45話 初体験(殺害的な意味で)
鐘上真生は市街地を歩いていた。
自分がいる近辺は恐らくエリアF-2であろう、エリアF-2は禁止エリアに指定されている。
早々に避難する必要があると、真生は足を早めていた。
何しろ地図上では線引きされてはいるが実際はどこからどこまでが何エリアか分かるようにはなっていない。
自分が今、F-2エリアにいるのかどうか、それとももう離れているのか分からない以上、とにかく歩くしか無いのだ。
「とにかく南の方に歩いておきゃどうにかなるだろ……」
ひたすら南の方向に歩く真生。
しかし、途中、交差点を通りかかった時、銀髪の犬耳尻尾を持った女性と鉢合わせとなった。
「うおっ」
「あっ……」
突然の遭遇に真生も相手も驚いた。
だがすぐに戦闘態勢に入る、先手を打ったのは女性――マリア・ベーラヤ。
持っていた小銃の銃口を真生に向け引き金を引こうとした。
「ぐっ!」
真生は咄嗟に小銃の銃身を掴み明後日の方向に向けた。
直後、銃声と共に銃口から銃弾と黒煙が飛び出す。
その銃弾は、真生の後方十数メートルにあった建物の看板に命中した。
「このアマ!」
「《放しなさいよ!》」
「あ!? なんだって!?」
装備したスナイドル銃の自由を封じられ、余裕が無かったのか、マリアは母国語のロシア語で真生をなじる。
しかし、真生はロシア語など理解出来なかった。
出来たところで素直に言う事を聞く筈も無かったであろうが。
マリアの持つスナイドル銃は一度発砲すると、銃身後部のブリーチを開いて空の薬莢を取り出し、
新しい弾薬を装填しブリーチを閉じ撃鉄を起こさなければ次の発砲が出来ない単発式の小銃。
つまりは真生が銃身を掴んでいる限りそれは難しい。
「《放せって言ってるの!!》」
「いってえ!」
業を煮やしたマリアを真生に思い切り蹴りを放った。
だがそれは逆効果となった。
「オラァ!」
「ぎゃっ……!」
逆上した真生がマリアの腹目掛けて蹴りを入れる。
鍛えている訳ではないが、男性である真生の力は女性のマリアよりも強く、マリアはたまらず地面に倒れる。
その際、手からスナイドル銃がすっぽ抜け、銃身を握っていた真生の手に渡る事となった。
真生はもう片方の手でスナイドル銃の銃把部分を握り、銃床でマリアの顔面を殴り付けた。
「ぎいっ!」
小さな悲鳴があがり、マリアの鼻から大量の血が溢れ出る。骨折したかもしれないがそんな事は真生には関係無かった。
悲鳴があがろうが、女性の鼻が砕けようが、何度も何度も、殴打を繰り返した。
「《や……メ……》」
顔が直視出来無い程になった頃、掠れた声で、マリアは命乞いをした。
それに対する真生の答えは、止めの一撃。
一際鈍い音が響き、マリアは二度と声を発する事は無くなった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」
真生の呼吸は乱れきっていた。
生まれて初めて人を殺したのだから無理も無い。
殺し合いに乗った以上いつかは殺す事になるとは思っていたが実際に行うとやはり、違う。
妙な興奮、高揚感、罪悪感、後悔、色々入り交じった複雑な感情が沸き起こる。
これでもう後戻りは出来ないのだと、鐘上真生は実感した。
「……急がねぇと」
まだエリアF-2から脱出したかどうか分からない、もたもたしてはいられない。
真生は女性の所持品を漁り、小銃の弾薬と、手榴弾を回収した。
放送前の交戦で武器を失い、先に隠れていた民家で包丁を調達してはいた。
もっとも女性との争いでは包丁を出す暇さえ無かったが。
小銃と手榴弾の心強さは、包丁など比較にならない。
装備をスナイドル銃に切り替え、真生は再び南下を始めた。
【マリア・ベーラヤ 死亡】
【残り24人】
【F-2/市街地/午前】
【鐘上真生】
[状態]右肩に矢傷(応急処置済)、精神的ショック(大)
[装備]スナイドル銃(0/1)
[持物]基本支給品一式、.577スナイドル弾(9)、RGD-33手榴弾(2)、出刃包丁(調達品)
[思考]
基本:皆殺しにして優勝する。
1:あのライオン野郎(ウラジーミル・コスイギン)は次会ったら絶対に殺す。
2:紫竜(エマヌエル)は次会ったら逃げる。
3:南へ行き、F-2から避難する。
[備考]
※ウラジーミル・コスイギン、福島愛沙、エマヌエル、成沢由枝の容姿のみ記憶しました。
※初めて殺人を犯し、精神的にかなりショックを受けていますが余り自覚していません。
最終更新:2013年04月08日 01:13