48話 思い出した時にはもう手後れ←よくある事
どうにか森を抜けて市街地へとやってこれた、添津武吉と南遊里。
遊里も、無理は禁物ではあるがだいぶ動けるようになっていた。
「大丈夫か?」
「はい、おかげさまでもうだいぶ楽になりました」
「それなら良かった。さて……殺し合いに乗っていない人に出会えると良いんだが」
殺し合いに反抗する参加者を捜し、仲間を集める。
これが武吉と遊里の当面の目的であった。
遊里がかつての同行者より聞いた「狐閉レイナ」の捜索も兼ねている。
ただ、第一回放送から既に二時間程経過しているため、新しい死者が出ているだろう。
その中に狐閉レイナが含まれていない事を二人は願う。
「だが、人捜しの前に武器を確保しないといけないな。ゴボウと医療キットではいざと言う時何も出来ん」
「ああ、確かにそうですね……」
「どこかに金物屋か、スポーツ用品店でもあれば……」
二人はまともな武器を持っておらずいざと言う時に自分の身を守る手段が皆無に等しい。
せめて刃物、鈍器の類は欲しい所だった。
武器を探し始める二人、だが、不意にその足が止まる。
「あれ……添津さん、人がいます」
「何?」
遊里の指差す先には、学生服姿の青猫獣人の少年と、兎獣人の女性がいた。
遠目で分かりずらいが二人共銃器を所持しているようだ。
殺し合いに乗っているのか、いないのか。
向こうの二人はこちらに背を向けておりまだ気付かれてはいないらしい。
「どうします? 話しかけてみますか?」
「だが、殺し合いに乗っている可能性があるしな……」
「でも、殺し合いに乗っているなら、複数で行動したりしますかね?」
「むぅ……」
「……あれ、あの猫の子って」
遊里は、青猫少年に既視感を感じた。
誰かに似ている、誰だったか。
それを思い出す前に、青猫少年と兎女性が、武吉と遊里の方に顔を向ける――――気付いたのだ。
「あ……」
青猫少年の顔を見て、ようやく遊里は思い出した。何故、忘れてしまっていたのだろう。
あの少年は紛れも無く、座礁客船で自分とその時同行していた竜錬アイを襲った少年、石清水成道ではないか。
「添津さん、あの猫の子、私が話した石清水君です!」
「何!? ……!」
武吉が瞠目した。成道の隣の兎の女性が持っていたライフルと思しき銃を、武吉と遊里の方に向けたからだ。
ダァン!!
一発の銃声が市街地に鳴り響く。
「きゃ!」
「くっ」
幸いにも、当たりはしなかったが、その一発は、成道の隣の兎女性が自分達に対し敵意を持っている事を証明していた。
成道の事は武吉も遊里から話を聞かされその危険性は把握している。
こちらはろくな武器を持ち合わせていないが向こうは二人共銃を持っている。
圧倒的不利、ここは逃げるしか無い。
「逃げるぞ!」
「はい!」
武吉と遊里が駆け出した。
だが。
成道の持つ機関拳銃の銃口は確実に二人を捉えていた。
ダダダダダダダダダッ!
掃射音が響き、武吉と遊里の身体から血が噴き出す。
そのまま二人は地面に倒れ込んだ。
それでも逃げようともがくが、銃弾に身体を貫かれた激痛によりそれもままならない。
特に、やっと前撃たれた傷の痛みが消えかかったばかりの遊里は深刻で、とても動ける状態では無かった。
「うっ、ぐ……!」
「あぁ! い、痛い、痛いい!」
苦しむ二人の元に、猫少年、石清水成道と兎女性――ソフィアが歩み寄る。
成道が遊里に、ソフィアが武吉に、それぞれ銃口を向けた。
「……! よ、せ……やめ……」
まず最初、武吉の心臓がソフィアの自動小銃で撃ち抜かれた。
武吉は目を見開いたまま呆気なく絶命した。
「……南さん、また会いましたね」
「嫌だ、嫌あっ、せ、せっかくここまで、あ、あ」
遊里は完全に恐慌状態に陥り、成道の話など聞いていない。
大粒の涙を流し必死に逃げようとするが身体は言う事を聞かない。
あの時、座礁客船で大怪我をして、しかしそれでもここまで生き延びてこられたのに、結局、成道に殺されるのか。
その現実を、遊里は認めたくなかった。
だが、本人が認めずとも、現実は容赦は無い。
「あなたが逃げた後、あなたと一緒にいた竜錬さんは俺が殺しましたよ」
「ひい、いいい……!」
「そして今、あなたも俺の手に掛かって、死ぬ」
「嫌、嫌嫌嫌嫌いやいやいやぁ! 殺さないで殺さないでぇ……! 死にたくないぃい……!! やだぁああ!」
「……さようなら」
掃射音と共に、遊里は蜂の巣となり、怪我で赤く染まったナース服はほぼ完全に真っ赤になった。
内臓をズタズタにされ顔にも複数穴が空き、どす黒い血がアスファルトの上を伝い、南遊里はただの有機物と化した。
大粒の涙を流し、最期まで命乞いをしたその死に様はお世辞にも綺麗では無いだろう。
綺麗な死に様と言うのも少し妙かもしれないが。
「知り合いだったの?」
「……この殺し合いで初めて会った人だよ。正確にはこの人と、もう一人。そのもう一人は俺がこの殺し合いで初めて殺した奴」
「ふぅん……しっかし、順調じゃんこれぇ、同盟組んで正解だったねぇ」
「……そうだな」
「もうしばらくこの辺歩いてみようか」
「ああ」
成道とソフィアは、撃ち殺した二人の荷物を調べ役に立ちそうな物が無い事を確認すると、他参加者捜索に戻った。
無残な死体が二つ、路上に放置されたまま、血臭を辺りに立ち込めらせる。
石清水成道、ソフィアの二人の、血塗られた道はまだ続く。
【添津武吉 死亡】
【南遊里 死亡】
【残り21人】
【E-5/市街地/昼】
【石清水成道】
[状態]健康
[装備]モーゼルM712シュネルフォイヤー(0/20)
[持物]基本支給品一式、モーゼルM712シュネルフォイヤー予備弾倉(4)、特殊警棒、自転車のチェーン
[思考]
基本:死にたくはないので、殺し合いに乗る。
1:ソフィアと同盟。最後の二人になったらソフィアとやり合い優勝者を決める。
2:南部市街地で禁止エリアに注意しつつ、しばらく参加者の捜索。
【ソフィア】
[状態]健康
[装備]SVT-40(5/10)
[持物]基本支給品一式、SVT-40の弾倉(3)、ブッチャーナイフ
[思考]
基本:優勝狙い。
1:成道と同盟。最後の二人になったら成道とやり合い優勝者を決める。
2:南部市街地で禁止エリアに注意しつつ、しばらく参加者の捜索。
最終更新:2013年04月07日 10:55