SF百科図鑑

中村融・山岸真『20世紀SF3 1960年代』河出文庫

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2001年

2/5
「20世紀SF3」最高! 粒ぞろいだ! 全品新訳!
ゼラズニイ「復讐の女神」★★★★1/2
コーゴが犬を助けにいくところがいい。「キャメロット最後の守護者」収録。「伝導の書」からでないのはこちらの本のほうが入手困難なためか。
エリスン、ディレーニイは前述。エリスンは「ハーレクィン」。「少年と犬」は長過ぎるのと入手容易なため、こちらを収録したのであろう。ディレーニイ「コロナ」も「スターピット」「時準」のほうが上だが、分かりやすさと短さでこちらが収録されたものであろう。
クラーク「メイルシュトレーム2」★★★★★
非受賞作の中にもこんな傑作があったとは、クラーク恐るべし。「太陽系最後の日」とかよりこっちの方が全然いい。ランディス「日の下を歩いて」を思い出した。
バラード「砂の檻」★★★★★
たまんないねえ、かっこいい。「死亡した宇宙飛行士」に発展していく一連の「寂れたロケット基地跡地」ものの第一弾、砂漠のような幻想風景がたまりません。筆力が段違い。
ウィルヘルム「やっぱりきみは最高だ」★★★★1/2
ウィルヘルムはネビュラ賞受賞作「計画する人」、デビュー作「1マイルもある宇宙船」など60年代も幻の傑作がいっぱいあるのでそちらを入れてほしかった気もするが、この作品も巧いし、ウィルヘルムらしい暗さがよく表れていてサンプルにはちょうどいい。
ラファティ「町かどの穴」★★★★1/2
ラファティ最高! 凄すぎ! 我が道をいってる(笑)。あっちの世界にイってますなあ。この作品もマッドでめちゃめちゃ楽しく、作者の頭の中がどうなってるのかかち割って見てみたい。但しオチがありきたりかな、というので半分引いた。短編集全編揃えるべし。
ディッシュ「リスの檻」★★★★★
この暗さとマッドさがいかにもディッシュ(笑)。緊迫感溢れる極限状況の中で正気と狂気のはざまをぎりぎりまで追求して活写。「キャンプコンセントレーション」へと続く思弁小説の王道の第一歩(笑)。最高です。
ディクスン「イルカの流儀」★★★★★
あまり期待せずに読み始めただけに、読み終わってなんだこれ、大傑作じゃん! アンソロジーの構成的には、この時期ブレイクしたミリタリーものを是非入れてほしかった気がするが、皮肉なラストがあまりにも見事すぎるので許す。ただの兵隊SF作家じゃないシリアスな持ち味がよく表れた作品。こういうのも書けるんです。未訳のネビュラ賞受賞作「彼こそ王」は、またおあずけか・・・
ニーヴン「銀河の<核>へ」★★★★
再読。こういう作品をバラードやディッシュ等ニューウェーヴ王道作品と横並びで入れるところに編者のバランス感覚が表れており好感が持てる。正直いって中学生のころはあんなに面白かったのに、今読むと小説としての雑さが目立ち、貧相に感じられる。読みどころはやはり、くだらなさ一歩手前の天文学馬鹿アイデアの楽しさのみ。しかし、ニーヴンのノウンスペースシリーズの平均的な雰囲気が、最もよく表れた作品であることも確か。
シルヴァーバーグ「太陽踊り」★★★★★
シルヴァーバーグの当時のシリアス路線の雰囲気がよく表れた作品で、もちろん内容的にも素晴らしい。「内側の世界」とか「禁じられた惑星」あたりの文体/テーマを彷佛とさせる。受賞作「ヴァチカンからの吉報」「憑きもの」など再録してほしいこの時期の作品はいっぱいあるが、作者自身のマイベストと称するこの作品も一度読んでみたかったので、感無量。
プラクタ「何時からおいでで」★★★★1/2
綺麗にまとまったショートショート、広瀬正あたりが書きそうなネタだな。こういうのをさり気なく挟み込むあたりに編者のセンスのよさが感じられる。
オールディス「賛美歌百番」★★★★★
オールディスの遠未来幻想SFって、はっきりいって世界一。そのイマジネーションの常識外れの物凄さは「地球の長い午後」で証明済みなだけに、この作品も安心して浸れる。ほとんど天国のような超遠未来の幻想風景、哲学的アイデア、奇妙な数々の動物たち。ボッスの宗教画のようです。個人的に世界最強のSF作家は、昔も今も自分の中でオールディス。
あとはヴァンスを残すのみ。

このアンソロジーで不満をあげるなら、
「何でライバーが入っていないのだ!」
「ネビュラ賞受賞作も入れてくれい!」
「軍事ものなども入れてくれい!」
などであるが、まああまり多くを望むのも無理なので、次回に期待するとしよう。

2/6
ヴァンス「月の蛾」★★★★★
凄い。ラファティとは違った意味で「どうやったらこんな話が書けるのか、頭をかち割って見てみたい」作家の一人である。フランス世紀末幻想作家ジャン・ロランにSFを書かせてミステリ仕立てにしたような内容で、インチキ楽器の注釈は注釈中毒者ヴァンスの専売特許でペダンティックな雰囲気をかきたて、もちろん、常識でははかり知れない思考と行動をする異星生物の描写は完全にヴァンス節。しかもこの作品の場合は冒険活劇ではなく、サスペンス溢れるSFミステリになっているだけに、その異色な感覚が極限まで強調されて強烈な印象を残す。皮肉なオチも決まっており、さすが「幻の名作」と言われていただけのことはある。

というわけで「21世紀SF3」は1,2を上回る読みごたえで、余裕の★★★★★。やっぱりニューウェーヴのSFは良いねえ。こんな本ばかりぶっ続けで50冊ばかり読みたいよ、ほんと。嗚呼幸せ。

で、この本をあと2、3回読み直したいぐらいだが、それでは進歩がないので、心を鬼にしてヒューゴー賞読みに戻ることにする。今度は、アンダースン「土星ゲーム」とアシモフ「銀河帝国の興亡」である。アシモフは「ファウンデーションの彼方に」を読むため、どうしても旧シリーズ3冊を先に読まざるを得ない(また旧3冊はシリーズもののヒューゴー賞受賞作でもあるし)。

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