時間があれば、ね

42話 時間があれば、ね

稲葉憲悦は南部市街地を東に突き進んでいた。
エリアD-5から早々に脱出しなければならない、さもなくば文字通り「首が飛ぶ」。
タイムリミットは一時間、一時間は長いようで案外短いものだ。

「ん……? あれは……」

しかし、憲悦はここで足を止めてしまう。
見覚えのある人影を見付けたためだ。
懐中時計を取り出し時刻を確認する憲悦、まだ時間はある。
にやりと、鋭い牙を覗かせて笑みを浮かべた。

◆◆◆

「おい、寛子ォ」
「……!」

アゼイリア、狐閉レイナと一緒に、エリアD-5を抜けるべく歩いていた柏木寛子は、最も聞きたくない声を背後から聞く。
全身に悪寒が走った。
恐る恐る振り向くと、やはりと言うか、良く見知った顔がいた。

「……憲悦……!」
「おいおい、久々の再会だってのに、嬉しそうじゃねぇな? ククク」

いやらしい笑みを浮かべる人狼。
紛れも無く、柏木寛子を監禁凌辱している稲葉憲悦その人だった。
「嬉しそうじゃないな?」と言ってはいるが憲悦自身も分かってて言っているのだろう。
アゼイリアとレイナも、寛子から憲悦がどのような男かは聞かされていたため、警戒の視線を憲悦に送る。
それを知ってか知らずか、憲悦はちらっとレイナ、アゼイリアにも視線を送る。

「へぇ、お友達が出来たのか」
「……関係無いでしょ、あんたには」
「おいおい素っ気ねぇなあ、仮にも俺のチ*ポで毎日よがらせてやってんのによ。
……まあいいさ、今は余り長話出来る状況でもねぇしな」
「……禁止エリアね」
「そうだ。俺もお前も、首輪がぶっ飛んで死ぬのはイヤだろう?
もし時間があれば、もうちょっと『お話』したかったけどな……ククク」
「……っ」
「それじゃあ、この辺で俺は失礼するわ。寛子、今度はゆっくり『話せ』れば良いな……」

憲悦は寛子達三人が進んでいた道とは別の道路、方角で言うなら北方向へと走って行った。

「……あれが、柏木さんの言っていた稲葉憲悦さんですか」

アゼイリアが寛子に訊く。
寛子と人狼のやり取りを聞いていれば予想はついたがそれでも一応尋ねた。
寛子は無言で頷いた。

「確かに癖のありそうな人ね……」

続いてレイナが憲悦についての感想を述べた。

「……癖ってもんじゃないけどね……私達もさっさと行こ、時間無いし」

憲悦も去り、まだエリアD-5から出たかどうか分からない状況でいつまでも立ち止まっている訳にはいかない。
寛子達三人は再び町を東方向へ進んで行く。

◆◆◆

柏木寛子と再会出来たのは良かったが、タイミングが悪かったと憲悦は残念がる。
禁止エリアによる刻限さえなければ、無理矢理にでも寛子を奪取出来たかもしれないのに。

「……あいつと一緒にいた二人も中々良い女だったな……」

ただ、憲悦は寛子と一緒にいた若い女性と狐の女性にも興味がわいていた。

「またあいつと会えりゃ良いけど……まず最優先は自分の身の安全、だ」

禁止エリア予定区域から出るために、憲悦は北方向へと町を歩く。


【D-5/市街地/午前】
【稲葉憲悦】
[状態]健康、満足
[装備]ブローニング オート5(4/5)
[持物]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(10)、シグP210(7/8)、シグP210予備弾倉(3)
[思考]
基本:殺し合う気は無いが女の子がいたら犯す。寛子を捜す。
1:エリアD-5から退避する事を優先。
[備考]
※殺し合う気は無いものの殺人への抵抗は全くと言って良い程無いようです。
※アゼイリア、狐閉レイナの容姿のみ記憶しました。


【D-5/市街地/午前】
【柏木寛子】
[状態]首にロープの跡
[装備]ニューナンブM60(5/5)
[持物]基本支給品一式、.38SP弾(10)
[思考]
基本:死にたい。
1:憲悦には会いたく無い。死んで欲しい。
2:取り敢えず狐閉さん、アゼイリアと一緒に行く。D-5エリアから脱出する。

【狐閉レイナ】
[状態]健康
[装備]コンバットナイフ
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いから脱出したい。
1:柏木さん、アゼイリアさんと行動。D-5エリアから脱出する。

【アゼイリア】
[状態]健康
[装備]金槌
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。殺し合いから脱出する手段を探す。
1:狐閉さん、柏木さんと行動する。D-5エリアから脱出する。



041:めぐりあいバトロワ 目次順 043:生死と隣り合わせのスレチガイ
026:頭がパーン 稲葉憲悦 053:見張りの重要性とは
040:『これからの身の上』 柏木寛子 050:薄れる自暴自棄の心
040:『これからの身の上』 アゼイリア 050:薄れる自暴自棄の心
040:『これからの身の上』 狐閉レイナ 050:薄れる自暴自棄の心
最終更新:2013年04月05日 11:19