カオスファンタズマ Re:辺獄篇 第2区画 戦闘ログ⑬

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日野下花帆「―――― …はぁ、はぁ、はぁ…っ……!もうっ…!どれだけ走ればいのぉ~~~!>< 」

村野さやか「頑張ってください花帆さん…!どの道引き返すことなんてできないんですから…! 」

大沢瑠璃乃「うぅ…だ、だけど…これ以上走り続けてるといつか充電切れそう……ウップ…… 」

村野さやか「もうっ…しょうがないですね…(だったらこれです!と言わんばりにポーチから取り出した何かを、並走している二人に差し出す)スタミナ回復用のチョコバーですよ!これで少しはもってくださいね! 」

日野下花帆&大沢瑠璃乃『わぁぁぁ~~~~~♪ありがとう~~~~♪』


和気あいあいと並走する三人であったが、そこからしばらくして異変が彼女たちに襲い掛かる。
代わり映えのしない長い通路…
しかし、先程まで何も感じなかったその先から漂う「異臭」に、三人は思わず不快にも鼻を摘まみだした―――


それは腐臭であり、同時に血生臭さでもあった。誰かの絶叫や悲鳴は聴こえない。
しかし、よく耳を澄ませば聴こえてくる小さな旋律。
それは穏やか / 重苦しく、美しく / 儚く、賛美 / 恐怖でもあり、捉える側によって二分化されるものであった―――


大沢瑠璃乃「……ゥゲ……なに、この臭い……キ、ツ……っ… 」

村野さやか「……!(過去に何度か凄惨な状況に会ったことがる自分には、漂う異臭の正体が敏感に感じ取れた)……お二人とも気を付けてください。ここから先……何か、とんでもなく危険な何かがいます…っ………?この、音色は……? 」

日野下花帆「……?……!(鼻をつまみながらも耳に入り込んでくるその旋律にはっと驚く。聞き覚えがあるのだろう。少なくとも自分にとっては、他の二人よりもその奏でられる旋律に親近感があった)………このメロディー……なんだか、懐かしい気がする……私、この音を何処かで――――――!(そして、気づく。その既視感の正体を。同時に愕然とする。明るい少女の表情から、少しずつ笑顔が消えていく―――) 」


♪ ~ ―――――― (次第に鮮明に聞こえてくる旋律の正体はヴァイオリンによる演奏。無機質な電脳空間を色づける音色は荘厳な趣で彼女たちを迎え入れるように高鳴っていく―――――)


セラス「  ♪  ♪ ♪     ♪   (そして、その「奏者」がついに姿を露わにする。彼女たちの前に現れたのはヴァイオリンを弾き語る、西洋人形のような風貌した小柄で可憐な少女。黒いドレスに身を包み、奏者は一人、演奏とはかけ離れた空気感漂う電子空間にオーケストラを奏で続けながら歩み迫っていた) 」


―――――――― 【エゼルダーム】 "編入者" 『 セラス・柳田・リリエンフェルト 』




日野下花帆「………『 せっちゃん 』……? 」

セラス「――――――――― (そして、少女は演奏の手を止める。儚げな余韻が空間に残響する最中、首元にかけていたヴァイオリンをゆっくりと下ろし、その小さな眼が静かに開かれていくのだった)…………御機嫌よう。そして…会い来てくれて嬉しいよ、『 花ちゃん 』。 (友好的に、しかして妖艶に、少女の口元が緩む――――) 」

村野さやか「……!あの方は…確か…花帆さんの幼馴染の…セラス…さん……?どうしてこんなところに…? 」

大沢瑠璃乃「あれ…?待って待って、可笑しくない…?確かあの娘って「オーディエンス」だったよね…?ここにいることも変だけど…明らかに先回りしてるくない…?どうやって……?? 」

日野下花帆「せっちゃん…?せっちゃん…!?ど、どうして、ここに…!?(驚きつつも、幼馴染との再会に心の中で喜びが躍動する)せっちゃんも来てくれていたんだね…!嬉しい…♪私たち、今から―――――ッ!?(数歩歩み要路とした矢先、何かに気づいて反射的に足を止めた。唇が唖然と震え、双眸が泳ぎ出す。その視線の先はセラス…ではなく、彼女の「背後」に向けられていた――――) 」


オ゛     ゥ゛       ン゛      ッ゛      (花帆が目にしたもの、それは――――夥しい数の遺体の群れ。それらはすべて天井から垂れ下がった人形のように宙に浮かび上がっており、絶命した者たちのすべてが鮮血でコーティングされ、白目を剥いていた。首は常に項垂れ、しかし背中は毅然としてピンと伸びている。そんな異質で不気味な光景が、お刺さ馴染みの少女の背後で「背景」として広がっていたのだった――――)


村野さやか「………なん……ですか、これ…ッ……?(悲惨な光景に思わず口元を両手で覆い絶句する) 」

大沢瑠璃乃「…ウ゛…っ…ぁ…… や、メ……吐きそう…ッ………(瞠目から視線を逸らし咄嗟的に口元を手で覆う) 」

セラス「ああ、『コレ』?気になる?(さも大事にしている絵画や人形を見せびらかすような感覚で宙に浮かぶ遺体群に視線を促す) これ全部ね…――――――――――― 『 私の代わりだった者たち 』 だよ。 」

日野下花帆「……せっちゃん……っ……?どういう、こと……? 」

セラス「花ちゃんも知っての通り、私は病弱で何もできない非力な人間。運動も、ゲームも、身体を動かすことは普通の人間よりもできないことが多い。下手なことをすれば命にさえ関わる。幼い頃から知っているもんね…?だからね…「私の代わりになってくれる人」を用意したの。『私《セラス》』の名を背負い、代わりに幻影の巨塔を登り、戦績を積む。24時間不眠不休で戦いに挑み続け、精神的にも肉体的にも限界を迎えた人間(ひと)たち。ダメになったものは、すぐに代わりを用意する。そうやって私はね……このゲームをずっとプレイしていたんだよ。花ちゃんたちが来る前から、ずっと、ずーっと、ね。 」

村野さやか「そん、な…ッ……?!そんなことが、できるはずが…!だって、セラスさんも…私たちと同じスクールアイドルで、ただの人間のはずで…… 」

セラス「そう、最初は誰もがただの人間。何もできない弱い人間。"願い"を叶える権利すらない、そんなちっぽけな存在だった。だけど私はそうありたくなかった。ただでさえ弱い人間の中で最低なほどに脆弱だから、見上げるもののすべてが羨ましく感じた。そして知った。一番下の人間だから、失うものなんか何もないってことも。なら、私よりも上にあるすべてを奪い尽くして這い上がることができるんじゃないかって。そんな私の想いに応えて開花した力が、その望みを実現してくれた。 」

セラス「 "幽籃船笛《 ドレッドノート 》" ―――― 私の演奏を聴き続けた人間を仮死化させる力。人間を遺体にし、その死骸を自在に操る能力。その力で私は……「ここ」まで登り詰めてきたの。(『 CR♛:02 』――― 少女の頭上に、ずっと隠されていたデジタルナンバーが浮かび上がった) 」

大沢瑠璃乃「……!?あれって……『 CROWNED《クラウンド》 』…ッ……!?ウソ……ヤバいよ…!あの娘…とんでもなく強いトップクラスのプレイヤーだよ…!?ひめっちが言っていたんだ!あの王冠がついたプレイヤーは最強格だって…!それも…二番手ってことは……ほぼトップに等しい実力者…ってコト……!? 」

村野さやか「……人間を仮死状態にし…それを操ることで、セラスさん自身が巨塔の外にいたとしても能力の庇護下にある対象者はエントリー扱いされて…常時攻略戦に挑み続けていた…という仕組みなのでしょうか…!?だとしても……やり方が…っ…!人としての、倫理観や人道を誤っている…っ……! 」

日野下花帆「……嘘……ウソだよね…っ……せっちゃん……?せっちゃんが……そんなことするはずが、ないよね…ッ……?だって、せっちゃんは私や病院のみんなのことをよく思ってくれていて…… 」

セラス「それは花ちゃんの理想だよ。本当の私はね…みんなが羨ましくて、憎かった。みんな、どんどん元気になって離れていくのに…私だけが病室に取り残されていく。いつまでも治ることのない難病あよりも、取り残されていく孤独に苛まれていた。退院した子たちは誰も私のお見舞いに来てくれなかった。でも、花ちゃんだけは違った。いつまでも、どこまでも、こんな私のことを献身的に思ってくれた。花ちゃんだって同じように身体がよくないのに、それでも… 」

日野下花帆「……せっちゃん…… 」

セラス「だから私はね……花ちゃん、君が、『君だけが幸せになれる世界』を創りたい。 花ちゃんだけが私のすべてだったから。花ちゃんだけが私の救いだったから。だから、その恩に報いたいの。 花ちゃんを苦しめるすべてのものを滅ぼして、花ちゃんがいつまでも笑っていられる、そんな素敵な世界。そこに私もいたい。ずっと二人で笑い合っていたい。あの頃の様に。私がこうしているのも全部その為。 」

セラス「だから私も覚悟を決めたの。"願い"を叶える為に「エゼルダーム」にも編入して。セレディ先生は、私の"願い"をきっと叶えてくれる。あの人の思想が、私のそれと似ていたから。 」

村野さやか「……だからって……そんなことで花帆さんが幸せになると思うんですか…っ…!?違うでしょう…ッ!? 他の誰かを犠牲にして築かれた世界なんて、花帆さんが一番望んでいないものを…どうして誰よりも近くにいた貴女が解ってあげられないんですか…!? 」

大沢瑠璃乃「…さやかちゃんの言う通りだよ……!友達のことを思うのはすごく素敵なことだけど…そのためにさ…そんな友達が大事にしていたものさえも消し去って、その子の為になるなんてルリは思わない…!そんなのは…エゴだよ…っ!! 」

セラス「君たち赤の他人の意見なんかはじめから聞いちゃいないよ。最初から私と花ちゃんだけの世界だから。そうだよね、花ちゃん…? 」

日野下花帆「……せっちゃん……――――― ! (ここまで固唾を呑み、拳を震わせ、感情を押し殺してきた。だが、限界が来たかのように勢いよく顔を上げたその目に―――――友好な眼差しなんてものはなかった)……ありがとう、せっちゃん。ずっと、ずっとずっと…私のことを思ってくれていたんだね。本当は、すごく嬉しいよ…?でもっ……ごめん…っ… 今のせっちゃんは……私が知っている「せっちゃん」じゃない…気がする…っ… 」

セラス「……花ちゃん……?? 」

日野下花帆「せっちゃん…ッ!私、そこまで幸せになりたいなんて望んじゃいないよッ!せっちゃんのことが大好きなように…スクールアイドルも、それを通じて知り合った友達や先輩に後輩…私たちのことを応援してくれるファンのこと…!それから…この世界で知り合ったたくさんの人たち…!みんな、みんな私にとlkツ手かけがえのない大切なものなのっ…!だから…せっちゃんの為だけの私じゃいられないの… ごめんね…… 」

セラス「………どうし、て……?どう、して……??どうし……て……??? 」

セラス「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして 」

日野下花帆「せっちゃん……っ……?! 」

セラス「―――― ど う し て ッ゛ ! ! ? (少女の悲痛な怒号が、不協和音のように空間に響く) 花ちゃんの為に…ここまで…長い時間をかけて来たのに…っ……?どうして……どうして…そんなことを言うの…ッ……!?可笑しいよ……可゛笑゛し゛い゛よ゛ッ゛!!!こんなはずじゃなかった……こんなはずじゃなかった……!こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった…こんな……こんなぁ…ぁ゛……っ゛……!!? 」

セラス「………………………… 」

セラス「………そっか……そうだよね…私が、間違っていた……ごめん、花ちゃん…大切なこと、忘れていた……―――― 」

日野下花帆「……せっちゃん……(自らの過ちに気づいた。そうして懺悔する少女に安堵したのも束の間――――) 」

セラス「―――――― "私がいなくなれば花ちゃんは本当の幸せになれる"んだって ♪ ♪ ♪ 」

日野下花帆「―――――――― っ゛ ! ! ? 」

セラス「じゃあさ…こうしよう…♪花ちゃん以外のすべて…「私」も含めたすべてをさ…♪今から根絶やしにしてあげる…!それで最後には花ちゃんだけが残って、花ちゃんだけが"願い"を叶えられる…!邪魔者は一人もいない。これから先の未来はすべて花ちゃんが好きなように思い描けるんだ♪やったね、花ちゃん!おめでとう、花ちゃん♪もうすぐ君が「神様」になれるよ!ははっ、あはははははっ♪これで私も救われる…♪花ちゃんが思い描く世界で、私は安心して死ねるんだ…っ♪こんなに素敵な最期はないよねっ!?(壊れたブリキ人形のように、少女はケタケタと嗤う) 」

村野さやか「っ…花帆さん…ダメです…!セラスさんは、もう…っ…――――― 」

大沢瑠璃乃「花帆ちゃん… 辛いかもしれないけれど、今はぐっと堪えて…!ルリも…正直すごく吐き気がヤバい… でも、大事な友達なら…ここで救ってあげないと、もっと取り返しのつかないことになるよ…っ…! 」

日野下花帆「……せっちゃん…っ゛……!(さやかと瑠璃乃の支えのお陰もあり、辛うじて自我と意識を保っている。今だけは、二人に心底感謝したい。そして…自分もまた大きな過ちに気づき始める―――)……そうだ……悪いのは…せっちゃんがあんな風になってしまったのは…ちゃんと向き合ってあげられなかった私のせいだ…っ……!だから…だから…っ!!せっちゃんは私が…必ず助けてみせる…ッ!!あんなに哀しそうに笑うせっちゃんを、もう見たくないからっ!! 」

村野さやか「……花帆さん… そうですね……!救いましょう、セラスさんの本当の心を…!ということは…そうか… !恐らくですが、あの音楽を聴いた人間を仮死状態にするというのなら…演奏者である彼女自身も例外なく一時的に"死んでいる"はずです…!精神が崩壊しているのはそれが原因だとすれば辻褄があいます…!でしたら、あの能力を解除すれば、あるいは―――― 」

大沢瑠璃乃「やったろーぜい!可能性が1mmでもあるのなら!友思う、故に友あり…ってね♪ 」

日野下花帆「ありがとう、さやかちゃん…瑠璃乃ちゃん…!私、必ずせっちゃんを助けてみせる…!せっちゃんの中に芽生えて枯れてしまった「花」を、もう一度…咲かせてみせるんだから…っ…! 」

セラス「さあ…ねぇ…!はじめるよ、花ちゃん…♪世界の終焉に捧げる死のエレジー…そして…!新たな夢の始まりを祝う誕生のトロメライ…!   奏でるよ    (生死の狭間を漂う演奏家は、再びヴァイオリンを構える。終焉を奏でる演奏が、ついに幕を開ける―――――) 」




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最終更新:2025年05月18日 21:33