SF百科図鑑

山岸真『80年代SF傑作選 上』ハヤカワ文庫SF

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

2000年

11/10
「80年代SF傑作選上」に入る。
ギブスン「ニューローズホテル」★★★★
ギブスン節。近未来の荒廃した日本の都市風景、アウトローなチンピラのキャラクター、装飾過多でハードボイルド調の文体。ストーリーは普通のハードボイルドで驚きや思弁性といったSF性は乏しい。小説としては悪くないが。とにかくスタイルが総ての作家なので、その後の低迷の萌芽は既にあったのかも・・・。
ディフィリポ「スキンツイスター」★★★★1/2
同じサイバーパンクでも中身のあるものは面白い。掌で他人の人体に触れて入り込み、改変する医者・・・このアイデアだけでもとんでもない。しかもそれを「あたりまえ」のこととして描き、無気味な描写ととんでもないストーリーが展開してラストまでいく。このネタで長編が読んでみたい・・・。
キムスタンリーロビンスン「石の卵」★★★★★
これは凄い。SFというより不条理ホラーといった趣で、ディックや安部公房すら連想させる。あの火星三部作の作者が昔こういうのを書いていたとは。
次の「わが愛しき娘たちよ」ウィリスは既読のためとばす。むろん★★★★★だ。
この上巻には受賞作としてはゼラズニイ、ウォルドロップ、エフィンジャーが入っている。楽しみ。ちなみに下巻は、ビショップ、ラス、バトラー、ワットエヴァンス、ベア、ブレイロック。

SFマガジン83-9。
ゼラズニイ「ユニコーン・ヴァリエーション」★★★★★
名作。原書でも読んでいたが、翻訳を読んで解像度が増した。とにかくユニコーン、サスクァッチ、グリフィンといった生物のキャラが最高。特にグリフィンは笑える。ゼラズニイ作品の中で今のところ1位。
「しばし天の祝福より遠ざかり」「プッシャー」は既読。
次はブライアント「八月の上昇気流」だ。なかなかよさそうだ。80年代って結構質が高いじゃん。

11/11
30分かけてダウンしたデータを再読み込みで消してしまった(T_T)。
1行ずれてた。ゴアに投票しようとして上に穴開けたやつの気持ちわかる・・・。

(略)

原書部門は、ザーンの「カスケード地点」を読み始めた。

ダン「ブラインド・シェミイ」★★★★1/2
臓器を賭けてサイコンダクトしてするギャンブル・・・アイデア自体キてる。しかも展開される精神分析闘争の描写がまたいかれてる。訳者解説によると「サイバーパンクとは違うデカダンな香り」ということだが、これがサイバーパンクでないなら、サイバーパンクかそうでないかの括りにあまり意味があるとは思えない。

11/12
(略)

さて、次はカード「辺境」ティプトリー「たったひとつの冴えたやりかた」だ。

11/13
ゼラズニイ「北斎の富岳24景」★★★★★
ゼラズニイの文学的知識のひけらかしが絶妙のはったりを生んで、見事な仕上がりとなっている。前半やや冗長な感じもするが、これが見事なラストに向かって徐々に加速するにつれかえって効果を上げる。ラストは完璧に巧い。ある意味、ゼラズニイ版サイバーパンク解釈とも言えるが、電脳ストーカーのネタと北斎の絵というミスマッチがまた異色でワンアンドオンリーの作品に仕上がった。
ウォルドロップ「みっともないニワトリ」★★★★★
名作。素晴らしい法螺話です。何とも言えず物悲しくもユーモラスなオチまで、とにかく完璧な仕上がり。今まで読んだことのないタイプの作品で、この作者、他の作品も読んでみたい。
シェパード「龍のグリオールに絵を描いた男」★★★★
素材はSFというよりファンタジーで、手法はリアリズム、超現実の題材を使って普通小説を書いているような感じ。人生や心理の描写が複雑で象徴的であり、わかりやすくはない。さすがスリップストリームの雄。いかにも「マジックリアリズム」な感じ。但し個人的にはあまり好きなタイプではないです。なんか中南米作家の小説を読んでいるのとそう変わらないような感じ。わざわざ「シェパードのを」選んで読むべき必然性がないというか・・・。この作品も完成度は高いし、見る人が見れば絶賛されてもおかしくはないと思うが、僕とは波長があわないので★1つ減らした。新潮文庫の「ジャガーハンター」も「サルバドル」だけ読んでおっぽり出したまま。

11/14
スティール「マ-ス・ホテルから生中継で」★★★★1/2
前半は単にSF設定でロックバンドのサクセスストーリーを描いただけでどうということはないと思ったが、後半が音楽業界批判を超えて文明論にまで若干踏み込んだ点で評価を上げた。出てくる音楽も80年前後のポップミュージックの状況を前提としているため既に古臭い感じがする(例えば電子音楽主流の90年代からすると「ヘヴィ-メタルが流行の主流」という未来文化の設定自体「んな阿呆な」となる。)が、まあこれは大目に見よう。文化や風俗を扱った小説が古びるのが早いのは仕方がない。
エフィンジャー「シュレディンガーの子猫」★★★★1/2
タイトルから想像される通りの内容。量子力学とパラレルワールドのネタである。観測によって事象の状態が決定され、観測する前に予測することは不可能であるところから、観測によって選択された状態以外のあらゆる選択肢に基づく無数の世界に絶えず分岐し続けているというパラレルワールドのアイデアを真正面から取り上げているが、この作品の新しさは、語り手の女性が現にハイゼンベルグやシュレディンガーの助手を務めながら自己の無数のありうべき未来の幻を見る、というメタSF(メタ科学?)的な構造をとっているところだろうか。また、いずれが幻でいずれが現実であるのかといった脈絡もつけず複数の「現実」を並列的に記述していき、相乗効果を上げながらラストに向かっていくという構成や、イスラム教徒を主人公に据えイスラム教義やイスラム文化圏の描写をしていること、文体や科学的考察の緊密さといった点も特筆される。やや難解ではあるがハイレベルの作品である。

いやあ、80年代の上巻は名作揃いだった。ただ、やや読後感が重すぎる感じはする。もう少し軽めの作品も入れてもらえるともっとバランスがよかったと思う(普通のバカ話、冒険SF、アイデアストーリーも息抜きに欲しい)。

記事メニュー
ウィキ募集バナー