SYOKUSYU CHUIHOU Ⅳ(前編)

69話 SYOKUSYU CHUIHOU Ⅳ(前編)

一人市街地を歩く野獣先輩こと田所浩二。
少し前まではKMRと太田太郎丸忠信が同行者として居たが、今はもう居ない。

「! こいつは……」

路上で息絶えている男を発見し、野獣が足を止める。
近付くと、その男は紛れも無く、自分達を襲い、KMRと太田を殺した男だった。
太田を撃った時、この男も銃弾を受けていたが、それが致命傷となったのだろうか。
ざまぁ見ろ、と言おうとして、野獣は止めた。
二人の死には、自分にも責任が有ると思っていたからだ。

「銃が……こいつのだな」

男の手元には、KMRと太田を撃つのに使った大型の自動拳銃が落ちていた。
野獣はそれを拾い、自分のデイパックに押し込む。
生き残る為に少しでも多くの武装が必要だ。
愛する遠野の生死もまだ分からない、まだ死ぬ訳にはいかない、そう考えながら野獣は男の持ち物を漁り、
予備の弾倉も手に入れる。

「ん?」

ふと、気配を感じて後ろを振り向く。
電柱の陰からこちらの様子を窺っている、少女の姿が見えた。

「ファッ!?」
「待って、私は乗ってないわ」

戦意が無い事をその少女は訴える。

「本当か? 俺も、乗ってない」
「その人は……貴方がやったの?」
「違う、俺の仲間がやった……俺は田所浩二、名簿には『野獣先輩』って書かれてるけどな。
ええと、君は?」
「私は柏木寛子」

互いに自己紹介する野獣と少女――柏木寛子。
寛子は一先ず、目の前の青年が安全そうだと判断する。
一方の野獣は。

(かわいい)

そんな事を感じていた。
野獣は同性愛者であるが、寛子はそんな彼でも思わず「可愛い」と思ってしまう程の美少女だった。
しかし、すぐに「自分には遠野が居る」と、野獣は自身を戒めた。

「田所さん?」
「いやいや何でも無い、悪い。ええと、寛子ちゃん一人なのか?」
「今はね。西川のり子って言う女の子と、レナモンって言う人が居たけど、死んだわ」
「あ……悪い事を聞いちまったな」
「ううん、大丈夫」

表情を曇らせる寛子を見て、ばつが悪そうにする野獣。
寛子もまた、自分と同じように同行者を失って一人になったのだと悟った。

「俺もだ。一緒の奴が二人居たけど、殺されちまった。この男にな……。
殺された太田って奴が、こいつを撃って……多分それで死んだんだと思う」
「そうだったの……」
「……聞いても良いかな……寛子ちゃん、どんな奴に襲われたんだ?」

少し酷だとは思ったものの、寛子に質問する野獣。
寛子を襲ったのが、もしかしたら自分のクラスメイトかもしれない、それ故に気になって尋ねた。

「病院で襲ったのは、全身に触手の生えた化物。その時レナモンが殺された。
そして、のり子を殺したのは、車の陰に隠れてたし私が反撃したらすぐ逃げてったから、
良くは姿を見てないんだけど、背の低い男で、白いシャツに黒っぽい半ズボンを穿いていたわ」
「……背の低い……白いシャツに半ズボン」

触手の怪物はともかく、背の低い男の方には、野獣は心当たりが有った。
この殺し合いに参加している自分のクラスメイトの中で、一人、それに当てはまる者が居た。

ダァン!

「ファッ!」
「きゃっ!」

銃声が響き二人の会話は中断させられる。
銃弾は二人の近くの建物の外壁に穴を空けた。

「あれぇ? おかしいね、殺し合いの最中に道路の真ん中で立ち話するなんてね」
「……その声は!」

声の方向に野獣と寛子が向くと、銃を構え、頭と肩に包帯を巻いた背の低い男――ひでの姿が有った。
そして、ついさっき野獣が心当たりとして探り当てた相手でも有った。

「ひで!」
「田所くん、そしてあの時のお姉さん」
「あの時って……その傷、あの時私とのり子襲った奴ね!?」
「そうだよ。よくも僕を撃ってくれたね? お陰で痛かったよもぉ~」
「何言ってんのよ、先に撃ってきて、のり子を殺したのはそっちじゃない!」

勝手な言い分を述べるひでに怒りを露にする寛子。
そして憤ったのは野獣も同様だった。

「ひで! お前何でこんな殺し合いなんかに乗っちまったんだよ! クラスメイトも居るんだぞ!」
「は? 何言ってんのさ田所くん、優勝した一人しか帰れないんだよ? 乗るしか無いじゃん」
「ふざけんな!!」

声のみならずその憤怒も迫真の野獣は、怒りに任せてひでに突進しようとした。

ダァン!!

「ンアッー!(≧Д≦)」

ひでが発砲し、銃弾は野獣の腹部に入り背中から突き抜けた。
5.7ミリと小口径で貫通力に優れているが、尚且つ人体などの柔らかい物体に命中すると、
弾が横転して衝撃を物体に最大限伝えようとするように設計されたP90の銃弾は、
頑健な野獣と言えどそのダメージは大きく、腹部を押さえて野獣は蹲った。

「田所さん!」
「アーシニソ……すっげぇ痛い、はっきり分かんだね」
「クラスメイトが何? 誰も蓮の奴に虐められてる僕を助けてくれない上に、笑って見てた人間の屑の事を、
今更気にすると思ってんの? そんなんじゃ甘いよ」
「え……?」

ひでの発言に野獣は意外そうな表情を浮かべた。
確かに普段の学校生活の中、蓮はひでをぞんざいに扱っている場面が良く見られたが、
それ程性質の悪いようには、少なくとも虐められている程には思えなかったからだ。
いや、見えていなかっただけなのかもしれないが。

「僕は決めたんだ、蓮の奴も、クラスメイトも、他の奴もみんな殺して、僕だけが生きて家に帰るんだ!!」
「ひで……!」
「……っ」

かなりの剣幕で、野獣と寛子に向かって宣言するひで。
その勢いに、野獣も寛子も瞠目してしまう。

「あ……?」

しかしこの時、寛子が瞠目する理由にもう一つ別の物が加わった。
ひでの後方、建物と建物の間の細い路地から、異形が現れたのを見付けたから。
それは、身体中から触手を生やしたリカオンの少年。

(あいつ……!?)

紛れも無く、病院にて寛子やその時一緒に居たのり子、レナモンを襲い、恐らくレナモンを殺したであろう、
あの触手の怪物であった。

「どうした、寛子ちゃ……ファッ!?」
「何だよ、後ろを見て……う、うわぁ!」

野獣とひでも、リカオンの少年に気付く。

「ヴヴ……グルルル……」

リカオン少年――小崎史哉は、相変わらず知性を感じさせない虚ろな双眸を三人に向け唸り声を発していたが、
寛子が遭遇した時とは様子が異なっていた。
全体的に身体に傷を負い、腹部には大きな穴が空き、内臓が飛び出している程に損傷していた。
肉体のダメージが著しくなってきた史哉、と言うより史哉の身体を支配する寄生虫は、
損傷の少ない新たな肉体――宿主と成り得る者を探していた。

「ひい! 来るな化物!!」

さっき手に掛けた二足歩行の狼どころでは無いとんでも無い異形を前にして恐怖に駆られたひではP90を乱射した。

ダダダダダダダダッ!! ダダダダダダダッ!!

「ガアアアァアアアァア!!」

無数の5.7ミリの銃弾でその身体を更に損傷させられる史哉。
肉体のダメージはいよいよ深刻になり、彼の身体を支配する寄生虫が、一刻も早く次なる宿主を確保するべく、
史哉の身体を動かす。そしてひでの身体が触手に捕らえられ、史哉の元へ引き寄せられていく。

「やだあああああ!! やだ! うわ、ああ!!」
「ひで! ぐぅ……!」

思わず叫ぶ野獣だったが、傷が痛み悶える。
ひでがリカオン少年に捕らわれたのを見て、寛子は冷酷とも言える進言を野獣に行う。

「今の内に逃げよう!」
「なっ、ひでを見捨てろって言うのかよ!?」
「あいつは私達を殺そうとしたんだよ!?」
「うっ……でも、でも」

確かに寛子の言う通り、ひでは自分達に明確な殺意を向けていた。
事実、野獣は撃たれて負傷したのだ。
故に、無理をしてまでひでを助ける義理は無い。
だがそれでも野獣は逡巡した。ひでは今まで一緒に学校生活を過ごしてきたクラスメイトには変わり無かった故。

「田所さん!」
「俺は……」
「ライダー助けて!!」

助けを求めるひでの声が聞こえる。
野獣は迷い、そして決断した。

「よし行くど~」
「は? ……あああああああああそんなあああ!! ヤーダヤメテミステナイデミステナイデヨ!!!」

寛子の進言を受け入れ野獣は寛子と共に逃亡した。

(許せ、ひで……)

しかしやはり割り切れない部分、後ろめたさも有ったのか、野獣は心の中でひでに謝った。
尤もそんな事、残されたひでには分かる筈も無いのだが。

「ふざけんじゃねえよ!! あのステロイドハゲ!! 今度会ったら絶対殺してやるううううあああ!!!」

口汚く野獣を罵るひで。
自分が殺し合いに乗っているのが原因、自業自得なのだがそんな事はひでに分かる筈も無かった。
史哉の触手から逃れようと、ひでは史哉に向かって尚もP90を乱射した。
しかし、頭部を半分以上失い、身体中穴だらけにし、アスファルトに血や肉片が飛び散ってもまだ史哉は動きを止めない。
そしてP90の弾倉が空になる。
予備のマガジンと交換しようとしたひでだったが、身体に巻き付く触手が邪魔をし上手く行かず、
挙句の果てにP90をうっかり落としてしまい攻撃手段を失った。

「やだ! やだ! ねえ小生やだ! ネーホントムリムリムリ!!」

狂ったように泣き叫び、触手の拘束から逃れようとひでは暴れた。
だが、目の前の化物はひでを殺そうとせず、品定めするような仕草を始め、ひでを困惑させた。

「ヴ……ヴ……」
「な、何? 何だよぉ……」

しばらくして、史哉は左手の平を、ひでの顔に向けて翳した。
史哉――もとい、寄生虫は、次の宿主として、ひでを選んだのだ。

「!!?」

史哉の左手の平が裂け、飛び出した「何か」は、ひでの口をこじ開けて体内へと入っていく。

「ヴォエッ!? ヴォエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!」

不快感と嫌悪感、恐怖感を露にし、必死に「何か」を吐き出そうとするひでだったが、抵抗も虚しく、
「何か」はひでの体内奥深くへと入って行った。

「ア、ァ……」

直後にひでは気を失ってしまう。
史哉の触手による拘束が解け、ひでがアスファルトの上に倒れると同時に、史哉もまた、
その身体を路上に横たえ、そして二度と立ち上がる事は無かった。
幾人もの参加者を屠ってきた触手の怪物は、遂に力尽きたのだ。

――傍から見れば、これで触手の猛威は無くなったように見えただろうが、現実は違った。


【小崎史哉@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター  死亡】

【残り  23人】



◆◆◆


ひで、そして触手の怪物から逃げた野獣と寛子。

「うっ……オオン」
「田所さん!」

腹の傷口を押さえ、野獣が苦しみ出す。
寛子が傷の様子を確認すると、傷口の周りは赤く染まり、かなりの出血が有る事が見て取れた。
一刻も早く適切な処置を施さなければならないのは良く見なくても分かる。

「アー逝キソ……」
「しっかり! まずいわね、手当しないと……」

必死に善後策を考える寛子。

その時だった。

「先輩!」
「え?」
「……!」

突如、青年の声が響く。
驚く二人。そして、野獣はその声に聞き覚えが有った。
声の方向に二人は視線を向ける、そこには青年と人狼の姿が有った。
青年の方は野獣が、人狼の方は寛子が、それぞれ良く知る人物。

「遠野!」
「……憲悦」

そして二人の反応は、片や歓喜、片や嫌悪と、全くの正反対であった。


【後半に続く】



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最終更新:2014年12月22日 00:33