68話 Tomorrow
MUR、貝町ト子、鈴木フグオの拠るD-5イベントホールは、今の所平和であった。
見張りをMURに任せ、ト子は入手した首輪を解析する。
フグオは横でト子の作業を見ていたり、どこからか持ってきた雑誌を読んだりしていた。
(ううん……これは難解だな)
機械類に強いと自負するト子でも、首輪の内部を理解するのは至難であった。
精密、かつ高度な技術と部品が使われている。
一般でも手に入る部品も多く使われてはいるが、全く出所不明の、言わばオーバーテクノロジーと言っても良い物も多い。
死者の蘇生や四次元構造のデイパック等、主催者の技術力の高さを示す物は既に数多く出てきてはいたが。
(これは……)
分解した首輪の部品達の中で、ト子はある物に注目する。
小さなマイクのような物。
首輪からの警告音を発する物とも考えられたが、ト子は別の可能性を考えた。
即ち「盗聴」。
このマイクが盗聴器で、参加者間の会話は運営側に筒抜けになっている――――その可能性は否定出来ない。
(もしそうなら、私が首輪を外そうとしている事も知られてしまっているかもしれないな……)
もっと早く気付いていればとト子は思ったが今更どうしようも無い。
とにかくこれからは首輪の事に関しては出来るだけ口に出さないよう務める他無さそうだ。
そうト子が考えていると、フグオが話し掛けてきた。
「何か分かったキャプ?」
「んーそうだなあ……」
誤魔化しながらト子は傍に置いてあったノートとボールペンを手に取って一文を書き、それをフグオに見せる。
〈フグオ、ペンとノートを出せ〉
「……??」
〈いいから、言うとおりにしてくれ〉
一体何事かとフグオは思ったが、言われた通りに自分のデイパックからノートとボールペンを取り出す。
〈これからしばらくノートに文章を書いて話そう。理由は後でせつめいする〉
要するに筆談。
小学校低学年であるフグオにも分かりやすいよう、漢字を平仮名にしたり難しい言い回しは避けたりしながら、ト子はペンを走らせた。
〈かんたんに言うとな、このくびわから、私たちの話が、しゅさいしゃ(この殺し合いをひらいている人たち)たちに、
ぜんぶ聞かれているかもしれないんだ〉
〈本当?〉
驚いた表情を浮かべるフグオ。
思わず声が出そうになったが慌てて飲み込んだ。
〈くびわの中にしかけがあって、そこから聞かれているかもしれない。
ただ、聞かれていないかもしれない、そこはちょっと、はんだんに迷っている。
でも、聞かれているかのうせいは高い。
ばれるとまずいから、これからくびわのことは、こうやって文章でかいて話ししよう〉
フグオも盗聴の可能性が有る故に筆談の必要が有る事は理解出来たようで「わかった」とノートに書いてト子に見せた。
「……ええと、MURさんは」
MURにもこの事を伝えようと、ト子はMURの元へ向かおうとした。
しかしその時、ホールの扉が開き、MURが現れた。
「MURさん! どうしたんだ?」
「見張っていたらこの人達がやって来たゾ」
そう言ってMURはホールに二人の参加者を通した。
人間の男性と、黒猫の獣人の少年。
黒猫少年の方は、ト子は見覚えが有った。
「ラト? ラトじゃないか」
「貝町さん、久しぶりだね……」
「二人共殺し合う気は無いそうだ。信じて良いんだなゾ? 野原さん」
「ああ」
「野原……あんたは、もしかして野原ひろしさんか」
「そうだ」
ラトと一緒に居た男は、見せしめで殺された赤子、野原ひまわりと第一回放送で名前を呼ばれた野原しんのすけの父、
そしてシロの飼い主である野原ひろしであった。
◆◆◆
墓場を出発し、全焼した時計塔を通り過ぎて、
イベントホールを訪れた野原ひろしとラトは、出入口付近で見張りに立っていた青年を見付け、接触した。
最初は警戒していた青年だったが、二人が殺し合いに乗っていない旨を説明すると程無く警戒を解いてくれた。
「ラト……君がラト君か? じゃあ、ト子ちゃんのクラスメイトかゾ?」
「何故それを」
「ト子ちゃんは今俺ともう一人と一緒に行動していて、ト子ちゃんからクラスメイトの話は聞いているんだゾ」
「中に貝町さんが居るんですか?」
「居るゾ。案内するゾ」
MURに連れられ二人はイベントホールの中に通される。
すると確かに小さ目のホールの中に、ラトのクラスメイト、貝町ト子ともう一人、太った小学生くらいの少年が居た。
「ラト? ラトじゃないか」
「貝町さん、久しぶりだね……」
ラトにとって、貝町ト子は以前の殺し合い及び自分の死の遠因となった存在であり彼自身もそれは察していた。
自分の姿を見た時、ト子はやや表情を曇らせていたから、彼女もその自覚は有るのだろう。
ただそれらの事についてラトはト子を問い詰める気は全く無い。
今更そのような事をしても意味は無いし、彼女のみが悪い訳でも無い事、それもラトは分かっていた故。
「MUR、俺の妻……野原みさえを見ていないか」
「いや、見ていないゾ……」
自分の妻の事をMURに尋ねるひろしだったが色好い返事は聞けなかった。
念の為、彼に同行しているト子や鈴木フグオにも聞くが同様の返答。
ここでも妻に関する手掛かりは得られずひろしは肩を落とす。
「すまない野原さん、力になれなくて」
「いや良いんだMUR、気にしないでくれ」
口ではそう言うものの、ひろしは内心焦っていた。
今も妻みさえが生きているのかどうか分からない。
放送で息子と飼い犬の死を知った時、ひろしは悲しみの余り自害を試みる程に取り乱した。
傍に居たラトの制止によって未遂に終わったものの、精神的ショックは大きく、残った家族である妻の姿を強く追い求めるようになっていた。
もし、みさえまでも居なくなってしまったら、きっと自分は今度こそ本当に命を断つだろう。
誰の制止も振り切り、妻子達の後を追う事になるだろうと、ひろしは思っていた。
その後、ト子がイベントホール内で見付けた、同じくクラスメイトの吉良邑子の死体が有る場所へラトを連れて行ったり、
ひろしがフグオの事を励ましたり、銀鏖院水晶に襲われた事をひろしとラトが三人に話したりした後、
ト子が、先程フグオにそうしたように筆談で首輪についてMUR、ひろし、ラトに説明する。
一度聞いたものの、他にやる事も無いのでフグオも再び耳を傾ける。
内容こそフグオに伝えた物とほぼ同一ではあるが難しい漢字や言葉も使っていた。
〈盗聴までしてやがるのか、運営の奴ら、どんだけ性悪なんだよ〉
憤りを文面に表すひろし。
〈まだ、あくまで可能性の段階だがな〉
〈でも、警戒しておく事に越した事は無いと思うよ〉
〈そうだよ。下手したら、運営に首輪を爆破されちゃうヤバイヤバイ……〉
〈既に気付かれているかもしれないけどな……気付かれていない事を祈るしか無いか〉
〈それで、外せそうなのか?〉
ひろしが最も重要な事項をノートに書いてト子に尋ねた。
ト子はしばし考えてから、返事を書いて見せる。
〈もう少し調べてみないと分からない〉
まだ不確定要素が多く、無駄に希望を抱かせるのは酷だと思い、あえてあっさりとした文言でト子は答えた。
他の四人も、過剰な期待は避けるべきと言う事は分かっていたので、特に何も反論しなかった。
一段落着き、ト子は引き続き首輪の解析に取り組む。
「野原さんとラト君はこれからどうするんだゾ?」
「俺はみさえを探す。しんのすけもひまわりもシロも居なくなっちまった今、俺にはあいつしか居ない。
あいつにも俺しか居ない筈だから……」
「僕は野原さんを助けてあげたい、だから野原さんと一緒に行きます」
「あ、そっかぁ……」
ひろしもラトも自分達とは一緒に行けない事をMURは悟る。
しかし彼らは彼らの目的が有るのだから、無理に引き止めるのも無粋であろう。
「おじちゃん達、行っちゃうキャプ?」
「ああ、俺の奥さんを探さなきゃいけないんだ、ごめんな」
「気を付けてね……死んじゃ駄目プリ」
心配そうな表情で、フグオはラトとひろしに言う。
「ああ、お前も死ぬなよフグオ。勿論、MURとト子ちゃんもな」
「必ずまた会いましょう」
「当たり前だよなぁ? ト子ちゃん、フグオ君」
「うん……」
「ああ、そうだな」
別れの挨拶を済ませた後、ひろしとラトはイベントホールの玄関へと向かって行った。
MUR達もひろし達も互いにこれが永遠の別れにならない事を祈る。
名残惜しそうにするMURとフグオの傍らで、ト子は首輪の解析に集中していた。
【午前/D-5イベントホール】
【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]全身にダメージ(行動に支障は無し、ほぼ回復)
[装備]ハーネルStg44(26/30)@現実
[所持品]基本支給品一式、ハーネルStg44の弾倉(5)、肉切り包丁@現実
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。クラスメイトと合流したい。
1:ト子ちゃん、フグオ君と行動。
2:フグオ君が心配だゾ……。
3:野原さんとラト君、また会えると良いんだが……。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
※貝町ト子のクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
※銀鏖院水晶が危険人物である事を野原ひろしとラトから聞いています。
【貝町ト子@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康、首輪を解析中
[装備]トンファーバトン@現実
[所持品]基本支給品一式、工具箱(調達品)、ケルベロモンの首輪(分解)
[思考・行動]基本:殺し合いはしないが、必要な時は戦うつもりでいる。
1:MURさん、フグオと行動。
2:テトと会ったらどうする……?
3:太田には会いたくない。他のクラスメイトとも余り会いたくない。
4:首輪を解析する。
5:私が死んだら……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※薬物中毒は消えています。
※MURのクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
※銀鏖院水晶が危険人物である事を野原ひろしとラトから聞いています。
【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]精神的ショック(大)
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いなんてしたくない。小鉄っちゃん達に会いたい。
1:……死にたくない。誰かが死ぬ所も見たくない。
[備考]※少なくとも金子翼登場から彼と親しくなった後からの参戦です。
※MURのクラスメイト、貝町ト子のクラスメイトの情報を得ました。
※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
※銀鏖院水晶が危険人物である事を野原ひろしとラトから聞いています。
※「死」に対して敏感になっています。
◆◆◆
「俺ら以外に殺し合いに反抗している奴が居るって事が分かっただけでも良かった」
「はい」
「ト子ちゃんには首……」
「しっ!」
首輪の事を言いかけたひろしの口をすかさず塞ぐラト。
(そうだ、首輪の事口にするのはマズイんだった)
ひろしは先程のト子とのやり取りを思い出し、出かかった言葉を飲み込む。
「と、ト子ちゃんやMUR、フグオとまた、生きて会えると良いな」
「そうですね、無事にまた合流出来れば」
上手く誤魔化すひろしとラト。
流石にすぐに首輪をどうこうされはしないだろうが、念には念を押すに越した事は無い。
「これからどうするか」
「人が集まりそうなのは……」
ラトが視線を向けるのは、北方向に見える市街地。
地図で言うとD-4、E-4の二つのエリアで、商店街が有る広い規模の市街地である。
物資や拠点に成り得る場所が豊富で、参加者が集まり易いと見て間違いは無さそうだ。
ひろしの妻、みさえやラトのクラスメイトが居る可能性も高い。
危険人物と出くわす可能性も同じ位高いが、危険は覚悟しなければならないだろう。
「あの市街地、でしょうか」
「街か……色々有るだろうしな、他に特にアテも無いし、行ってみるか」
ラトの意見に賛同し、ひろしは次の行き先を市街地に定めた。
【午前/D-5イベントホール玄関】
【野原ひろし@アニメ/クレヨンしんちゃん】
[状態]精神的ショック(大)
[装備]コンバットナイフ
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:みさえを探し、殺し合いを潰して生きて帰る。
1:ラトと行動する。市街地(D-4或いはE-4)へ向かう。
[備考]※銀鏖院水晶を危険人物と認定しました。
※ラトのクラスメイトの情報を彼より得ています。
※表面上は平静ですが、精神的にはやや危うい状態です。
※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]ワルサーPPK/S(6/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、ワルサーPPK/Sの弾倉(3)
[思考・行動]基本:殺し合いを潰す。
1:野原さんと行動。市街地(D-4或いはE-4)へ向かう。
2:残りのクラスメイトが気になる。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※銀鏖院水晶を危険人物と認定しました。
※能力の制限については今の所不明です。
※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
最終更新:2015年02月03日 13:12