71話 コラテラル・ダメージ

D-2エリアの工場に、銀鏖院水晶は辿り着いていた。
そしてそこで、B-2市街地にて一度対峙した三人組を再発見する。
犬狼獣人少女の原小宮巴、色黒サングラス貧弱下半身のKBTITことタクヤ、兎獣人女性のソフィア。
図らずも、三人と同じ道筋を辿ってきてしまったらしいと水晶は思う。

(気付かれてないわよね……?)

大型の何に使うのか分からない機械の陰から三人の様子を窺う水晶。
数時間前に三人を尾行していた時と似たような状況になっていた。
ただ、今度はあの時のように気付かれている様子は無い、ように見える。
どうやら誰かの死体を発見して調べているようだった。その死体の着ている服は、水晶が通う高校の男子制服に似ていたが、
水晶の居る位置からでは詳細は分からなかった。

(見付けたと言っても、迂闊には手を出せないんだけど……)

再び三人を発見したからと言って、すぐには何も出来ない。
水晶の武装は鉄パイプ、包丁、鎌だが、巴はショットガン、KBTITはサブマシンガンを持っているのだ。
正面から立ち向かっても勝目は薄い。超能力も、辺りに有効利用出来そうな物が見付からないし、身体への負担も考慮しなければならない。

(何かしてやりたいんだけどなぁ……あっ、移動する)

有効な対処法が思い付かぬ内に、三人が移動を始めたので、水晶も気付かれぬよう後を付ける。
後を付けてばかりであの三人のストーカーのようだ、と自嘲しながら。

◆◆◆

工場へとやってきた原小宮巴、KBTITことタクヤ、ソフィアの三人。
かつて機械の喧騒に包まれていたであろう工場内は今は作業員も居らず機械も静止しとても静かであった。

「おい、死体が有るぞ」
「本当だ」
「全身蜂の巣ね……気の毒に」

三人が無残に殺された少年の死体を発見する。
不細工な顔をした学生服姿の少年は、機関銃のような物で全身を穴だらけにされ殺されたようで、
空の薬莢が大量に床に散らばっていた。

「うおっ! 危ね」
「大丈夫? タクヤさん」

空薬莢を踏んで転びそうになるKBTIT、それを心配する巴。

「下半身鍛えてないからじゃないの?」
「うるせえ!」
「冗談よ。それ、その子のデイパックかしら」

ソフィアがKBTITをからかいながら、少年の物と思しきデイパックを発見し、中身を漁る。
しかし、基本支給品以外には何も入っていない。
状況からして、少年を殺害した者が持ち去ってしまったのだろうか。

「駄目、何も入ってないわ」
「そうか……しかしこいつ、死んでから随分経ってんじゃねぇか? 少なくとも、今から一時間以内とかそんなんじゃねぇと思うぞ」
「そうだねえ。銃声も聞こえなかったし、血も乾いてるみたいだし、臭いし。
つい最近殺されたのなら、殺した奴がまだ近くに居るかもしれなかったけど、その心配は無いかなあこれなら」

少年が殺されて間も無かったらば、その下手人がまだ近くに潜んでいる可能性も有ったが、
殺されてかなり時間が経っている事が少年の亡骸の様子から窺え、その危険は薄いと三人は判断する。

「んじゃあこれ以上、この人の死体には用事は無いから休める場所探そっか二人共」
「そうだな、歩き疲れちまったからな」
「うん」

不細工少年の死体に用が無くなった三人は休憩に使えそうな場所を探す。
程無くそれは見付かった。工場作業員が利用していたであろう小さな食堂。
古びた会議用の長テーブルが四つ置かれ、錆が浮き出たパイプ椅子の座席、使い込まれたシンクや冷蔵庫、電子レンジ等、
全体的に年季の入ったお世辞にも綺麗とは言い難い部屋だった。
しかし、そのような事に拘る三人では無く、パイプ椅子に腰掛け一息付く。

「あ~疲れたな~」
「結構歩いたよなぁ。今の所、最後に出会った奴は、町で俺らの後つけて逃げてった水晶の奴か」
「そうね、ここまで乗っている奴に襲われたりはしてないけど、それ以前に誰とも会ってないのよねー」

B-2市街地にて銀髪の少女、銀鏖院水晶による尾行を巴が看破し、彼女を問い質した所逃げられてしまった。
その水晶以降、三人は誰とも遭遇していない。
戦闘が無いのは良いが、仲間を集める事も出来無いと言うジレンマが有る。
他にも、自分達以外に生き残りが、殺し合いに抗う者がどれだけ居るのか分からない、と言う不安も有った。

「まあ、会場の真ん中らへんに有るでけぇ街にでも行きゃ、誰かと会えんだろ。
蓮の奴、まだ生きてっかな……あいつなら簡単に死なねぇとは思うけどな」

親友の心配をするKBTIT。
巴は支給品の水を口に含み、ソフィアは椅子の背もたれに体重を掛けリラックスと、三人思い思いに休息していた。

◆◆◆

死体はクラスメイトの愛餓夫だった。しかしそんな事はどうでも良い。優先すべきはあの三人の事だ。
部品が収納されたスチールラックの陰より、三人が入って行った食堂の方を見る水晶。
方法によっては一網打尽に出来るだろう、その方法が問題だったが。

(どうする?)

自分の命にも関わる事だ、しっかり考えなければならない。
正面突破は危険、超能力行使も得策では無い、ならば何か使えそうな物は無いかと辺りを見回す水晶。

「……!」

見付けた物は部品棚の中に有るナットと、壁沿いに置かれた消火器。
あれを上手く使う事が出来れば。
水晶は三人の元へ攻め入る算段を頭の中で組み立てる。

◆◆◆

「見張り立てておいた方が良いんじゃない?」

ソフィアが提案する。

「じゃあ、ソフィアさん行ってきて」
「こういうのってジャンケンとかでしょ普通」
「言いだしっぺの法則って……知ってるかな?」
「ジャンケン! ジャンケン! ジャンケン!!」
「分かったよもぉー」

折れたのかただ単にからかっていただけなのかは不明だが、
巴はソフィアの主張を聞き入れジャンケンで見張りの順番を決める事にした。
結果、ソフィア、巴、KBTITの順番で見張りを十分ごとに交代する事となった。

「チッ」
「行ってらっしゃーい」
「何か有ったらすぐ知らせろよ」
「行ってきます……」

結局最初に自分が行く事になってしまい、不満の表情を浮かべながらソフィアは食堂を出て入口付近に立ち見張りを始める。
ソフィアが見張っている位置から見えるのは、工場区画の入口、無機質な通路、ロッカー室や湯沸室へ続くと思われる幾つかの扉。
少なくとも誰かが食堂に近付けばすぐに分かる位置にソフィアは陣取っている。

「さっさと十分経たないかしら……」

小声でソフィアはぼやく。
ずっと周囲を警戒するのは精神的に疲労するのだ。
早く交代の時間になれ、ソフィアは心の中で願わずには居られない。
一方の食堂内では、巴とKBTITが後どれ位この工場に留まるか話し合っていた。

「十分ずつ交代だと、丁度30分で一巡する訳だな」
「んじゃ一時間ぐらいは居られるかな? 何も無ければだけど。
あーでも、タクヤさんクラスメイト心配だよねえ?」

何事も無ければ一時間程はこの工場に留まっていられそうだが、
クラスメイトを捜しているKBTITの事も考慮しなければならない。

「いや、気にすんな。確かに心配だけどな、だからって無茶してもしょうがねぇ」
「んーそう言うなら」

KBTITは気遣いは無用と伝える。
口で述べたようにクラスメイト達、特に親友の蓮の安否は気になるが、
一人で行動しているのならまだしも、仲間が居るのだから、無茶をして仲間を危険に晒す訳には行かない。
そうKBTITは考えたのだ。
そして巴もそれを受け入れる。
やがて最初の10分が経つ。

「そろそろ交代の時間だねぇ。んじゃ行ってくるねー」
「おう」

巴がウィンチェスターM1912を携え、ソフィアの元へ向かう。
一方のソフィアは支給品の時計を見てそろそろ交代だと安堵していた。

(あー、そろそろ交代の筈)

安心していたソフィア。
そして、巴が食堂の扉を開けて廊下に出たその時。

ガンッ

ソフィア、巴、そして食堂内のKBTITの耳に、物音が聞こえる。
工場区画の方からだ。明らかに人工的な音で、つまり、明らかに誰かが居ると言う事だ。

「……何か聞こえたよね?」
「聞こえたねぇ、誰か居るねぇ」
「……おい、今音がしたぞ?」
「うん」
「そんな、やっと交代出来ると思ったのに……」
「誰か居るのー?」

落胆するソフィアを尻目に巴は工場の方に声を掛ける。
返事は無かった。誰か居るのはほぼ確実、だと言うのに何も返答が無いのは何故か。
考えられる理由は一つ、警戒しているか、殺意が有るか、だ。
さてどうする、三人は考える。
全員で確かめに行くか? しかしそれだと全滅の恐れが有る。
かと行って一人ずつ行くのも得策とは思えない。
さあ、どうするべきか、三人は中々結論を出せずにいた。
やがてその結論は出た、が、出したのは三人では無かった。
工場区画から、銀髪の少女が通路に飛び込んでくる。
彼女の手には黒いホースの付いた赤い円筒が持たれていた。
そして三人はその少女に覚えが有ったものの、それを口に出すよりも彼らの視界が白く染まる方が早かった。

◆◆◆

水晶が考えた作戦――作戦と呼んで良い物かどうかは別にして――は以下の通り。

①工場区画内にナットを適当に投げて物音を出す。
②三人は様子を見に食堂から通路へ出てくるだろうから消火器を撒き散らし視界を奪う。
③武器を奪うなり消火器で殴るなりして殺す。

何だよ、お前の立てた作戦ガバガバじゃねぇかよ(呆れ)
とにもかくにも、水晶は行動を起こした。
途中、兎のソフィアが見張りに出た事以外は特に異変は無く、ガバガバ作戦通りに事を進め、消火器を撒き散らす所までは上手く行っていた。

「うわ! 何だよオイ!? ゲホ、ゲホ!」
「ま、前が見えなっ、うあ、目が! 目が……!」

白煙の中から聞こえる狼狽の声に、しめた、作戦通りだと水晶は喜ぶ。
そしてすぐさま空になった消火器を振り回しながら白煙の中に突撃する。
自分以外に味方など居ないのだ、周りに配慮する必要は無い。

ゴン!!

「がっ」

鈍い音と共に聞こえた男の悲鳴。

ガァン!!

「……!!」

今度は女の悲鳴。巴かソフィアかどちらかは分からないが、何にしても後一人。
もう少しで私の勝ち――水晶は勝利を確信した。

ドゴッ!!

三度目の鈍い音が響く、が。
倒れたのは水晶だった。
消火器が重い音を立てて床に転がっていく。

「がああ……っ!?」

左頬を押さえて悶える水晶。歯が数本折れ口の中を切り、顔が血塗れになっていた。
何が起きたのか水晶は分からなかったが、すぐにそれを理解する所となる。

「やってくれたね~」
「!!」

水晶の視界に映ったのは、白煙の中、ショットガンを持って仁王立ちする犬狼獣人の少女、巴の姿。
表には出していなかったが、水晶を見下ろすその双眸からははっきりと憤怒の感情が読み取れた。

「水晶さん、また会えて嬉し……くはないね。
やっぱり殺し合いに乗ってたんだねぇ? だからレジャー施設の時も街で会った時も逃げたんでしょお?
街の時看板落ちてきたけどあれ水晶さんの仕業なのかなあ? まあそれはどうでも良いや。
……ああ、殺しておけば良かったなぁ。失敗したなあ」
「……っ」

一方的に話しながら水晶ににじり寄る巴。
決して荒い口調では無かったもののはっきり分かる殺意のオーラに床に尻をついたまま後ずさる水晶。
恐らくショットガンの銃床で殴られたのであろう左頬や折れた歯の痛みに構っている場合では無く、
この場を切り抜ける方法を必死に模索する。
ほんの数十秒前まで自分が優勢だった筈なのに一転攻勢され、立場が逆転してしまった。
何か、何か方法は無いのか。
必死に考える水晶だったが。

ガスッ!

「ぎゃッ!!」

水晶の胸元に巴のつま先が勢い良く食い込む。
一切の容赦の無い強烈な蹴りを受け再び悶絶する水晶。
肋骨にヒビが入った、或いは折れてしまったのではないかと思う位の激痛と苦しみだった。

「があああああ……!!」
「でも、水晶さんがやる気になってるって事が確認出来て良かった。じゃあ、死のうか」

ニコリと笑いながら、巴は水晶に無慈悲な死の宣告を下した。

「待っ……」

水晶が言い終わらぬ内に、その胸元に散弾が撃ち込まれ、血と肉片が辺りに飛び散り、水晶は絶命した。
愚民とは違う事を証明せんと二度目の殺し合いを動いていた彼女は何ら成果を上げる事無く再びその命を落とした。
顔を撃たれなかったのは、せめてもの慈悲だったのだろうか。


【銀鏖院水晶@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】

【残り  21人】



◆◆◆


制服に付着した消火剤を手で払いながら、巴はKBTITとソフィアの安否を確かめる。

「タクヤさーん? ソフィアさーん?」
「うっ……ぐ……ゲホゲホ……いてて……」
「あっ、タクヤさん」

KBTITは生きているようだった。
顔面に一撃食らったらしく、鼻血を出してゴーグルのレンズにもヒビが入ってしまっている。

「うわー痛そー、大丈夫?」
「何とかな……水晶の奴は」
「そこに転がってるでしょ。殺したよ。もう乗ってるのは確実だったし」
「ソフィアは?」
「ソフィアさーん」

巴は倒れているソフィアに声を掛ける。だが。返事は無くピクリとも動かない上、頭から大量の血が流れ出し、
床に赤い水溜まりが広がっていた。
それを見た時、二人は最悪の事態を予想した。
それでも念の為に二人はソフィアの元に近付き確認する。
「希望を持って」では無く「念の為」な辺り二人のソフィアに対して感じている存在価値が知れる。
結局の所、ソフィアは息絶えていた。

「あーあ、死んじゃった」
「悲しいなぁ……」
「まぁ仕方無いか、冥福を祈るとして……休憩は出来たし、先に進もうか、タクヤさん」
「そうだな」

あっさりと切り替え、巴とKBTITは工場の出口へと向かう。


――いくら何でも、扱い悪くない……?


どこからか聞き覚えの有る声が聞こえたような気がして二人は振り返ったが、
そこにはソフィアと水晶の死体が横たわるのみだった。


【ソフィア@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター  死亡】

【残り  20人】



【午前/D-2工場】
【原小宮巴@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター】
[状態]健康、衣服が消火剤で汚れている
[装備]ウィンチェスターM1912(2/6)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(12)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:KBTIT(拓也)と行動。
        2:工場を出て南の市街地へ向かう。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※KBTITを同じ世界の人間だと思っています。
    ※金子翼の外見のみ記憶しました。

【KBTIT@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]鼻を負傷(鼻血有)、ゴーグルにヒビ、衣服が消火剤で汚れている
[装備]ニューナンブM66短機関銃(30/30)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ニューナンブM66短機関銃の弾倉(5)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:巴と行動。工場を出て南の市街地へ向かう。
        2:クラスメイトを探す。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※動画準拠なので中学生であり、平野源五郎とは面識が無い設定です。
    ※支給品はボディーブレード@アニメ/クレヨンしんちゃんでしたが放棄しました。
    ※金子翼の外見のみ記憶しました。


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最終更新:2015年01月27日 22:35