拾号高速祈祷炉

じゅうごうこうそくきとうろ


ストーリーモード中盤に開放されるダンジョンの一つ。
聖都エーデルグーテの近海の底に沈んでおり、侵入には潜水艇を入手しなければならない。
プネウマ聖教に習合されて今はもうない、「ヒモロギ教」という小さな宗教の寺院だった場所。

東方から伝来したヒモロギ教は『祈りが神を形づくる』という教義の典型的な依代信仰だった。
平たく言えば人の願いや祈り、想いには力が宿り、それらが蓄積されて神が生まれ、願いを叶えてくれるというもの。
事実、敬虔な信徒の祈祷は魔力がこもり、多人数が祈りを重ねることで、
一種の強力な魔法と化して彼らの困難を打ち破る助けとなった。

高速祈祷炉は、そんなヒモロギ教が大陸に伝来するにつれ変容し、
より効率的な祈りを求めるようになったことで建設された祭壇である。

ヒモロギの祈りは供物を供えたり祝詞を唱えたりと多くの手順を要し、時間がかかる。
東方現地ではこれが生活の一部となっているため不満が出ることはなかったが、
大陸に伝播するにあたり当地の人々の生活様式にはあまり馴染まなかった。

祈りの所作を大幅に簡略化しつつ、その力の恩恵を十分に受けるため、
大陸の人々は「放っておいても勝手にお祈りをしてくれるシステム」を考案した。
タンクから杯に神酒を注ぎ、録音した祝詞を垂れ流し、大幣を高速回転させる、
『全自動お祈り機』とも言える祭壇を魔法技術で作り上げたのである。

大陸各地にあわせて10基建造された「高速祈祷炉」と呼ばれるその祭壇は、
神に唾吐くような罰当たりな設計理念に反して順調に動作した。
祈る者が不在でも祈りは天に届き、炉内に蓄積された神の力は信徒たちの願いを叶えていった。

しかし、露悪的なまでの合理化は教内でも「教えの本質を歪めた」とした反発があり、
合理主義者と原理主義者の間で熾烈な内部抗争が勃発した。
皮肉なこであるが、あるべき教えの姿を取り戻さんと誰かが「祈り」、
それがある種の洗脳魔法と化して信徒達の暴走のタガを外すことで、願いを叶えてしまったのである。

身内争いによって急激に弱体化したヒモロギ教は事実上の解散。
方々に散った僅かな信徒と共に世界宗教であるプネウマ聖教に習合され、
現在は聖教の祈りの作法にその痕跡を残す程度となっている。

打ち棄てられた高速祈祷炉はプネウマの僧たちによって9基まで解体されたが、
海底に隠されていたため手つかずのまま残っていたのが拾号高速祈祷炉である。

当時を知る者がいなくなった為解散から長年にわたってその行方がしれないままとなっていた拾号だが、
近年になってからエーデルグーテにほど近い海の底に謎の建造物が沈んでいるのを地元漁師が発見。
調査に訪れた神学者たちによって、彫りこまれた文様からこれがヒモロギ教の忘れ形見であることが特定された。

海底に存在するため大規模な団体で調査を行うことは難しく、またどんな危険があるとも知れないため、
プネウマ聖教の神学者は少数精鋭の調査隊を募り、これにプレイヤーが応じたのが攻略クエストの始まりである。

内部には外観からは想像がつかないほど広大な空間が出来ており、
侵入者を拒むような迷路や仕掛けがいたるところに施されている。
挙句の果てに海底には居ないはずの陸地の魔物まで徘徊している。

これは叶えるべき願いがなくなった高速祈祷炉が、最後の信徒の願いを反映し、
「祈り続けることを祈る」という無限ループじみた状態に陥っていることによる。
祈りを拡大するため祈祷装置を自ら生み出し、さらには祈りを妨害する者の訪れを阻んでいるのである。

最奥部ではボス戦としてアンデッド系の準レイド級「カースヴィッシュ」と対決する。
ヒモロギ信徒の生き残りが永久に存在し続けることを願い、叶えられた存在。
常軌を逸したタフさを誇り、正攻法では数時間がかりで戦うことになる。

こちらも特殊コマンドで「祈る」ことが可能なので、相手の成仏を祈ってあげよう。
眼に見えて与ダメが上がる。ATBゲージをどれだけ祈りに割り振るかは戦術の見せ所である。

風土習慣の違いによる宗教の変容や、過ぎた技術が身を滅ぼす人の儚さといった、
なかなか練られたシナリオは高いプレイヤー評価を得ているのだが、
いかんせん宗教問題というデリケートなテーマを扱っているためか、
メインシナリオからはスポイルされて隠しダンジョン扱いとなってしまった。

アンデッド繋がりということなのか、転輾(のたう)つ者たちの廟における
大賢者ローウェル戦のヒントが散りばめられていたりするので、
この超難度レイドに挑む前には訪ねておくとよいだろう。攻略組の戦力なら大した難易度でもない。

バックストーリーを把握してから挑めばクリアした時の感慨もきっとひとしおである。
ローウェルを倒せたらの話だが。

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最終更新:2022年10月24日 21:43