44話 Paradise is Nowhere(後編)
レジャー施設一階に有るボーリング場。
銀鏖院水晶は、カウンターの陰に隠れていた。
何故隠れているのか、それはひとえに襲撃を受け、追われていた為である。
(何なのよあの犬の化物は……!)
レジャー施設を訪れた水晶は、探索中に巨大な犬に襲われた。
その犬は青と白の毛皮を持ち、背中から赤い二対の触手が生えていた。
獣人が存在する世界に生きる水晶でも見た事の無い動物である。
言葉を発していたので意思疎通は可能のようだったが、こちらの話を聞いてくれそうな雰囲気では無いように見えた。
「どこに居るんだ……出てこいよ!」
その犬――ガオガモンが水晶を追ってボーリング場に入ってくる。
目は充血し涎を垂らすその様は誰が見ても正気とは思えない。
実際彼は既に錯乱しており、目に映る者全てを敵として認識し、排除せんと動いていた。
ボート乗り場で白い狼の男を惨殺した後にレジャー施設を訪れ、しばらく徘徊した後に同じくレジャー施設を訪れた水晶を発見した。
そして襲い掛かり今に至る。
(このままじゃまずい、ハッキリ分かるわね)
何か打開策を講じなければ、確実にあの犬に殺される。
しかし、水晶が今持っている武器は鉄パイプ一本のみ、これだけであの犬を倒せるような実力は水晶には無かった。
まともに向かって行っても勝ち目はゼロに等しい。
(仕方無い、能力を使おう)
水晶は自分の超能力を使う事にした。
彼女は物体を内側から握り潰すサイコキネシスと、透視能力を使う事が出来たが、
身体(胸の事では無い)や技量が未熟であった為、能力を行使すると肉体に相応の負担が掛かった。
それ故、以前の殺し合いでも同様だったが、可能な限り行使するのは避ける方向で動いていた。
しかし今はそうも言っていられない。
水晶はカウンターの向こうを透視し始める。
自分の事を探す巨大な犬の姿がはっきりと確認出来た。
意識を集中させ、額に汗を滲ませながら、犬を倒せそうな手段を探す水晶。
一方のガオガモンは水晶がそのような事をしているとは露知らず涎を垂らしながらその姿を探していた。
「どこだー」
(何か、何か無いの……あっ)
水晶が注目したのは、天井に設置された大型モニター。
ボーリングのスコア等を表示する為の物だ。
かなりの大きさで重量も相当有りそうだがあれがもし頭上に落ちればあの犬も無事では済まないであろう。
(よし)
水晶は更に意識を集中させ、モニターと天井を繋ぐパイプ部分に向けてサイコキネシスを発動させる。
同時に二つの超能力を発動させ、水晶の肉体に掛かる負担は想像を絶する物となっていた。
汗が溢れ、疲労と動機、身体中の痛みが水晶を襲う。
しかし、やめる訳には行かない。
そして、ついにガオガモンの頭上のモニターの取り付け部分が悲鳴を上げ始めた。
メキッ、バキッ
「ん? 何の音だ?」
頭上から響いた音に、ガオガモンは上を見上げる。
そこには巨大なモニターが存在していた。
バキッ!!
一際大きな音を立てて、モニターがガオガモン目掛けて落下する。
金属の塊と言っても差し支え無い、かなりの重量を誇る大きなモニターは、
容赦無くガオガモンの上半身を押し潰す。
「ガッ! があああぁああっ、ああ」
即死は免れたものの、頭部を含む上半身を圧迫され、呼吸がまともに出来ず苦しみもがくガオガモン。
その隙を突いて、水晶はカウンターの陰から飛び出しガオガモンの脇を駆け抜け逃走する。
「このおおぉお!! 待てえぇええガハッ!」
モニタをどけようと四苦八苦しながら水晶に向かって怒声を放つガオガモン。
(この施設から離れよう……!)
能力行使による負担で身体の疲労や痛みを感じていたが、それらを我慢し水晶は必死に走る。
あの巨犬が再び行動を始めるまでにそう時間は掛かるまい。
手負いとなった獣は凶暴になると言うが恐らくあの犬もその例に漏れないだろう。
今度向かってこられたらもう立ち向かう術が無い。
無様かもしれないが、建設現場の時のように撤退すべきだと水晶は判断した。
エントランスホールまで戻ってきたその時。
「ん? ねえちょっと……」
「!」
後ろから声を掛けられ、思わず水晶は立ち止まって振り返った。
二階への階段に、自分とは違う学校の制服を着た犬か狼族の獣人の少女と、
ゴーグル或いはサングラスを掛けた、色黒で上半身に比べ下半身が貧弱そうに見える人間の男の姿が見えた。
「……アアアァアアアアアアアアーーー!!!」
ほぼ同時に、空気を揺るがすような咆哮がボーリング場の方から響いてくる。
階段の二人は何事かと驚いている様子だったが、水晶にはその咆哮の主が分かっていた。
あの二人に構っている暇は無い。水晶は踵を返しレジャー施設玄関口へと走った。
「おい!」
男の方が呼び止めようとしたが、水晶は無視してそのまま玄関を潜って走り去った。
◆◆◆
「行っちまった……そういや今の何だ? 獣の雄叫びに聞こえたぞ」
「一階の、どこかから聞こえてきたっぽいけど」
巴とKBTITが雄叫びの出処を探ろうとしたその時。
逃げて行った銀髪の少女が出てきた通路から今度は青と白の毛皮を持ち背中から赤い触手の生えた巨躯の犬が飛び出してきた。
頭部から血を流し、とても興奮しているようだった。
モニタをどかし、怒りの雄叫びを上げ、犬――――ガオガモンは逃げて行った少女を始末しようと追撃してきたのだ。
もっとも、モニタが落下したのが少女の超能力による物だとは彼は知らなかったのだが。
「フゥー……フゥー……! どこだ!! 銀髪女!! 出てきやがれ!!」
怒りで完全に忘我状態となり少女の姿を求め怒鳴り散らすガオガモン。
「何だあの犬!? あんなデケェ犬見た事無ぇぜ」
「私も背中から触手の生えた犬は初めて見るなぁ。あっ、さっきの咆哮はあの犬かな?」
「あぁ!? 何だお前ら!」
巴とKBTITに気付き、ガオガモンが二人を睨む。
血塗れで牙を剥き出し眉間に皺を寄せながら睨めつけるその様は正に凶獣。
「お前ら、銀髪の人間の女を見なかったか……?」
「銀髪のぉ? ……さっき玄関から逃げてったあいつの事か?
って言うかお前、頭から血が出てんぞ大丈夫か?」
「クソォ! ……まあいいか……」
ガオガモンは巴とKBTITの方を見ながらニヤリと嗤う。
その表情から、二人は彼の明確な殺意を感じ取り、身構えた。
「いきなりモニターが頭の上に落ちてきて、血がどばどば出て、追い掛けていた女にも逃げられて、
とってもムシャクシャしているんだよ……憂さ晴らしさせてくれよぉ!!」
理不尽な理由を並べた後、ガオガモンは階段の二人に向かって突進した。
巴は持っていたウィンチェスターM1912散弾銃を構え、引き金を引いた。
ダァン!!
「……ウヴウウアアァアアァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
12ゲージの散弾はガオガモンの右前足を吹き飛ばした。
激痛に悲鳴を上げてのたうち回るガオガモン。
「タクヤさん、アイツは殺しちゃっても良いかな?」
「流石にあんな奴に向かってこられたらキッツイぜ……お前に任せる」
「分 か っ た」
止めを刺すべく巴はフォアエンドを操作し空薬莢を排出、次弾を装填しつつガオガモンへと近付く。
「あっ、ああ……く、来るな……来るなっ」
ダァン!!
「アアアァアアァア!!?」
背中の触手の左手側を散弾によって千切り飛ばされる。
最早この時点でガオガモンの戦意は完全に消え失せてしまっていた。
それと同時に狂乱していた精神状態も正常近くまで戻ったが、戻るタイミングが余りにも悪かったとしか言いようが無い。
迫り来る巴に恐怖を感じ、ガクガクと身を震わせ、耳を伏せ、涙を流し、失禁までしていた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさい! ごべんなざいぃい!
死にたくなかったんだ! 怖かっただけなんだ! 生き残りたかっただけなんだよぉお!」
「ふーん、で?」
「すみません!! 許して下さい!! 何でもしますからぁっ!!」
「……ん? 今何でもするって言ったよね?」
巴が聞き返す。
その様子に望みが出来たと思ったのかガオガモンが食い下がる。
「する! するよ!! 何でもするよぉ!! だから、だからあっ」
「そっかーじゃあ……死のうか」
ダァン!!
望みなど最初から無かった。
散弾によって上顎から上をミンチにされ、ガオガモンは死んだ。
【ガオガモン@ゲーム/デジタルモンスターシリーズ 死亡】
【残り 33人】
「えげつ無ぇなお前……」
やや引き気味でKBTITが巴に言う。
自分の人の事は余り言えた立場では無いが、
平然と散弾銃で人の(この場合は犬だが)頭を吹き飛ばせる巴を少々畏怖していた。
「まぁそれ程でも……コイツ何か持ってないかな」
ガオガモンの持っていたデイパックを漁る巴。
「おっ、これは良さげなのが」
「何だ?」
「ほら、見なよ見なよ、ほら」
巴がKBTITに見せた物は短機関銃。
予備の弾倉も五個セットでデイパックの中に入っていたようだ。
本体にセロテープで貼り付けられていた説明書によれば「ニューナンブM66短機関銃」と言う名前らしい。
「タクヤさんの支給品ってボディーブレードだったよね」
「ああ、役に立たないと思って捨てちまったけど……」
「これ使いなよ。私はショットガンが有るからさ」
「ありがとナス!」
KBTITは巴からニューナンブM66短機関銃と予備弾倉五個を受け取った。
その後、当初の予定通り、玄関を潜ってレジャー施設を後にした。
【早朝/B-3レジャー施設】
【
原小宮巴@オリキャラ/
俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター】
[状態]健康
[装備]ウィンチェスターM1912(3/6)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(12)、警棒@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
1:KBTIT(拓也)と行動。レジャー施設から移動する。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※KBTITを同じ世界の人間だと思っています。
※金子翼、銀鏖院水晶の外見のみ記憶しました。
【KBTIT@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康
[装備]ニューナンブM66短機関銃(30/30)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ニューナンブM66短機関銃の弾倉(5)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
1:巴と行動。レジャー施設から移動する。
2:クラスメイトを探す。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
※動画準拠なので中学生であり、平野源五郎とは面識が無い設定です。
※支給品はボディーブレード@アニメ/クレヨンしんちゃんでしたが放棄しました。
※金子翼、銀鏖院水晶の外見のみ記憶しました。
◆◆◆
金子翼は施設外壁の非常階段を降りて外に出た後、同じく非常階段が設置された岸壁を降りる。
途中、施設の方から獣の咆哮や銃声らしき音が聞こえた。
(中で誰かが戦ってるのかな……あの犬みたいな顔の人やサングラスの色黒のおじさんかな?
まあ、気にする必要は無いかな……)
もしかしたら戦っているのが自分が優勝させようとしている大沢木小鉄である可能性も考えられたが、
あの施設内を一通り回ってみて小鉄の姿は見当たらなかったので恐らくそれは無いだろうと、
翼は自分に言い聞かせる。万一と言う場合も有るがそんな事を考えていてはきりが無い。
やがて翼は市街地へと辿り着き、適当な家に侵入して休息を取り始めた。
サイドボードの上に置かれた時計に目をやれば、第一回目の定刻放送の時間である午前六時が、
かなり近付いてきている事が分かった。
「もうすぐ六時……六時になれば放送が有る……小鉄っちゃんは今どうしてるんだろう」
前述したように、翼は小鉄を優勝させ生きて帰らせるべく殺し合いに乗っている。
現在、二人の参加者(内訳は犬一匹、人間一人)の命を奪っているが、
もし、放送で小鉄の名前が呼ばれたら? その時、自分はどうする?
翼は、考えたくはなかったが、考える。
(もし、小鉄っちゃんが死んじゃってたら……そんな簡単に死ぬとは思えないけど……。
その時は……僕も死のう)
翼は本気でそう考えた。
小鉄の事が大好きだった翼は小鉄の為ならどんな努力も惜しまない。
カンニングさせる為に猛勉強をして成績を上げたり、
クリスマスプレゼントとして小鉄が好意を寄せる菊池あかねのハーモニカを盗んだり、
火災の恐ろしさを教える為に図らずもではあるが小鉄の家を燃やしたり。
全て小鉄が好きが故の行動なのだが当の小鉄からは常軌を逸した行動にドン引きされる事も多々有った。
彼にとっては大沢木小鉄と言う人間は、生きる理由そのもの。
だから、小鉄が居なくなるのなら、生きる理由も無くなるのだから、死ぬのも当然の事。
それ以前に優勝させると言う事は自分も死ぬと言う事になるが、
小鉄が死ねば自分も死ぬと思っているように、小鉄の為なら自害も厭わない。
金子翼とはそう言う人間である。
【早朝/B-2市街地木村家】
【金子翼@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康
[装備]ピッケル@現実
[所持品]基本支給品一式、大沢木小鉄のリコーダー@漫画/浦安鉄筋家族
[思考・行動]基本:小鉄っちゃんを優勝させる為に皆殺しにする。自分は自害する。
1:小鉄っちゃんは生きているかな……。
2:小鉄っちゃんには会いたくない。
[備考]※元祖! にて小鉄達と仲良くなった後からの参戦です。
※原小宮巴、KBTITの外見のみ記憶しました。
◆◆◆
A-3エリアの崖下。銀鏖院水晶は岸壁に背をもたれて乱れた呼吸を整えていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
超能力の行使と、散々走ってきた事で、水晶の疲労はかなりの物となっていた。
放送の時刻も迫っている事も有り、どこか休める場所を確保する必要が有るだろう。
ふと前方を見れば小規模の住宅地が有るのが見える。
「あそこで、休もう……」
棒のようになりつつある足に鞭打ちながら、水晶は住宅地を目指す。
【早朝/A-3崖下付近】
【銀鏖院水晶@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]疲労(大)
[装備]鉄パイプ(調達品)
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:優勝し「愚民と自分は違う」事を証明する。
1:住宅地で休める場所を探す。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※野原一家の名前を記憶しています。
※能力には特に制限は無いようです。
※原小宮巴、KBTITの容姿のみ記憶しました。
《支給品紹介》
【ボディーブレード@アニメ/クレヨンしんちゃん】
しなる棒状の筋トレ器具の一種。中央のグリップを握って前後或いは左右に振って使う。
「アッパレ! 戦国大合戦」において野原ひろしがこれを使い敵総大将大蔵井高虎の顔面に強烈な一撃を食らわせた。
【ニューナンブM66短機関銃@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター】
新中央工業(現ミネベア社大森製作所)において試作された短機関銃。
「短機関銃」の名を冠する唯一の国産銃器だが試作のみに留まった。9mmパラベラム弾を使用する。
元ロワにおいて滝口信方に支給されその後久木山忠則に渡るが一度も発砲する事無く役目を終えた。
最終更新:2014年10月20日 02:09