SF百科図鑑

宮部みゆき『理由』朝日文庫

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匿名ユーザー

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2005年12月25日

宮部みゆき『理由』朝日文庫

直木賞受賞作。作者の作品を読むのは初めて。

正直、疲れた。読むのに4日ほどもかかってしまった。

非常に読みにくい、アンチエンターテインメントな話である。あるマンションの一室で起こった一家4人惨殺事件。3人は室内で顔を潰され、残る一人はベランダから転落死していた。この事件の真相を、関係者一人一人の証言を微に入り細に入りルポルタージュするというノンフィクション的手法で徐々に浮かび上がらせていくという作品である。

とにかく、人間一人一人の人生描写が異常なまでに詳細である。事件そのものと全く関係のない詳細な生活描写が叙述の中心を占める。むしろ、ミステリの素材を通じて多数の人間の人生や相互の関わりを全体的に浮き彫りにしていこうという<全体小説>を目指した、アンチミステリ的普通小説がその実質であると思われる。それだけに圧倒的なリアリティがあるのは否定できない。作者の筆力のすごさは、女流作家にしては桁違いで、そのポテンシャルの高さは素直に評価したい。

ただ、惜しむらくは、その過剰な<生活描写>の部分にあまり魅力がないために、とても冗長で退屈に感じられてしまう。

最後に明かされる真相も何ら意外なものではなく、特に転落した男を突き落としたという恋人の女がかなり早くから登場することで謎解き的興味はもともと希薄である上に、最後に明かされた<他の3人>に対する殺人の動機(犯人は転落死した男)が極めて短絡的な<ゆすりの手段>に過ぎなかったという結末は、非常に現代的で興味深くはあるものの、これだけの分量を読まされたあげくにこれでは肩透かしの感は否めない。

非常にユニークな野心作であることは認めるし、だからこそ直木賞を受賞したのであろうが、読んでいてちっとも楽しくなかったこともまた否定できない。

本作は映画化されているが映画もあまりヒットしなかったし、先日テレビ放映されたときの視聴率も6%台と非常に低かった。映画版は見てはいないが、そもそもこれは映像化向きではないであろう。

正直、この作者の本がなぜあんなに売れるのか、この本ではとうとう理解することができなかった。他のもっと読みやすい作品を読んでみなければ分かるまい。

結論

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