67話 咲いて咲かせて眩しいくらいに、きっと笑えるから

獲物を探し、人狼コーディは市街地を歩く。
先刻殺害したガーゴイル獣人から奪取した突撃銃を持ちながら、人っ子一人見当たらない静かな通りを歩いていた。

(お? 近くに居るか?)

コーディの耳が、足音らしき物を聞き取り、ピクピク動く。
足音は複数居るようだった。
今持っている56式突撃歩槍ならば、乱射すれば一気に仕留められるかもしれないが、
相手の力量や武装によっては、こちらが必勝という訳では無くなる。

(隠れるか)

すぐ近くの民家の敷地へ入り、塀の裏に身を潜めるコーディ。
その塀には鉄柵の部分が有り、そこからコーディは十数メートル奥の曲がり角を監視する。
やがて、曲がり角から三人の参加者が現れた。

「狙えるかな?」

鉄柵の隙間から、コーディは三人に向けて突撃銃の照準を合わせ始めた。


◆◆◆


食事を済ませ、遠野、稲葉憲悦、フラウの三人は身を潜めていた民家を出発し、市街地を歩いていた。
主な目的は、遠野とフラウのクラスメイト、憲悦の知人柏木寛子、殺し合いに乗っていない参加者の捜索である。

「たまに、風に乗ってどこかから銃声らしい物が聞こえてくる以外は、とても静かですね……」
「そうね……」
「……っ」

曲がり角を曲がった辺りで、憲悦の鼻が何かを捉える。

「どうしました? 稲葉さん、少々足が止まってるようですが……」
「何か臭うな」
「えっ、僕は屁こいたりしてませんよ!」
「私もよ!」
「ちげぇよ! そういう臭いじゃねぇよ……獣の臭いだ、俺と同じ人狼族の臭いがする」

憲悦が嗅ぎ取ったのは、彼の同族の臭い。
決して屁とかそういう臭いなどでは無い。
つまり近くに憲悦と同じ人狼種が潜んでいる事を示していた。

「どの辺りに居るのか、分かる?」

フラウが憲悦に訊く。
目と鼻で、憲悦は臭いの元を探る。
そして目を付けたのは、自分達から見て斜め右上、つまり東北方向に有る民家。
厳密にはその民家の塀の辺り。

「!」

塀の鉄柵越しに自分達に銃らしき物を向ける、灰色の人狼の姿をはっきりと確認した。

ダダダダダダダダッ!!

市街地に銃声が響いた。

「あっ……」

遠野が呻く。
目の前で、憲悦の右上腕が抉れ、フラウが血を噴き出しながら奇妙なダンスを踊った直後、仰向けに倒れたのだから。

「隠れろ!」

呆然としていた遠野を、憲悦が引っ張って、二人は曲がり角の陰に隠れた。
右上腕を銃撃で大きく抉られた憲悦が痛みに顔を歪ませる。
フラウは仰向けに倒れ、血溜りを作ってもう動かない。生きているようには見えなかった。

「フラウさん、何て事だ……」
「俺の心配もしてくれや遠野」
「だ、大丈夫ですか」
「やられちまったぜ……畜生、痛ぇ……向こうは俺らを殺る気満々みてぇだな……お前は怪我は無ぇか、遠野?」
「僕は大丈夫です……」
「どうする、逃げるか?」

傷口を押さえながら憲悦が遠野に提言する。
相手は連射可能な銃を持っている。しかしこちらの銃は遠野のKar98Kライフル、フラウのデザートイーグル、
どちらも高威力ながら単発式。
近い距離だと相手の持つ連射式の銃の方が優勢だ。
一人がやられ一人が負傷、遠野も銃の扱いには慣れていない、ここは逃げた方が良いと憲悦は遠野に言うが。

「追ってこられたら面倒です、あいつは……僕がやります」

遠野から返ってきた返事は意外な物だった。

「お前、大丈夫なのか?」
「行きますよ」

決意の表情を浮かべ、Kar98Kを携えた遠野が、反撃のタイミングを窺い始める。

「……こっちから見て東北の方向の家だ」

憲悦が相手の大まかな位置を遠野に知らせる。
逃げる事も出来る、しかし遠野はそうしなかった。
図書館にて、クラスメイトのひでに殺されかけながらも逃げおおせた後、憲悦から「覚悟が足りない」といった事を言われた。

確かに、自分は心中ではクラスメイトは愚か、誰とも戦いたくない、傷付けたくない、殺したくないと思っていた節が有った。
それは普通の、人間として当たり前の感情なのかもしれない。
だが、この殺し合いと言う状況下では、そのような考えに固執していては、
自分の命や、自分と行動を共にする仲間の事を守れないのだ。
クラスメイトの事をいくら思っていても、そのクラスメイトに殺されてしまったのでは無意味。
自分や仲間の命、そしてクラスメイトを大切に思うならば、戦う覚悟をしなければならない――憲悦はその事を言ったのだろうと、
遠野は結論付けた。尤も、本人がそこまで考えて言っていたかどうかは不明だが。

ダダダダダッ!!

「くっ……!」

様子を見ようと角から顔を出した直後に銃撃され、顔を引っ込める遠野。
幸い弾が当たる事は無かった。
そして憲悦の言う通り、東北方向の民家、その鉄柵の塀越しに銃を向ける人狼の姿を捉えた。

「狙えるか?」
「やらなきゃならないでしょう」
「頼む」
「はい」

出来るとは言っていない、いや、言えない。
自分は銃の扱い、ましてや狙撃に長けている訳では無いのだから。
だが、やるしか無い事も遠野は分かっている。

「よし……!」

意を決し、遠野が再び顔を角から少し出す。

ダダダダダダッ!!

わざと銃撃させ、銃撃が途切れたその瞬間、角から飛び出し、Kar98Kを構えた。
サイトの先に人狼の姿を捕捉し、引き金を引くまで、一秒掛かるか掛からないかと言う早さ。

ダァン!!

7.92ミリの強力な小銃弾が、Kar98Kの銃口から発砲煙と共に放たれ、空気を切り裂き、真っ直ぐに人狼へと飛んで行った。

「グウッ!!」

人狼の悲鳴が聞こえた。
仕留めるまでには至らなかったものの、人狼の左頬を銃弾が掠め肉が弾け飛ぶ重傷を負わせる事に成功する。
人狼は怯んだのか、遠野に背を向け、民家と塀の隙間から奥の方へと逃げて行った。
しばらくKar98Kを構えていた遠野だったがそれっきり人狼は姿を現さなかった。

(撃退出来たか……)

一先ず安堵する遠野。
危機が去った事を察したのか、憲悦も曲がり角から通りに出る。
撃たれた右上腕を左手で押さえている様が中々に痛々しい。

「フラウさん……」

危機を凌いだものの、二人の前には残酷な現実が残された。
ついさっきまでこの殺し合いから脱出しようと共に行動していた狐の少女は、
今や身体のあちこちに酷い穴を開けた物言わぬ屍と化していた。
以前の殺し合いにて命を落とし、何かの因果で蘇生したと言うのに、彼女は再び殺し合いにて命を落とした。

「また俺達二人だけになっちまったな……折角仲間出来たってのに、クソッ、あの野郎……」
「……」

自分達を襲い、自分を負傷させフラウを死に至らしめた人狼に対して憲悦は悪態をつき、
遠野はフラウの開いたままの目をそっと閉じさせた。


【フラウ@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】

【残り  25人】



【午前/D-4市街地】
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]悲しみ
[装備]モーゼルKar98k(4/5)@現実
[所持品]基本支給品一式、7.92mmモーゼル弾(10)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:フラウさん……。
        2:稲葉さんと行動。先輩やクラスメイトを探す。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。
    ※ひでを危険人物と認定しました。
    ※稲葉憲悦、フラウが「リピーター」である事を知りました。
    ※フラウのクラスメイトの情報を当人より得ています。
    ※春巻龍の特徴をフラウより聞きました。
    ※コーディの外見のみ記憶しました。但し正確ではありません。

【稲葉憲悦@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]右上腕に貫通銃創
[装備]自動車用緊急脱出ハンマー@現実
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:積極的に殺し合う気は無い。寛子を探す。
        1:フラウ……。
        2:遠野と行動。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。
    ※ひでを危険人物と認定しました。
    ※フラウが自分と同じ「リピーター」である事を知りました。
    ※遠野、フラウのクラスメイトの情報を当人達より得ています。
    ※春巻龍の特徴をフラウより聞きました。
    ※コーディの外見のみ記憶しました。但し正確ではありません。


◆◆◆


「くそっ……痛ぇ……あんの糞人間……!」

裏路地をよろよろと歩きながら、左頬に酷い傷を負った人狼コーディが悪態をつく。
やはり一気に仕留められると考えたのは甘かった。
ライフル弾が掠めた左頬は肉が弾けてさながらイチゴジャムやミートソースを塗りたくったような有様となってしまっている。
どこかで手当する必要が有る、そう思ったコーディは適当な民家の裏口を開けてその中に入った。

「あ~もうお腹空いちゃったよ」
「!」
「やだ! ねえちょっとやだ、おじさん誰!?」

奥から現れた少年なのか大人なのか今一判断がつかない男と鉢合わせになる。

「……坊や、ちょっと助けてくれないかな?」

少年(取り敢えずそういう事にしておく)に向かって、コーディは敵意が無いように装って話しかけた。
良く見れば少年は頭と右肩に傷を負っているが包帯を巻くなど手当した形跡が見られる。
つまりここには手当出来る道具が有るとコーディは踏んだ。

「な、何?」
「おじさん、怪我しちゃってさ……何か、手当出来る道具、持ってきて欲しいんだ」
「……」

少年はしばし間を置いてから、承諾した。

「分かった! ちょっと待っててねおじさん」
「頼む……」

台所から出ていく少年を見送り、取り敢えず自分の言う事を信じたようだとコーディは思った。

(あいつに手当の道具を持ってこさせて……一通り処置出来たらその後は……)

今後の行動についてコーディが考えていた時。

「持ってきたよ」

思ったよりも早く少年が戻ってきた。

「あれ? 随分早かったな……て!?」

コーディが絶句する。
少年が持ってきたのは医療道具でも何でも無い、黒く光る大きな銃だった。

「おい、お前!?」
「じゃあ僕が手当してあげるよ。大丈夫、一瞬だよ? 死んじゃえば楽になるよ」

白い歯と歯茎が良く見える程に口元を歪ませ、大きく目を見開き笑うその様は正に悪魔そのものだった。
コーディは自分の浅はかさを呪った。
手当の事ばかり考えていてこの少年が殺し合いに乗っているかどうかを計算に入れていなかった。

「よせ、やめ――――」

ダダダダダダダダダダダッ!!

制止の声も虚しく、少年の持つFNP90の銃口から無数の5.7ミリ銃弾が放たれ、
コーディと背後の棚や壁を穿った。
左頬のみならず全身を真っ赤に染めた人狼の青年は壁にもたれ、べっとりと血の跡を作りながら崩れ落ちる。

(俺と、した事、が……油断、し、た……)

薄れゆく意識の中、コーディは後悔し続けた。


【コーディ@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター  死亡】

【残り  24人】



◆◆◆


改めて、ひでは自分の持つP90の威力に見惚れる。
自分より強そうな二足歩行の狼もあっさり殺す事が出来るのだから本当に凄いと思った。

(でも、びっくりしたなぁもう。ちょっとお腹空いたから、台所に何か無いかと思って来てみたら)

多少は傷の痛みも薄らいできたひでは、空腹を感じ、しかし基本支給品の食料は味気無かったので台所に何か無いか探しに来た。
その時に裏口から侵入してきたらしい、人狼の男と遭遇した。
人狼は頬に酷い傷を負っていて、手当出来る道具をひでに所望した。
ひでは快諾し、彼に処置を施した――――永遠の安息を与えてあげると言う処置を。

「あっ、この狼さんも銃持ってる~貰っとこ~」

人狼が持っていた突撃銃、更にデイパックを漁り突撃銃の予備マガジンとサーベルを手に入れる。
他にバールやステーキナイフも有ったが、前述の二つと比べれば見劣りするのでひでは拾わなかった。

「そろそろ行こうかな」

傷の痛みも和らぎ、新しい武器も手に入れられ、それに今の銃声で誰か来るかもしれない。
そろそろ移動する頃合だろう――ひではそう考え、出発の準備を始めた。


【午前/D-4市街地五木家】
【ひで@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]後頭部に打撲、背中に軽い打撲、額に傷(応急処置済、止血)、右肩に盲管銃創(応急処置済、止血)
[装備]FN P90(38/50)@現実
[所持品]基本支給品一式、FN P90の弾倉(4)、56式自動歩槍(25/30)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター、
     56式自動歩槍の弾倉(4)、 サーベル@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
       1:クラスメイトと会っても容赦しない。葛城蓮(虐待おじさん)に対しては特に。
       2:そろそろ移動する。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※稲葉憲悦、柏木寛子の容姿のみ記憶しました。


前:Sacrifice Of The Vision 目次順 次:Tomorrow

前:行き着く運命の最終形 コーディ GAME OVER
前:かさなる影 遠野 次:SYOKUSYU CHUIHOU Ⅳ(前編)
前:かさなる影 稲葉憲悦 次:SYOKUSYU CHUIHOU Ⅳ(前編)
前:かさなる影 フラウ GAME OVER
前:かさなる影 ひで 次:SYOKUSYU CHUIHOU Ⅳ(前編)
最終更新:2014年12月01日 22:08