対に優勝してやる」
薄ら笑いを浮かべながら語るガオガモンの双眸はとても正気のそれとは思えぬ程にぎらつき、
口の端からは涎も垂れ落ち糸を引いている。
彼の心は、彼自身も気付かぬ内に、狂気に蝕まれていた。
……
……
気付くべきだった。
最初にあの犬が質問をしてきた時点で、その質問の内容から犬の意図を読み取れる筈だった。
俺とした事が、完全に油断していた。
折角生き返れたのに、また殺し合いをさせられて。
折角生き返れたのに、また、殺される。
俺が生き返った意味は一体何だったんだ。
俺は何の為に再び命を与えられたんだ。
いや、死ぬのは俺の不注意のせいか。
ははっ、全く、情けなくて、笑っちゃうぜ――――。
【フーゴ@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター 死亡】
【残り 44人】
【深夜/B-4ボート乗り場】
【ガオガモン@ゲーム/デジタルモンスターシリーズ】
[状態]狂気
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???、流血@漫画/浦安鉄筋家族
[思考・行動]基本:殺し合いに乗って優勝を目指す。
[備考]※狂気に侵されています。まともな思考が難しくなっています。
《支給品紹介》
【流血@漫画/浦安鉄筋家族】
重度の肩コリに悩む菊池あかねに頼まれ「世紀末薬局 天国堂」という名の怪しい薬局で土井津仁が購入した薬。
天国堂の店主(死にかけの老人)曰く、
「火星から持ち帰った黄色い砂と中国の伝説の秘獣豚猿の脳ミソを調合した特効薬」らしい。
「劇薬なので一日一錠で充分」と店主が警告していた通りその効能は凄まじく、
誤って一気に一瓶分服用してしまったあかねは極度の興奮状態に陥った上、
身体中の血管という血管が破れ大流血するという惨事に発展してしまった。
最終更新:2014年09月02日 04:41