——その日記は、四方を壁に囲まれた鉄檻で静かに時を待つ
『私がこの鉄檻に幽閉されて丁度一年になる。こらからもずっと、私は鳥かごの中だ。だというのに、最初のたった一年で』
『神がこの世に生誕した日となった
俗世の賑わいは、壁を伝って私の皮膚を通じ、心の中へこの世界の温もりを直接語りかけてくるようだった』
『もうすぐ、私という人間が消えてから一年になる、わかってる。
助けは来ない、来れはしない
私はこの世のあらゆる優しさや愛情から乖離された悪なのだから』
『もう直、こうして思考する自由も、死さえも許されない裁きが私を深淵へ包むだろう…
それはなんて、寂しい事なのだろう。
こうして、ここで耳を傾け、囁くように響く調べだけでも、至福をくれたというのに』
『孤独であったとしても、それさえ愛して止まなかった私が
『寂しい』だなんて……』
マヤ「ガラじゃないね…君のせいだよ、君が悪いんだから……––––––」
————After ten years
政府軍14小隊 月見浜支部
コン…コン……(旧校舎に設置された支部。雨音だけが響く保健室の静粛の中、控えめに拳がドアを叩く音が鳴る)
アヤメ「ガララ…(目を細め、影の堕ちた顔を除かせて入室する)……」
クリス「(暫くその様子を眺め肩を竦めて吐息を零す)命に別状は無い。お前が来た所でただ目が覚めるのを待つぐらいしかできることはないだろ」
アヤメ「(唯一使用されているベッドの前に佇みそこに横たわる人物に視線を注いだまま動かない)」
クリス「『
ルーシー?・ヒルダカルデ
二等兵?は『遺品』の輸送任務の最中突然意識を失った 原因は過労以外に考えられない』…と、上には話を通してある」
ベッドに横たわるルーシーは寝息を立てて横たわったまま動く気配がない。ただ、いつものようにまどろみの中に意識が落ちて夢中を漂っているようにしか見えない
クリス「…何か不都合はあるのか(壁から離れコートのポケットに手を突っ込みアヤメの背越にルーシーの寝顔に視線を落とす)」
アヤメ「(膝を付き彼女の横顔を凝視して髪を愛おしむようにそっと撫でる)……いや、問題ない。悪いね、手間掛かけさて。世話になった」
クリス「礼は良い、俺に取っては大した事じゃない、もっとも……」
クリス「お前は、椅子に固定され喉元にゆっくり迫って来るナイフをただただ見つめるしか無いような状態…といった感じに大変そうだが」
アヤメ「……(髪を撫でる手を止め、背を向けたまま沈黙)」
クリス「…どうだ、なかなか寒いジョークだったろ。背筋でも凍ったか(目を閉じ肩を竦める)…なぁ、アヤメ……なんだっけな? イツルギ…ではなかったよな」
アヤメ「(無言で立ち上がり横目をクリスにやる。いつものように機械的な無表情で)…職員の記入漏れでもあったのか、全く、人の名前は口答でも書類でも、間違えるというのは失礼極まりないよな」
クリス「(腕を組み眉を潜めアヤメの眼の『奥』に視線を投じる)……そう、だな。後フィクションと現実を混合させないで欲しいものだ。『架空の人物を実在する団体に所属』させたりとかな」
アヤメ「……邪魔したな(肩を透かし脇目も振らず保健室の出入り口へ向かう)」
クリス「(微動だにせず背を向けたまま囁く)……いつまでシラを切っていられると思っている」
アヤメ「(ドアを開け、淵の上で足を止める)…」
クリス「お前がこいつと」出会った時に『知り合いか』と俺は聞いた。お前の応えはこうだった。『いいや、こんな天使初めて見る』」
クリス「本当にお前は『彼女だと』知らなかったのか」
アヤメ「……(ドアにかけていた手を離し廊下に出る。去り際にはこう呟いた)」
『その答えなら、ルーシーが一番良く知ってるだろ』
???「コートを靡かせ、一人の人物が瓦礫を踏み砕き、路地の行き止まり、そこにポツリと残された何かに視線を落とす)」
古ぼけたレザージャケットの日記帳 水分で痛み、年月があられもない姿に替えてしまっているが、それが日記であることは容易に読み取れた
???「……(膝を付いてそれを拾い上げ、愛おしむようにそっと抱き寄せる)」
––––この世は、墓場に等しい
––––数多の屍と犠牲の果てに獲る偽りの平穏。散って行った命がどれだけ愛し、愛されたかを知る術は無い
––––そして生ける者もまた、私に取って存在しないに等しい肉の塊でしかなかった
???「君だけだ。私にとっての理由も、意味も全て」
–––––君だけが、私を見つけてくれたから––––––
???「希望が失われたのなら、最早絶望すら存在できない
取り戻そう、例え光であっても、闇であっても彼女の愛したこの世界を、箱船と化してでも」
–––––マヤ。 愛しい君を、きっと迎えに行こう––––––
最終更新:2025年01月21日 03:13