2011年1月下旬の頃か……あの忌々しい日は明確には覚えていない
なぜなら俺は途中で気絶していたのだからな……
「君達は自分の世界を救うのに必死になる癖があるようだ」
いや、癖というよりも、本能というべきか……
そう、その本能を見せつけたあのマイテイ人の顔つきは俺自身に恐怖を与えたよ。
”2011年1月19日 AM 11:40 CIA中庭 天候 積雪”
雪が積もる最中、クロと愛称の付けられた司令官ジャック・クロフォード…まぁ要するに俺のことだ。
薄いガラスブロック製の窓から灰色に包まれた空からゆらりと落ちてくる雪を眺めていた。
片手に白く取ってのついたスタンダードなコーヒーカップに
高級素材で出来た座り心地のいい赤いソファに腰をかける。
ジャズロックが流れる最新型のメカニック且つ巨大なスピーカーのついたラジオに顔を向け、小さく笑みを浮かべてしまう。
「もうすぐであの世界は我々地球人のものとなるのだ、フフフフ……カオスマスター、俺との交渉を拒否したことを後悔させてやろう」
コーヒーカップをカチンと音を立てながら皿の上に置きなんとなく俺はベランダに通ずる防弾性窓ガラスの鍵をあけ
雪で積もった広いベランダに身を出した。
清々しい、実に清々しい、あの世界が我々のものとなり、そして人類は救われる。
大統領からの命でなくても、俺のこの心というものはあの世界征服に向けて実行しろという命令を勝手にだすだろうな……。
「フフフ……」
我ながら不気味な笑い声だ……俺はベランダの白い縁に両手をつき、遠くに見えるシティの光を眺めた。
……ん?
眺めている最中、俺の眼中に入って来たのは人
ここはCIA本部……特定の服装を着用しているはずのメンバーならばおかしくはない……
だが俺の目に入って来たのは黒コートに、風に揺られてチラチラと見える社員服を来た男
金髪で鋭い瞳をした……忌々しい表情を持ったあの男
働き先で課っせられたのがロシア出勤
その任務は既に終えた。貴重な材料も手に入ったし、5日間で事は済んだ。
だが、俺が今こうしてアメリカの…それもCIA本部に近い街でふらふらとしてるのは何故だろうかと問う。
何故俺はこうしてこんなところにいるんだろうか……
出勤する前に言っていたあの地球人の言っていた挑発に乗っているのかもしれない。
俺の済む世界の征服を企む、あの地球人を……
「倒す為に俺はきたのかな?」
急にもやもやとした何かが、俺の体を包み込んだような気がした。いや、締め付けるって言った方がいいかもしれない。
もしそうだとすれば……
「乗り込むか。あの世界の為にもよ……」
俺は本部の方へと駆け出し、自然と握り拳を作っていた。
体が熱くなってきた、本部の前にたっているというだけで……
雪が服の間に入って来てるというのに、それでも熱く感じる。
さて、ショータイムと行こうぜ
「ジャック・クロフォードさんよぉ……」
俺は入口に最も近い位置の中庭で、口元に笑みを浮かべながら仁王立ちをしていた。
あの忌々しい、余裕を見せた笑み、態度
全てにおいて俺の感に障る……
「レインド、貴様の墓場、ここにしてやるぞ……」
俺は緊急ボタンを押し、本部内の全館に緊急事態命令を出した。
赤いランプの光が、白い雪の中に入っていったのが見える。
「ショータイムだ……」
”2011年1月19日 PM 12:12 CIA中庭”
”司令部から警報が入った。特殊部隊は直ちに行動を取れ。これは訓練ではない。繰り返す、特殊部隊は——”
俺の隣で五月蝿い程鳴り響く警報音、赤く光るランプ
どれもが緊張感を俺に与えた。手に滲みだしてきた気色悪い汗を握り潰すように俺は自然と握り拳に変えていた。
アイツの戦いに何かを期待しているのか、それとも俺がアイツが死ぬ所をこの目で見れる為か。
後者に違いないな……
レインド、貴様の命もここで尽きるのだ……
カオス界の英雄、レインドは足下の雪に大きく足跡をつけていた。
両腕を同じ様に構え、戦闘態勢に入る。
前方からはぞろぞろとサブマシンガンやランチャーを持った兵士が集まってきた。
「ほ、おい、見ろよアレ、人一人だぜ?なんだよクロフォード司令官も大げさだなぁ!一人の為に俺達特殊部隊を呼んだってのかよ」
「ふひひひ!だけどよ、アレ捕まえて司令官のところに連れて行けば俺達も階級とか上がるんじゃねぇのかな?」
ざわめく兵士達を前に、レインドは態勢をそのまま、冷静な表情で居た。
「ざっと……数百人は居るよな……」
「いや、司令官はアイツを殺せとご命令だ、容赦なんざいらないだろうよ……俺が仕留める!」
一人の兵士がサブマシンガンからレインドに向けて螺旋状に回転する一つの弾を発射する。
弾は一気にレインドとの距離を縮めていった。
しかし
「だが、数分で片付く……かな」
彼は顔色一つ変えず、弾を二本の指で止めてみせた。
その光景を見て兵士達の半分は何があったのか分からず、弾が反れたのだと考えていた。
もう半分は……
「あ、あの野郎…銃弾を止めた……だと!?」
彼が銃弾を止めた事に気づき、一気に顔を青ざめた。
「う、うてぇぇえぇえ!とにかくうてぇぇぇぇぇ!」
野太い声が響き、前線に居る兵士はレインドに向けて弾倉の全てをレインドに向けて撃ちこむ。
無数の銃弾がレインドと距離を縮めていった。
そして外れていった銃弾が彼の周辺で砂の混じった雪を跳ばし、彼の姿を眩ませる。
終いにはロケットランチャーが十発は彼に向けて発射されていく。
奇妙な軌道を描きつつ、彼の元で弾は爆発を起こし、煙が一気に登り始めた。
……
兵士達の間で微かな笑い声があった。
しかし
煙が晴れたところでレインドの無傷の姿が見えると
兵士達の間で沈黙が走る。
するとレインドは口を尖らせた笑みを見せ
「殺さないでおいてやるから安心しろよ、慰謝料は払わないけどな」
手元に小さな気を溜めて兵士達に向ける。
「う、うわぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!」
弾倉を打ち尽くした兵士は別の武器に切り換え、ランチャーはリロードを繰り返す
そして先程同様、無数の銃弾とランチャーが彼を襲う。
それと共に彼はその銃弾の方へと走り出した。
”2011年1月19日 PM 1:00 CIA司令塔”
司令塔内にある一つの扉がゆっくりと開かれた。
俺はその扉を開かれた瞬間、それだけで正直、死という狭間が見えた気がした……
「よぅ、クロ…」
返り血すら浴びていないレインドが扉が開いた所で見えた。
特殊部隊がやられたのは何十分も前のことだ。その情報を取得した時、俺は急いで全部隊を奴のもとに連動させたが……
まさか……
全員コイツ、一人にやられたというのか?
「安心しろよ、俺は誰も殺していない……お前の部下は一人として減ってないよ…怪我はしているけどな」
余裕の笑みなのか、それとも俺を侮辱するようなその表情は何とも気に食わない。
俺はおもむろに腰に装備していたデザートイーグルを取り出し、銃口をレインドに向けた瞬間に発砲した。
「お前の力じゃあの世界を征服するのは無理だ、諦めてここで大人しくしな……」
その言葉が聞こえたのは、俺の腹辺りに肘が鋭く当たった後だった。
「うごぉ…あ、がぁ……」
銃弾は壁に減り込んでいる……つまり、今俺の目の前にいるのは
「れ、レ…イ…ンドぉ……」
俺は…地球人を救えないのか……?
か、身体が……重く……
……
俺は姿勢を直し、クロから離れる。
すると奴は俺に向けて手を伸ばしながら、ゆっくりと重い身体をふかふかなカーペットの上に倒した。
「やれやれ……一服したいな……こりゃ」
俺の勝ちだな、クロ
〜完〜
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