週刊ダイヤモンド特別レポート【第92回】 2010年7月13日
週刊ダイヤモンド編集部
週刊ダイヤモンド編集部
「これだけの騒ぎを起こしておきながら、本社経営陣も支店幹部も、すべて現場のせいにして、知らんぷり。原因を究明し、解決しない限り、遅配はまた起きる」
日本郵便の現場職員は、ゆうパックの遅配騒ぎの責任を現場に押しつけて知らんぷりを決め込む幹部の態度に怒り心頭だ。
34万件もの遅配騒ぎを起こしたゆうパック。過去に培った郵便事業への信頼は地に墜ちた。
日本郵政の郵便事業会社である日本郵便にとって、ゆうパックと日通のペリカン便の統合は郵政民営化の目玉事業であり、赤字事業立て直しの試金石でもあったが、一敗地にまみれてしまった。
だが、日本郵便の経営陣には、この大失態を招いた責任感はいまだに無いようだ。
日本郵便が遅配謝罪会見を開いた7月4日、日本郵便の全支店に届いたのは「郵便事業会社のみなさまへ」という文書(左の写真)だ。そこでは、「社員のみなさまにおかれましては円滑な業務移行に向けて、万全の体制とすべく準備をしていただきましたが、送達の遅れなどの問題が発生しました」と、鍋倉真一社長が遅配騒ぎを他人事のように述べていた。
添付された想定問答集「対外スタンスペーパー」では、遅配理由が「統合による作業内容が変更されている部分の不慣れ、一部の区分機に不具合が発生したこと、運送便の遅延などが原因と考えている」と書かれていた。
つまり、ゆうパック統合に十分な準備を行ったにもかかわらず、現場の不手際で遅配が発生したとされており、統合を指揮した経営陣や幹部の責任については一切言及されていなかったのである。
客に遅配理由を聞かれたら、現場職員は想定問答集通りに答えるしかない。彼らが怒るのも当然だ。
さすがに日本郵便経営陣も社員の反発の凄まじさに気付いたのか、翌5日に届いた文書(写真)では「今回のゆうパック遅延については、もとより社員の皆様に責任があるものではありません」と、書かれていた。だが、誰に責任があるのかは触れずじまいである。
この文書を楯に各支店の幹部は5日の朝礼で「今回の遅配は誰も悪くないし、誰にも責任はない」と訓示し、遅配騒ぎの責任問題にほっかむりを決め込む体たらくぶり。休日返上で遅配解消に奔走した現場職員は、怒りを通り越してあきれかえった。まさに組織は弛緩しきっているのだ。
消費者不在の無為無策
幹部は責任逃れに終始
幹部は責任逃れに終始
7月1日配達指定のゆうパックを配りきれずに翌2日に配っており、ターミナル局と呼ばれる、物流拠点が機能マヒを起こし、普通局にゆうパックが届かない大混乱が起きていると本誌がネット配信したのは7月2日夜のことだ。
この時点で、配りきれないゆうパックを配達するため、郵便事業部門の〝背広組〟と呼ばれる本社、支社の幹部に招集がかかり、ターミナル局や大型支店に動員されていた。かたやターミナル局では、局舎内に仕分けできない郵便物が溢れかえり、局舎内に入れない郵送トラックが大渋滞を起こし、周辺住民の通報で警察が交通整理に乗り出すという異常事態が起きていたことがのちに判明する。
だが、日本郵便は、本誌の「ホームページに遅配の告知を出したり、謝罪なり釈明の会見を開く予定はないのか」という質問に、「一切、回答しない」とダンマリを決め込んでいた。
日本郵便関係者は「2日の金曜日さえ乗り切れば、全郵便局(支店)の4分の3を占める旧特定局は土日は休みだし、企業の大口発注も減るから、人海戦術で処理すれば遅配を隠し通せると考えたのだろう。現場を知らない幹部の考えそうなことだ」と振り返る。
だが、3日以降、テレビや新聞が騒ぎ出すや日本郵便は一転、謝罪会見に踏み切る。
だが、鍋倉社長の釈明は、「いろんな研修や予行演習は行ったが、やや不慣れな人間が多かった」「遅配は一過性のもので、7日には正常化できる」と、現場に責任を押しつけ、まるで突発的事故が起きたかのようなものだった。
しかも、この時点で日本郵便はすでに一部の大口顧客には遅配発生の事実と、大々的に解決策に乗り出す旨を伝えていた。一方で、一般消費者に遅配の事実をホームページで公開したのは翌5日だ。小口の一般消費者などどうでもいいということだろうか。
この鍋倉社長の釈明を聞いた現場職員は怒り心頭だ。
というのも、そもそも職員は「いろんな研修や予行演習」などやったことがないからだ。
労働組合幹部は「統合のための研修なんて多くても数時間。十分な準備なんかまったく行われていない」と明かす。
下の写真は労組幹部が示した事業統合に向けた職員研修用資料だ。A4判で139ページの資料集、69ページのマニュアル、8ページの注意事項。この三点セットを幹部が職員の前で約40分棒読みする〝勉強会〟が唯一行われた研修だ。
旧郵便局の時代から、郵政グループが新しいシステムや手法を導入する場合は、「業研」(業務研修)が行われる。これは、当局が事前に労働組合に通告し、研修時間を事前に決めた上で、一般業務終了後に時間外勤務のかたちで、行われる。それゆえ、当局も職員も研修が行われた場合は、それが記録に残る仕組みになっている。
だから、日本郵便がしっかり準備を行ったとするなら、「業研」に費やした時間がその証となるが、現時点では一向に開示する様子はない。総務省は今回の遅延騒ぎについて、日本郵便に経過報告を求めており、この業研時間がいずれ焦点になるだろう。
元々、今回の統合には現場から準備不足を懸念する声が出ていた。
というのも、日本郵便の事業統合は旧ペリカン便とゆうパックを統合するものだが、統合されたのはブランドだけで、オペレーションや情報システムは統合せず、そのままだ。つまり1つの事業に二つの方式が併存しているのだ。
例えば、荷物の区分はゆうパックが郵便番号、ペリカン便は事前に割り振られた地域コードになっている。だから、それを読み取る職員の端末も異なり、ターミナル局では、職員が二種類の端末を持ち歩き、“二丁拳銃”と揶揄されている。両方を読み取れる新端末は統合までに職員の人数分揃わないというありさま。遅配の元凶となった区分機も当然のことながら、両者の仕様は異なる。
にもかかわらず、お互いのやり方をほとんど学ぶことなく、いきなりぶっつけ本番で統合したのだから、ターミナル局が混乱するのも当然のことだ。「日通から移籍してきたペリカン便担当者には事前研修がほとんど行われていなかったようだ」と指摘するターミナル局職員もいる。
しかも、日本郵便は民営化前のスリム化と称して、ターミナル局の集約と、職員定数を減らす「減員」を進めており、「一日あたりの取扱量が60万個から100万個に増える事業統合への対応は綱渡りで、いずれパンクする」と労組幹部は統合前から予想していた。
まさしく、遅配騒ぎは起こるべくして起きたのである。
遅配解消の“大本営発表”に
職員の反発は強まるばかり
職員の反発は強まるばかり
日本郵便は6日にターミナル局のマヒが収まり、7日午前には遅配も解消したと発表した。
だが、現場の職員は「あんな大本営発表を信じる職員なんて一人もいない、遅配解消は言葉のトリックに過ぎない」と切って捨てる。
実際、ターミナル局のマヒが収まるということは、ターミナル局に滞留していた大量のゆうパックが今度は、配達を担当する支店に積み上がることを意味する。当然、支店はオバーフローを起こし、機能はマヒすることになる。
例えば、トヨタ生産方式を導入したモデル局で、郵政改革の総本山として名を馳せた埼玉県の越谷支店。7日夜になっても、臨時便と呼ばれる集配計画外の大量のトラックが次々とゆうパックを満載して押しかけ、局舎内には大量のゆうパックが積み上がっていた。
現場職員は、「配達指定日を過ぎたゆうパックが大量にあり、職員は“ロシアンルーレット”と呼んで、配達を押しつけあっている。人手も集配車も足りず、幹部がゆうパックをリュックに詰めて、バイクで配っている」と明かす。
つまり、7日に遅配が解消したというのは、7日以降に出したゆうパックが遅配しないということであり、それ以前に出したゆうパックの遅配が解消したわけではないのだ。まさに言葉のトリックだ。
本誌既報の通り、7日の朝には「配達指定期日を過ぎた生もの(冷蔵輸送ではない果実や野菜)はもう配達するな」との命令が出された郵便局もあり、とても遅配が解消できた状況にはなかった。
ちなみに、下の写真のように、7月2日に大阪府から埼玉県の筆者宛に送られたゆうパックは遅配が解消したとされる7日時点でやっと近所の支店に届いた。だが、その後、所在不明になり、届いたのは8日の夜だった。配達に訪れた職員は「まだまだ遅配が続いておりまして」と謝るばかりだった。
今週にも、日本郵便はゆうパックの完全正常化宣言を出す予定だが、“正常化”は現場職員の大量の残業と幹部職員の動員という人海戦術でなんとかしのいだというのが実態だ。遅配の原因である人員不足、準備不足が解消されたわけではないのは明らかだ。現場には、「夏休みに入って再び郵便物が増えれば、またパンクしてもおかしくない」との声さえある。
現在、小康状態を保っているゆうパックの集配は、顧客のゆうパック離れで物量が大幅に減ったことによるもので、これまでたどってきたじり貧の道をさらに早く転げ落ちていることを意味する。果たして、今回に遅配騒動で失った信頼とシェアを日本郵政は回復することが出来るのか。市場の8割のシェアを握るヤマト運輸と佐川急便の二強の背中がさらに遠のいていく。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)
ソース:ダイヤモンド・オンライン(Diamond Online) http://diamond.jp/articles/-/8731