美樹原邸ーーー
一昔前の和風の屋敷があった。
屋敷は広い。
正門から屋敷の扉まで5分かかる。
今その屋敷の応接間に播磨拳児は座っていた。
ガラリと障子が開らかれた。
男が現れた。
「呼んでおいて待たせてすまないね。播磨君だったか。・・・・娘と何かあったと聞いたが。」
男が言った。
「ええ・・・さっきバイクで走っていたら驚かせてしまって。しかし別に大した事は無かったんです。自分が彼女を
驚かせてしまったのは詫びます。」
播磨は一通り説明するとペコリと頭を下げた。
「播磨君。君ももう高校生だから唯謝ればいいというものでは無いんだよ。本当に悪いと思っているのなら誠意を見せて貰うよ。」
男の口調が硬くなった。
播磨は不安だった。
この見るからに“組”の長らしい男が言う誠意を見せる行動とはどのようなものなのか。
まさか組に入れというのか。
断ったら何されるかわからない。
「何をすべきなのですか。」
播磨は聞いた。
「そうだね。今度私達がプロレスの会場を提供するんだけど・・・それに参加してくれないかな。マスクマンとして。」
「自分にプロレスをやれ、と。」
「ああ。心配しないでくれ。君には怪我をさせない様にするから。」
プロレスで怪我無く試合をする。
確かにプロレスには荒唐無稽な技があるという事ぐらい播磨でも知っている。
だがそれをかけられても平気なのはプロレスラーがタフだからなのではと播磨は思っていた。
「それはいつなのですか。」
「この後、組の者と一緒にこちらが紹介するプロレス団体に出向いてくれ。」
「わかりました。」
丁寧に礼をすると播磨は部屋から退出し、屋敷から出て行った。
「組長・・・彼をどう思います?」
「根は正直そうな人間だ。やってくれるだろう。」
美樹原組の主は遠い目で景色を見つめていたーーー
一昔前の和風の屋敷があった。
屋敷は広い。
正門から屋敷の扉まで5分かかる。
今その屋敷の応接間に播磨拳児は座っていた。
ガラリと障子が開らかれた。
男が現れた。
「呼んでおいて待たせてすまないね。播磨君だったか。・・・・娘と何かあったと聞いたが。」
男が言った。
「ええ・・・さっきバイクで走っていたら驚かせてしまって。しかし別に大した事は無かったんです。自分が彼女を
驚かせてしまったのは詫びます。」
播磨は一通り説明するとペコリと頭を下げた。
「播磨君。君ももう高校生だから唯謝ればいいというものでは無いんだよ。本当に悪いと思っているのなら誠意を見せて貰うよ。」
男の口調が硬くなった。
播磨は不安だった。
この見るからに“組”の長らしい男が言う誠意を見せる行動とはどのようなものなのか。
まさか組に入れというのか。
断ったら何されるかわからない。
「何をすべきなのですか。」
播磨は聞いた。
「そうだね。今度私達がプロレスの会場を提供するんだけど・・・それに参加してくれないかな。マスクマンとして。」
「自分にプロレスをやれ、と。」
「ああ。心配しないでくれ。君には怪我をさせない様にするから。」
プロレスで怪我無く試合をする。
確かにプロレスには荒唐無稽な技があるという事ぐらい播磨でも知っている。
だがそれをかけられても平気なのはプロレスラーがタフだからなのではと播磨は思っていた。
「それはいつなのですか。」
「この後、組の者と一緒にこちらが紹介するプロレス団体に出向いてくれ。」
「わかりました。」
丁寧に礼をすると播磨は部屋から退出し、屋敷から出て行った。
「組長・・・彼をどう思います?」
「根は正直そうな人間だ。やってくれるだろう。」
美樹原組の主は遠い目で景色を見つめていたーーー
数十分後ーー播磨はとあるプロレス団体の事務所にいた。
「つまり・・・私達、東海プロレスとFAWとの試合に彼を出して欲しいと?」
「はいそうです。」
東海プロレスの職員はちょっと考える仕草をした。
名も無き一般人を連れてきてソイツに参加させろというのだ。
そんな話が通る事自体珍しい。
「うーむ。そうだねえ。実は今日ウチの選手が風邪で休んでるんだよね。その代理・・でいいかな。マスクマンなら顔はわからないだろうし。」
「よろしくお願いします。」
組員は恭しく頭を下げた。
「あの・・・質問してもいいですか?」
播磨が聞いた。
「どうぞ。」
「試合の相手は誰なのですか?」
「グレート巽だよ。」
職員の言葉に播磨は愕然とした。
グレート巽。
かの有名なFAWの社長。
それと闘えというのか。
「播磨君。安心してくれ。」
組員が言った。
「安心しろって・・。」
「あー安心して下さい。試合の内容はあらかじめ決めてあります。あなたが負けて彼は勝つんです。」
職員が穏やかな口調で言った。
「手加減して貰えるでしょうか?」
「そうですねぇ。ま、本気ではありませんし。投げも打撃も手加減しますよ。こういう場合は。」
「バレないでしょうか?」
「うーん。話したら恐らく試合自体無くなるでしょうねえ。とりあえず今日なので準備をして下さい。」
「わかりました。」
播磨は組員と共に礼をすると建物から出て車に乗った。
彼は今冷や汗をかいていた。
大勢の人の前であのグレート巽と戦うのか。
恐怖だ。
(やるしか無いんだよな・・・)
時刻はもう昼を回っていた。
「播磨君。会場に向かうか?それともどこかで食事でもするかな?」
「会場に行ってください。」
車は走り出した。
「つまり・・・私達、東海プロレスとFAWとの試合に彼を出して欲しいと?」
「はいそうです。」
東海プロレスの職員はちょっと考える仕草をした。
名も無き一般人を連れてきてソイツに参加させろというのだ。
そんな話が通る事自体珍しい。
「うーむ。そうだねえ。実は今日ウチの選手が風邪で休んでるんだよね。その代理・・でいいかな。マスクマンなら顔はわからないだろうし。」
「よろしくお願いします。」
組員は恭しく頭を下げた。
「あの・・・質問してもいいですか?」
播磨が聞いた。
「どうぞ。」
「試合の相手は誰なのですか?」
「グレート巽だよ。」
職員の言葉に播磨は愕然とした。
グレート巽。
かの有名なFAWの社長。
それと闘えというのか。
「播磨君。安心してくれ。」
組員が言った。
「安心しろって・・。」
「あー安心して下さい。試合の内容はあらかじめ決めてあります。あなたが負けて彼は勝つんです。」
職員が穏やかな口調で言った。
「手加減して貰えるでしょうか?」
「そうですねぇ。ま、本気ではありませんし。投げも打撃も手加減しますよ。こういう場合は。」
「バレないでしょうか?」
「うーん。話したら恐らく試合自体無くなるでしょうねえ。とりあえず今日なので準備をして下さい。」
「わかりました。」
播磨は組員と共に礼をすると建物から出て車に乗った。
彼は今冷や汗をかいていた。
大勢の人の前であのグレート巽と戦うのか。
恐怖だ。
(やるしか無いんだよな・・・)
時刻はもう昼を回っていた。
「播磨君。会場に向かうか?それともどこかで食事でもするかな?」
「会場に行ってください。」
車は走り出した。
夜になった。
会場は人で埋め尽くされていた。
FAWは今や日本で知らない人はいないと言われる程有名なのだ。
今日のカードは
会場は人で埋め尽くされていた。
FAWは今や日本で知らない人はいないと言われる程有名なのだ。
今日のカードは
川辺VSショムニアサンダー
梶原年雄VSハリケーンマックス
グレート巽VSハリーマッケンジー。
梶原年雄VSハリケーンマックス
グレート巽VSハリーマッケンジー。
歓声と音楽が入り混じった会場は興奮のるつぼだった。
皆顔を赤くして選手の名を呼んでいる。
既に川辺と梶原の試合は終わっていた。
今はメインイベント、グレート巽の試合だ。
「ねぇ、烏丸君。知ってる?グレート巽ってね、本当に強いらしいよ!」
「うんわかるよ。彼の筋肉、テクニック、スタミナ、どれをとっても強いクラスだもの。」
一組の高校生ぐらいの男女が会話をしていた。
男子はおかっぱ頭、女子は小柄で髪は黒かった。
そのすぐ傍で今度は一人の男子高校生と二人の女子高生が話していた。
「すごかったわねー!梶原さんって実はいい人だったんだ!」
「私のボディーガードをしてくれる人ですし・・やさしい人でもありますから。」
「演技だ・・・。」
「へ?」
皆顔を赤くして選手の名を呼んでいる。
既に川辺と梶原の試合は終わっていた。
今はメインイベント、グレート巽の試合だ。
「ねぇ、烏丸君。知ってる?グレート巽ってね、本当に強いらしいよ!」
「うんわかるよ。彼の筋肉、テクニック、スタミナ、どれをとっても強いクラスだもの。」
一組の高校生ぐらいの男女が会話をしていた。
男子はおかっぱ頭、女子は小柄で髪は黒かった。
そのすぐ傍で今度は一人の男子高校生と二人の女子高生が話していた。
「すごかったわねー!梶原さんって実はいい人だったんだ!」
「私のボディーガードをしてくれる人ですし・・やさしい人でもありますから。」
「演技だ・・・。」
「へ?」
ーーー選手控え室ーーー
「では播磨君。健闘を祈ります。」
美樹原組の男が播磨の傍に立っていた。
播磨はその言葉に頷くとマスクを被った。
体には衝撃を吸収するオーバーボディを纏っている。
いくら手加減すると言っても相手はマッチョなのだ。
平均よりちょっと筋肉が多い程度の播磨では肉体に危険が及ぶ。
それを防ぐ腕の処置なのだ。
播磨は黙って部屋を出ると花道に立った。
緊張で体を震わせながら唾をゴクリと飲み込む。
直後、彼の目に一人の少女の姿が映った。
彼は目を疑った。
(天・・・満・・・ちゃん?)
地獄に仏というのはこういう事かも知れない。
信じられない事に彼の想い人、塚本天満がこの試合を見に来たのだ。
(やぁぁってやるぜ!天満ちゃんの為ならあのグレート巽とも真剣勝負をしてやるぜ!)
プレッシャーではちきれそうな心に希望が生まれた。
播磨は堂々と花道を渡り、リングに上がった。
「ハリィィィィマッケンジィィィィ!」
コールがされた。
「グレィトォォォォ巽ィィィィィ!」
グレート巽がリングに上がった。
播磨は先程の緊張が嘘であったかの様にグレート巽を睨み付けた。
やってやる。
やってやるぞ。
両者はリングの中央で止まった。
“始め!”
播磨は身構えた。
グレート巽は無表情に播磨を見た。
パシン。
乾いた音がした。
巽のジャブが播磨の肩に当たったのだ。
続いてローからストレートのコンボ。
播磨は防御をせずに受けた。
更にバックスピンキック。
播磨の体が数センチ後ろに下がった。
直後、巽は踏み込んで播磨の体に関節技を仕掛けた。
「お前…代わりだな。」
「よくわかったな。」
巽にはわかっていた。
一般人とレスラーの違いはリング上でよくわかる。
試合時の体の動かし方や攻撃を食らった反応でも。
「何故こんな事を。」
「あなたにはわからないでしょうね。」
巽は播磨をロープに投げ飛ばした。
そしてドロップキック。
播磨の体がロープによりかかり、床に倒れる。
「熱意は本物だな。見せてみろ。受けてやる。」
「感謝しますよ。」
播磨が巽のボディを殴る。
そしてミドルから膝蹴り。
播磨は一時期喧嘩に明け暮れた時期もあったのだ。
つまり今彼のリング上でのファイトスタイルは喧嘩スタイルだ。
だが・・・肉体の差は歴然としていた。
どの攻撃もダメージらしいダメージを相手に与えていない。
にも関わらず会場は盛り上がっていた。
巽がいかにもダメージを食らっているかの様に演技をしているのだ。
播磨の膝蹴りを食らった瞬間、巽は自分から後ろに飛んだ。
ロープにもたれかかり、相手を睨む。
(次は俺がそうする番だな。)
播磨にはリング上の空気が読めていた。
巽のジャブとフックが播磨を襲う。
肩、胸、腹、脇。
顔を除く上半身の全てを殴られ播磨は距離をとった。
「すげえぇ!巽と互角にやり合ってる!」
「こりゃ凄い新人だ!」
観客は次々と歓声を上げた。
(互角なものか。)
播磨は心の中で自嘲した。
これがもし喧嘩だったら自分は10回ぐらいダウンしている。
(・・・・そろそろ終わる時だな。打ち合わせだと関節でタップ負けだったな。)
ふと彼の目に女の子の姿が映った。
何と塚本天満は最前列でこの試合を見ていたのだ。
この格闘技の試合とは形容し難い茶番を。
(見ててくれよ。天満ちゃん。俺の闘いを!)
「うおお!」
播磨はこの試合で初めて声を張り上げた。
全速力で踏み込み、蹴りからストレートのコンボを相手の鳩尾に叩き込もうとする。
が・・・蹴りは受けられ、ストレートも防がれた。
そのまま腕を極められ、アームロックの体勢に持ち込まれる。
「威勢は良かったな。踏み込みも。」
「へへへ・・・喜んでくれてますかね?」
「ああ・・・。」
播磨は巽の腕をポンポンと叩いた。
タップの合図だ。
「勝者!グレート巽ィィィ!」
審判が声を張り上げた。
「では播磨君。健闘を祈ります。」
美樹原組の男が播磨の傍に立っていた。
播磨はその言葉に頷くとマスクを被った。
体には衝撃を吸収するオーバーボディを纏っている。
いくら手加減すると言っても相手はマッチョなのだ。
平均よりちょっと筋肉が多い程度の播磨では肉体に危険が及ぶ。
それを防ぐ腕の処置なのだ。
播磨は黙って部屋を出ると花道に立った。
緊張で体を震わせながら唾をゴクリと飲み込む。
直後、彼の目に一人の少女の姿が映った。
彼は目を疑った。
(天・・・満・・・ちゃん?)
地獄に仏というのはこういう事かも知れない。
信じられない事に彼の想い人、塚本天満がこの試合を見に来たのだ。
(やぁぁってやるぜ!天満ちゃんの為ならあのグレート巽とも真剣勝負をしてやるぜ!)
プレッシャーではちきれそうな心に希望が生まれた。
播磨は堂々と花道を渡り、リングに上がった。
「ハリィィィィマッケンジィィィィ!」
コールがされた。
「グレィトォォォォ巽ィィィィィ!」
グレート巽がリングに上がった。
播磨は先程の緊張が嘘であったかの様にグレート巽を睨み付けた。
やってやる。
やってやるぞ。
両者はリングの中央で止まった。
“始め!”
播磨は身構えた。
グレート巽は無表情に播磨を見た。
パシン。
乾いた音がした。
巽のジャブが播磨の肩に当たったのだ。
続いてローからストレートのコンボ。
播磨は防御をせずに受けた。
更にバックスピンキック。
播磨の体が数センチ後ろに下がった。
直後、巽は踏み込んで播磨の体に関節技を仕掛けた。
「お前…代わりだな。」
「よくわかったな。」
巽にはわかっていた。
一般人とレスラーの違いはリング上でよくわかる。
試合時の体の動かし方や攻撃を食らった反応でも。
「何故こんな事を。」
「あなたにはわからないでしょうね。」
巽は播磨をロープに投げ飛ばした。
そしてドロップキック。
播磨の体がロープによりかかり、床に倒れる。
「熱意は本物だな。見せてみろ。受けてやる。」
「感謝しますよ。」
播磨が巽のボディを殴る。
そしてミドルから膝蹴り。
播磨は一時期喧嘩に明け暮れた時期もあったのだ。
つまり今彼のリング上でのファイトスタイルは喧嘩スタイルだ。
だが・・・肉体の差は歴然としていた。
どの攻撃もダメージらしいダメージを相手に与えていない。
にも関わらず会場は盛り上がっていた。
巽がいかにもダメージを食らっているかの様に演技をしているのだ。
播磨の膝蹴りを食らった瞬間、巽は自分から後ろに飛んだ。
ロープにもたれかかり、相手を睨む。
(次は俺がそうする番だな。)
播磨にはリング上の空気が読めていた。
巽のジャブとフックが播磨を襲う。
肩、胸、腹、脇。
顔を除く上半身の全てを殴られ播磨は距離をとった。
「すげえぇ!巽と互角にやり合ってる!」
「こりゃ凄い新人だ!」
観客は次々と歓声を上げた。
(互角なものか。)
播磨は心の中で自嘲した。
これがもし喧嘩だったら自分は10回ぐらいダウンしている。
(・・・・そろそろ終わる時だな。打ち合わせだと関節でタップ負けだったな。)
ふと彼の目に女の子の姿が映った。
何と塚本天満は最前列でこの試合を見ていたのだ。
この格闘技の試合とは形容し難い茶番を。
(見ててくれよ。天満ちゃん。俺の闘いを!)
「うおお!」
播磨はこの試合で初めて声を張り上げた。
全速力で踏み込み、蹴りからストレートのコンボを相手の鳩尾に叩き込もうとする。
が・・・蹴りは受けられ、ストレートも防がれた。
そのまま腕を極められ、アームロックの体勢に持ち込まれる。
「威勢は良かったな。踏み込みも。」
「へへへ・・・喜んでくれてますかね?」
「ああ・・・。」
播磨は巽の腕をポンポンと叩いた。
タップの合図だ。
「勝者!グレート巽ィィィ!」
審判が声を張り上げた。
ーーー試合後ーーー
「ご苦労だった。播磨君。送るよ。」
「いや。いいですよ。自分の足で帰ります。」
「そうか・・・。お大事にな。」
美樹原組の男は出て行った。
数分後、播磨はふーっと息をついた。
試合の緊張が今やっと解けたのだ。
水を飲んで部屋から出て行こうとしたら、二人の男女の会話が聞こえて来た。
「最後の試合凄かったよね。あんたに叩かれてたのに全力で向かってって。男らしかったな。」
「うん。度胸が無いと出来ない事だよね。」
塚本天満と烏丸大路の声だった。
(俺には見てくれた人がいるんだ!これ程嬉しい事は無い!)
播磨は人生で生まれて初めて嬉し涙を流した。
二人の男女が遠ざかったのを確認すると彼は会場の外に出て空を見上げた。
満天の星空という言葉があるが今夜の空は正にそれだった。
(この星空をいつか天満ちゃんと一緒に見たいな・・・)
少年の願いは叶うかどうか・・・今は誰にもわからない。
「ご苦労だった。播磨君。送るよ。」
「いや。いいですよ。自分の足で帰ります。」
「そうか・・・。お大事にな。」
美樹原組の男は出て行った。
数分後、播磨はふーっと息をついた。
試合の緊張が今やっと解けたのだ。
水を飲んで部屋から出て行こうとしたら、二人の男女の会話が聞こえて来た。
「最後の試合凄かったよね。あんたに叩かれてたのに全力で向かってって。男らしかったな。」
「うん。度胸が無いと出来ない事だよね。」
塚本天満と烏丸大路の声だった。
(俺には見てくれた人がいるんだ!これ程嬉しい事は無い!)
播磨は人生で生まれて初めて嬉し涙を流した。
二人の男女が遠ざかったのを確認すると彼は会場の外に出て空を見上げた。
満天の星空という言葉があるが今夜の空は正にそれだった。
(この星空をいつか天満ちゃんと一緒に見たいな・・・)
少年の願いは叶うかどうか・・・今は誰にもわからない。