奇妙な男だった。
亜細亜の小さな島国に伝わる神なる獣、それを象った仮面を被る男。
道化の如き姿であるが、一世代前の仏蘭西貴族のようでもある。
己が口から吐き出されるのはすべて虚構であると嘯く男。
眼前にいる何者かへと語りかける男。
男の名は、《バロン》。バロン・ミュンヒハウゼン。
亜細亜の小さな島国に伝わる神なる獣、それを象った仮面を被る男。
道化の如き姿であるが、一世代前の仏蘭西貴族のようでもある。
己が口から吐き出されるのはすべて虚構であると嘯く男。
眼前にいる何者かへと語りかける男。
男の名は、《バロン》。バロン・ミュンヒハウゼン。
「――さて。
かくして一つの物語に幕が降ろされ、
かくして新たな物語の幕が開かれます。
我輩は望むでしょう。虚構と現実とが行き違う回転悲劇を。
さらに。歪んだ<歴史>の紡ぎだす、壮大な恐怖劇(グランギニョル)を」
かくして一つの物語に幕が降ろされ、
かくして新たな物語の幕が開かれます。
我輩は望むでしょう。虚構と現実とが行き違う回転悲劇を。
さらに。歪んだ<歴史>の紡ぎだす、壮大な恐怖劇(グランギニョル)を」
男の声には笑いが含まれている。
対する何者かは、無言。
対する何者かは、無言。
「騎士殿はご存知でしょうか。<黒の予言書>なる書物のことを。
全24巻からなる黒い表紙の古書。
有史以来の数多の記録が記され、その記述は未来にまで及ぶ、ある種の整合性のある歴然とした年代記。
そして、その最後は、この世界の終焉という形で締めくくられております。
この<黒の予言書>は、我ら《結社》にも《史実の書》という形で伝わっております。
しかし、その<歴史>が改竄されたとすれば如何でしょう。
汎世界に数多存在する<歴史>が、細切れの断片に切り刻まれ、強引に一つに編纂されたとすれば如何でしょう」
全24巻からなる黒い表紙の古書。
有史以来の数多の記録が記され、その記述は未来にまで及ぶ、ある種の整合性のある歴然とした年代記。
そして、その最後は、この世界の終焉という形で締めくくられております。
この<黒の予言書>は、我ら《結社》にも《史実の書》という形で伝わっております。
しかし、その<歴史>が改竄されたとすれば如何でしょう。
汎世界に数多存在する<歴史>が、細切れの断片に切り刻まれ、強引に一つに編纂されたとすれば如何でしょう」
男の言葉には嗤いが含まれている。
対する何者かは、無言。
対する何者かは、無言。
「そうであるならば。
虚構の人物であるはずのフランケンシュタイン博士が、こうして実在していることであるとか。
あのジャック・ザ・リッパーと称した人造人間の少女と戦った、一体の人造人間と一人の美しき研究者が、
ロンドンでその"ジャック・ザ・リッパー"を追っていることであるとか。
空が青いのにも関わらず、我輩がこうして在ることであるとか。
残念ながら、我輩にはその色が認識できないのですがね?
これらも歪んだ<歴史>のもたらした悲劇でありましょう。
<黒の予言書>を著した<永遠を手に入れた魔術師>、そしてかの<唯一神>は、かならずや歪みの修正にかかるでしょうな。
正常な流れを失った<歴史>は、濁流の如く荒れ狂い、すべてを破綻させるが故に。
しかし、赤枝の騎士殿は、それらは小事に過ぎないと仰るに違いありませんね?」
虚構の人物であるはずのフランケンシュタイン博士が、こうして実在していることであるとか。
あのジャック・ザ・リッパーと称した人造人間の少女と戦った、一体の人造人間と一人の美しき研究者が、
ロンドンでその"ジャック・ザ・リッパー"を追っていることであるとか。
空が青いのにも関わらず、我輩がこうして在ることであるとか。
残念ながら、我輩にはその色が認識できないのですがね?
これらも歪んだ<歴史>のもたらした悲劇でありましょう。
<黒の予言書>を著した<永遠を手に入れた魔術師>、そしてかの<唯一神>は、かならずや歪みの修正にかかるでしょうな。
正常な流れを失った<歴史>は、濁流の如く荒れ狂い、すべてを破綻させるが故に。
しかし、赤枝の騎士殿は、それらは小事に過ぎないと仰るに違いありませんね?」
男の声には嘲りが含まれている。
対する何者かは、無言。
対する何者かは、無言。
「成る程」と男は言い、
「そういうこともあるでしょうが、
そうでないこともあるでしょう」
そうでないこともあるでしょう」
と、続けた。
「さて。
では、みなさま――愛してやまない人間のみなさま。
どうかご安心を。
<歴史>の歪みは十分です。まだまだ物語のストックは豊富です。
遠からずして新しい物語は紡がれるでしょう。
聖人の身体を貫いた槍をめぐる、妖精達と鉤十字の騎士達の、勇壮でありながらも滑稽な物語が。
そして、さらなる戦いの年代記が。
であるが故に。我輩は宣言するでしょう。
――すべては、ここから始まるのです」
では、みなさま――愛してやまない人間のみなさま。
どうかご安心を。
<歴史>の歪みは十分です。まだまだ物語のストックは豊富です。
遠からずして新しい物語は紡がれるでしょう。
聖人の身体を貫いた槍をめぐる、妖精達と鉤十字の騎士達の、勇壮でありながらも滑稽な物語が。
そして、さらなる戦いの年代記が。
であるが故に。我輩は宣言するでしょう。
――すべては、ここから始まるのです」