きしんえるべら:そうさくめも9
機神エルベラ:創作メモ9




★★★
~ジョウ・ジスガルド前回までのあらすじ~

よりによって戦争中に風邪ひいた。眠って起きたら街が燃えていた。患者衣のまま裸足でかけだす。

街の住民を助けるつもりがみんな自力で助かってた。しょうがないから捕虜をあずかる任務を負う。

うっかり監禁してた場所のカギを掛け忘れる。

捕虜がそとに伝書鳩みたいなものをとばして助けを呼んでしまう。

あわてて鳥を捕まえようとがんばる。←いまここ

★★★



「りょ――領主、さま――?」



屋根裏部屋――ちいさな世界の片隅で。

かわいらしいウサギの獣人、薬菜飯店の女将アイスが、突然現れた僕を見て、つぶらな瞳をぱちくりと瞬かせる。


「うむ」
僕は精一杯キリッとした顔で、偉そうに腕組みをして答えた。

「街に刺客が侵入して、あちこちで混乱を巻き起こしていると聞いてな。
領主としてわざわざこの僕が解決しに来てやったのだ。
ふふん…アイスよ、身に余る光栄にむせび泣いても良いのだぞ?」


「…りょ、りょうしゅさま、あの…?」
「なんだ」
「……うーうー…な、なぜ、暖炉の煙突穴から逆さまにぶら下がっているのですか…?」

ぬ。
「…それは聞くな」
アイスの当然の疑問に僕はぷいと顔をそむけ、目をそらす。逆さまの姿勢で。

「で、でも、その格好、頭に血が昇っちゃって苦しいですよ?お、降りたほうが」

それが出来たら苦労は無い。
「ふ、ふん、いま困っているのは僕じゃなくて貴様の方だろう。僕のことはほっといてだな」

「あ、でもよくみたら…お(ぐし)に葉っぱや煙突の(すす)が…。
腕組みをしてる懐にとりさんを抱いていますし…。
ま、まるで、このお店の屋根にのぼって鳥を捕まえようとして、う、うっかり煙突へ落ちちゃったように見えますがっ」

「ぐっ――」図星である。
僕の顔が重力の作用と羞恥で一気に赤くなった。

「――う、うるさいな!
今日はたまたま煙突から入りたい気分だったんだよ!悪いかっ」
「みゅっ!?」

自らの恥を隠したいがゆえに逆切れする、最悪に理不尽な男がそこにいた。
っていうか僕だった。クレーマーも真っ青である。

「え、煙突から入店してはいけないという決まりでもあるのか!?
それともこの店は逆さまにぶらさがっているお客様はお断りなのかっ?」

「いいいいえ、そそそんなことは」

「ちくしょう、僕だって好きでぶら下がってる訳じゃないんだぞ!察しろよ!」


クレーマーっていうか、もはやモンスター領主である…。
何が『逆さまにぶらさがっているお客様はお断りなのか?』だ。そんな怪しいコーモリ男はふつう問答無用で切り捨てる。
いや…今の僕が言うのもなんだけど…。


照れ隠しの暴言はなかなか止まらない。

「よ、世の中にはなぁ!やむにやまれぬ事情で逆さまにならざるを得ない人がなぁ!」
「ごめんなさ……もっ、もう聴きませんから!…ねっ、りょうしゅさま、いいこいいこ」

暖炉に宙吊りになったままじたばたと暴れる領主に困り果て、赤子をあやすような仕草で応じる女将アイス。
うう…このコミュ障うさぎに子供扱いされるとは…な、情けない…。
久しぶりの登場シーンなのに…。
せめて精一杯格好つけたかったのだが、空気を読まない女将によって、最悪に格好悪い姿を晒されてしまうジョウ・ジスガルド。






ぞぞぞぞぞぐぐぅぅぅうるるるぁあぁあぁあああるぁあああるるるるるっ!!!!!


「ひうっ!?」「ぬ」
…そうだ、こんな事をしている場合じゃなかった。一気に気持ちを切り替える。

鼓膜に直接ヤスリをかけるような不愉快きわまる音が薬菜飯店じゅうに響きわたった。
あの風の魔術士が解体ショーを始めたんだろう。
ケーキを丹念に切り崩すような攻撃を、この館全体に、無差別にだ。

屋根裏部屋の床を切り裂いていくつもカマイタチが飛び出す。
四方八方に直線軌道で突き刺さり、ぎゃるぎゃると回転し好き勝手に周辺を破壊し切ると、自然にほどけて終焉していく。
机前にかかげられたポスターはずたずたに。ベッドは羽毛をまきちらし。
窓の外に吸い込まれ、レストランに寄り添うように植わっている大樹の枝をずっぱりと落としていくものもあった。

「ああっ、ポスタッ、べ…きゃううっ!?」ばきん!破片が飛んでくる。
ちっ。ここも安全な隠れ家ではなくなったな。


王様(おう)の命を受けた狂信者(ぶか)は、鎌を振るい、うさぎ達の住む草原をぺんぺん草ひとつ生えない荒野に変えてしまうつもりだった。

住家(すみか)がなくなる悲しみ。
故郷をうしなうという絶望。
侵略国家ラグネロはそれを味わったことがない。から、より一層に容赦がない。

僕だってかつては。
「…ふん、やってくれるぜ」
なるほど胸糞が悪いものだ。こんなやり方は許しちゃおけない。


許しちゃおけないよな、ヒーロー?



ぞりぃぃん!

激しい爆音とともにひとまわり大きなカマイタチが屋根裏部屋の床から飛び出し、子供一人くらいなら通れそうな裂け目をつくる。
それをちらりと横目で見て、しゃがみこんで怯える女将を見て、僕は今回のバトルに勝つための策を考える。

できた。

「……女将」

★★★



暗い地下室で放浪者は、天井の裂け目から漏れる光を見つめている。
(鎧を不可視にすればただの少年に化けられる…戦いは避けられる…でも、戦いを避ければ…おれは弱くなる…)
ぐるぐると廻る思考。




(ちょっと書き直し)
「りょ――領主、さま――?」



屋根裏部屋――ちいさな世界の片隅で。

かわいらしいウサギの獣人、薬菜飯店の女将アイスが、突然現れた僕を見て、つぶらな瞳をぱちくりと瞬かせた。


「うむ」
僕は胸をそらし、腕組みをして答える。

「街に刺客が侵入して、あちこちで混乱を巻き起こしていると聞いてな。
領主としてわざわざこの僕が解決しに来てやったのだ。
ふふん…アイスよ、身に余る光栄にむせび泣いても良いのだぞ?」

笑顔でそう言ってみた。
が、女将は「はぁ…」とポカンとするばかり。
まったく、この街の住民は奥ゆかしいな。もっと全力で僕への敬意を示してもいいのに(真顔)。



「…りょ、りょうしゅさま、あの…?」
「なんだ」
「……うーうー…な、なぜ、暖炉の煙突穴から逆さまにぶら下がっているのですか…?」

「それは聞くな」

アイスの当然の疑問をぴしゃりと拒絶してみた。

たしかにこの僕……ジョウ・ジスガルドは現在、屋根裏部屋の暖炉内で、ぼろぼろの患者衣をめくれさせて逆さ吊りになり、
包帯だらけの細い体を重力にまかせて揺らしているところだが。
へそから下は煙突の穴にずっぽりと嵌って動けない…。
せめてもの意地で、顔だけは決め顔である。


「で、でも……お(ぐし)に葉っぱや煙突の(すす)がついてますしっ…。
よくみたら腕組みをしてる懐にとりさんを抱いていますし…。
まるで、このお店の屋根にのぼって鳥を捕まえようとして、う、うっかり煙突へ落ちちゃったように見えますっ」

「ぜんぜんそんな事はない。気のせいだったら気のせいだ」

「でも…」

「客にたいして余計な詮索をするのはよくないぜ」
「みゅっ…ごっ…ごご、ごめんなさいっ…」


無理に押し切ったあげく謝らせてみた。

我ながらひどく強引な話術である。

まぁ、監禁中の捕虜が外界へむけて伝書鳩ならぬ伝書カナリアを放ったので、
必死でその鳥を追い駆けて街中の民家の屋根を右往左往しているうちに、
うっかりこの店の煙突に落ちちゃったー、とは真逆(まさか)言えまい。

領主としての威厳が損なわれてしまう。

(ちなみに伝令によって駆けつけた(エベレッタ)は僕の(ベルディッカ)が倒してくれていた。
妹にフォローしてもらってる時点で威厳とかはもうかなりアレなのだが、そこは僕と読者だけの秘密だ)




(放浪者独白)

世界はとても美しかったり恐ろしかったバリエーション豊かでとにかく飽きない。
“飽きない”ということはとても大切だ。

肉体的死が訪れないぼくにとって精神的な死が唯一避けるべき最悪で、
いつでもむずがる赤ん坊のようなわがままで甘い自分をヨシヨシあやさなきゃいけない。

でもそれはぼくだけじゃない。平和なこの街のひとたちだってきっとそうにちがいない。

きみだって娯楽がないとやっていけないでしょ?
自己実現も、承認欲求が満たされることも大事だし、
どんどん肥大する自分をどうにか満たす延々としたループが、生活というものだ。


(一番最近書いたやつ)
★★★

★★★


-1-


永遠なる酒宴の月。10と2の日。 魚曜日。

機神都市エルベラと蒸気都市ラグネロの戦争、五日目――。
これまでのおさらい。


弱小国家であるエルベラは、二国の衝突が始まってすぐに街をドーム状の結界で覆い、篭城作戦に出た。
堅牢な山脈に抱かれている地の利を最大限に活かす形である。

まず敵軍に攻めさせ、自軍はガードを固める。
果てしない山越えと、永遠に続く猛暑と、三人の魔女による昼夜を問わない遊撃で
相手を疲弊させ、十分に心を折った所で、
老獪な領主がお得意の舌戦(停戦交渉・妥協案・懐柔策)を持ちかける。

――返ってきた答えが「YES」なら、逃げる敵軍をそのまま見逃すが、
――「NO」の場合は、切り札たる超巨大ゴーレム【機神エルベラ】で容赦なく蹴散らすのだ。

専守防衛。永世中立。
侵略せず、先制せず、去る者も追わず。
しかし話が通じない相手であるならば、問答無用で粉砕する。

…というのがこの国の理念であり、定石であり、必勝パターンなのである。


その戦法を可能にする鍵こそが、類稀なる魔術文字の使い手、旧領主ジーンだった。

彼はその節くれだった指先で、あるいは身の丈ほどもある巨大な和筆で、
周囲の環境を自由に創造・修復する術を持っていた。

実際、常に砂風の吹きすさぶ山奥の秘境であるのにも関わらず
機神都市エルベラの周りには湖や滝や森…と、不自然なまでに自然が多く、
街が擁している家畜や畑の数も埒外なまでに充実していた。

整備された水路、豊かすぎる生態系、都合よく配置された地形…。

備蓄は十分すぎるほど。
いくらでも戦える循環型都市国家。
『篭城戦』に特化した自然――いや、“不自然”要塞。

500年前、都市計画のほとんどを担ったのが…『絵を描いた』のが、
かの神の筆を持つ男ジーンであることを鑑みれば、
これらは最初から仕組まれて“そこにあった”ものであろうことは想像に難くない。

(つまり、“森”の一文字から生まれたシュバルツ大森林のように…だ)


田舎の、辺境の、世間的にはまったく無名の、弱小国家であるはずのエルベラは、

意外にも、戦争が始まってからのこの五日間、

軍事大国ラグネロによる全面的な超々大侵攻を、ほぼノーダメージで弾き返していた…。



――が、蒸気都市ラグネロの最終皇帝、ジャンクヤード・JJ・ジスガルド13世は
かの機神都市の弱点をすでに看過し、その防衛の要を失わせる策を打っている。

戦争のごく初期段階に、ジーンひとりを封印する為に自軍の戦力の大半を注ぎ込んだのだ。

反魔術結界を施した無数のゴーレム連隊と、それをサポートする大魔術師団。

街から離れた森の奥深くで、旧領主は、
五日を数える現在においても未だ、炎渦のごとき戦いの中に身を投じている。





「ぬぅうう、暑いぃっ!暑すぎるわ!なんだこのクソ気候!?
…おい、クソ侵略目標地点のクソ結界はまだ剥がれんのか?!」

牛角付き兜をつけた髭面の武将が、顔を真っ赤にして部下達に怒鳴りつけた。
エルベラの炎輪の太陽に鎧ごと蒸し焼きにされて彼らは汗だくだ。

「は、はいッ、現在総員で集中攻撃を行っておりますが、
針の穴ほどの隙間を開けるのが精一杯でして…っ
それすらも攻撃の手を緩めるとすぐに塞がってしま」

がしっ

「!?」

…と、ふいに髭面武将は少年兵の頭を鷲掴みにすると、眼をぎょろつかせながら言った。

「おい貴様、“クソ”を忘れるな」
「…は?」

「言葉の前には“クソ”をつけろと教えただろうがァーーッ!」
「くっ、くく、クソもうしわけありませんッ!」
「良しッ!クソ野郎ッ!」

乱暴に部下の頭を放り捨てる武将。
彼の名は“青髭公”ピルグリム。
高慢で理不尽で支配的な、ラグネロによくいるタイプの軍人だった。


乾いた風で膨らんだマントを肩にかけ、重そうな角つき兜をその巨大な頭に載せた偉丈夫。
ぎょろぎょろとした眼が恐ろしい。

故郷では貴族に位置する階級らしく、その身をつつむグリーンの全身鎧も、
金糸で編まれ、装飾がほどこされた華美なものである。


そんな派手かつ大柄なピルグリムが腕組みをし、仁王立ちをしているものだから、
部下たちはただそれだけで威圧感を覚え、
エルベラを護るドーム状の結界への無謀なアタックを繰り返さざるを得ないのだった。



彼らがいるのは、秘境の街の裏玄関、西部の古戦場へと繋がる山道。
険しい岩山を越えてたどり着いた、コロシアムの大盆のような開けた場所である。

それはエルベラを攻めるにあたって想定していた幾本のルートのひとつだったが、
現在その道は、エルベラの国境を境にして、
シャボン玉の泡のような、奇妙にゆらめく結界によって封鎖されていた。

「攻ォーー撃、始めェ!」
百人長の号令によって、城門を突破するために使用される攻城兵器――破城槌が
兵士達の手で引かれ、振り子状に揺り戻し、鐘のごとく結界を突く。

ぐぅぅぅにぃいいいいいいいいいん、ん、ん…


ところが、結界はその質量をたやすく受け止めてしまう。
「く…!だ、弾頭、撃てェい!」

限界まで膜が伸びたところで槌の先端にこめられた火薬が爆発し、
槍に似た弾頭が発射されたが、
結界の表面は目まぐるしく色を変えながらもその衝撃を吸収してしまった。

のみならず、膜表面がふいに発光したかと思うと――

「う、うわあっ…」「まただッ」「総員、伏せェェーーー」

すべてのエネルギーが反転し、結界周辺に群がっていたラグネロ兵士たちを吹き飛ばす!
強烈な波動と風によって人は薙ぎ倒され、
攻城兵器は宙を舞って、そこらの兵士用テントめがけて落下する有様だ。



「……………………」
青髭公は、無言で、腰に吊るしてあった小型の酒樽を飲み干した。

「あ、あの、将軍様…?」
お付きの少年兵の言葉も無視だ。

めきっ!と分厚いブーツで踏み潰したのは先ほどの空樽である。
樫の木の残骸が砂と交じって霧散する。

少年兵は首筋に怖気が走るのを自覚したが、ビビっている場合ではなかった。
この暴君の機嫌をすこしでも良くしなければ自分に未来はないのだ。
「ご――」
彼は、すっかり衝撃を受け流し、
凪の海のように静まり返った結界へと駆け寄って
必死で戦果をアピールした。

「ご、ご覧下さい将軍様!なんと!孔が開いてます!
我が軍の見事なる二段攻撃によって、
彼奴らの頼みの綱である、く、クソ結界はもう瓦解寸前でありますよ!」

「……」
青髭公のこめかみがピクピク動く。もう彼は祈るような気持ちである。怒りよ鎮まってくれ…!

「あっ、ほら、さっきまで針の先くらいしか開けられなかったのに、
結界の穴、私の指がはいるサイズになってます!
ほら見てみて…あっ、あーもう閉じちゃった…。

で、でも、クソすごい!やったぁ、これはもう侵略できたも同然ですねっ」



ダメだった。

「――――くぅおおの、クッソ馬鹿もん共がァッ!」

最終更新:2017年08月16日 15:23