政府軍第14小隊
黒の正義と称される准将、
レトヴィザン?(間違いなく偽名)を始め、円卓を囲むように顔を揃える兵士達の面々
その中に俺も座していた、どうも兵士という職業に就いている事自体に実感が湧かなく、
背筋は曲がり、可能なら靴をこの真っ白な円卓に置いて寛ぎたかった
右隣にはフリック・ディゴリー、地位は少尉、俺の同期でありながらもさっさと昇進を果たしてしまった出世頭だ
金の短髪、爽やかなヘアスタイルだが顔まで筋肉質だから若い兄さんというよりは兄貴だ、面倒見が良く准将からの信頼も厚い
俺もこいつの生真面目さと責任感の強さには救われたし、
お世辞にも会話が得意とはいえない俺と他者の橋渡しをして交流を広めてくれた
で、左隣がイアン・ハイリッヒ、三頭兵、最近政府軍入りしたメンバーの中で意欲だけは過大評価された新人
プラチナの髪、中性的な顔つきだが眉間の皺が深く刻まれていて目付きがわるい、いや目は綺麗だがハッキリ言って鬱陶しい
いったいどんな過去を背負っているのかは知らないが、ソロモン(堕天使の使わした魔物)の討伐には異常な執着を見せ、
くどいぐらい討伐討伐と連呼する
また、向上心が余りにも強く、俺や
フリック?に剣の指導をせがんでくる(大抵フリックが面倒を見てくれる)
正直俺はこういう奴が一番嫌いだ、一緒の任務は御免被りたい
「……報告は以上、現在市街地の被害は以前変わりなく増える一方です
月別討伐数は73体の
クリス?に津瑞してフリックが69体、
アヤメ?が45体、それに続き一人一人が、
先月の討伐数を遥かに上回って上々の成果を発揮している。それでも…それでも被害の増加は耐えず崩壊する村もある実情です」
リサ・カルロッサ(中佐)討伐数25体は書類を纏め上げて卓上に起き眼鏡を整える
彼女の情報収集と情報整理はゴロツキや元々兵役経験がなく実力を買われ徴兵を受理した奴の集まりである14小隊では希少だ
「今の我々がより、住民の保護数を増やし被害を最小限に抑えソロモンを討伐するにはより、
敵の詳細情報を見極め、最悪の根元『堕天使』の塒を突き止める事だと思われます
質問がなければ、レトヴィザン准将より今後の作戦方針についてをミーティングして頂きますが…」
「一つ、よろしいでしょうか」
「ハイリッヒ三頭兵ですね、どうぞ」
なんと、珍しく討伐脳の
イアン?がミーティングに積極的に乗ってきたか
しかしこいつの質問っていったい……
「はい、俺の討伐数は記録更新されたでしょうか」
「えっ」
……君は頭食われて逆に討伐されてろ
「……あ、失礼しました。ハイリッヒ三頭兵の討伐数ですが…」
「32体だ、先月よりは『1体』多く討伐している それでも優秀な成績だ、今後に期待しているよ」
当惑し手元を狂わせながら書類に目を通そうとするリサの肩に手を起きレトヴィザンが立ち上がってそう告げた
それを受け取ったイアンは心臓を撃ち抜かれたようにガックリと椅子に着き、首をガックリとさせて絶望していた
フリックは俺越しそれを気に掛けて頭をかきながら眺め、俺といえば両腕を枕にしてレトヴィザンのミーティングを待っていた
「く……たったの1……たったの……」
「耳元でうるせーよ、よく喚くな犬野郎」
「おいクリスお前なぁ…。
ま、まぁ、入隊して3ヶ月だしそう考えれば上等だろ 2年ぐらいは死なねーようにだけ専念するんだな」
そうこうしている内にレトヴィザンはテーブル中央の立体モニターを起動し、
恐らく
ケイオスの一部を切り取ったホログラムマップであろう映像を投影させた
地図には幾つもの赤い斑点と青い斑点があり、その幾つかのエリアには覚えがある
「ソロモンは生物ではないため出現位置の予測が現段階では不可能
唯一の手掛かりは奴等の出現時に『黒雨』が降り注ぐということのみ」
そう、ソロモンとの戦闘時は大抵鉛の空の元、黒雨にその身を凍えさせながら、
生物の骨の関節を植物で繋いでできたようなあの不気味な生物と立ち会う
奴等程不気味な生物はそうはいないだろう
再生能力があるわけではないが、幾ら損傷を与えても死なないのだ
なので、核となる部位から移動手段である手足や翼を削ぎ落として動けなくするのが手一杯という、
厄介で始末の悪い魔物、それがソロモン
「このマップに表示されている青いエリアは黒雨の降り注いだエリアだ、
以外にも広がりは見られずシャルールブルクを中心に、
カオス街?などの点在する東へ移動している」
レトヴィザンの説明の通り、シャルールブルク圏内の半分を青いエリアが覆い尽くし、
そこから、水たまりから水が溢れて広がって行くように帯状の青が、
まるで一つの目的地へ向かうように尾を引いて進撃していた
そして、青いエリアに重なる赤いエリアが、シャルールブルク北部から、
その青い線をなぞるように広がっている
「赤いエリアは実際にソロモンが出現したエリアなんだな?」
「その通りだ、見てわかるが、シャルールブルクの北部から青いエリアの後を追うようにして、
出現エリアが移動している事が見てとれる」
シャルールブルク北部、人口は複数の小さな村を全て総合して300人程度
ソロモンの出現はその地域から始まり、人々の主要な生活領域にまで進撃するに至っている
「そこで……だ、私は一つの仮説を立てた
この黒雨はソロモンを率いる堕天使が『先導して』動かしソロモンを誘導しているのではないか」
「誘導?」
「ああ、最近新たに入った資料によれば移動手段を失ったソロモンは、
出現領域から一定の距離を離れると機能停止するらしい、まるで操り人形の糸が切れたようにな」
こうは考えられないか? その誘導者がコントロール可能範囲から外れたと」
成る程、敵はソロモンを進行方向により近い位置から、距離をおいて誘導されるように、
目的地へ向かって移動しているというのか?
だとしたら……
「では、その青いエリアが移動せず停滞しているポイントが出現したとすればそれはつまり…」
「イアンの察する通りだ、そのポイントにソロモンが到着するように待機している可能性が極めて高い
そして今、その現象は実際に起きている」
おいマジか……つまりそこが敵の目的地でもあるっていうのか?
ソロモンを引き連れて一体何をするつもりだっていうんだ
レトヴィザンが指し示した場所は、およそ現在の俺達の拠点や、堕天使とは結びつかない場所であった
「シティ・ツキミハマ 現地語で
月見浜町?という田舎町だ
丁度、不可解な殺人事件の報告が絶えない地域でもある。そしてその全てに共通しているのは…」
『犯行当日に黒雨が降り注いでいる…?』
「正解だクリス。 黒雨が実際にソロモンを誘導し、それを行っているのが堕天使という確証はない
だが、この推測が正しいのなら、この殺人事件もまた、ソロモンや堕天使と繋がっている」
──クリス、君にはこれからフリック、イアンと共に月見浜町へ向かい、
殺人事件の調査と、この仮説を裏付ける情報を報告してもらいたい
──月見浜町 2丁目──
開かれた新聞が雨水で濡れている
それにも関わらず、鼠色のコートを羽織った三人組の男が、
雨水に浸ったタイルの歩道の上を不揃いな足並みで、活字に目を通しながら歩く
黒髪の少年は唯一、乗用車や
トラックの行き交う車道を眺めていた
「知ってるか?丁度5年前にここらで女の子が車に跳ねられたんだそうだ」
長身で肉付きのいい金短髪の青年と小柄で緑色の瞳をした少年は首を揃えて黒髪の少年へ向く
金髪の青年は再び活字に視線を戻しながらこう答えた
「ああ、そんで、今目の前にある橋の下で男性が一人溺死か。
手には例の封筒が握られていたらしいぞ」
「単なる事故…なわけねーよな、後者の方は」
「ソロモンの出現する可能性は?」
「お前うっせーよイアン。 黒雨はとっくに消失されている。もう出てこねえよ」
「クリスの言う通りだ……が、漁って見る価値は……」
「ああ、さっさと根こそぎ証拠を回収して旅館とやらで寝たいな。交通が不便すぎるんだよここ。なーフリック」
「だな……行くぞ。クリス、イアン」
三人の兵士は、黄色いテープで仕切られた悪魔の領域へと足を踏み入れる
さも、死神の手招きに応じるかのように
←──To Be Continued
最終更新:2025年01月21日 03:05