DISSIDENTS

44話 DISSIDENTS

結論から言うと、ユルゲンと長嶺和歌子はほとんど移動していなかった。
と言うより二人が遭遇した図書館を一旦は出発したが結局戻ると言う、
意味の無い事この上無い行動を取ったりしていた。

「ユルゲンさん」
「何?」
「何じゃないですよ、私達ほとんど何もしてませんよ! 無駄に時間潰してるだけじゃないですか!」

怒り口調で和歌子がユルゲンに言う。

「まあ確かに……でも、危ない目にも遭ってないし良いだろ?」
「いや、そうですけど……でもユルゲンさん脱出したいって言ってたじゃないですか。
なら仲間を探すとかそう言う事した方が良いと思うんですけど……それにこれから先も安全とは思えませんし」
「分かってるって……しかし、どうしたもんかね」

ユルゲンも何かしなければいけないという事は分かってはいるが、有効な手段が思い浮かばなかった。
17人も死んでいるこの殺し合い、いつまでもぶらぶらしている訳にはいかない。
そう分かってはいるのだが。

「!」

思考を巡らせている時、ユルゲンの耳は図書館入口の方からの音を拾った。
自動ドアが開く音、足音。
誰かがやってきた事を意味していた、和歌子が図書館にやってきた時のように。

「和歌子ちゃん、誰か来たみたいだ」
「え? 私には何も聞こえませんでしたけど……」

ハイエナ獣人であるユルゲンの聴覚は人間の和歌子よりも鋭い。
和歌子には入口からの音は聞こえていなかった。

「隠れて」
「え? どうして……」
「いいから!」

いきなり真剣な様子で言われたため和歌子は少し面食らったが、おとなしく言う通りに、
図書館の奥の方へと隠れる事にした。

しばらくして、ユルゲンの元に進入者がやってきた。
灰色の狼獣人の女性。
右手には鋏と思しき物を持っている。
女性はユルゲンのいでたちに少し驚いたようだが、すぐに気を取り直したようで、
どこか虚ろな目でユルゲンの顔を見据える。

「……や、やあ」

取り敢えず挨拶するユルゲン。
しかし女性は返答もせず鋏をユルゲンに向けて突き出す。

「……おいおい、やる気になってるのか」
「……」
「無言……は、肯定と取るけど?」
「……」
「答える気無し、か、そうですか」

ユルゲンは溜息をつくと、腰のベルトに差していた村田刀を引き抜いた。

「悪いけど、俺もやられる訳にはいかないからさ」

村田刀の切っ先を、女性へ向ける。
その時のユルゲンの顔は、ついさっきまで和歌子に向けていたそれとは全く異なり、
鋭い眼光、冷酷な色を湛えていた。

「う、あぁあああぁああああああ!!」

そして、女性が突然に鋏を振り上げ、叫び声をあげながらユルゲンに向かって突進した。

「悪い」

その突進してきた女性を、ユルゲンの刀の斬撃が薙ぐ。
腹を斬り裂かれ、大量の血が噴き出し床に飛び散る。
ズタズタになった内臓が飛び出し、溢れ出す。

「あっ……があ、ごぼっ、ごぼっ、お……!」

苦痛に顔を歪ませ、口から赤い液体を吐き出し、狼女性は床に崩れ落ち、
ビクンビクンと身体を痙攣させる。
このまま放っておいても女性はもう助からないだろうがそれだけ苦しみは長引く事になる。
ユルゲンはせめてもの慈悲、と、女性の首に向けて村田刀を振り下ろした。

女性の首が飛び、床に転がりごとりと鈍い音を響かせる。
カランと、金属音も響く、女性の首輪が床に堕ちて転がった音だ。
女性の首を失った肉体はまだ痙攣こそしていたが、もう自力で動く事は二度と無かった。
図書室内に血の臭いが充満し、人によっては吐き気を催すような惨憺たる状態になってしまう。

「……うっ……」

ユルゲンに命じられ図書室の奥に隠れていた和歌子は濃密な血臭に、吐き気を催してしまっていた。
何が起きたのか気になり、奥から出て来た和歌子が見たものは、
血だまりの中に倒れる、首と胴体が離れた狼獣人の女性の死体と、
血に濡れた抜き身の刀を持ったユルゲンの姿であった。

「ひぃっ!」

惨状を見た和歌子は思わず悲鳴をあげてしまう。

「……和歌子ちゃん」
「ゆ、ユルゲンさん……な、何があったの?」

ぶるぶると震えながらも、和歌子はユルゲンに事の顛末を尋ねる。
ユルゲンは淡々と、返答した。

「この人が俺を殺そうとしたんだ、話を聞いて貰えるような感じじゃなかったし危なかったから、殺した」
「……」

経緯を聞かされた和歌子は沈黙する。
彼女は、年に不釣り合いな程淫乱ではあるが、それ以外は普通の小学生の少女なのだ。
いきなり殺し合いに放り込まれ、そしていきなり惨殺死体を目撃し、その下手人が自分の同行者だと言う、
現実を叩き付けられて、どう考えてどう発言しどう動けば良いかなど、すぐに答えが導き出せる筈も無かった。

「……一応、言い訳付け加えておくと、和歌子ちゃんに害が及ぶかもしれなかったから。
なんか、こういう言い方すると『君のためにやったんだぞ』って押し付けるみたいになるけど、別に、
そんなつもりは無いから……」
「……」
「……」

気まずい空気が二人の間に流れ、互いに無言になってしまう。
それが30秒程続いたが口火を切ったのは、和歌子だった。

「わ、私を守ってくれたんですね、あ、ありが、とう、ございます……」
「……」

和歌子はユルゲンが自分の目の前で殺人を犯した事を気にしているのだと思い、
彼女なりにユルゲンの事を気遣って発言した。
実際に、ユルゲン自身、幼い子供の前で惨殺死体を作り上げてしまった事に若干負い目を感じていたが、
それで小さな女の子に気を遣わせてしまった事に強い罪悪感を感じてしまう。
冒険者であるユルゲンにとって殺人行為は初めてでは無かったが、
幼い子供に励まされるといった事は生まれて初めてだったので、少し動揺した。

そして、ユルゲンと和歌子は図書館を後にする事にした。
斬刑に処した狼女性の首輪を、ユルゲンは持っていた。
何かの役に立つだろうと踏んだためである。


【杉下愛美  死亡】
【残り25人】


【F-3/図書館周辺/早朝】
【ユルゲン】
[状態]若干の返り血
[装備]村田刀
[持物]基本支給品一式、杉下愛美の首輪
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。脱出したい。
1:和歌子ちゃんと行動。

【長嶺和歌子】
[状態]健康
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、ミロクSP-120(2/2)、12ゲージショットシェル(10)
[思考]
基本:殺し合いはしない。死にたくない。
1:ユルゲンさんと行動。


043:生死と隣り合わせのスレチガイ 目次順 045:初体験(殺害的な意味で)
012:心の清らかな変態……違和感凄いぞ 長嶺和歌子 052:赤い道標に誘われて
012:心の清らかな変態……違和感凄いぞ ユルゲン 052:赤い道標に誘われて
020:免罪符 杉下愛美 死亡
最終更新:2013年04月04日 11:31