神社での出会い

49話 神社での出会い

イェレミアスは市街地を離れ、森の中の神社を訪れた。

「ここまで来れば、禁止エリアには入っていない筈……ん?」

あるものを発見する。
それは、神社の縁側の柵――正式名称があるのかもしれないが分からない――に、
ベルトを括りつけて首を吊っている竜人の男の死体だった。
ほとんど裸と言っていいような格好で、乾いた白い液が身体中に付着し股間のスリットからは、
だらんとモノが露出しぶら下がり、失禁した跡もあり、死体は悪臭を放っていた。
涙を流し、絶望した表情で息絶えていた。

「おいおい、何があったんだ……」

悲惨と言う言葉がぴったりと合う竜人の自殺死体、何が起きてこの竜人は死を選んだのか。
死体の様子を見ればおおよそ見当はつくが。

「死体と一緒に休憩なんて嫌だけど、もう疲れたし、仕方ねぇ……」

禁止エリアに指定されたD-5から避難してきて、もうイェレミアスは疲れきっていた。
これ以上歩くと足がもたない。
死体の事が気にはなったが背に腹は代えられないと、イェレミアスは社の中へ入る。
だが。

「うえっ!」

そこも悪臭が立ち込めていた。
乾いた白濁液が飛び散り、ズボンやパンツ、靴、デイパックが放り出されている。
自殺した竜人の持ち物だろうか。
悪臭を我慢してデイパックの中身を調べるが、基本支給品以外は何も見付からなかった。
誰かが抜き取ってしまったのだろうか。

「とてもじゃねぇけどダメだ!」

濃厚な雄の臭いに耐え切れず、イェレミアスは社の外へ出た。

「畜生、禁止エリアから逃げてきても安息の地なんてねぇじゃねぇかよ……!」
「あ、あの」
「! 誰だ!?」

突然声をかけられイェレミアスは驚く、そして声の方向に顔を向けると学生服姿のチーターの少年がいた。
怖がっているのか少しおどおどとしている。

「何だお前、いつからいやがった!?」
「つ、ついさっきです……」
「おい! その手に持ってるのは何だよ、ライフルじゃねぇか! それで俺を撃つつもりか!?」
「え!? い、いや、そんな事……」

牙を剥き出してまくし立てるイェレミアス。
一度殺されかけた事がトラウマとなり、他参加者やその武器に過剰反応してしまっていた。
そんな事情はチーター少年――篠原昌信の知る所では無いので、
目の前の巨躯の狐がなぜここまで興奮しているのかよく理解出来なかった。

「がるるるるっ!! ライフル捨てろ! 捨てろよ!!」
「わ、分かりました、分かりました、今捨てます……」

言う事を聞いていた方が良いと判断した昌信は持っていたライフルとデイパックを地面に置き、
両手をあげて危害を加えるつもりは無い事をアピールする。

「これでいいでしょう? ね?」
「ぐるるるるるるっ……」

それでもなおイェレミアスは唸り声をあげていたが、しばらくして本当にチーター少年が自分に対して何もしないと分かると、
ようやく警戒を解き、人が(狐が)変わったように大人しくしおらしくなった。

「すまない……一度殺されかけて怖くなっちまったんだ……」
「い、いえ、大丈夫です……この状況ですもん仕方無いですよ」
「……俺はイェレミアス、お前は?」
「篠原昌信って言います」
「……お前一人か?」
「はい」
「そうか、俺もだよ。放送前は二人仲間がいたけど……川西栞とザガート・マキシムってのが……殺された。
黒い髪の人間の女の子に、蜂の巣にされて殺された。俺も殺されかけて、逃げてきたけど、大怪我した」
「ああ……」
「……D-5辺りに隠れてたけど禁止エリアになっちまったから、避難してきたんだ」
「じ、実は僕も廃墟のホテルに隠れたんですけど禁止エリアになっちゃって……」
「そうか……俺以外には誰かと会ったのか?」
「いや、誰とも……イェレミアスさんが初めて会った人です」
「そりゃ運が良かったな……」
「はは、運が良いのか悪いのか分かりませんけど……」
「……こんな殺し合いに巻き込まれてる時点で運もへったくれもねぇか、ははは」

運が良いのならそもそもこのような狂ったゲームに参加させられたりはしないだろう、と、自嘲気味にイェレミアスが笑う。
自分がホテルに隠れてる間に壮絶な体験をしている参加者が確実にいるのだと言う事を、
イェレミアスの話を聞いて昌信は思った。

「あの、今更ですけど、イェレミアスさん殺し合いには乗ってませんよ、ね?」
「乗ってねぇよ。そう言うお前もか?」
「はい」
「そうか……昌信、ここで休憩するつもりだったか?」
「え? ま、まあ」

廃墟ホテルから神社までそれなりの距離を歩いてきた昌信は、イェレミアスの言う通り見付けた神社で休息しようと考えていた。
休息しようとしていた時にイェレミアスを発見したのである。

「ここ、休憩するには最悪だぞ。死体はあるし、社の中は精液臭い」
「ええっ!? し、死体……!?」
「見てみろ」

イェレミアスが顎で方向を差し、昌信はそれに従い恐る恐る神社の表側に回る。
そしてイェレミアスの言う通り、竜人青年の首吊り死体を発見した。

「!! ……うっ、おええええっ!」
「おい、大丈夫かよ」

生まれて初めて本物の死体を見た事と、死体の悲惨な状況と発せられる悪臭で、昌信は嘔吐してしまった。

「な、何で、こんな……」
「知らねえよ俺に訊くな。まあ、ろくな目に遭わなかったんだろうなこいつは、でなきゃこんな死に方選ばねえだろ。
さっきも言ったが社の中も酷い有様でくせえぞ。とても休める状態じゃねえ」
「うーん……でも、正直もう歩き疲れたんですよね……」
「俺もだ……ん? ありゃ何だ、管理小屋か?」

イェレミアスが古びたプレハブ小屋を発見し言う。
二人はそのプレハブ小屋に近づき、扉のノブに手を掛ける。
すると扉はすんなりと開いた。
内部はやはり管理小屋のようで、畳が敷かれ簡単な流し台や冷蔵庫など少し寛げるスペースになっていた。
休憩するなら打って付けの場所である。

「おお! こりゃ良いんじゃないか?」
「良さそうですね、あ……僕も一緒に休んで良いですか?」
「あ? ああ、良いぞ」

イェレミアスと昌信はしばらく神社の管理小屋で休む事にした。


【D-4/神社管理小屋/昼】
【イェレミアス】
[状態]右脇腹に盲管銃創(応急処置済)、死への恐怖、やや精神不安定、疲労(大)
[装備]苗刀
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:死にたくない。しばらく神社の管理小屋で休む。
2:篠原昌信と一緒に行動する?
[備考]
※八神雹武の容姿のみ記憶しました。

【篠原昌信】
[状態]疲労(大)、死体を見て気分が悪い
[装備]豊和ゴールデンベア(5/5)
[持物]基本支給品一式、7.62mm×63弾(10)
[思考]
基本:死にたくない。
1:しばらく神社の管理小屋で休む。
2:イェレミアスさんと行動する?


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040:『これからの身の上』 イェレミアス 053:見張りの重要性とは
038:強制移動です 篠原昌信 053:見張りの重要性とは
最終更新:2013年04月05日 11:20