72話 欲しがってた物はここで見つかりますか?
遠方から、銃声、悲鳴、怒号が時折風に乗って聞こえる。
殺し合いが始まってから早10時間近くが経とうとしていた。
狼獣人少年ノーチラスと、猫獣人少女君塚沙也は、今に至るまでどうにか生き存えていた。
特に怪我も無く、健康状態も良好なのは幸運だっただろう。
「疲れるよねぇ」
「何がだ?」
「ずっと気を張ってなきゃいけないってのはさ」
「ああ……」
沙也が漏らした言葉に同意するノーチラス。
大好きな性行為を我慢して絶えず警戒を怠らないようにしているのは、沙也にとっては大きな負担だろうと彼は思う。
「くそエッチしてー」
「今は我慢な」
「はぁ……あれ」
「どうした」
「誰か居るよ」
「……!」
ノーチラスと沙也は前方およそ50、60メートル程先に、人間の女性の姿を認める。
右手には拳銃と思しき物を持っているのが確認出来た。
そして女性もこちらに視線を向け、女性も二人の事を認識した事が窺える。
直後、女性は無言で持っていた拳銃を二人に向けて構え、発泡してきた。
ダン! ダン!
「うわっ!?」
「いい!?」
驚くノーチラスと沙也。
どうやら、女性は殺し合いに乗っているらしかった。
急いですぐ近くの細い路地に逃げ込む二人。
「くそっ、乗っている奴かよ!」
「危なっ……どうしよ」
「無理に戦う事は無い、逃げよう」
路地の奥へ逃れようとする二人だったが、金属製の扉が立ちはだかる。
沙也がノブに手を掛けるが、無情にも施錠されていて開かない。
「駄目、開かない。鍵が掛かってるみたい」
「何だって!」
蹴破ろうとも考えたノーチラスだったが、扉はかなり重厚な作りのようで、蹴破れそうには見えずやめた。
逃げ込んだつもりが自分達から袋小路に入り込む結果となってしまった。
足音が通りの方から近付いてくる。女性は間違い無く自分達を追撃してきている。
左右は窓も無い壁で、残された道は女性と交戦する他無かった。
「俺に任せろ」
銃を持った相手には銃で対抗する、と、ノーチラスが迎撃に出る。
沙也は心配そうな面持ちで行く末を見守る事にした。
ここはノーチラスを信じるしか無かった。
深呼吸をした後、ノーチラスは路地から飛び出し、村田銃を構え引き金を引いた。
ドォン!!
女性は怯んだ、が、当たった様子は無く、すぐさまノーチラスに向け二発発砲した。
すぐに路地に身体を引っ込め銃撃を回避するノーチラス。
(真っ直ぐ狙ったつもりだったんだが……やっぱり上手く行かないか)
心の中で当てられなかった事を悔やみつつ、ノーチラスは村田銃のボルトを引いて空薬莢を掻き出す。
発射によって空薬莢は熱を帯びていたが気にしてはいられない。
上着のポケットに入れておいた予備弾を取り出し、薬室に押し込んでボルトを押し込む。
このように十八年式村田銃は、傍から見ても次弾装填には手間が掛かる銃である。
ましてや銃に不慣れなノーチラスなら尚更。
とにかく次弾を込めたノーチラスは再び路地から飛び出して村田銃を構え発砲した。
ドォン!!
しかしやはり当たらず、またしても反撃の発砲を受ける。
ヒュンッ
「……っ!」
今度もどうにか避けるが、ノーチラスの耳元を弾が掠めたようで不気味な風切り音を聞き、
ノーチラスは背筋に悪寒が走るのを感じた。
単発でしか撃てない旧式ボルトアクションライフルと、連射可能で取り回しも良い拳銃では、後者が優勢だ。
(このままじゃまずい……)
焦りの色を顔に滲ませるノーチラス。
沙也は黙って見守っていたが、その表情には不安が見て取れた。
女性と二人の距離は縮まる一方、次で決めなければいよいよ危うい、ノーチラスはそう考えた。
「今度こそ!」
三度目の正直――ノーチラスが三度の発砲を行おうとした。
その時。
「止まって!」
突如、少女の声が響き、ノーチラスは動きを止めた。
あの女性の物にしては若すぎるし、ましてや沙也の声でも無い。
「誰?」
「……あの声、まさか」
ノーチラスは少女の声に聞き覚えが有った。
通っている学校の生徒会に彼は所属しているが、そこで良く聞いた声。
恐る恐る路地から声のした方向を確認するノーチラス。
そこには女性の方に拳銃らしき物を構える、青い猫獣人の少女の姿が有った。
「サーシャ!」
その猫少女の名前を、ノーチラスは呼んだ。
◆◆◆
テトを看取った後、悲しみをどうにか乗り越え、サーシャと大沢木小鉄の二人は、
それぞれの知人や殺し合いに乗っていない参加者を捜すべく市街地を歩いていた。
テトが持っていた(元々は小鉄の支給品でテトに譲った物だったが)小型自動拳銃ローバーR9とその予備弾倉は、
サーシャが持つ事となった。彼女の支給品は武器になるような物では無かった。
道中、銃声が聞こえ、二人が駆け付けると、人間の女性と狼獣人の少年が銃撃戦を繰り広げていた。
狼少年は路地から反撃するも、女性に押されている様子である。
「うお、撃ち合いしてやがる。晴郎にーちゃんに見せて貰った映画みてぇだ」
「映画だったら良いんだけどね……あれ、ノーチラス?」
狼の少年をサーシャは知っている。
クラスメイトのノーチラスに相違無かった。
撃ち合いをしていると言う事はどちらかが、或いは両方が殺し合いに乗っているか、誤解によるトラブルか、はたまた別の理由か。
その理由などサーシャには分からなかったがとにかく銃撃戦を止めなければと考える。
「小鉄君、隠れてて。止めに行く」
「マジかよ、気を付けろよ……」
小鉄を近くに停車された車の陰に隠れさせ、サーシャはローバーR9を持って通りに躍り出た。
「止まって!」
女性に向けてローバーR9を構えて大声で叫ぶ。女性は動きを止めサーシャの方を見る。
「サーシャ!」
路地のノーチラスもサーシャに気付き名前を呼んできた。
ちらりとノーチラスを見て笑顔を浮かべ、すぐに女性の方へ向き直るサーシャ。
「私はサーシャと言います、貴方は?」
「……野原みさえ」
「野原さん、ですね?」
名前を聞いてサーシャは思い出す。
彼女は確か、開催式の時に殺された赤子の母親だと。
放送では息子と飼い犬の名前も呼ばれていた、そんな彼女が、殺し合いに乗っているのだろうか、とサーシャは思う。
「貴方は、殺し合いに乗っているんですか?」
野原みさえを問い質すサーシャ。
ノーチラスに対しその質問をしなかったのは彼は乗っていないだろうと言うある種の直感のような物が有った為。
ただの思い込みとも言うのだが。
「……」
みさえは返事をしなかった。
ダァン!
代わりに、拳銃をサーシャに向け発砲した。
「……!」
幸い、サーシャに弾は当たらなかったが、この行動を以てサーシャはみさえが殺し合いに乗っていると判断する。
みさえの銃は弾切れを起こしたらしく、急いで弾倉を交換しようとしている。
この隙を逃す手は無い――サーシャはローバーR9を構え直し、引き金を引いた。
タァン! タァン! タァン!
三発の銃声が通りに響く。
「きゃあっ!?」
みさえが悲鳴を上げてよろめく。
右上腕を押さえていいる、どうやら弾が命中したようだ。
「く、くそぉ!」
悪態をついてみさえは逃げて行った。
ひとまず、銃撃戦は終わりを告げる。
「……もう大丈夫、かな。小鉄君、出てきて良いよ」
「ふぅ、危なかったぞサーシャねーちゃん……弾が当たらなくて良かったな」
危険な行動に出たサーシャに呆れの言葉をかける小鉄。
サーシャはそれを聞いて少しばつの悪そうな顔をした後、ノーチラスの元へ駆け寄る。
そして彼に声を掛けようと思った時、動きが止まった。
ノーチラスの背後に居た、猫獣人の少女の姿が、一瞬テトのように見えた為だ。
小鉄も似たような反応をする。
「どうした?」
「テト?」
「テトのねーちゃん……!?」
「え……私? いやいや違うよ」
「……ああ、ごめんなさい、に、似てた物だから」
「なわけねーよな……」
「……ノーチラスと最初に会った時思い出すわぁ。私、そんなにそのテトって子と似てる?
あ、ちなみに私は君塚沙也って言うの」
少しうんざりした様子で、君塚沙也と名乗った猫少女は言う。
容姿のみならず声も似ているとサーシャと小鉄は思ったが、
これ以上は沙也の機嫌を損ねるだけであろうなので口には出さなかった。
「一応聞くけど、ノーチラスと、君塚さん? は、殺し合い乗ってないよね?」
「乗ってない」
「同じく」
「分かった……」
「テトに会ったのか?」
サーシャと小鉄の様子からそう考えたノーチラスは二人に尋ねる。
「……うん」
「ちょっと前まで一緒に居たけど……死んだ。殺されちまった」
「! ……そうか……ここで立ち話するのも危ないな、どこかに隠れよう」
色々聞きたい事は有ったが、外で立ちっ放しで話をするのは目立って危険である。
ノーチラス、沙也、サーシャ、小鉄の四人は近くのうどん屋の建物へと入って行った。
【昼/E-4市街地】
【大沢木小鉄@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康
[装備]ドス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[所持品]基本支給品一式、ジュースやお菓子(調達品)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。フグオ、金子先生、春巻を捜す。
1:サーシャのねーちゃんと行動。
2:このノーチラスってサーシャねーちゃんのクラスメイトか。
3:君塚って人テトのねーちゃんそっくりだな……。
[備考]※少なくとも「元祖!」にて金子翼登場後、彼と親しくなった後からの参戦です。
※テトやサーシャが別世界の人間だと言う事を何となくは分かったようです。
※小崎史哉の外見を記憶しました。また、彼の上着の名札を目撃した事により名前も把握しています(但し読み方までは分かっていない)。
※野原みさえの容姿、名前を把握し、彼女を危険人物だと判断しました。
【サーシャ@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]ローバーR9(3/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ローバーR9の弾倉(3)、???(武器になる物では無い)
[思考・行動]基本:死にたくない。
1:小鉄君と行動。
2:ノーチラス、君塚さんと情報交換。
3:君塚さん、テトに似てるなぁ……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※入浴し、着替えました。
※テトから「以前の殺し合い」の真相を聞きました。
※小崎史哉の外見のみ記憶しました。
※野原みさえの容姿、名前を把握し、彼女を危険人物だと判断しました。
【君塚沙也@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]健康
[装備]又兵衛の刀@アニメ/クレヨンしんちゃん
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。生き残りたい。
1:ノーチラスと行動。サーシャ、大沢木小鉄の二人から話を聞く。
2:しばらくは市街地を回る。
3:ノーチラスの超能力を体験してみたい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※ノーチラスのクラスメイトの情報、及び彼がリピーターである事を本人から聞いています。
※小崎史哉の外見のみ記憶、彼を危険人物と判断しました。
※
油谷眞人の外見は殆ど把握出来ていません。
※警察署にて土井津仁の死体(名前未確認)を発見しています。
※いつ頃からかノーチラスを呼び捨てにしています。
※野原みさえの容姿、名前を把握し、彼女を危険人物だと判断しました。
【ノーチラス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]十八年式村田銃(0/1)@オリキャラ/
俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、11.15mm×60R弾(8)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
1:沙也と行動。サーシャ、大沢木小鉄の二人から話を聞く。
2:殺し合いに乗っていない参加者、クラスメイトの捜索。
3:しばらくは市街地を回る。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※超能力の制限に関しては今の所不明です。
※君塚沙也がリピーターであり事を本人から聞いています。
※小崎史哉の外見のみ記憶、彼を危険人物と判断しました。
※油谷眞人の外見は殆ど把握出来ていません。
※警察署にて土井津仁の死体(名前未確認)を発見しています。
※野原みさえの容姿、名前を把握し、彼女を危険人物だと判断しました。
◆◆◆
とある、シャッターの降りた古い店舗、そのシャッターにもたれて野原みさえは小休止していた。
銃撃を受けた右上腕がズキズキと痛み、押さえる左手の指の間から赤い液体が滲み出る。
通りで出くわした狼と猫の頭をした少年少女を襲ったが、別に現れた猫の少女に阻まれた上、
持っている銃の弾切れと、相手の銃撃で負傷させられた事により形勢不利と見て退却した。
図書館での戦闘はみさえの勝利だったが、今回はそう上手くは行かなかった様子。
「いったぁい……」
苦痛に顔を歪めるみさえ。
今まで、家族と共に幾度も大冒険を繰り広げ、オカマ魔女の蹴りを受けたり、
国連特殊機関のエージェントの振り払いで壁に叩き付けられたり、
謎の追跡集団のパンチを顔面に受けたりと痛い目を見てきた覚えは有れど、銃撃をまともに受けたのは初めてだった。
学校にて殺害した青年にも撃たれたがその時は掠めた程度、しかし今回は見事に腕に穴が空いた。
恐らく今は命に関わりはしないだろうが、出血は少なくなく、痛む。
弾丸は貫通せずに腕の中に残ってしまっているらしい。
本来なら病院に行って適切な治療をしなければならないレベルの傷。
今後の行動に支障が出るであろう事はみさえにも容易に予想は出来た。
「……駄目、止まってなんか居られない」
予想は出来たが、だからと言って、休んで居られるものか、と、みさえは自分を奮い立たせた。
優勝して、家族一緒にまた暮らす。
自分は優勝しなければならない、怪我したからと言って立ち止まる訳には行かぬ。
「頑張れ……頑張るのよ、私」
自分に言い聞かせるが如く、何度も何度もみさえは同じ言葉を繰り返す。
彼女の歩んだ後には血が点々と続いていた。
【昼/E-4市街地】
【野原みさえ@アニメ/クレヨンしんちゃん】
[状態]精神に異常、左肩に擦過銃創、全身にダメージ、右上腕に盲管銃創
[装備]デトニクス スコアマスター(0/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、スコアマスターの弾倉(3)、自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター、モンキーレンチ(調達品)
[思考・行動]基本:優勝してひまわりを生き返らせる。
1:他参加者を捜し出して殺す。
2:しんのすけ、ひろし、シロはひまわりと一緒に生き返らせる。
[備考]※幾分落ち着いたようですが正常な思考は出来ません。
※ソフィア、呂車、虐待おじさん、北沢樹里の容姿のみ記憶しました。
※
第一放送を聞き逃しました。しんのすけ、シロの死を知りません。
※ノーチラス達から離れた場所に居ます。
最終更新:2015年02月22日 23:52