アットウィキロゴ

分霊箱(ホークラックス)

登録日:2026/08/16 Sun 18:15:11
更新日:2026/08/21 Fri 22:32:14NEW!
所要時間:約 45 分で読めます






魔法の中で最も邪悪な発明。
人はそれを説きもせず、語りもしない。



ホグワーツ魔法魔術学校図書館収蔵『最も邪悪な魔術』より。


「ホークラックス/分霊箱」とは、小説『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する闇の魔術。
原語表記は「Horcrux」



概要(一般)

初出は第6巻『ハリー・ポッターと謎のプリンス』。
数ある魔法の中でも、「歴史上最も邪悪」とされており、概要に触れるどころか名称を呼ぶ事すら禁忌とされる(ある意味ホントの意味で「名前を言ってはいけないあの人」扱い)。

文字通り「存在を知る事すら許されない」レベルで扱われており、魔法界の一般的な文献はおろか、闇の魔術を専門的に扱う書物ですら記載が絶無という徹底ぶり。
膨大な蔵書量を誇るホグワーツ魔法魔術学校の図書館ですら例外ではなく、同館の本を総ざらいしたハーマイオニー・グレンジャーですら、たった1冊の本に項目冒頭の一文を見つけるのが精いっぱいという有様だった。
許されざる呪文」は「呪文そのものは比較的知られている(が、人に使ったら違法)」であるのに対し、この分霊箱(ホークラックス)は「書籍の情報が少ないどころか、知識を保有する人物達も、この魔法については口を閉ざしている」という、数ある闇の魔法の中でも屈指の「禁忌」扱いをされている。











以下、闇の魔術の深奥と本編のネタバレあり






ホークラックス、それは「術者の魂を分割し、当人の肉体以外の物体に宿す」魔法。
また、それによって生成された「術者の魂の一部を宿した魔法物質」を指す。

これだけだと何の役に立つのか分からない気がするがまず、この世界における魔法使いたちに分かっている生と死の境目は「魂があの世に行ったとき」で、
魂がこの世にあるうちは蘇生可能だがなくなるとダメと言う事(。ハリーの両親などを生き返らせることができない理由もそれ。
(なお、「ほとんど首なしニック」のような幽霊たちは残留思念とでもいうべき存在で故人の魂とは別。このため「幽霊になれば蘇生可能」とかではない。)

そこで「自分の魂の宿る物質」──『分霊箱』があれば、「術者の魂を現世に繋ぎとめる」要石となる。
その為、たとえ術者本人が何らかの要因で落命しても、分たれた魂が『分霊箱』として存在する限り『あの世』へ送り出されず、真の意味で「」に至る事は無い。
「分霊箱がある限り」という前提こそつくが、事実上の「不死を実現可能な魔法である。

……ここまで読んで、ホークラックス/分霊箱が禁忌扱いな理由にピンとこない人も多いだろう。
確かに『死』という生命の限界点を超えるというのは、魔法界は無論人類史においても誰一人として到達し得ない領域。
「そこに足先が触れる技術をおいそれと衆目に晒すワケにはいかない」とは考えられるだろう。

だが、どこまで行ってもこの魔法の主たる特性は「死を回避する」という点のみ
それ以外に術者が得られるメリットや効能は基本存在しないし、そもそも「闇の魔術」に分類されるような特性も見当たらない。
実際「用いる事で生じる危険性・凶悪性」という点では「洗脳拷問殺害」と悪意のオンパレードである「許されざる呪文」の方が圧倒的に高く強い。
にもかかわらず、何故この魔法が「最も邪悪」と殊更に強調され、大衆の耳目に触れる事すら憚られるのか。

それはこの魔法の第一段階「術者の魂を分割する」というプロセスーー正確には「魂を分割するために必要な『手順』」にある。

当たり前の話だが、魂は人間1人に1つ。
あらゆる生命が平等に持ち得るモノ、そして2つ以上持つ事は決してあり得ず、何より一度失われれば決して取り戻す事はできないモノである。
そんな存在をおいそれと、まるでケーキを切り分けるかのように分割するなど、どんな魔法だろうと出来はしない。
「ある行為」を除けば。

その行為は、
  • 人倫にもとる悪逆の極みであり、己の利得の為に他者の尊厳を踏みにじる非道
  • 常人ならば間違いなく忌避し、行った事が知れれば誰もが嫌悪し、自らの身に降りかかる事を何よりも恐れる行為
──それだけに、実行すれば唯一無二である己の魂に明瞭な傷をつけ、それを皮切りに分割する事が可能となる所業。

殺人である。

この手の秘術にありがちな「相手の魂を奪って自分の予備にする」のではなく「相手を殺した」という経験で自分の魂に傷をつけてそれを分割する
そう、ホークラックス/分霊箱とは「人を殺すための魔法」ではなく、「人を殺す事が条件の魔法」。
他人の生命を文字通り生贄として自分の生命を生きながらえるという、魔法界のあらゆる書物から存在を抹消されるのも納得の、倫理も道理も彼岸の彼方にぶん投げた最低最悪の魔法なのである。


概要(真実)

この魔法を開発したのは、紀元前500年頃の闇の魔法使い「腐ったハーポ」。
彼は「人を殺害した時、加害者の魂に『切り裂かれるかのような傷』が生じる」という事象に着目し、殺人を契機に術者の魂を比喩抜きに切り裂き、そして分かたれた魂の一部を別の物質に宿す魔法を開発した。
ちなみに彼は蛇語使い(パーセルマウス)でもあり、最凶の魔法生物「バジリスク」を生み出した人物でもある。
なにとんでもないモノを2つも作ってんだ

この魔法における「殺害」には、術者の精神に傷をつける行為が必要なので、
  • 偶発的要因による事故
  • 当事者間で何らかの合意があった場合や「生かしておくには忍びない」といった憐憫の感情
  • 「何かを守るために」と言った利他的な意識
に基づくものは当てはまらない。
純然たる利己的な意識の下、「明確にして強固な殺意」と、「悔いや後悔など微塵もない冷血さ」を以って行う、正真正銘の悪行によってのみ、この魔法は成立する。

反対に、犠牲となる「生贄」についての条件は皆無であり、殺しの手段も特に何でも構わない。
どころか術者が直接手を掛ける必要も無い。
肝心なのは「悪意を持って人を殺める事」「それを自己の行為として認識する事」なのだ。

分かたれた魂を宿す『分霊箱』についても、ぶっちゃけ何を選んでも問題はない。
基本的には無機物を選ぶものだが、場合によっては有機物──つまり、生物を分霊箱にしても機能はキチンと果たされる。
加えて分霊箱はそれ自体が強力な魔法物質であるため、本来の強度を超えた頑丈さと再生能力を得るので破壊は非常に困難。
しかも所持者(術者以外)の精神に干渉するという特性があり、不快感から始まって精神状態を不安定にしたり分霊箱への異常な執着心を抱かせるなど、ぶっちゃけ特級呪物じみたオマケつきである。

……とまあ、清々しい程に闇の魔術の極致たる特性を持つこの魔法だが、当然というかデメリットもある。
というか、「死を回避する」という偉業と引き換えに、凄まじく難儀な(それこそ死ぬほど面倒な)問題が(それこそ死ぬまで)ついて回る。

デメリット1.死ななくなるだけであって、肉体は普通にダメージを受ける

あくまで分霊箱は「死亡した際、魂が昇天しないよう繋ぎとめる」だけなので、原因を問わず死ぬ直前まで普通に肉体は怪我を負い、病にかかり、そして損壊する。
当たり前と言えば当たり前な話で、ここまでなら分霊箱のメリットがどこまで及ぶかのレベルだが、問題は次にある。

デメリット2.死亡時に肉体が消滅した場合、魂のみの存在となってしまう

一言で「死」と言っても、その死に様は千差万別。
「五体満足な状態」でならともかく、万が一「肉体が木っ端微塵に吹っ飛んだ」場合、あの世送りとなる事こそ無いが「魂の器」たる肉体も存在しない以上、魂だけの存在となってあてもなく揺蕩う事になる。
しかもその状態は、実際に体験した人曰く「ゴーストにも満たない非力な存在」であり、意識と魔力を全力で「ここに自分が存在する事」に注ぎ込まないと、自我が消滅して「ただそこにあるだけ」の存在に成り果てる。
「死を乗り越える」という魔法の目的こそ達成できているが、考える事すらできないまま永遠にこの世を漂い続けるというのは、あまりにも無意味な結末である。

また、どうにか自我を保てたとしても、結局のところ肉体が無いと物理的干渉はほぼ不可能なので、何らかの方法で新たな肉体を手にするか、他の生物に憑依・寄生するなどしない限りは文字通り手も足も出ない。
憑依できても、その生物が「自己と異なる魂」を宿してまともに活動できる保証も無い以上、やはり問題は継続する。

デメリット3.分霊箱自体は破壊可能であり、その場合分霊箱に宿る魂は消滅する

先述のとおり分霊箱は相当の強度を誇り、容易に破壊出来るものではない。
が、あくまで「最高に壊れにくくなった」だけであって、その防御を突破できる「強力な魔法特性」を秘めた存在なら、分霊箱を壊す事は可能である。
そして先に述べた「魂を現世に繋ぎ止める」という効果は、あくまで「術者の肉体に宿る魂」にのみ適用され、分霊箱側の魂には当てはまらない。

つまり、分霊箱の破壊はそこに宿る魂の消失を意味しており、同時に箱が砕け散れば必然的に「現世に魂を留める」効果も無くなり、術者は「死」から逃れる事が不可能となる。

ちなみに作中世界で分霊箱の破壊を成し得たのは、
  • 最凶クラスの魔法生物「バジリスク」の猛毒
  • 圧倒的な破壊力と制御難易度を誇る闇の魔術の炎「悪霊の火」
  • 『死の秘宝』の一つにして最強の杖「ニワトコの杖」から放たれた魔法
以上の3つである。
作中では「ゴドリック・グリフィンドールの剣」も分霊箱破壊を成しているが、これは剣の素材に「自身を強化する物質を取り込む」特性を持つ『小鬼の銀』が使用されており、過去にハリーがこの剣でバジリスクを倒した際にその猛毒を取り込んだことで破壊可能となった。

……もっとも、どれもこれも入手が困難すぎたり自滅のリスクと隣り合わせだったりと、決して安易に達成し得るものではない。
そもそもうち2つは闇の魔術との所縁がありまくりな代物だし。
というより、「自分が生み出した魔法生物で自分が編み出した魔法の成果物が破壊可能」とか、製作者の腐ったハーポはマジで何を考えてこんなものを生み出したのだろうか?*1

とはいえ、「絶対的な安全性が保障されていない」というのは「死の回避」というホークラックスの目的を考えると結構な問題点ではある。
確実に保全するなら後生大事に持ち歩くしかないが、それだとわざわざ魂を切り分けた意味が薄く、盗難などのリスクも生じたりと相変わらず気が休まる様子が無い。
いっそ割り切って、適当な石ころを分霊箱にして海か山にでも投棄してしまえばほぼ勝ち確なのだが、自分の魂を宿した物質をそんなぞんざいに扱えるか、という意識的な制約もある。
また「あの分霊箱が無事か確かめたい」「正体を見抜かれた恐れがあり、どこか別の場所に移したい」と考えた時に、「海底に投棄した石ころ」だった場合は本人さえ回収できなくなる恐れがある。
そういう意味でも「ゴミや石ころに魂を入れて、山や海に投棄」と言うのも、それはそれでいい判断とは言い難いだろう。

何より「破壊可能」という要素は、次のデメリットに直結する大きな問題点でもある。

デメリット4.一度分霊箱を作ると、ほぼ確実に「真っ当な死」を迎えられない

ある意味で最大のデメリット。
分霊箱がある限りは死を回避できるが、仮に破壊された上で本体が死亡した場合、その魂は決して「あの世」に至る事はできない。

魔法ワールドにおいて、死亡した人間は原則『ベールの向こう側』とも称される「死後の世界」へ渡り、たまに未練や後悔を機に『ゴースト』という形で現世にその痕跡を残す事がある。
だがこういった事象は「魂が生まれた時から亡くなる時点まで、欠落する事なく維持されている事」が前提である。

そもそも魂は(数量という概念を敢えて当て嵌めるなら)「一人につき一つ」という数は無論、「一人当たりの魂の総量」も、増減する事は本来無い。
だが、ホークラックスによって分霊箱を生み出す事は「魂を切り分ける」という性質上、魂が事実上「二つ以上に分かたれる」と同時に「一つを二つにする」=「一個当たりの魂の総量が少なくなる(・・・・・・・・・・)」事でもある*2
そして分霊箱が破壊された場合、先述の通り内包された魂も消滅するため、その人物は「生きているのに魂の総量が常人より欠けた」状態になる。
こうなった者は、その後死亡しても常人のように死後の世界へ渡ることも、ゴーストとして現世に刻まれる事も無い。
天国と地獄の狭間たる辺獄を永遠に彷徨い続ける事になる。

現世ではないので何をする事もできず、常世でもないので本当の意味での終わりを迎える事もできない、
文字通りの袋小路の真っ只中を未来永劫漂う。

先述の「肉体消滅時のデメリット」と似ているようにも思えるが、あちらは(難易度はかなり高いが)一応状況を打開する余地があるのだが、こちらの場合は正真正銘絶無。
どれほど後悔しようが手遅れ……というか「後悔」という思考すらできるかどうか分からない状況下に陥り、脱出も不可能。
「死」から逃れようと足掻いた果てに待つのは、「死」に決して到達しないが故に「死」という救いにすら辿り着けない、そんな永劫の牢獄に囚われる「終わりなき終わり」である。

なお、「ホークラックス」は、フランス語の「dehors(=英語:outside、外)」と、「crux(英語:要点、ラテン語:責め苦)」を由来とする造語である。
従って、魔術を用いた人物の重要な部分(=魂)を苦しみとともに外へ出すという意味になる。
「分霊」という神道系の用語があるので、「正確には『分魂箱』の方が適訳である」という意見もある。


作中での扱い

秘中を超えた絶秘、存在を抹消された扱い故に、その情報を知る人物は限りなく少ない。
劇中で主人公3人組より先に知っていたと明確に描写されたのは、アルバス・ダンブルドアホラス・スラグホーン、そしてトム・マールヴォロ・リドル=ヴォルデモート卿だけである*3
ホグワーツの教授陣や、闇の陣営に与していた人物達は知っていたのか不明。探究の一環で触れたとも、そこまで踏み入れなかったとも、どちらの解釈もできそうである。

自信のお気に入りは(露骨なまでに)わかりやすく厚遇するスラグホーンも、この件だけは断固として口にする事は拒み、話術に乗せられてトムに話してしまった際は(後年の「ヴォルデモート卿」としての悪行もあって)口外した記憶そのものを魔法で封じる程に後悔していた*4

ダンブルドアが知っていた経緯は不明だが、作中最高クラスの魔法使いであるダンブルドアなら、こういった闇の魔術を知っていてもまあ不思議ではない。
……というか、実はホグワーツの図書館には一冊だけ、この魔法の詳細を記した『深い闇の秘術』という書籍があったのだが、ダンブルドアによって校長室に移され保管されていた。
十中八九その危険性を考慮した措置だろうが、ダンブルドアが校長になったのはトム・リドルが卒業した後であり、それまでは図書館に保管されていた可能性が高い。
そしてトムは、先のスラグホーンから聞き出した際も「ホークラックス」という魔法そのものは把握していた。
そのため、この本から分霊箱の情報を手にしたと推察される*5
そして、作中時間軸でこの魔法を明確に実行し、しかも「複数の分霊箱を作り出す」という唯一の行為に及んだのは、ヴォルデモートだけである。

ヴォルデモート卿の分霊箱

彼は作中において度々「死の克服」を目指している事を口にしていた。
その意味でホークラックスの研究・実践は最短かつ確実な話であった。
彼がスラグホーンから聞き出そうとしたのは魔法そのものについてではなく、「複数の分霊箱を作ったらどんな影響が出るのか」を知りたかったがためでもあった。

そしてヴォルデモートは、切り分けた魂の数を(肉体に宿る分も含めて)「7」にする事にこだわった。
これは魔法ワールドにおいて「7」という数字が完全なものを示すとされているが故。
ある意味おまじないにも近いモノだが、そうした補強も含める事で、ヴォルデモートは自身の不死性をより強固にしようとしたのだ*6

また、分霊箱の多くはホグワーツ創設者に所縁の品が多いが、これもヴォルデモート自身の嗜好によるところが強い。
自分という存在に絶対的なプライドを持つが故に、「自身の魂を宿すには『それ相応のバックボーンを持つアイテム』が相応しい」と考えていたのだ。

反面、複数の分霊箱作成は未知の領域故に思わぬデメリットを生んだ
自分の魂などという存在に直結する物を、それも複数回切り分けておいて自分が無事でいられるなんて虫のいい話があるわけがなかったのである。

作中では、かつては紛れもないイケメンだったトム・リドルがあのような醜悪な形相になり果てたのは分霊箱を複数作った影響だろうと推測された(本人はマグルの父に由来する整った顔立ちを嫌悪していたので気にしていなかったが)。

また、明言されていないが若い頃より明らかに能力が低下していると思われるのも十中八九過剰に作ったが故の弊害だろう。
(トムは1926年の年末生まれなので、1990年代ならまだ70歳前後になるので魔法使いとして老いぼれるにはちょっと早い。)
通常制作者は自分の分霊箱がどこにあるのかを察知できるのだが、ヴォルデモートはこれが著しく低下していた。
この検知能力の悪さは分霊箱の所在どころか破壊された事すらロクに把握できないレベルであり、後々コレが足を引っ張るを通り越して致命傷に至る要因となった。
ただし、映画版『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』では分霊箱の減少に伴い、破壊されたことに気付いて衰弱するシーンが描かれている。

さらに思考能力も低下しているのか、学生時代のトムはどちらかというと知能犯と言ったところで周到かつ慎重に事を運んでいたのだが、現在のヴォルデモートは沸点が著しく低い上にむしろとりあえずアバダぶっぱに代表されるように脳筋気味。
加えて後述するが、手に入れた杖の忠誠心を得られていないことに気づけてもその「真の所有者」が誰であるのか、もう少し前後の状況を考察すればある程度たどり着けたかもしれないが実際には短絡的に前所有者を最終的に倒した本人の方に行ってこれまた致命傷になった



第一の分霊箱:トム・マールヴォロ・リドルの日記帳

作成における生贄:マートル・エリザベス・ウォーレン(レイブンクロー生。後の「嘆きのマートル」)

ホグワーツ在学中の彼が所持していた、一見しただけでは何の変哲もない日記帳。
16歳の当時、「スリザリンの継承者」として「秘密の部屋」を解放し、封印されていたバジリスクを従えてマグル生まれの生徒を襲撃し続けていた彼が、当時在学していた女学生のマートルをバジリスクに殺害させた際に作り出した。

彼女を殺害した理由ははっきりしていないが、マートルがマグル生まれであり「スリザリンの継承者」としては紛れもない排除対象である事から、「秘密の部屋」の入口である女子トイレに彼女が入ったタイミングで事に及んだと考えられる*7

ちなみに「なぜ普通の日記帳を分霊箱に選んだのか」という理由は不明。
購入した場所もロンドンのボグゾール通り *8にあるマグルの店舗と、何気に由来や曰くがはっきりしなかったりする。
まあ、ウォルデモート卿も最初から計画をすべて立ててたのではなく、まずは手近なものからやってみたのかもしれない。
ただし、日記帳自体が
  • トムその物の思考力と話術で質疑応答や会話できる
  • 水に濡れてもすぐに乾く
  • ハーマイオニーの呪文で解析されない
  • 必要に応じてインクが生成される*9
  • トムの話術ありきとはいえ他者の洗脳が可能
  • 記憶の投影かつ映像まで完璧に再現できる憂いの篩と同等の能力を持つ
という複数の機能を持った魔法の品となっており、おそらく分霊箱という機能以外にも持ち運び可能な憂いの篩としての運用を目的として作られた物だと思われる。
実際にダンブルドアは「自身がスリザリンの後継者であることを証明するための記憶」であるこれを分霊箱にしたと解釈している。

作成後もヴォルデモートが自身の手元に保管していたが、ポッター家を襲撃する直前に部下のルシウス・マルフォイに預けた。
だがその重要性を認識していなかったルシウスは、後年この日記をジニー・ウィーズリーの手荷物に紛れ込ませた。

コレは自身と反目していたアーサー・ウィーズリーの娘にヴォルデモート卿の所持品を持たせる事でひと悶着起こし、失脚を図ろうという小細工だった*10が、結果的に「秘密の部屋」が再度開かれる大騒動へと繋がった。
そしてその果てに、ハリーがバジリスクの牙を日記帳に突き立てた事で破壊、魂も同時に消失した。

ちなみにこの分霊箱、「宿った魂が明瞭な自我を持ち、所持者を洗脳状態において事実上操る」「所持者の生命力を吸収し、作成時点の姿で実体化を果たす」など、他の分霊箱と比べて(謂れの薄さに反して)かなり個性的な特性を発揮している。


なお、第2巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で起きたこの日記を巡る事件は、後から読み返すと
  • ダンブルドアに「ヴォルデモート卿は分霊箱を作成(それも恐らく複数)している」という事態を察知させる*11
  • 「バジリスクの牙は分霊箱破壊に有効」という事実がハリー達に伝わる。
  • バジリスクを仕留めた「グリフィンドールの剣」にその猛毒特性が付与され、分霊箱を壊す性能を与えるに至った。

……とまあ、見事に後々になってヴォルデモートの足元をすくう事態の切っ掛けになっている。
そりゃ事実を知ったヴォルデモートがルシウスを盛大に𠮟責したくなるというもんだ*12

第二の分霊箱:マールヴォロ・ゴーントの指輪

作成における生贄:トム・リドル・シニア(マグル。トム・マールヴォロ・リドルの実父)

『聖28一族』に数えられる純血の家系・ゴーント家に代々伝わる、黒い石が埋め込まれた金の指輪。
16歳の夏、自身のルーツを調べたトムが母方の実家であるゴーント家を訪れた際、伯父にあたるモーフィン・ゴーントから(自身の出自に纏わる情報と共に)強奪。
その後、近隣に住んでいた「自分にふさわしくない」マグルの父親を殺害し分霊箱の贄とした。
しかも父親と同時にその両親(つまり自分の祖父母)も諸共殺害したばかりか、その罪を伯父に(魔法で当人の記憶を改竄して)擦り付けている。

以後は自身の指に嵌めて持ち歩いていたが、後に空き家となった*13ゴーント家の邸宅内に秘匿した。
その後、『謎のプリンス』開始前にダンブルドアが発見し、グリフィンドールの剣によって破壊された。

廃墟となった家に保管という、割と不安しかないセキュリティに思えるが、そこは闇の帝王。
指輪には防御措置として「指にはめた人物に致死級の呪いを付与する」機能が備え付けられていた。
無論発見したダンブルドアもその点は見抜いていた、のだが…

実は(ヴォルデモートは完全に見落としていたが)この指輪には魔法界でも知る人ぞ知る「伝説の品」が備わっており、過去にその探求をしていたダンブルドアは一目見てそれを看破。
それと同時に、若き日の過ちから来る「願い」と「後悔」が呼び起され、その誘惑に勝てず呪いの指輪を付けてしまう。
セブルス・スネイプが呪いをダンブルドアの右腕に留めたことで、何とか一命は取り留めたが、その寿命を大幅に縮める事に繋がり、あと1年の命になってしまった。



第三の分霊箱:ヘルガ・ハッフルパフのカップ

作成における生贄:ヘプジバ・スミス(魔女。ホグワーツ創設者ヘルガ・ハッフルパフの末裔)

ホグワーツの創設者の一人「ヘルガ・ハッフルパフ」所縁の品。
取っ手が二つついた金色のカップで、ハッフルパフ寮のシンボルである穴熊の刻印がされている。

ハッフルパフの血縁者に代々継承され、トムの時代では魔法具の収集を趣味としていた老魔女ヘプジバ・スミスの下で家宝として保管されていた。
トムはホグワーツ卒業後、様々ないわくつきの品々を取り扱う「ボージン・アンド・バークス」で働いており、ヘプジバとは顧客と従業員という形で知遇を得、仕事の一環で彼女の家を訪れた際にその血脈と家宝について知ることとなった。
そしてそれから2日後、トムはヘプジバを毒殺してカップを強奪。
同時にその死を分霊箱の生贄とした。

表向き、彼女の死は「スミス家の屋敷しもべ妖精・ホキーが高齢故に誤って主人のココアに猛毒を混入させてしまった」という形で処理され、家宝の品が行方不明となった事は話題にもならなかった。
……無論、そう処理されるようにトムがホキーの記憶を改竄したのは言うまでもない。

その後、時期は不明だがベラトリックス・レストレンジに預けられ、グリンゴッツ銀行のレストレンジ家の金庫へ(「火傷の呪い」と「双子の呪い」という2種類の呪い付きで)保管された。
だが、第7巻『死の秘宝』でハリー達3人が金庫からコレを強奪。最終的にホグワーツの「秘密の部屋」へ持ち込まれ、そこにあった「バジリスクの牙」を用いたハーマイオニーに破壊された。


第四の分霊箱:サラザール・スリザリンのロケット

作成における生贄:マグルの旅行者(詳細不明。正真正銘の一般人)

ホグワーツ創設者の一人「サラザール・スリザリン」の遺品。
「S」を模った蛇の意匠をした緑の宝石が埋め込まれており、蛇語(パーセルタング)を使わなければ開けられない代物。

先述のゴーント家はスリザリンの末裔でもあり、指輪と共にこのロケットも家に代々受け継がれてきたが、当代の当主マールヴォロ・ゴーントの娘メローピー・ゴーントが、マグルの男性トム・リドル・シニアと駆け落ちした際に持ち出した*19
が、程なくしてメローピーは夫に見捨てられる格好となり、その後ロケットは生活に困窮した彼女が二束三文である店に売り払った。
そして(ロケットが貴重な品と知りながら)安値で買い叩いた店ーー「ボージン・アンド・バークス」から、お得意様の一人であったヘプジパの手に渡った末に「ハッフルパフのカップ」と同様、トム・リドルによって強奪された。

分霊箱となったタイミングは不明であり、生贄となった人物もダンブルドアの推測と不明確な要素が多い一方で、この分霊箱は他の箱と比較するとかなり強固な保管がされていた。

保管場所自体は「海辺の洞窟の奥」という珍しくもない場所なのだが、その先にはあるのは
  • 「姿現わし」といった魔法による移動や干渉が出来ず、「一人前の魔法使い一人しか乗れない小舟」以外に移動手段がない湖
  • 周囲を囲む湖に配置された、「水面に近づいたものを襲う亡者」のトラップ
  • 「血を用いなければ開けられない」仕様の扉
  • 「飲む以外に除却できず、かつ飲んだものに渇きと悪夢を見せる毒水」を満たした水盤の底にロケットを安置

これらはつまり「舟の仕掛け上単身で赴くしかない」状況下で、「流血を強いる仕掛け」で身体的に、「悪夢の毒水」で精神的にダメージが蓄積され、疲労困憊の中やっとロケットを手に出来ても、毒薬による渇きから水を求めて湖に近づいた瞬間「亡者の群れ」がダイレクトアタック…と、これでもかというほど厳重にして悪辣な防衛機構のオンパレードとなっている。

作中では第6巻『謎のプリンス』においてハリーがダンブルドアに連れられて保管場所を訪れ奪取したが、その時点であのダンブルドアが歩くのもやっとな状態に追い込まれた辺り、その凄まじさが良くわかる*20

だが、実は作中でこの場所に保管されていたのは偽物。
ヴォルデモート全盛の時期にある人物が独自に奪取し、代わりに別のロケットと「R・A・B」の名を記したメモ書きを置いていた。

すり替えた張本人にして、メモに闇の帝王宛の文書を記した人物の正体は、シリウス・ブラックの弟にして死喰い人の一人、「レギュラス・ブラック*21」。

彼はロケットをすり替えるのと引き換えに落命したが、ロケット自体は同伴していた屋敷しもべ妖精のクリーチャーによって持ち出され、以後ブラック家の屋敷に保管されていた。*22
奪取時にクリーチャーはレギュラスから「ロケットの破壊」を命じられていたが、分霊箱の特性上達成できず、さらに「奪取に関する経緯を誰にも口外しない事」を合わせて命じられたため、何もできずただ保管せざるを得なかった。
実は第5巻『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』において「誰も開けることの出来ない重いロケット」が地の文で登場している。
ブラック家の大掃除の際に一度捨てられたが、クリーチャーが回収。しかし金品を探していたマンダンガス・フレッチャーの目に留まって奪われ、後に賄賂としてドローレス・アンブリッジの手元に渡った。
そして一連の流れを知ったハリー達が奪取。
一時的に一行が所持し、最終的にロン・ウィーズリーがグリフィンドールの剣で破壊した。


第五の分霊箱:ロウェナ・レイブンクローの髪飾り

作成における生贄:アルバニアの農民(こちらも正真正銘の一般人)

ホグワーツの創設者の一人「ロウェナ・レイブンクロー」所縁の品。
レイブンクロー寮のシンボルである鷲の装飾と青い宝石、そして「計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり」というロウェナの格言が刻まれている。
レイブンクロー生などの間では「装備した者に知恵を授ける」という逸話が語られる一方「失われた髪飾り」としての伝説も残る品である。

元々ロウェナが保有していたが、娘であるヘレナ・レイブンクローが盗み出し出奔。アルバニアの森に隠匿した。
理由はシンプルに「高い叡智を持つ母への嫉妬」であったが、ロウェナにとってこの事実は相当ショックであったらしく、程なくして病床に伏せてしまう。
最後にもう一度娘に会いたいと願ったロウェナは、娘へ好意を寄せていたある男性に捜索を依頼。彼はアルバニアの森でヘレナを発見し連れて帰ろうとしたが、ヘレナはこれを拒絶。
結果激昂した男性の手にかかって殺されてしまったが、図らずもゴーストとして現世に痕跡を残し、母が創設した学校の寮付きゴースト「灰色のレディ」として現代まで存在し続ける事となる*25

以後髪飾りはアルバニアの森に隠され続け、ヘレナもそのありかを口外しなかったのだが、ただ一人、学生時代のトム・リドルだけがそれを聞き出していた。
トムはホグワーツ卒業後にこれを発見。
そして同地の農民を生贄として分霊箱にした。
その後「自身を教員にしろ」とダンブルドアへ要請すべくホグワーツを訪れた際、「必要の部屋」へと入れて保管した。
そしてダンブルドアがそれを断って以降、「闇の魔術に対する防衛術」の教員は1年以上続かなくなってしまう。

このため他の分霊箱の中で圧倒的に所在に関する情報が無かったのだが、ヘレナから一連の経緯と髪飾りの特徴を聞いたハリーが、かつて「必要の部屋」で見かけた事を思い出し、所在が判明する。
だが、追って来たドラコ・マルフォイとビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイルと部屋の中で交戦状態に入った際、ハリー達を抹殺しようとクラッブの放った「悪霊の火」が暴走した事で部屋もろとも焼き尽くされ消滅した。
ついでに魔法を発動したクラッブ自身も炎に焼かれて死亡した。
映画版では、バジリスクの牙で破壊された後、駄目押しでゴイルが放った悪霊の火に蹴り入れられ燃やし尽くされた(クラッブが不在で、代わりにブレーズ・ザビニがいるのは大人の事情)。

第六の分霊箱:ナギニ

作成における生贄:バーサ・ジョーキンズ(魔法省の役人)

ヴォルデモートのペットである大蛇。
時間軸的に最も新しい分霊箱。

誕生の経緯は、トム・リドルの日記が(ルシウスの大ポカが理由で)破壊された事による。
先述の通りヴォルデモートは自分の魂を「7」に切り分ける事に固執しており、内一つの日記を破壊された事で不完全な「6」になってしまったために、その対応という形で生み出されたとされる。

元々ヴォルデモートはナギニを(側近である死喰い人以上に)信頼していたらしく、ナギニもまた並の人間を凌ぐ知性を有していた事、そして飼い主たるヴォルデモートに絶対的な忠誠を持っていた事も理由になったと考えられる。


生け贄になったのは、魔法省勤務の魔女バーサ・ジョーキンズ。
1994年当時、仕事でアルバニアを訪れていた彼女は、偶然逃亡中だったある死喰い人と遭遇。
その口車に乗せられ連れ出され、ヴォルデモートの前に連れてこられた彼女は「貴重な情報源」として活用された。
魔法界の情勢から憎き仇敵の置かれた現状、そして思いがけない部下の存在まで、ヴォルデモートは片っ端からその記憶を読み解いたのだ。
……無論、そんな精神への多大な干渉に、常人の心が保つはずがなく、バーサは事実上廃人と化し、最後は分霊箱の贄とされた。

分霊箱となってからも引き続きヴォルデモートの傍らにあり、最終決戦においても随行していたが、土壇場で「組分け帽子」からグリフィンドールの剣を引き抜いたネビル・ロングボトムによって首を落とされた。

そしてナギニの死亡によって、ヴォルデモートが作成した分霊箱はすべて破壊された。
「死の克服」を果たしたと嘯いていた男は、ここにきて遂に「死」に追いつかれる格好となったのだった。


以下、本作終盤にして最大のネタバレ


番外の分霊箱:???

生贄:不明(後述)

実はヴォルデモートすら知らない分霊箱がすでに存在していた。
その正体は「生き残った男の子」ハリー・ポッターその人

作中では度々ハリーの額の傷が「ヴォルデモートの存在や行動」に呼応するかのように痛む、という現象があった。
ダンブルドアを始め周囲の人々はコレを「ハリーとヴォルデモートが、かけ損ねた呪いを通して繋がっているのでは」と推測しており、当人たちも半ばそう認識していた。
が、実際はもっと深い関連性があった。

当時一歳だったハリーがヴォルデモートの「死の呪い」から生き残ったのは、母・リリーの「自身の身をなげうってでも息子を守る」という行為が強力な防御魔法として作用したからであり、その結果放たれた呪いはヴォルデモートに跳ね返り、その身を滅ぼした。
ヴォルデモートは「分霊箱」の効果によって死ぬことは免れ、肉体を失った状態で生き延びたのだが、この時自身の魂の一部がハリーに「引っかかった」のだ。

普通ならまずあり得ない現象だが、これは「ヴォルデモートが分霊箱をいくつも作りすぎたせいで、そもそも魂自体が酷く不安定になっていたため」とダンブルドアは推測している。
また「嬰児殺し」という殺人の中でも極め付けに重い悪行に手を染めかけた事、直前にジェームズ・ポッターとリリーを殺害していた事など、「殺人によって魂に傷をつける」という分霊箱作成の条件をクリアしていたのも一因と考えられる。
結果、意図せずして魂は切り裂かれ、近くにいた赤ん坊のハリーに宿るという、本来起こりえない「魂を別の人間に留める」現象を引き起こした。
ハリーの額の傷がヴォルデモートの存在に反応するのも、ヴォルデモートの魂がハリーに宿っているが故。
意図しない形で誕生した「番外の分霊箱」それがハリーなのである*26
ちなみに、分霊箱になった物体は非常に頑丈になると先述したが、ハリーの肉体が殊更頑丈になっているようなフシは特に見受けられない。
正規の呪文を経ずに魂だけ引っかかったので保護効果は付いていないのだろう。

そしてこの事実こそ、ハリーとヴォルデモートの戦いの結末を左右する最大の要因でもあった。

そもそもヴォルデモートは「ハリーに自分の魂が宿っている」という事に、最後の瞬間まで気づかなかった。
元々分霊箱の検知能力がロクに働いていなかったのもあり、自身とハリーの繋がりに気づいたのは肉体を復活させた後。
その理由もぶっちゃけよくわかっておらず、その性質を逆手にとってハリーを陥れようとしたぐらいであった。

そしてそんな状況を悪化させたのは、4巻で自分の肉体を復活させる際に「ハリーの血」を用いた事。
これは自身を一度は破り、逆に自身は直接触れることすら出来ないハリー……正確には「ハリーに宿る『ヴォルデモートによる死の脅威からハリーを守る防御魔法』*27」に対抗すべく、その力が宿る「血」を肉体復活の材料とする事で克服しようとしたものだった。
実際その目論みは成功し、ヴォルデモートは以前触れる事が出来なかったハリーに触れるようになり、危害を加える事は容易になった。

が、この結果は「防御魔法の克服」によるものではなく、防御魔法を宿す血を新たな肉体の材料にした事で「ヴォルデモートの肉体」にも防御魔法が宿ったが故。
自分の身体を自分で触れるのが当たり前に出来るように、同じ防御魔法を有する物同士だから接触可能になっただけに過ぎなかった。
つまり、表面的には「無効化した」ように見えてその実、防御魔法はしっかり効果を持続していたのだ。

……それどころか、ヴォルデモートが執ったこの手法は防御魔法を消すどころかむしろ拡張したようなもので、『死の秘宝』でハリーが魔法界における成人年齢に達する=親の庇護下から外れる事で、リリーの防御魔法の効力が消失する可能性があったのに、(とっくに成人している)ヴォルデモートの肉体にもその防御魔法が宿っていた事から効果は残存していた。

これらの合わせ技によって(結果的にではあるが)、「防御魔法が宿るヴォルデモートの肉体が健在である限り、ハリーに対してヴォルデモートが死の呪いを放っても死ぬことは無い」という事態を生んだ。
なんの因果か、さんざん分霊箱を作ったヴォルデモート自身が、ハリーにとっての分霊箱のような存在になっていたのだ。

そしてトドメは、最終決戦「ホグワーツの戦い」の折。
自らの手でハリーを完全に始末しようとしたヴォルデモートは、迷う事なくハリーに「死の呪い」を放った。
「死の秘宝」の一つ、最強無比の杖「死の秘宝のニワトコの杖*28」を用いて、己にとって最後の障害といえる存在を、確実に葬り去った。
と思っていた。

話は逸れるが、「死の秘宝のニワトコの杖」に限らず、魔法の杖には「忠誠心」と呼ばれる概念がある。
これは「杖が持ち主を選ぶ」という話の根幹であり、何らかの理由で所持者が変わっても、杖は前の所有者への「忠誠心」を幾分か残すとされる*29
この結果、新しい所持者は杖のスペックを完全には発揮出来なくなる、というものなのだが、例外となるのが「死の秘宝のニワトコの杖」。
この杖に限り「現在の所持者を打ち負かした相手」に問答無用で忠誠心を移し、その性能を十全に発揮するという際立った特性を持っているのだ。
これは逆に言えば「所有者を打ち負かす」以外の方法(譲渡・盗難*30など)で「ニワトコの杖」を手に入れても、その人物は忠誠心を保有できない為に杖の全能力が発揮できない……という事を意味する*31
そしてこの忠誠心の移動は、「ニワトコの杖」を直接持っていなくても「移動する条件」に当てはまれば行われていく。

詳細は省くが「杖本体とは別に(当事者達が認識してない間に)『杖の忠誠心』が人から人へと移っていった」結果、最終決戦の時点で「杖本体はヴォルデモートの手にあっても忠誠心を持つのは別人」という状態にあった。

その「『忠誠心の持ち手』たる真の持ち主」とは、ハリー・ポッター。
ダンブルドアがかつてゲラート・グリンデルバルトから勝ち得た杖の忠誠心は、本人たちも知りえぬまま、ダンブルドア→ドラコ→ハリーと移っていた。

先に触れた通り、忠誠心を持っていないと「ニワトコの杖」は十全に機能しない。
ましてや杖で魔法をかける相手が、他ならぬ忠誠心の持ち主ともなればなおのこと。
つまりヴォルデモートは「杖が正常に機能しない」状況下で「一番杖が効果を発揮しえない」相手に「ニワトコの杖」を使ってしまったのだ(杖の忠誠心を得られていないことには気づいたのだが、忠誠心がダンブルドアを始末したスネイプにあると勘違いし、スネイプをナギニに襲わせて殺害した)。

そこに加えて、先の防御魔法に関する顛末。
こんな環境下では如何な「死の呪い」であっても効果は発揮しえないが、ニワトコの杖自体は「分霊箱すら破壊出来る」強力な武器。
それが噛み合った結果、何が起きたかというと、ハリー自身は「杖の機能不全」と「防御魔法による擬似分霊箱」の合わせ技で生存し、一方「ハリーの魂に引っかかっていた『ヴォルデモートの魂』」はきっちりニワトコの杖の攻撃対象となり、破壊・消滅。

……もうなんかいっそヴォルデモートが可哀想にすら思える程の踏んだり蹴ったりの結末であった。
まあ十割十分十厘の割合で自業自得なので、同情の余地は無いんだが。

そもそも、こんな感じでキレイにヴォルデモートだけに負債が叩きつけられるか否かは、こういう事態を仕組んだダンブルドアにも確信の無い「分が悪い賭け」であった。
なにせ長い魔法界においてもこんなケースは史上初であり、前例が皆無である以上ハリーが生き残れるかどうかは正真正銘天運任せ。
実際ダンブルドアはこの手法ならヴォルデモートを滅ぼせると踏んでいた反面、代償としてハリーが命を落とす事も想定していた*32
まあ、兎にも角にも、かくして番外の分霊箱は破壊され、直後に前述の通りナギニも討たれた結果、遂にヴォルデモートは全ての分霊箱を喪失し「死」から逃れる術を失ったのだった。
そして、ハリーはニワトコの杖をダンブルドアの墓に戻し(映画版では折って捨ててしまい)、これからも死ぬまで敗北しないことを、すなわち杖の忠誠心を自分のところで終わらせることを誓う。ニワトコの杖、蘇りの石、そして先祖から受け継がれた透明マントという3つの死の秘宝を揃えたハリーは、逆に「死を制する者」、つまり死を恐れず穏やかに受け入れられる者となった。

とはいえ、「死の呪い」をまともに受けたハリーも無傷では済まず、気を失い辺獄に迷い込むという臨死体験を受けることとなる。
キングズ・クロス駅のような形をとって現れたその真っ白な世界で、ハリーは導き手であるダンブルドアに出会うと共に、ある一つの存在を目撃していた。
それはガリガリに痩せこけて苦しんでいる、血で薄汚れたような子供のような姿の化物で、ヴォルデモートがハリーに遺した魂の一部だった。
その悲惨さにハリーが思わず「先生、あれは何?」とダンブルドアに問うと、ダンブルドアもまた哀れみの視線を向けながら「わしらには救えぬものじゃ」と形容するそれは、ハリーと共に呪いによって死を迎えたものの、死後の世界に行くことができず永劫にここで苦しむしかないのだという。
後述するヴォルデモートが持つ真の人間性と救済の道をハリーが悟ることができたのは、この邂逅による経験も大きい。

ついでに言うと、ヴォルデモートはハリーに分霊が宿った事で魂の数が「7」になっており、実は本人の望みは達成されていたのだが、その瞬間に本体が倒されたので結局本体の魂が健全な状態で7つの魂が揃った瞬間は存在しない。
日記が破壊されていなければ復活時に効果を受けられたかもしれないが、実際には復活する前に一つ失われたので復活した時点での魂は「6」、挙句の果てにそれを知らず再度分霊箱を作った事で現存する数としては「7」にこそなったが合計が「8」になっていた。
自身の不死性を強固にしようと足掻いた行為が、やらなくてもよかった愛蛇の分霊箱化によって不発に終わるどころかという、見事なまでの蛇足っぷりであった。
……つまり本体+6つの分霊箱が揃って本当に強化されるのかは実証されておらず、ヴォルデモート自身にも分からない永遠の謎になってしまったのである。

分霊箱を戻す方法

実は一度作成した分霊箱を元の肉体に戻して魂を再統合する術は存在する。
明確な悪意を抱き、その「悪意」を肯定した果ての殺害によって引き裂かれた魂を戻すには、その反対──「悪意」を否定する意思を以って初めて可能となる。
悪意の否定とは、即ち「後悔」の念。
殺人という行為を「やってはならない『罪業』」と認識し、己自身でそれを咎める事。
端的に言えば「良心の呵責」に苛まれる必要がある。

もっとも、そんな簡単に出来るわけでもなく、仮に成し遂げたとしても「想像を絶するほどの」「身を滅ぼすほどの」苦痛が伴うと言われている。
この「苦痛」が具体的に何を示すのかは明言されていないが、人を殺めるという極罪を犯した以上、そこについて回る苦痛とは「自分自身への決して拭う事の出来ない罪悪感」に生涯苛まれていく事なのかもしれない。

そしてヴォルデモート卿には、この機会が存在していた。
それは最終決戦の終盤、ハリーと一対一で立ち会った時、ハリーから一言「己の行為を省みろ」と告げられた時だった。

長きにわたる戦いの中でハリー(とダンブルドア)はヴォルデモートの過去を知り、そしてその内面を(皮肉なことに)当人以上に理解しきっていた。

天賦の才によって魔法の深淵を極めた最強最悪の闇の魔法使い。
誰もが死んだと思った状況から復活し、ついには魔法界を手中に治めた「例のあの人」。
如何なる非道もためらう事無く行い、ついには「死」を克服するに至った、精神も常人を凌駕した『闇の帝王』の内側──本人すら認識できない深層心理の奥底にいるのは、むしろその逆である、と。

それは、「死」という誰もが迎え入れる結末を誰よりも極端に恐れ、「分霊箱」という非道に手を染めてまで、そこに至る道を全力で逆走し逃れようとする、この上ないほどに臆病な小心者。
魔法界の掌握という明確な権威、さらに偉人の品を「分霊箱」として求めたのも、生まれ持った高い魔法の才という「自分自身の素養」だけでは己を鼓舞できない事の裏返し。
「モノ」や「まじない」に縋ってまで自身の存在を補強したがる精神の弱さと、「純粋な友情」ではなく「他人や世間からの評価・恐れ・利害関係」といった「自分以外の何か」から生じるものに依存しなければ自分自身を認められない、極度の劣等感に満ちた精神の持ち主。
即物的な力に固執するあまり「おとぎ話・屋敷しもべ妖精・そして愛」といった物たちを「無価値なもの・取るに足りないもの」と切り捨てそれらが持つ可能性を理解できなかった視野の狭さ。
それがヴォルデモート卿──否、「トム・マールヴォロ・リドル」という人間の正体であった。

だがそれ故に、トム・リドルには「悔恨の念を抱く」余地があった。
彼は知っていたはずなのだ。
「死」とは決して恐れるものではないのだという事を。
我が子を守る為に自らの命を差し出した1人の女性を目の当たりし、その女性が残した強固な「」から来る魔法を自らの肉体に取り込んでいたのだから。
その事実をハリーは分かっていたが故に、彼に問いかけた。
「ヴォルデモート卿」ではなく「トム・マールヴォロ・リドル」に立ち返る機会を、ハリーは与えたのだ。
「悪のカリスマ」「恐怖の象徴」「魔法の達人・圧倒的強者」「純血主義という思想の代表」といった肩書きも関係無い、「人間として当たり前の心の弱さを持つ、一介の人間」として自分を認められ、魂という自分の最も大切な核を裂いてしまったことを詫びられるように。

が、結局男はその事実──己の内面と罪業に向き合う事は無く、手にした最強の杖を以って「闇の帝王」として振る舞う選択をした。
その杖の本当の持ち主が、今正に自分の目の前にいる、たった一度にして最後とも言える救済の機会をもたらした人物である事に気づかないまま。

そうして放った「死の呪い」は、眼前の宿敵が放った「武装解除呪文」によってはじき返され、再び己自身に降りかかった。

前回との違いは「魂を現世に繋ぎとめる分霊箱はもう存在しない」という点。
生物としては今度こそ完全に死亡した男は、しかし魂を切り刻んだ代償として、「あの世にも行けず、再び復活するような可能性もなく、ゴーストのように現世にしがみつく事もできない」まま、現世と常世の狭間で未来永劫彷徨い続ける羽目になった



追記・修正は分霊箱の作成方法を知った方がお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2026年08月21日 22:32

*1 分霊箱を考案した結果他の闇の魔法使いに利用されそうになったので対抗策として生み出した、あるいは偶然の産物で破壊できることは想定していなかったなど考えられるが推測の域を出ない。

*2 ただし、分割の尺度は文字通り半分割なのか、削り取った少量なのかは明かされていない。

*3 『謎のプリンス』でダンブルドアはハリーにスラグホーンの記憶を探らせてホークラックスというキーワードを読者に知らせるが、これは「スラグホーンがヴォルデモートにホークラックスに関して事細かに教えた事の確証を得るため」であり、ホークラックスそのものの性質はダンブルドアも把握していた模様。

*4 もっとも、後にハリーに対して(幸運の液体の効果や、ひいきにしていた母の存在、良心の呵責を盾にされた上でだが)口外の記憶=分霊箱の情報を漏らしているが。

*5 無論内容的に一般生徒がおいそれと見れない扱いではあったろうが、原則ホグワーツの図書館では「教員のサイン」が書かれた許諾書があればそういった書籍も閲覧可能になる。在学中は優等生で通っていた彼ならワケの無い話であろう。

*6 現に赤ん坊のハリーを殺し損ねて自滅した際、分霊箱によって生き延びているのでその目的はある意味達成していたとも言える。

*7 マートル本人は「女子トイレに男子(つまりトム)が入ってきたから文句言おうと思って個室から出た所で死亡した(バジリスクに殺された)」と述べており「たまたまトムがバジリスクを出していたところに遭遇してしまった」ようにも思えるが、先述の通り分霊箱作成には明確な殺意が必要なので、咄嗟の口封じ以上の意図をトムが持っていたのは確定と言える。

*8 実在する地名

*9 破壊されるときの描写としてインクが溢れだすという描写があるため、インクを溜め込んでおけるという性質が近いか

*10 ついでにヴォルデモート卿との関係性を示す物的証拠の抹消もあったと考えられる。

*11 第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』の事件で「ヴォルデモートは(酷く弱い状態だが)生きている」事をダンブルドアは承知している以上、「死の一歩手前で踏みとどまっている」現状への回答となればホークラックスに行き当たるのは当然だが、重要度の高い分霊箱が「(部下とはいえ)他人の手元に有った」という事実から「他にも分霊箱がある(=一つ程度を他人に預けても問題ない)」という推察に至るのは至極当然である

*12 それらを差し引いても、ルシウスはヴォルデモート失脚を知るや早々に闇の陣営から寝返った事で不興買いまくりな上、「主君から預かった超大事な品物を、政敵を貶める為の道具として使う」という不敬極まりない事やらかしてるので、叱責もまあ必然というか。

*13 モーフィンがリドル一家殺害容疑で投獄され、居住者がいなくなった。

*14 原文は「Resurrection Stone」なので和名は直訳

*15 実際三人組の中でもハリーのみその存在を7巻まで知らなかった。マグル生まれのハーマイオニーが知っていたのはダンブルドアが遺品として『吟遊詩人ビードルの物語』の初版を残していたため。無論本に造詣の深い彼女であればそれ以前に何処かで知っていた可能性もある。

*16 ただ、蘇りの石の効果は「生者が使うと死者の魂を一時的に呼び戻して会話できる」という穏やかなものであり、「仮に知っていたとしてもヴォルデモートは興味を持たなかっただろう」とダンブルドアはコメントしている。

*17 ハリーの初めてのクィディッチにて、口で咥える形で捕まえたもの。スニッチには「肉の記憶」を持つという設定があり、ハリーが自身の死を覚悟してスニッチに口をつけた事で展開し、蘇りの石が現れる仕組みになっていた。

*18 既に石はダンブルドアによって破壊されていたが特に問題なく効力を発揮していた。完全な状態で使用した場合に差異があるのかは不明。

*19 マールヴォロ自身はその直前にアズカバンへ6か月間収監されていたため娘の出奔を知らず、出所後に知った彼はショックから程なくして死去した。

*20 ハリーが同行出来たのは、魔法界での成人年齢に達していない=「一人前の魔法使い」 ではないため、小舟の制約から外れたため。無論だからといってその先の突破が容易かといえば、さにあらず。

*21 フルネームは「レギュラス・アークタルス・ブラック」。略して「R・A・B」 となる。

*22 クリーチャーはヴォルデモートがこの洞窟のトラップ作成に当たっての実験台にされていた=トラップの詳細を把握していた事に加え、屋敷しもべ妖精=人間ではないので舟の制限に引っかからないため、レギュラスはクリーチャー同伴で洞窟に赴きロケット奪取に成功。また帰還も魔法使いの魔法とは原理が異なる屋敷しもべ妖精特有の転移魔法で果たした。

*23 離反を決意したのは「ヴォルデモートがクリーチャーを実験台として扱った事」。また秘密裏に行ったのも「家族に累が及ぶ事の無いように」という配慮からだったが、家にとことん愛想が尽きていた実兄のシリウス含め、関係者の誰にも真意が伝達される事はなかった

*24 もっとも、本編終了後にそれまでの悪行が明るみに出た事でアズカバン送りになったらしいので、やっぱり「呪われたアイテム」なのかもしれない。

*25 ちなみにヘレナを殺害した男性の正体は、スリザリン寮のゴースト「血みどろ男爵」その人。ヘレナを殺した直後に後悔から自害し果てているのだが、何の因果か彼もゴーストと化し共にホグワーツで千年以上過ごす事になった。

*26 作られた順序としては、ナギニの前。

*27 余談だがダンブルドアはこれを利用した古い魔法を用い、「リリーとの血縁者」であるダーズリー家の庇護下にある限りハリーを強固に守れる体制を整えた。

*28 「ニワトコ」自体は魔よけに使われる植物で他の杖は同材質でもこんな不思議な力はない。これが極めて特別な杖。

*29 ただし、杖の材料や状況によって傾向はあり、最初の所有者以外には最大の忠誠心を示さない場合もあれば、前の所有者を完全に見限る場合もある。

*30 伝承における最初の忠誠心移行は「初代持ち主の寝込みを襲って殺して杖を奪った人が二代目持ち主」なので強盗殺人なら不意打ちでもOKらしい。

*31 なお、これは死の秘宝であるニワトコの杖に特有の効果であり、通常のニワトコの木でできた杖は、所有者が周囲に劣る人物だと見做しただけで忠誠心をあっさり失う。このため、極めて優れた人にしかなじまないが、実際にニワトコの木の杖の忠誠心を得られた者は特別な運命を持つとされる。

*32 実際、ニワトコの杖の忠誠心がハリー……というかその前にドラコの手に渡ったのはダンブルドアにとって完全に想定外の出来事であった。予定ではダンブルドアは示し合わせた上で殺される=杖の忠誠心を持ったまま死ぬはずだったため、この通りに進んでいればもう忠誠心は誰にも移らない。