夕暮れの森を、少女は歩いていた。
夕陽を受けて輝く、透き通った金髪を風に流し、なにかを探して求めているようにきょろきょろと辺りを見回している。
「魔理沙(まりさ)?」
少し歩いては立ち止まり、また歩き出す。
「魔理沙ー?」
その視線は上へ下へ、右へ左へと落ち着きがない。
それはつまり、探している対象がふらふらと落ち着きのないものであることを物語っている。
カァ、と鴉の鳴き声がした。
肩に羽織ったショールを手繰りよせ、ひとつ身震いする。
春が近くなったと言えど、日によってはまだ肌寒いときもあるこの頃だった。
日は遥か向こう、妖怪の山に沈もうとしており、夜が来るのもそう遠くない。
「夜が来る前に見つけなきゃ……」
魔法の森の小道を歩きながら、金髪の少女はそう呟く。
だって、夜になったらきっともっと見つけにくくなる。
だって──。
「魔理沙? どこにいるの?」
カァカァ、とまたカラスが鳴いた。
「ここだぜ、アリス」
背後からの声に振り向くが、そこには誰もいない。
「上だよ、上」
少女──アリスは言われて頭上を仰ぐ。
そこには、魔力に冒された樹の枝に無造作に腰掛ける少女がいた。
折れた山高帽を目深に被り、黒と白で統一されたシックな魔法使いのスタイル。
だが、帽子から溢れ出ている鮮やかな金髪や、宝石のようにきらきらと輝く瞳は、
服の与えるべき「落ち着いた印象」を遥かに凌駕する活動的なイメージを振りまいている。
カァ、と鴉が鳴く。
その肩に止まらせた漆黒の鴉をあやしながら、少女──魔理沙はニコッと笑った。
夕陽の逆光すら霞むような晴れ晴れとしたその表情に、アリスは不意に胸を突かれたような苦しさを覚える。
「どうした、アリス。もうすぐ日が暮れる。逢魔が時は近いぜ」
なにか気を呑まれるような、喉を塞がれるような感覚。
それを振り払うように、アリスは硬い態度で応える。
「だから……なによ」
「いや、またどこかで面白いことが起こっていて、その解決のお誘いかな、とね」
「ば、バっカじゃない? 私だって、いつも貴女と一緒に行動するほど暇人じゃないの。
貴女みたいなトラブルメーカーの隣を歩いてたら、身体がいくつあっても足りないわ」
なぜか魔理沙の目を見て言うことができなくて、ついそっぽを向いてしまう。
それでもなぜか、なにかが気になって、つい上を盗み見る。
魔理沙はやれやれといった感じで肩をすくめ、やっぱり笑っていた。
「つれないねぇ。同じ魔法使いのよしみじゃないか」
「じょ、冗談! 私は『魔法使い』という種族の妖怪、貴女は『魔法を使う程度の能力』を持ってるだけの人間!
同じにされたらこっちが迷惑なのよ!」
「おーおー、嫌われたもんだな私も。なあ空(うつほ)、このねーちゃんひでぇよなー?」
肩の鴉に同意を求めると、鴉はしばらく黙った後にカーと鳴いた。
そんな言葉に、アリスは訳もなく苛立ちを感じる。
それはなんともない、こちらを親しい者と思っているからこその、ただの軽口。
なのに、なんでこんなに腹立たしくて、胸に刺さるんだろう──。
「それで、なんの用だい?」
「……え?」
「だから、なんの用だよ。お前、私を探してたんだろ?」
「あ、ああ……それは、その……」
「どの?」
なにをどう言うかは、ずっと考えてきた。それこそすらすらと五分ばかり暗誦し続けられる程度には。
だがこの土壇場になって、その全てが崩れ落ちてしまっていた。
『なにを言うか』は分かり切っている。だが、『どう言うか』が真っ白になってしまった。
「あの……」
「この?」
「つ、つまり……返しなさいよ!」
思い余った末に出てきた言葉は、その一言だった。
しかもでーんと手のひらを突き出して、自分でも分かるくらいに眉間に力が入った眼差しで。
「返すって……いやいやちょっと待て」
「な、なによ。心当たりがないっての?」
「いや逆だ。心当たりがありすぎる。なにせお前の家から勝手に借りたいろいろなものが、
今や『アリス畑』として私のベッドの一区画を占領してるからな。どれを返せばいい?」
立ちくらみがした。
「あ、貴女……人の家のものをどれだけ盗んでいったのよ?」
「盗んだなんて人聞きの悪い。死ぬまで借りておくだけだぜ」
「それを『盗む』って言うのよ」
「へえ、都会ではそうなってるのか」
「田舎でもそうなってるの!」
「ふーん、ま、それはいいや。で、どれを返して欲しいんだい?
私だって閻魔じゃなけりゃ吸血鬼でもなけりゃ月の姫でもない。どうしても入用の品があるなら、気持ちよく進呈しようじゃないか」
「そ、それは……」
「どれ?」
「あの……」
「この?」
「白いもの……じゃなくて黒いものよ!」
「んん?」
魔理沙の怪訝そうな顔に、アリスは我に返って自分の発言の支離滅裂を悟る。
「ああ、そうじゃなくて──」
「待ってくれ。ヒントはそれで充分だ。私はこういう謎かけが大好きなんだ。
黒くて白いもの? いや、白くて黒くて? いやいや、黒いけど白い?」
「あのね、魔理沙──」
「黒かろう白かろう……違うな。驚きの白さ……いや、これだと黒の立つ瀬がない……」
うむむ、と顎に手を当てるポーズで本格的に思索に入った魔理沙には、もはやアリスの続く言葉など耳に入っていなかった。
(なんなのよ、もう……)
やるせない気持ちで息を吐くと、肩の鴉と目が合った。
鴉はじっとアリスを眺めていたが、やがて飽きたのかふいっと首を別の方向に向ける。
「まさか伝説のパンダマン? いやいや、私はそんなもの盗んでないぞ……いったい、私はなにを盗んだんだ?」
なおもぶつぶつうなる魔理沙の懐で、なにか耳慣れぬ甲高い音がピーガーピーガー鳴り出した。
「うわっ!?」
そのあまりの刺々しい響きに、アリスは思わず耳を塞ぐ。
一方の魔理沙はその音を耳にするや、喜び勇んで胸元から四角い箱を取り出して頭の側面に密着させる。
「アローアロー、こちら霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)、本日は雨のち快晴、降水確率は100%でした!
──おお、にとり! どうした? うん、うん……なに、チルノもそっちにいるのか?」
魔理沙が発した名前には、アリスも聞き覚えがあった。
妖怪の山を根城にする河童の少女、河城にとり(かわしろ にとり)に、自称最強の氷精、チルノ。
どちらも魔理沙がよくつるんでいる相手……つまり魔理沙とどっこいどっこいの馬鹿だとアリスは認識している。
「──なんだって!?」
いきなり魔理沙が叫んだ。上下方向にけっこうな距離のあるアリスでさえビクっとなったのだから、
それを至近距離でくらった鴉の驚きたるや只事ではない。
クケェー、と裏返った悲鳴を上げながら飛びあがり、ばさばさと周囲を盲目的に飛び回って木々に激突し、
ついにはアリスの足元にぽとんと落ちてきゅうと目を回した。
「見つけたんだな!? よし、今すぐ行くから首を洗って待ってろ! ──なに、首がなければキュウリでも洗ってろ!」
おそらく通信機であろう箱を懐に仕舞うのももどかしく、魔理沙は枝から飛び降りた。
「え?」
こんな高さで、とアリスが肝を冷やしたのも束の間、猫のような身のこなしで綺麗に着地した魔理沙は、
幹に立てかけてあった箒をとってそこにまたがる。
「悪いなアリス、私がなにを盗んでいったのかは宿題ってことで!」
「あ、ちょっと待ってよ魔理沙! そうじゃなくて、一ヶ月前の──」
「一ヶ月前? なんだ、ずいぶん根に持つじゃないか! まあいいさ、ヒントが増えたから次は当ててみせるぜ!」
なにをそんなに急いでいるのか、中途半端に突っ込んだ通信機がぽろり落下するのも、
鴉がまだ目を覚ましていないのも、全部ほっぽり出して魔理沙は宙に浮かび、一直線に夕焼け空へ向けて飛び立っていった。
それをぽつんと見送る少女の、忌々しそうで、そしてどこか寂しげな後姿だけが残される。
「まったく……寝る間を惜しんで悪戯に励む悪童みたい……」
実際そうなんだろうけどさ、と口の中で呟き、幹にもたれかかってずるずると座り込む。
「はあ……私のバカ……」
つんつん、と地面に倒れたままの鴉をつついてみる。
鴉はガバっと撥ね起き、慌ててあたりを見回す。
「あんたの飼い主さん、もうどっか行っちゃたわよ」
すると鴉はカァ、と短く鳴き、小さく跳ねた。
「黒くて白いもの、か……謎々じゃないっつーの……」
いつの間にか、膝を抱えている自分に気づき、そのことにちょっとびっくりする。
今の話の流れのどこに、膝を抱えてしまうような……そんな気分になるような、悲しいことがあったのだろう?
「やっぱりあの馬鹿、ホワイトデーのことは知らないんだ……」
きっと、そういうことなんだろう。
「別に、期待してたわけじゃないけどさ──」
魔理沙は馬鹿には違いないが、決して無神経ではない。
知っていれば、おそらく思い至ったはずだ。
或いは──或いは、知っていてもそれに乗る気がさらさら無いか。
どちらにせよ、これで行き止まり、だ。
もっと上手く誘導すれば、もっと上手い結果を生み出せかもしれない。
だけど……、
「なんでこんなに不器用なんだろ、私」
腕の中に半分うずめた口からは、そんな弱々しい言葉しかこぼれてこなかった。
ばさばさと飛び上がった鴉はアリスの肩に止まり、夕焼けに染まった頬を優しく突く。
「慰めてくれているの? ありがとう。……さあ、もうお行き。暗くなったら、あんたの飼い主、見つけられなくなるなるわよ。あの黒さじゃあね」
──そう、間もなく日が暮れる。
夜がやってくる。
夕陽を受けて輝く、透き通った金髪を風に流し、なにかを探して求めているようにきょろきょろと辺りを見回している。
「魔理沙(まりさ)?」
少し歩いては立ち止まり、また歩き出す。
「魔理沙ー?」
その視線は上へ下へ、右へ左へと落ち着きがない。
それはつまり、探している対象がふらふらと落ち着きのないものであることを物語っている。
カァ、と鴉の鳴き声がした。
肩に羽織ったショールを手繰りよせ、ひとつ身震いする。
春が近くなったと言えど、日によってはまだ肌寒いときもあるこの頃だった。
日は遥か向こう、妖怪の山に沈もうとしており、夜が来るのもそう遠くない。
「夜が来る前に見つけなきゃ……」
魔法の森の小道を歩きながら、金髪の少女はそう呟く。
だって、夜になったらきっともっと見つけにくくなる。
だって──。
「魔理沙? どこにいるの?」
カァカァ、とまたカラスが鳴いた。
「ここだぜ、アリス」
背後からの声に振り向くが、そこには誰もいない。
「上だよ、上」
少女──アリスは言われて頭上を仰ぐ。
そこには、魔力に冒された樹の枝に無造作に腰掛ける少女がいた。
折れた山高帽を目深に被り、黒と白で統一されたシックな魔法使いのスタイル。
だが、帽子から溢れ出ている鮮やかな金髪や、宝石のようにきらきらと輝く瞳は、
服の与えるべき「落ち着いた印象」を遥かに凌駕する活動的なイメージを振りまいている。
カァ、と鴉が鳴く。
その肩に止まらせた漆黒の鴉をあやしながら、少女──魔理沙はニコッと笑った。
夕陽の逆光すら霞むような晴れ晴れとしたその表情に、アリスは不意に胸を突かれたような苦しさを覚える。
「どうした、アリス。もうすぐ日が暮れる。逢魔が時は近いぜ」
なにか気を呑まれるような、喉を塞がれるような感覚。
それを振り払うように、アリスは硬い態度で応える。
「だから……なによ」
「いや、またどこかで面白いことが起こっていて、その解決のお誘いかな、とね」
「ば、バっカじゃない? 私だって、いつも貴女と一緒に行動するほど暇人じゃないの。
貴女みたいなトラブルメーカーの隣を歩いてたら、身体がいくつあっても足りないわ」
なぜか魔理沙の目を見て言うことができなくて、ついそっぽを向いてしまう。
それでもなぜか、なにかが気になって、つい上を盗み見る。
魔理沙はやれやれといった感じで肩をすくめ、やっぱり笑っていた。
「つれないねぇ。同じ魔法使いのよしみじゃないか」
「じょ、冗談! 私は『魔法使い』という種族の妖怪、貴女は『魔法を使う程度の能力』を持ってるだけの人間!
同じにされたらこっちが迷惑なのよ!」
「おーおー、嫌われたもんだな私も。なあ空(うつほ)、このねーちゃんひでぇよなー?」
肩の鴉に同意を求めると、鴉はしばらく黙った後にカーと鳴いた。
そんな言葉に、アリスは訳もなく苛立ちを感じる。
それはなんともない、こちらを親しい者と思っているからこその、ただの軽口。
なのに、なんでこんなに腹立たしくて、胸に刺さるんだろう──。
「それで、なんの用だい?」
「……え?」
「だから、なんの用だよ。お前、私を探してたんだろ?」
「あ、ああ……それは、その……」
「どの?」
なにをどう言うかは、ずっと考えてきた。それこそすらすらと五分ばかり暗誦し続けられる程度には。
だがこの土壇場になって、その全てが崩れ落ちてしまっていた。
『なにを言うか』は分かり切っている。だが、『どう言うか』が真っ白になってしまった。
「あの……」
「この?」
「つ、つまり……返しなさいよ!」
思い余った末に出てきた言葉は、その一言だった。
しかもでーんと手のひらを突き出して、自分でも分かるくらいに眉間に力が入った眼差しで。
「返すって……いやいやちょっと待て」
「な、なによ。心当たりがないっての?」
「いや逆だ。心当たりがありすぎる。なにせお前の家から勝手に借りたいろいろなものが、
今や『アリス畑』として私のベッドの一区画を占領してるからな。どれを返せばいい?」
立ちくらみがした。
「あ、貴女……人の家のものをどれだけ盗んでいったのよ?」
「盗んだなんて人聞きの悪い。死ぬまで借りておくだけだぜ」
「それを『盗む』って言うのよ」
「へえ、都会ではそうなってるのか」
「田舎でもそうなってるの!」
「ふーん、ま、それはいいや。で、どれを返して欲しいんだい?
私だって閻魔じゃなけりゃ吸血鬼でもなけりゃ月の姫でもない。どうしても入用の品があるなら、気持ちよく進呈しようじゃないか」
「そ、それは……」
「どれ?」
「あの……」
「この?」
「白いもの……じゃなくて黒いものよ!」
「んん?」
魔理沙の怪訝そうな顔に、アリスは我に返って自分の発言の支離滅裂を悟る。
「ああ、そうじゃなくて──」
「待ってくれ。ヒントはそれで充分だ。私はこういう謎かけが大好きなんだ。
黒くて白いもの? いや、白くて黒くて? いやいや、黒いけど白い?」
「あのね、魔理沙──」
「黒かろう白かろう……違うな。驚きの白さ……いや、これだと黒の立つ瀬がない……」
うむむ、と顎に手を当てるポーズで本格的に思索に入った魔理沙には、もはやアリスの続く言葉など耳に入っていなかった。
(なんなのよ、もう……)
やるせない気持ちで息を吐くと、肩の鴉と目が合った。
鴉はじっとアリスを眺めていたが、やがて飽きたのかふいっと首を別の方向に向ける。
「まさか伝説のパンダマン? いやいや、私はそんなもの盗んでないぞ……いったい、私はなにを盗んだんだ?」
なおもぶつぶつうなる魔理沙の懐で、なにか耳慣れぬ甲高い音がピーガーピーガー鳴り出した。
「うわっ!?」
そのあまりの刺々しい響きに、アリスは思わず耳を塞ぐ。
一方の魔理沙はその音を耳にするや、喜び勇んで胸元から四角い箱を取り出して頭の側面に密着させる。
「アローアロー、こちら霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)、本日は雨のち快晴、降水確率は100%でした!
──おお、にとり! どうした? うん、うん……なに、チルノもそっちにいるのか?」
魔理沙が発した名前には、アリスも聞き覚えがあった。
妖怪の山を根城にする河童の少女、河城にとり(かわしろ にとり)に、自称最強の氷精、チルノ。
どちらも魔理沙がよくつるんでいる相手……つまり魔理沙とどっこいどっこいの馬鹿だとアリスは認識している。
「──なんだって!?」
いきなり魔理沙が叫んだ。上下方向にけっこうな距離のあるアリスでさえビクっとなったのだから、
それを至近距離でくらった鴉の驚きたるや只事ではない。
クケェー、と裏返った悲鳴を上げながら飛びあがり、ばさばさと周囲を盲目的に飛び回って木々に激突し、
ついにはアリスの足元にぽとんと落ちてきゅうと目を回した。
「見つけたんだな!? よし、今すぐ行くから首を洗って待ってろ! ──なに、首がなければキュウリでも洗ってろ!」
おそらく通信機であろう箱を懐に仕舞うのももどかしく、魔理沙は枝から飛び降りた。
「え?」
こんな高さで、とアリスが肝を冷やしたのも束の間、猫のような身のこなしで綺麗に着地した魔理沙は、
幹に立てかけてあった箒をとってそこにまたがる。
「悪いなアリス、私がなにを盗んでいったのかは宿題ってことで!」
「あ、ちょっと待ってよ魔理沙! そうじゃなくて、一ヶ月前の──」
「一ヶ月前? なんだ、ずいぶん根に持つじゃないか! まあいいさ、ヒントが増えたから次は当ててみせるぜ!」
なにをそんなに急いでいるのか、中途半端に突っ込んだ通信機がぽろり落下するのも、
鴉がまだ目を覚ましていないのも、全部ほっぽり出して魔理沙は宙に浮かび、一直線に夕焼け空へ向けて飛び立っていった。
それをぽつんと見送る少女の、忌々しそうで、そしてどこか寂しげな後姿だけが残される。
「まったく……寝る間を惜しんで悪戯に励む悪童みたい……」
実際そうなんだろうけどさ、と口の中で呟き、幹にもたれかかってずるずると座り込む。
「はあ……私のバカ……」
つんつん、と地面に倒れたままの鴉をつついてみる。
鴉はガバっと撥ね起き、慌ててあたりを見回す。
「あんたの飼い主さん、もうどっか行っちゃたわよ」
すると鴉はカァ、と短く鳴き、小さく跳ねた。
「黒くて白いもの、か……謎々じゃないっつーの……」
いつの間にか、膝を抱えている自分に気づき、そのことにちょっとびっくりする。
今の話の流れのどこに、膝を抱えてしまうような……そんな気分になるような、悲しいことがあったのだろう?
「やっぱりあの馬鹿、ホワイトデーのことは知らないんだ……」
きっと、そういうことなんだろう。
「別に、期待してたわけじゃないけどさ──」
魔理沙は馬鹿には違いないが、決して無神経ではない。
知っていれば、おそらく思い至ったはずだ。
或いは──或いは、知っていてもそれに乗る気がさらさら無いか。
どちらにせよ、これで行き止まり、だ。
もっと上手く誘導すれば、もっと上手い結果を生み出せかもしれない。
だけど……、
「なんでこんなに不器用なんだろ、私」
腕の中に半分うずめた口からは、そんな弱々しい言葉しかこぼれてこなかった。
ばさばさと飛び上がった鴉はアリスの肩に止まり、夕焼けに染まった頬を優しく突く。
「慰めてくれているの? ありがとう。……さあ、もうお行き。暗くなったら、あんたの飼い主、見つけられなくなるなるわよ。あの黒さじゃあね」
──そう、間もなく日が暮れる。
夜がやってくる。