50話 薄れる自暴自棄の心
森を歩く三人。
柏木寛子、狐閉レイナ、アゼイリアは市街地を歩く事を避け森を歩く事にした。
市街地を避けた理由は、殺し合いに乗った参加者と遭遇する可能性を少しでも低くするため、だったが、
同時に殺し合いに乗っていない人とも会いにくくなると言うデメリットがあった。
もっとも三人はそのデメリットの事は余り考えてはいないようだったが。
狐閉レイナは首にはめられた首輪の事を考える。
自分は機械の知識はある方だ、この首輪も内部構造させ知ればどうにかなるのでは、と。
だがそれには、少なくとも首輪を手に入れて中身を調べなければならない。
首輪を手に入れるのはどうしたら良いか。
「狐閉さん?」
「……ん? 何? アゼイリアさん」
「あ、いや、ずっと無口だったものでどうしたのかなと」
「あー、いや、何でもないよ」
まだアゼイリアと寛子には首輪をどうするかについては話していない。
あくまで自分は「首輪を外せるかもしれない」と言うだけなので無駄に希望を抱かせたくないと言う、
レイナの気持ちからだった。
「それにしても、この森、ちょっと勾配があるのね……疲れる」
「私は平気ですけど、結構逃げる時とか走ったりするんで体力付きました」
「え? ああ……盗賊だったっけアゼイリアさん」
「……そう言えば、最近全力で走ったり山登ったりした事なんて無いなぁ」
「柏木さん……」
遠い目で寛子が呟く。
長い間、稲葉憲悦に監禁されていたため、激しい運動は出来なかった。
それでも身体のプロポーションは維持されているのは理由は不明だったが。
「……まあいいや、行こ行こ。どっかで休めれば良いけど」
物思いに耽るのを止め、寛子は足を再び前に進める。
狐閉レイナが遭遇した時よりは前向きな思考回路になっていた。
まだ心の中に薄暗い願望は残ってはいたが。
ダダダダダダダッ!
「「「!」」」
突然の掃射音。
周囲の土が抉れる、明らかに三人を狙った銃撃であった。
「走って!」
レイナが叫び、三人は一斉に駆け出す。
敵はどうやら機関銃系の銃器を持っているらしい、なれば立ち止まっているのは自殺行為だ。
走って逃げれば相手も狙いを付けにくいだろう、とレイナは考えた。
もっとも、複数の弾丸をまとめて発射されるとそれでも当たる確率は余り下がらないかもしれないが。
ダダダダダダダッ!
「ぐっ……!?」
寛子は足に激痛を感じ、その場に倒れ込んだ。
見れば、足が血塗れになっていた、撃たれたのだ。
「うぐああぁ!」
「柏木さん!」
「き、来ちゃ駄目!!」
駆け寄ろうとしたレイナとアゼイリアを、寛子は痛みに顔を歪ませながらも制止した。
「私はいいから早く行って!!」
「で、でも……」
「早く!!」
「……っ」
レイナは迷ったが、断腸の思いで、寛子を置いて行く事にした。
「行こう、アゼイリアさん」
「……」
アゼイリアは少しだけ寛子の方を振り向き、申し訳なさそうな表情を浮かべ、すぐに踵を返してレイナと共に先へ進んだ。
後には足を撃ち抜かれた寛子のみが残される。
足音が近づいてくる、きっと銃撃してきた下手人だろう。
やがて自分は蜂の巣にされて殺される。
思えばどうして二人に先に行けなどと言ったのだろうか?
別に道連れにしても良かったと言うのに。
「……まあ、久しぶりに、私の事本気で気遣ってくれたし……」
そう、狐閉レイナとアゼイリアは、赤の他人である自分に対し心から接してくれた。
両親でさえ、学校の同級生でさえ、やってくれなかった事をしてくれた二人だけでも生きて欲しかった。
自分の不幸を呪うだけだった寛子が、数時間と言う短い時間ではあるが、
自分に親切にしてくれる人間と一緒にいたおかげか、他人を気遣える心が持てるようになっていた。
「お仲間を逃がしたのか、中々感動モノだけどな」
「……」
下手人がやってきた。
白い狼獣人、狼と言うだけで、寛子は憎き相手稲葉憲悦を思い出し嫌な気分になる。
毛皮の色も体型も全く違うのだが。
狼獣人、フーゴは短機関銃、イングラムM10の銃口を寛子の頭部に向けた。
それを見た時、ああ、自分は本当に死ぬのだと、寛子は観念する。
腰の部分に自分の武器であるニューナンブリボルバーを隠しているがそれを取り出すよりも、
相手が短機関銃の引き金を引く方が早いだろう。
(ああ、不思議だわ……あれだけ死にたいと思っていたのに、今は……)
この殺し合いが始まった直後、寛子は自殺を図る程、死を望んでいた。自分の生を放り投げようとしていた。
だが、今は、心境に確かな変化が起きていた――生きたい。死にたくない。
(でも、もう……)
今更、生を渇望するようになっても、もう手後れだと、寛子は後悔にも似た気持ちを抱く。
そしてフーゴは、イングラムM10の引き金を引いた。
……
「……あ?」
フーゴが面食らう。
引き金を引いた筈なのに銃弾は放たれない。
まだ弾は残っている筈。
不発か?
それとも故障か?
「……っ!」
予想だにしなかった好機、これを逃す手は無い。
寛子はスカートの腰の部分に差し込んでいたニューナンブを取り出し、無我夢中で白狼獣人に向け発砲した。
ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!
「がぁ、あ……!」
シリンダー内の五発の銃弾を全て、白狼獣人の胸と首に撃ち込んだ。
フーゴの白い毛皮がたちまち赤く染まり、その場に崩れ落ちる。
「ちく、しょう……ツイて、ねぇ、ぜ……」
悔しそうに言うと、次の瞬間、どさりとフーゴは地面に倒れ、そのまま二度と動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……これで、私、人殺しだわ……」
やむを得なかったとは言え、殺人を犯してしまった事に、寛子は少なからずショックを受ける。
だが、同時に、自分の死の危機を乗り越えた事に喜びを覚えた。
「あは、あははははっ……」
その喜びを抑えきれないと言ったように、寛子は笑い声をあげた。
「柏木さん!」
「え……」
聞き覚えのある声に顔を声の方へ向けると先へ行かせた筈のレイナとアゼイリアが来ていた。
「何だ戻ってきちゃったの……」
「ご、ごめんなさい、やっぱり放っておけなくて……でも、これは……」
レイナが白狼獣人の死体を見て言う。
寛子の傍に倒れ死んでいる白狼獣人が自分達を襲った犯人であり、
そして白狼獣人を倒したのが寛子であると言う事はレイナとアゼイリアの二人も何となく予想は出来た。
「殺されそうになったんだけど……何か、相手の銃がトラブったっぽくて、何か、私が勝った」
「そうなの、よ、良かった……柏木さん無事で良かった」
「足、凄い血が出てますね……手当しないと、でも道具が何も……」
アゼイリアが寛子の足の傷を診察する。
せめて止血するために布か何かを巻いた方が良いのだが。
「歩ける? 柏木さん」
「まあ、手を貸してくれれば一応……んでさ、狐閉さん」
「ん?」
「……寛子で良いよ、今更だけど」
「あー……分かった寛子、んじゃ、私もレイナで良いよ」
「あ、あの、私もアゼイリアでさん付はしなくて良いです」
「おーけー。ああ、アゼイリアも寛子で良いや、敬語じゃなくてもいいし」
「はい、あ、う、うん」
寛子はアゼイリアの手を借りてどうにか立ち上がり、
白狼獣人の所持品はレイナが回収した。
短機関銃の他にも拳銃が二丁、銃剣や針金、ニッパーもあり、
この白狼獣人に何人かの参加者が犠牲になったのであろう事を示していた。
武器は後で分配する事にして、三人は先へ進み始めた。
「……ありがとう」
「え?」
「?」
「二人共、戻ってきてくれて、嬉しかった」
【フーゴ 死亡】
【残り20人】
【E-4/森/昼】
【柏木寛子】
[状態]首にロープの跡、右足に銃創(出血多し)
[装備]ニューナンブM60(0/5)
[持物]基本支給品一式、.38SP弾(10)
[思考]
基本:死にたいとは思えなくなってきた。
1:憲悦には会いたく無い。死んで欲しい。
2:寛子とアゼイリアと行動。
[備考]
※かなり前向きな思考になってきたようです。
【狐閉レイナ】
[状態]健康
[装備]コンバットナイフ
[持物]基本支給品一式、イングラムM10(20/40、不発弾を排出する必要あり)、イングラムM10予備弾倉(2)、
針金、ニッパー、三十年式銃剣、ベレッタM92FS(12/15)、ベレッタM92FSの弾倉(3)、
S&W M3ロシアンモデル(4/6)、.44ロシアン弾(6)
[思考]
基本:殺し合いから脱出したい。
1:寛子、アゼイリアと行動。寛子の傷を手当したい。
2:首輪を調べたい。
【アゼイリア】
[状態]健康
[装備]金槌
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。殺し合いから脱出する手段を探す。
1:レイナ、寛子と行動する。
最終更新:2013年04月09日 01:44