赤い道標に誘われて

52話 赤い道標に誘われて

市街地を歩いていたユルゲンと長嶺和歌子は、民家の中に血の跡が続いているのを発見する。
既に乾いてはいたがそう古いものでもなさそうだった。

「誰かいるのかな?」
「血の跡って事は少なくとも怪我してるって事だしな……調べてみようか」

二人は民家の中に入り血痕の招待を調べる事にした。
ユルゲンは内部に危険人物がいた時の事を考え和歌子を外で待たせようとも思ったが、
離れ離れになるのはそれこそ危ないと思い止まった。
玄関を潜ると、血の跡は奥へと続いていた。
それを、慎重に辿っていく二人。
そして血痕が続く部屋をユルゲンが覗き込む。

「!」

やはり人がいた。厳密には人ではなく、マンティコアと思しき魔獣が。
全身に怪我を負い、左腕が無い。目も片方潰れているように見える。
横になっているが、死んでいるのか生きているのか判断出来なかった。

「和歌子ちゃん、ここにいて」
「は、はい」

流石に家の中でなら大丈夫だろうと、ユルゲンは和歌子を廊下に待たせ部屋に入る。

「……」

横になったいるマンティコアの呼吸を確かめるユルゲン。
呼吸はしている、眠っているだけのようだ。
起こして会話を試みるべきか、それとも起こさないようにしてここを出るか。
とは言っても出る途中でこのマンティコアが目覚めたら会話なりなんなり試すしか無いのだが。

「うっ……ん……」
「あっ」

ユルゲンがどうするか決める前にマンティコアは起きてしまった。

「ん……ぁあ!?」

マンティコアはユルゲンの姿を見て驚いたようだった。
恐らくずっと一人でいたのだろう、それ故目覚めたらいきなり現れた全裸のハイエナ男に驚いたようだ。

「《誰だ!? 誰!? いつの間に……》」
「え? 何て言ったの?」

狼狽するマンティコアの口から出たのは彼の母国語であるロシア語。
ユルゲンはロシア語など理解出来ない。
マンティコアはそれを察したのか、ユルゲンに分かる言語で喋る。

「誰? いつの間にいたの……?」
「ん? ああ、ごめんごめん、血の跡がこの家の中に続いていたもんだから気になって」
「血の跡……? ああ……」
「結構な怪我だが、大丈夫か? あ、俺はユルゲン。んで廊下にいる幼女は長嶺和歌子ちゃん」
「ど、どうも」

部屋の入口から少し顔を出して、和歌子がマンティコアに挨拶した。

「俺は、ウラジーミル。ウラジーミル・コスイギン……この怪我は、手榴弾投げられて……。
一緒にいた人がいたけど、死んでしまいました」
「そうか……災難だったな……」
「……ユルゲンさんでしたっけ? それと、和歌子ちゃん、君達は殺し合いには乗って、ませんよね?」
「ああ」
「乗ってません」
「そうか良かった……俺も乗ってません。怪我して、この家に寄って、手当して横になってる内に、
寝てしまったみたいです……」

ユルゲンは改めてウラジーミルの身体の状態を見る。
右目が潰れ左腕は肘から先が無くなり身体中に裂傷。
本来なら絶対安静が必要な程の重傷なのは明らかだった。
出血量も相当なものだった筈、点々と続いていた血痕も納得出来る。

「しかし、血痕が目立ち過ぎるな。俺達みたいにまた誰か来るかも。
そいつが殺し合いに乗ってないとは限らないし……もう血は止まってるか?」
「一応……動くと痛いですけど」
「酷だと思うが、移動した方が良いと思うぞ」

ユルゲンと和歌子は外から家の中に続いていた血痕を辿ってウラジーミルを発見した。
同じように殺し合いをやる気になっている参加者が血痕を辿ってやって来るかもしれない。
ウラジーミルは無闇に動かさない方が良いと言うのはユルゲンも分かっていたが、
ずっとこの家に置くのはそれも危険だと言う事も分かっていた。
そしてその事はウラジーミル当人も理解する。

「そうです、ね……」
「裏口から別の民家に行こう。和歌子ちゃん、大丈夫だから、手伝ってくれないか」
「分かりました」

ユルゲンと和歌子はウラジーミルを別の民家まで連れて行く事にした。



【E-3/変電所周辺の市街地/昼】
【ユルゲン】
[状態]若干の返り血
[装備]村田刀
[持物]基本支給品一式、杉下愛美の首輪
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。脱出したい。
1:和歌子ちゃんと行動。ウラジーミルを安全な民家まで連れて行く。

【長嶺和歌子】
[状態]健康
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、ミロクSP-120(2/2)、12ゲージショットシェル(10)
[思考]
基本:殺し合いはしない。死にたくない。
1:ユルゲンさんと行動。ウラジーミルさんを安全な民家まで連れて行く。

【ウラジーミル・コスイギン】
[状態]右目失明及び左腕肘から先喪失さらに全身に細かい破片による傷(全て応急処置済)、疲労(大)
[装備]クロスボウ(0/1)
[持物]基本支給品一式、クロスボウ予備矢(10)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:生きていれば良い事はある、きっと……。
2:ユルゲンさん、和歌子ちゃんと行動。
[備考]
※福島愛沙を襲っていた男(鐘上真生)の容姿を記憶しました。


051:なりを潜める欲求 目次順 053:見張りの重要性とは
044:DISSIDENTS ユルゲン 059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達
044:DISSIDENTS 長嶺和歌子 059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達
047:ひとりぼっちだと色々考えてしまう ウラジーミル・コスイギン 059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達
最終更新:2013年04月10日 00:21