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女の子だってヒーローに憧れる
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服を着替えて脱衣所を出た。
ちなみに籠に入れてあった服は無くなっており、その代わりにきちっとたたまれた着替えが置かれてあった。
Q:一体何着目?
A:実は三十四着目。
君が顔を上げるとふりふりと左右に揺れる
シャワータイムの尻尾が見える。
彼女の足取りは
ティシューに比べてびしっとしてない、小さな鼻歌と共に首が左右に小さく揺れる。
そして栗毛色のポニーテールは首の動きに連動して揺れているのだ。
あの、とその後ろ姿に声をかけると、シャワータイムはくるりと身体を反転させた。
「何か?」
後ろ向きで歩みを止めないまま君と視線を合わせる。
ティシューさんは?と聞いてみた。
「現在外出の準備中かと思うよ」
外出の準備?と言うとシャワータイムはきょとんとして首をかしげた。
「街に行ってみたいと言ったのはお客様なんでないの?だからティシューはツナの所とメルの所行ってるんだけど」
そう言われて君は思い出した、街に行きたいと言ったらご案内いたしますとティシューは言った、その準備を行っているのか。
準備って何を?
「足とおやつの確保だよ」
君は意味がわからなかった、そしてちょうど目的地に着いた。
今までの部屋の扉とは質の違う、観音開きの大きな扉だ。
シャワータイムは両手でそれをばーんと開けた。
開け放たれた扉の先には板敷きの大きな空間。君は一瞬学校の体育館を連想した。
むしろその連想は正しかった、ニスの塗られた床板に、室内を照らす天井からの光源。
足踏みをするとその下が空洞になっているような反響音、だが広さだけが段違いだった。
「ようこそ」
「いらっしゃいまし」
両隣から声を聞こえた、君がそちらを見やると開け放った扉を支える
メイドが二人いた。
これまで会ったメイドの誰よりも小柄だ、年齢は十代に届くかどうかと言ったところだろう。
「紹介します。遊戯室担当の、メル・メグ・メルと、セッティエーム・∀・ノーマです」
「メルです」
と、桃色の髪をふわりとお辞儀。
「
セッティエームです」
と、空色の髪をふわりとお辞儀。
『二人はプリ「さて、ティシューが待ってるので急ごっか」』
声を揃えてびしっと決めポーズする二人を無視して、シャワータイムは歩みを進めた。
君はシャワータイムのあまりのスルーに唖然とした。ポーズを取っている二人の目には涙が浮かんでいる。
そして二人は君に視線を向ける、何かを期待する四つの瞳。君は思った、どうしよう……。
「無視していいと思うよ、かまってほしいだけだから」
「わかってるなら何か言ってよー」
「何か言ってよー」
シャワータイムの手に取りすがる二人、かまってほしいだけだった。
「あー、はいはい、あとで遊んであげるから待ってなー。ティシュー待たせてるでしょ」
『はーい』
あとで遊んであげるから、とシャワータイムが言うと二人はあっさり彼女から離れた。
遊んでほしいだけだった。
「約束だよっ」
「絶対だからね!」
「はいはい、新しい技思いついたから試してみたい所だったしね」
思いつ、の所で二人はぴゅーんと逃げた。
「あぎゃんっ」
「ひぎぃっ」
道中、設置されてあるビリヤード台に二人揃って身体をぶつけていた。
そしてよろめいた弾みで広げてあった作成中のでかいパズルの上に二人揃ってズザー。
『うわーん』
二人は半泣きになりながら扉の向こうへと姿を消した。
まるでコントのような泣きっ面に蜂に君は目を丸くした、シャワータイムがクスクスと笑う。
遊戯室には扉が幾つかあった、今君たちが入ってきた扉以外に、どれも同じように大きい。
君がその扉について訪ねると。
「遊戯室の機材置き場だよ、二人の部屋でもあるねー。ティシュー待たせてるけど、入ってみる?」
君はあとで見ることにした、シャワータイムが頻繁にティシューを待たせていることをアッピールするからだ。
「あいさー、んじゃあとでね、こっちだよ」
くるっと方向転換して扉の一つへ向かう、先ほどのようにシャワータイムがばーんと開ける。
今度は両方ではなく片方の扉だけであった、先ほどのメルとセッティエームのように扉の向こうで支える人間がいなかったからだ。
シャワータイムが先に外に出て、開けた扉を身体で支える。
彼女に促され遊技場から出る、長い通路の先に厩舎がある。
「あちらでティシューがお待ちです。行ってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
「また来てねー」
いつのまにか部屋から出て来たメルとセッティエームがシャワータイムのそばで、君の背中に声をかけた。
復活が早い。
「よし、ゲット」
「きゃう」
「ひゃん」
のこのこと近づいてきた隙を逃さず、シャワータイムが二人の首に腕を回してがっちりと捕獲した。
『きゅぁーーー』
心なしか少し楽しそうな声を残しながら彼女たちは遊戯室へと戻っていった、扉が閉まった。
遊戯室をドタドタと走り回る音を後ろに聞きながら、君はティシューの待つ厩舎へと歩みを進める。
時折すれ違うメイドに会釈されて君も返す。
「お待ちしておりました」
手を身体の前に組み、深く礼をするティシュー。
「ご足労いただきありがとうございます。本来ならお迎えにあがるべきでしたが、都合が合わず申し訳ありません」
深々と陳謝するティシューの様子に、むしろ君は待たせてしまったことを謝った。おあいこ。
君に気遣いにティシューは嬉しそうにほほえみもう一度一例して話題を変える。
「湯加減はいかがでしたか?」
風呂でシャワータイムにされたことを思い出し君は少し頬を赤らめながら、絶賛した。
「今後もご利用されるのでしたら、いつでも仰ってください」
ありがとうと君はお礼を言いつつ、それを見上げた。
ティシューのそばにあるもの、それは二人用の鞍が取り付けられた一頭の馬だった。
ティシューが用意していたものは街へ行く際の移動手段、足だった。
ちなみに厩舎は遊戯室管轄、飼育している23の馬はメルとセッティエームが管理しているのだ。
すばらしい毛並みの馬だった、コレに乗って街へ行こうという算段らしい。
ティシューは手綱を掴むと、鐙に足をかけてひょいっと登ってみせた。ちらり。
「登れますか?」
君は何とか自力で登ろうとした、しかし、経験がなかったために上手く登れない。
それを予測していたからだろう、ティシューは馬上から君に手を差し出した。
「そちらに足をかけて、せーのっ」
ちなみに足を引っかける金具は「あぶみ」と言う。
細いティシューの手だったが、ぎゅっと握る力は予想以上に強く、地面を蹴った反動もあったが君の身体を軽く馬の背に乗せた。
君を乗せたあとティシューはするりと降りた。
「では、参りましょう」
手綱を引いて先導する。ティシューが馬に乗ったのは君を上から引っ張るだけのが目的だったようだ。
かっぽりかっぽり、馬の蹄の音が小気味よく鳴る。
最終更新:2015年12月15日 18:55