ちょっと日が開いて市場に行くと、おっちゃんが人々から問い詰められている。
おっちゃん、竹光抜刀チャレンジで稼いでたんだけど、本当は抜けるようになっていないんじゃないかって噂になる。
ゴロゴロが抜刀したときに居合わせた人なら刀身見てるけど、いなかったひとはわからないからしかたない。
詐欺だ、金返せってなってる時にゴロゴロがきて。
「どうしたの?」
「おお、ちょうどよかった。例の『竹光』だが、もう一回抜いてくれないか」
「えー?また?だってあれうるさいもん、やだー」
「そこを何とか。こいつら『竹光』が偽物だとか言って聞かないんだよ。抜いてくれたらこの間のことちゃらにするから。おっちゃん一生のおねがい!」
「うーん……わかった、一回だけだからね」
ゴロゴロ、おっちゃんから『竹光』を受け取る。
おっちゃん、口上する。
「これより抜刀するは我らがゴロゴロ、心技体を兼ね備え、日出国の珠玉の刀剣『竹光』に認められし少女。その手に握られた名刀『竹光』をいざ尋常に刮目せよ!」
「おっちゃんうるさい」
と、苦笑しながらすらっ。
チャレンジした観客たちは、すんなりと抜刀された『竹光』に驚愕される。そしてゴロゴロの手に掲げられる『竹光』の刀身の美しさに息を飲む。
「こるるるるぁあぁあああああ!」
そして『竹光』が怒鳴った。
抜刀した当人のゴロゴロは、眉間にしわをよせて「ほらやっぱり」と言いたげだ。
「貴様!貴様ら!我を何と心得る!日出国の珠玉の刀剣『竹光』だぞ!不変抜刀の『竹光』だぞ!折れず曲がらず」
「曲がったよね」
「うぐ……」
「曲がった」
「うむ……」
そういうと『竹光』は静かになった、ゴロゴロはあれ、きょうはおとなしいな、と思いつつおっちゃんを見やる。
「抜いたけどこれでいいの?戻すよ?」
「待った。抜いたままでいいからそのまま持っててくれ」
「えー?」
「あとで好きなもの買ってやるから」
「チョコバナナ!」
「了解」
さて、とおっちゃんが竹光を見やる。
「お前さん、『竹光』と言ったな」
『竹光』は肯定した。
「いかにも!日出国――今はヒノマルと呼称するのだったな。そこで打たれた珠玉の刀剣が一つ『竹光』が我が銘だ。折れず曲がらずよく切れるが基本的な能力なのだが、どういうことか曲げられてしまったな……」
「基本的な能力ということは、能力は他にもあるのか?」
「ある。だがそれは所有者たる資格を持った者のみが知りうる能力だ。貴様ら凡百な人間には知るよしも無い事柄だ。そもそも我と会話を交わすことができるのは資格所有者だけなのだぞ。本来貴様らは我の声すら聞く権利はないのだ。まったく身の程を」
「折るよ」(むぎゅっ)
「すみませんごめんなさい勘弁してください許してくださいなんでも答えますから!!!」
ゴロゴロの非道な発言におっちゃん、若干引きつつ質問。
「あー、その、なんだ。ゴロゴロに抜けたってことは、こいつにはその所有者たる資格があるってことなのか」
「愚問。我を抜刀しうることそれこそがその証明。我ら珠玉の刀剣はいかに技と力に満ちあふれていても心が欠けていては行使すること叶わぬ存在」
おっちゃんが感心した様子でゴロゴロをみやる。変な子どもだとは思っていたが、そんな存在だとは思いもしなかった。
と、そこへ、観客の誰かがこう叫んだ。
「ふざけるな!お前らグルなんだろ!そんなガキんちょに抜けて俺に抜けないわけがわけがないだろ!」
そんな罵声に、おっちゃんがゴロゴロをちらりと見る。等のゴロゴロは声のしたほうに視線を向けるが、その手には『竹光』が抜かれたままだ。
「資格者足るそなたよ!凡百なる戯れ言に気を病まれますな!そなたにとってはかような罵声など微風のごときもの!そなたには我を携え大事を成すであろうことは確定的に明らかである!」
「この間僕のことガキって言ったのにどういう心変わり?」
「うぐ……この間は数十年ぶりの抜刀で他者との会話の仕方を忘れておったのだ。『我ら』の資格者にあのように納められるとは露ほどにも思わず……いえ、失言でした。申し訳ない」
罵声によって生じたゴロゴロの表情のかげりが、『竹光』の慰めによって晴れるのを、おっちゃんはすぐそばで見た。
「さて!」
パン、とおっちゃんは手を叩いた。
「『竹光』本人からの言質ももらえたことだし、この『竹光』が珠玉の刀剣であることは確定的に明らかだろう。あとは抜刀しうるかは当人の力量次第。己を顧みず他者に罵声を浴びせるやつの心がこの刀にふさわしいかどうかは語るまでもないことだ」
そんなおっちゃんの発言をきいたゴロゴロは、『竹光』を鞘に収めようとした。
すると慌てるのは当の『竹光』である。
「ちょ!待たれよ資格を持つそなたよ何をなさるか」
「え、刀納めるだけだよ?」
「何を言うのだ!そなたは我を行使する資格を持っているのだぞ!?それなのになぜ納めようとするのだ!」
「え、だって……」
「だって……?」
「ボク剣とか刀使わないし……それにたけみつおっちゃんの商品だし……」
絶句する『竹光』を綺麗に鞘に収め、ゴロゴロは刀をおっちゃんに返した。
「それじゃあボクは行くね。あ、チョコバナナ」
ゴロゴロが小さな手を差し出して請求、おっちゃんがその手のひらに小銭を置くと、ゴロゴロはとことことその場を後にした。


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最終更新:2016年05月19日 10:21