SF百科図鑑
Elizabeth Hand "Last Summer, At Mars Hill"
最終更新:
匿名ユーザー
2002年
4/27
ハンド「去年の夏、マースヒルで」読み始める。
読み方のスタイルとしては、やはり1章ごとにスキャナ/OCR取込み?英次郎リーダーで単語を調べ、単語帳を作りながら熟読する(連語は、単語帳の中に◇印で区別し、タイトル欄だけ作っておく)?1章読み終わるごとに粗筋を別ファイルに作成(記憶喚起用)?単語帳を読みながら、使用されていた意味をボールド表示にしたり、用例や意味を追加したり、連語の意味を調べて入力したり、用例をインターネット検索でニュースグループから抜き出して追加したりして、単語、連語を覚える。?全部読み終わったら感想をお日記に入力する。?気に入った作品は全文翻訳する。
という流れが一番よいようだ。何ぶん長い作品は、後半になると前の内容を忘れたりするので、まめに粗筋をまとめておかないと失敗する。特に翻訳までする時は、登場人物、組織団体、地名等の固有名詞の整理表も作成する必要がある。
さて、今日明日中に2~3章を読む。
1章は、降霊術者の団体の一員の女性の娘が、去年の夏母とマースヒルに行った思い出を語り始める。「母はマースヒルから戻る気がないのをわたしは行く前から知っていた」この団体の描写は60~70年代のヒッピー団体を思わせるのが面白い。母は夫に死なれてからドラッグと男に溺れる日々を送っていたが、ある日を境に再び団体のイベント活動に没頭するようになる。娘は、母が出かけているすきに母の隠していた封筒の中身を見る。乳癌の診断書。投薬は受けていない。
何らかの悲劇を予感させる導入だが、予測はつかない。今後の展開に期待値大。現時点ではまだSFといえない。降霊術者だけに、予知、念動等に対する言及があったり、フーディニー師が出てきたりはするが。スピリチュアリズムに関する予備知識をインターネットで調べておいた方が良いかも。
それにしても「マースヒル」っていうから火星もの本格植民SFかと期待したが、そういう名前の地名だった。でも「ワシントン高原」とか結構変な地名がいっぱい出てくるんだよ。一癖あるかも。あ、ハンドについても調査必要。確か映画のノベライズが新潮文庫から出てた。
5/15
エリザベス・ハンド「去年の夏、マースヒルで」★★★★★
感動の名作である。不死を求めて、「光の子」が降臨するマースヒルに集う霊能力者たちのコミュニティ。主人公の少女ムーニーは母に、そのボーイフレンドのジェイソンは父に連れられてこの地を訪れる。ムーニーの母は乳癌に、ジェイソンの父はエイズに侵されている。年齢不詳の女占い師グロース女史をからめて、コミュニティのあたかも70年代ヒッピームーブメントのごとき生き生きとした人々の営みが、巧みな性格の描き分けと相まって読む者の心を捉える。そして、ある日遂にムーニーは、母アリエルに光の子が降臨する様を目撃する。ジェイソンの父マーティンも光の子に救われる。グロース女史と対峙したムーニーは光の子の正体に関する女史の見解を聴く。光の子は不死の存在であり、自らに欠けるもの、すなわち死を求めてこの地に集い、人々と交わるというのだ。光の子が降臨するのは、不死を強く願う者だけ--死を欲する者と不死を欲する者の願いが合致するところにのみ、光の子は降臨するのだ。
マースヒルという神秘の地を創造し、巧みな人物描写力で魅力的なキャラクターたちの織り成す人間模様を紡ぎあげ、生と死、生きることの意味を深く考察し、暗い色調の前半から未来への力強い躍動に満ちたエンディングへと読者を導くハンドの筆力に万歳! ネビュラ賞、世界幻想文学大賞ダブル受賞の快挙が当然と言える、歴史に残る名作だ。この作品の前には、もはやSF、ファンタジー、純文学のカテゴリー論など意味をなさない。この作品ほど、読み終わると同時に、魅力的な登場人物たちと別れなければならないことをつらく感じた作品も少ない。ムーニーとジェイスンの恋の行方は? ジェイスンの父マーティンはほんとうにマースヒルから外に出て行くのだろうか? グロース女史の若かりし日は? あたかも自分の身近にいる人たちのように気になってしまう。続編を、それも長編で読んでみたいという思いが強い。
エリザベス・ハンド。また新たな気になる作家が現れた、という感じである。
アマゾンJPにて、「去年の夏、マースヒルで」(短編集)と「月よ目覚めよ」(長編)を注文した。在庫切れが多いが、「月長のまつり」「ミレニア1」などが訳されているほか、ノヴェライズ作品もある。「月長」については続編が2編出ており、いずれも評判がいい。後は「暗い光」の評価が高い。SFにこだわらないジャンルミックス的な作風が、一部マニアには嫌われているようであるが、私は高く評価したい。