SF百科図鑑

Greg Egan "Axiomatic"

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2005年12月15日

Greg Egan "Axiomatic"

イーガンの英米での第一短編集。我が国独自編集の『祈りの海』『しあわせの理由』に、収録作は分散している。

Seesaa記事より転載(12/12付)

目次(1:『祈りの海』  2:『しあわせの理由』)

THE INFINITE ASSASSIN 「無限の暗殺者」1
THE HUNDRED LIGHT-YEAR DIARY 「百光年ダイアリー」1
EUGENE
THE CARESS 「愛撫」2
BLOOD SISTERS 「血を分けた姉妹」2
AXIOMATIC  「行動原理」SFM2004-4
THE SAFE-DEPOSIT BOX 「貸金庫」1
SEEING
A KIDNAPPING 「誘拐」1
LEARNING TO BE ME 「ぼくになることを」1
THE MOAT
THE WALK
THE CUTIE 「キューティ」1
INTO DARKNESS
APPROPRIATE LOVE 「適切な愛」2
THE MORAL VIROLOGIST 「道徳的ウイルス学者」2
CLOSER
UNSTABLE ORBITS IN THE SPACE OF LIES 「放浪者の軌道」1
***

したがって未読作品は以下の通り。

EUGENE
SEEING
THE MOAT
THE WALK
INTO DARKNESS
CLOSER
***
コメントに追記できなくなっているため、残りはここに記す。全く。ライブドアもダメだが、ここもダメだなぁ。
***
The Moat ★★1/2
近未来のオーストラリア。政府の難民受け入れ政策に反対する拝外主義者のグループがビラ貼りや落書きの活動を行っている。主人公は研究所に勤める恋人から、レイプ殺人の被害者女性の膣内の精液を検査したところ、血液型は被害者と違うのに、DNAは被害者のものしか検出されなかった話をきく。ある科学者グループがDNAの塩基(AGCT)を別の物質で置き換える技術を研究しており、それを人体に応用してごく一部のエリートのみに提供している噂があるが、その人物による犯行ではないかという疑いがあるらしい。この方法によれば全ての(通常の塩基で構成されるDNAを持つ)ウイルスに対する免疫ができるというのだ──という話。
だが明確なオチがなく、「持てる者が技術を独占し、持たざる者は排除される」ことへの疑問を主人公が提示して終わる。上記アイデアを紹介したのみで終わり、小説としての基本要素が備わっておらず、凡作と言うしかない。

posted by brunner at 11:58| 東京 タイ、・ border=|Comment(4) | 読書
この記事へのコメント
未読に「行動原理」も追加。SFM該当号持ってるけど探すの面倒だからこっちで読む。
Posted by slg at 2005年12月13日11:59
"Eugene" ★★★
<あらすじ> 
環境汚染の進んだ未来、宝くじを当てて大金を手にした夫婦が、この世界を変える天才に我が子をしたいと、天才医学者クックの本を訪ねる。かれは複数のプランを提示したが、夫婦は脳細胞の情報伝達速度を速める因子を増加させる遺伝子療法を選択する。だが、息子の「身長」「容姿」「ペニスの長さ」の指定までも求められ、「これら全てが本人の社会的成功に影響する要素である」と指摘され、複雑な気分に陥る。
ところが、ある日夫妻がテレビを見ていると、画面に息子ユージーンと名乗る人物が突然現れる。かれはユージーンの遺伝子操作のためコンピュータに入力された基礎情報によって作り出された未来のユージーンのシミュレーションであった。この未来のユージーンは、人類の危機を救う方法は存在せず、人類自らが<涅槃の境地>に達することしか苦痛を逃れる道はないといい、「そうするにはすべてをなかったことにするしかない」と指摘する。そして、かれは自分が生まれてくることがないように父母である夫妻のネットワーク上の情報や銀行口座情報を全て書き換えていた。夫妻は自分の口座がからになっているのを知ったが、その運命を受け入れ、豪邸を安い家に買い換えて慎ましい生活を送った。クック博士はノーベル賞とグラミー賞を受賞する活躍をしたが、肝心の<遺伝子操作による天才児育成事業>はどういうわけか実を結ぶことがなかった。その理由が、自分の技術のあまりの完璧さ故であることをとうとう知ることはなかった。
<評>
クレスの無眠人シリーズと同様の、オーソドックスな遺伝子操作による天才児育成ものである。ただ、後半の展開(科学技術の進展と個人との軋轢において、個人を優先するやや保守的な価値観、科学技術の暴走による環境汚染への危機感など)はいかにもイーガンらしい。万人にわかりやすい水準作だろう。本作が山岸真にスキップされたのはやや筋立てが単純すぎるせいだろうか。
Posted by slg at 2005年12月13日 14:18
「行動原理」"Axiomatic" ★★★★1/2(SFマガジン2004年4月号)
SFマガジンが簡単に見つかったので、結局山岸真の見事な日本語で読んだ。そして、未読だと思っていたが実は読んでいたことが判明。かなりの名作なのに忘れているなんて&&。ということで「よくできているが忘れ去られやすい地味さ」ゆえに1/2減点。
<あらすじ>
初期イーガンの十八番、<自己改変もの脳SF>である。ナノテク技術によって自己の価値観や行動原理を操作するインプラント商品が氾濫する未来。銀行強盗に妻を殺された男が、出所した犯人に殺害の動機を問いつめ、復讐をしようと思い立つ。かれは拳銃を手に入れるが、自分には復讐に対する心理的抵抗や葛藤があるため、<人間の生命は無価値である>という価値観を付与するインプラントを特注し、使用する。かれは犯人を問いつめ、「むしゃくしゃしたから殺した」という答えを引き出し、インプラントの作用によって「確かに妻の生命など無益だ」と犯人の動機をよく理解し、犯人を射殺する。
インプラントの作用はまもなく消え、警察の手も男の元には及ばなかった。だが、インプラントによって得た「生命は無益」であるという理解と、それによる自由感、多幸感は後遺症として消えることはなかった。
Posted by slg at 2005年12月13日14:53
"The Seeing" ★★★
頭蓋骨に銃弾を受け、<幽体離脱>状態に陥った男の話。幽体離脱に関し、様々な環境情報から周囲の光景を再構成する脳の特殊な作用であるとする説明がイーガンらしい。
Posted by slg at 2005年12月14日 22:52

The Walk ★★★★

殺し屋に迫られた男が、死の直前に「個体が死んでも自分とそっくりの人間が存在すれば自分は生き残ることになる」という信念を埋めこむインプラントを使うよう要求される。男は抵抗した挙句、これを承諾した。だが、殺し屋は自らの頭を撃ちぬいた。当の殺し屋自身が自らの信念を実現するため、彼にインプラントの使用を要求し、同じ信念を持たせた上で、自分と同じ死の恐怖に怯えさせたのだった。果たして、誰が死んだのか?

「行動原理」と同じインプラントというガジェットを用いて、「自己とは何か」というアイデンティティの問題に切りこんだ作品。プロットは単純だが、メインテーマに関する切れ味は鋭い。


Into Darkness ★★★

時空を混乱させる突発的なワームホールの暗闇から人々を救助する隊員の話。水準級の奇想アクションSF。

未訳だと思っていたが、読んだことがあると思う。追って調査のこと。


Closer ★★★★★

<あらすじ>

全精神を脳から<宝石>と称する小型メモリに転写し脳の代わりに埋め込むことになっている未来。愛しあう男女が互いのことをもっと知りたいと、様々な実験を行う。肉体の交換。それぞれの肉体のクローンを作り、互いに全く同じ肉体に宿る。なめくじのような両性具有の人工肉体の利用。あらゆる組み合わせをやり尽くしたふたりは、ついにはそれぞれの脳内メモリーのコピーを作成し、一定時間だけ相手のメモリに自由にアクセスできるようにする実験に志願する。ふたりはお互いのすべての記憶を知り、理解できないこと、許せないことはお互いの過去に全く存在しないことを知った。お互いに秘密の部分は全くなくなった。だが、実験後間もなくふたりは別れる。互いに秘密がないということは永遠に独りであるのと変わらない。ふたりが恋していたのは互いの未知の部分、異質性だったのだから。

<評>

「ぼくになることを」などと同じく、<宝石>というガジェットを使って効果的にアイデンティティや愛の問題に切り込んだ名作である。なぜこれ程の作品が未訳であるのかわからない。山岸はこれをどこかで隠し玉として使うつもりなのか?

思考を徹底させるならば、単なる<相互のメモリーへの完全アクセス>ではなく、<人格そのものの統合>まで話を進めてほしかった気がするが、本作の興味はそこ(私とは誰なのか)よりもむしろ、愛の本質を追究することにあったのだろうから、そのような批判はお門違いだろう。

SFはこれまで様々な精神の接続を描いてきた。テレパシー(アンダースン「旅路の果て」)、集合知性(マーティン「ライアへの賛歌」ヴァーリイ「残像」)などなど。本作は、同じテーマを<宝石>というイーガン独自の現代的ガジェットで追究したものであり、思考の厳密さは格段に進歩している。だが、完全な相互理解が真の愛と相容れないという結論が多くの先行作品と変わらないのは興味深い。



silvering at 11:43 │Comments(1)読書

この記事へのコメント

1. Posted by slg   2005年12月15日11:47
ライブドアもシーサーもどちらの調子が悪いのでやむを得ず両方を併用することにする。その本を読んだ次点で調子のいい方に記事を掲載する。どうせ一時的な置き場に過ぎないから形を整えるというような無駄な作業はしない。
2. Posted by slg   2005年12月15日 23:48
Into the Darknessは「闇の中へ」の題で『しあわせの理由』に収録されていた。
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