血霧の向こう

56話 血霧の向こう

第二回放送前、福井知樹ら三人は森の中で蒲生重勝、神楽坂雪子の二人と遭遇した。
その際、大人数で行動する事を避け、別々のルートを行き図書館において合流しようと言う事になった。
結果、第二回放送直前に、図書館には知樹達が先に到着する事となる。
そしてそのままそこで放送を聞いた。
生き残っているのは自分達を含め20人になった。
八時間前までは50人いたと言うのに、たった八時間で30人死亡したと言う事になる。

図書館の読書室には、知樹達が来た時、死体があった。
腹を斬り裂かれた上に斬首された、凄惨極まり無い死体。
死体との遭遇は二回目だったのでそれ程衝撃は少なかった、と言う事は無かった。
なぜなら最初の死体は首吊り死体で外見の損傷はそれ程では無かったが、今度の死体は違う。
在羽は吐き気を催してしまい、知樹とエリノアが死体を片付け、と言うより図書館の奥の倉庫まで運んだ。
床には生々しい血の痕が残った。

「蒲生さん達は大丈夫でしょうか」

エリノアが合流の約束をした蒲生と神楽坂の二人を心配する。

「放送で名前は呼ばれなかったんだから、まだ生きてはいると思うけどな」
「本当、無事だと良いけれど……」

知樹も在羽もエリノアと同様の気持ちだった。

◆◆◆

鐘上真生は図書館の裏口にやって来ていた。

放送で、生存者は自分を含め20人にまで減っている事を知り、
このまま上手く行けば、自分が優勝するのも夢では無い、真生はそう考えていた。

「ここまで生き残ったんだ、絶対に死なねぇぞ!」

30人も死んでいる中生き残っている自分はきっと幸運に違いない。
ここまで来て死んでなるものかと、真生は思う。
確かに幸運だったかもしれない、ただ。

「ねぇ、君」
「ん?」

幸運がいつまでも続くとは限らない。
声を掛けられた真生が振り向くとそこには見覚えのある紫竜の姿が。
真生の顔が一気に青ざめる。

「あ、あ」
「そんな反応するって事は俺の事覚えていてくれたんだね。
頭を殴ってくれちゃってさ。あ れ は い た か っ た な ぁ 。」

満面の笑みを浮かべる紫竜。
笑みとは裏腹に明確な殺意を全身に感じた真生はすぐに逃げようとした。
だが、紫竜が真生の頭を掴みそれを許さなかった。

「ぎゃっ」

次の瞬間には、真生は建物の壁に頭を叩き付けられ、その中身をぶちまけて死んだ。
白い図書館の壁が赤く染まり、べっとりとピンク色の肉片が付着しずり落ちていく。

「ああ、もうちょっと待った方が良かったかな、じっくり苦しませてからでも良かったかもしれない」

すぐに殺さず、もっと長く痛みを与えてからでも良かったと、エマヌエルは思ったがもはや後の祭り。
仕方無く諦め、真生の所持品を漁り、目ぼしい物を回収する。

「図書館の中、誰かいるかな」

そして真生が入ろうとしていた図書館の中へ足を進めた。

◆◆◆

「……今、何か聞こえなかった?」

在羽が何かの音を聴きその事を他の二人に知らせる。
しかし在羽にも、その音は何なのか良く分からなかった。

「何の音? どっから?」
「ええと、何の音かは分からないけど、裏の方から、かな……?」
「……見に行ってみるか在羽。エリノアはここにいてくれ」
「ええ? みんなで行った方が……」
「万が一の時全滅を防ぐためだ」
「……分かりました」

音の正体と出処の確認には在羽と知樹が向かう事になった。
どうか無事で帰ってきて欲しいと、エリノアは願う。

様子を見に行った知樹と在羽が見たものは、ガラスが割られた裏口の扉。
ガラスを割って鍵を開け、誰かが侵入したらしい。
この図書館に来た時には裏口のガラスは割られていなかった。
二人に緊張が走る。

「おいおい、どこかにいるって事だろ、これ……」
「エリノアさんの所、戻った方が良いかも、一人にさせちゃってるし……」
「ああ」

一人で待たせているエリノアの事が心配になった二人は一旦戻る事にした。

しかし、通路の扉が突然に開く。
中から、紫の竜人が出て来た。
右手にはライフルらしき物を持っている。

「! だ、誰だ……?」

知樹が身構えつつ、紫竜に尋ねる。
先程の裏口の一件で侵入者がいる可能性があるとすれば恐らくこの紫竜が一番可能性が高い。
しかしまだ確証が無いため、知樹は出来るだけ冷静にコンタクトを試みる。

「ああ、やっぱり人がいたか……」

しかし紫竜は知樹の問いかけには答えない。
不気味な笑みを浮かべるに留まった。

「……裏口のガラスを割って入ってきたのはあなた?」

今度は在羽が問いかけを行う。

「そうだよ」

そして今度は紫竜は問いかけに答えた。
これで裏口からの侵入者は特定出来たが、次なる問題はこの紫竜のスタンス、つまり殺し合いに乗っているかどうか。
その答えはすぐに紫竜本人によって導き出される。

紫竜が持っていたライフル――スナイドル銃の銃口を二人に向けた。
本来なら両手で構える物を銃把の部分を右手で持ちピストルのように構えて。

ダァン!!

「あ……?」

放たれた銃弾は、在羽の心臓と背骨を撃ち抜いた。
在羽は大げさに悲鳴をあげる間も無く、その場に崩れ落ち血溜まりを作って死んだ。

「在羽? ある、ば?」

突然の事に、知樹が事態を理解するのに、少し間が開いた。
そして、何が起きたか飲み込んだ直後、知樹は我を失った。

「テメエェエエエエエェエエエエエエエエエエエ!!!!」

持っていたコルトパイソンを、紫竜に向け、引き金を――引けなかった。
引き金を引こうとした刹那、銃ごと構えた両手を、紫竜の右手が払う。
その衝撃は、知樹が吹き飛ばされる程で当然銃も床に落としてしまった。

「があっ! こ、のぉ……!」

吹き飛ばされた際に壁に叩き付けられ全身を強打し、激痛で上手く立ち上がれない知樹。
紫竜はスナイドル銃を放ると、自分のデイパックに手を突っ込み、ある物を取り出す。
それは彼自身の支給品、青竜刀。

「安心しなって、すぐに彼女の元へ送ってあげるよ」

そう言って、紫竜は青竜刀を片手に知樹の元へ歩み寄る。
知樹は落としたコルトパイソンを拾おうと必死に目で探したが、無情にもそれは紫竜の向こうだった。
身体中の痛みで立ち上がる事もままならない。
もはや、万策尽きた。

「くそっ、ちく、しょう……うおおおおおああああぁあああああああアアアアアアアアアアアア!!!!」

彼の最期の叫びは、彼の首が斬り飛ばされるその瞬間まで続いた。
鮮血が廊下、そして紫竜――エマヌエルに降り掛かり、赤く染めた。
図書館裏口付近にいた男を含めこれで三人目、やはり図書館には人が集まっているようだと、
エマヌエルは思う。

「他に誰かいるかな?」

この図書館に他に参加者がいる可能性は高い。
いつまでも殺人の余韻に浸っていないで早々に次を探そう。
そう考えたエマヌエルの耳に、近づいてくる足音。
自分の後ろからだ、そして振り向く。

エマヌエルの喉を、十文字槍の穂先が刺し貫いた。

「ウッ……ガァ……」

喉の奥から鉄錆味の液体が溢れ、首からひゅーひゅーと、空気の漏れる音も聞こえる。
エマヌエルは槍の穂先を引き抜こうとしたがもう力が入らず、
例え引き抜けた所でもはや手後れだろう。
槍を持つのは、際どい格好をした銀髪の美女。

(ああ、こんな美人に、俺は殺される、のか……)

遠のく意識の中、エマヌエルは自分を討った美人の姿を目に焼き付けた。

紫竜が倒れ、もう起き上がる様子は無い事を確認したエリノアは、
物言わぬ屍と化した知樹と在羽の元へ歩く。

「まさかこんな事になってしまうなんて……あの時、やっぱり無理にでもついていくべきだった……」

同行者を一気に失い一人になってしまったエリノア。
知樹と在羽を死なせない事も出来たはずだと、悲しみ、自分を責めた。


【鐘上真生  死亡】
【村上在羽  死亡】
【福井知樹  死亡】
【エマヌエル  死亡】
【残り16人】



【F-3/図書館/日中】
【エリノア】
[状態]健康、悲しみ
[装備]十文字槍
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いはしない。
1:……。
2:図書館で重勝、雪子と合流。



055:デスカウントコンビネーション 目次順 057:叶えられない欲求
051:なりを潜める欲求 福井知樹 死亡
051:なりを潜める欲求 村上在羽 死亡
051:なりを潜める欲求 エリノア 059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達
045:初体験(殺害的な意味で) 鐘上真生 死亡
046:無垢とも言える欲求、それに晒された少女の末路 エマヌエル 死亡
最終更新:2013年04月10日 00:21