―――――繁華街から少し離れた、工場地帯にて―――――
夜も更け、昼間鳴り響いていた機械の駆動音や金属音はすっかり静まり返り、行き交う人の姿も殆ど無い中……二人の男女――難波祐子と瓜二つな女性と柄の悪そうな男が険悪な雰囲気を漂わせて歩き、その後ろを一人の男が物陰から尾行している
森ノ宮「(前方の二人組から数十メートル程離れた後方で物陰に身を隠し、暗視機能付きの単眼鏡を片手に二人を尾行している)明らかにデートスポットって感じじゃあねえな……公共の交通機関を使うならこっちの方向にゃ来ねえだろうし、迷ったって感じでもねえ……ったく厄介なもん嗅ぎ付けちまった…
難波似の女「(イライラした態度を隠そうともせず、オーバーサイズの半袖のパーカーのポケットに手を突っ込みながら前を歩く男に捲し立てている)
柄の悪そうな男「(逆らえないのか、バツが悪いのか…女より明らかに大柄な図体を縮こませている)
森ノ宮「喋ってる内容が聞きたいところだが……指向性のマイクを使うにしても遠い…とは言え近付きたくねえしな、どっか建物の中にでも入ったら軽く様子見て退散するか……どうも嫌な予感がする、バカが薬でもやってるだけなら別に……いや、あの顔でやられても寝覚めが悪い……
ウェルド辺りにチクるか……(周囲の建物と退路を確認しながら、前の二人に気取られない様速度を合わせて着いていく)
柄の悪そうな男「(駐車場の無い、シャッターの閉まった一件の工場の前で立ち止まって女に向かって振り返り、何か話して居る)
難波似の女「(背後から遠目に見ても分かる程機嫌が悪くなり、柄の悪そうな男の左膝に右足の爪先で蹴りを入れ、痛がる男を尻目に工場へと歩を進める)
森ノ宮「うおっ、蹴りやがった……見た目以外別人だな……(単眼鏡を仕舞い、身を隠しながら二人との距離を詰めようと動き出す)
(ナレーション)森ノ宮が身を乗り出し、距離を詰めようと動いた瞬間―――森ノ宮の背後から音も無く突然伸びて来た"足"が、正確には樹木に叩き付けられる斧の様な重い蹴りが……右の肋骨を狙う軌道で森ノ宮の胸部に打ち込まれるッ!
森ノ宮「ぐう゛っ…!!?(咄嗟に防御姿勢を取るが蹴りが直撃し、吹き飛ばされる…が、直ぐに受け身を取り、素早く体制を立て直して構えを取る)……中々…斬新な挨拶じゃねえか、ええ?(……気配も、音も……何も感じなかった……素人じゃねえ、どころかコイツ……"専門家"か)
狐目の男「(蹴り足をゆっくりと戻しながら森ノ宮を見据え)多少加減をしたとはいエ、骨の二、三本ハヘシ折る気だったんですがネ。ちゃんと防御までしてるしネ、おじさん中々元気そうネ(けらけらと笑みを浮かべながら、森ノ宮の退路を防ぐように歩き)……お二人サーン!!!何ヘマして着けられテル!!(妙な訛りの入った口調で、森ノ宮が追っていた二人を大声で呼び)
柄の悪そうな男「(狐目の男の呼ぶ声に反応し、僅かに左足を庇いながらも、肩を怒らせて森ノ宮を威圧しながら駆け足でやって来る)どこの誰だ、てめェ
難波似の女「あー!クソボケが!!んなやからてめえみてえなバカ連れんの嫌やってん!!マ〇ドなんか行くとか訳わからん事言いやがって!!ボケ!!(柄の悪そうな男の背後から罵声を飛ばしながら、森ノ宮に向かって歩く)
森ノ宮「(骨は無事、だが……痛ってぇ、効いたな…身体に痺れが残ってる……一瞬遅れたら不味かったな……)……分かった、分かったって……知り合いに似てたから気になっただけだ、悪かった、別に警察でも何でもねえよ…大人しく帰るから勘弁してくれ(降参、とでも言いたげに両手を上げながら、さり気なく振り返って位置関係と退路を確認する)……(この辺りの道を知らない以上、道なりに逃げたい所だが…この半包囲されてる状況だと難しい、とはいえ強行突破は……他二人は未知数とは言え、あの狐目多分かなり速い…)
狐目の男「まア、始末を付けるのはお二人サンの仕事ですヨ。飽きるまでは此処で見張ってテあげますかラ、さっさと片付けて下さいネ。貴女達の尻拭いハお仕事の内容に含まれてませんシ、追加料金を請求するのも面倒ですシ。でも"キシ"さんに迷惑を掛けない様にお願いしますネ。(ヘラヘラとした笑みを浮かべながら一歩下がり、懐から煙草とジッポライターを取り出し、咥えて火を付けながらその場に座り込む。此処からは通さない、と言外に示す様な殺気を漂わせながら)
難波似の女「お前なあ!一直線やったらバレんルートだったろうが!!クソボケ!!(イライラを隠そうともせずに罵声を飛ばしながら、柄の悪そうな男の背中に蹴りを入れ)あークッソ面倒臭いわぁ……ジョナス!さっさとやれや!態々お前みたいな下っ端のカス連れてんやぞ、はよ片付けろ!ボケ!
柄の悪そうな男→ジョナス「痛ってぇ!ったく、分かったよ、こんなオッサン一人……やりゃあいいんだろ、さっさと片付けるよ(女に蹴られ、よろめきつつも心底鬱陶しそうに森ノ宮を睨み付け……直後、人間離れした速度で一足飛びに森ノ宮との距離を詰め、右手で大上段からのハンマーパンチを森ノ宮の脳天目掛けて叩き込む)
森ノ宮「(うおっ、こいつも速ッ…!)(左側に踏み込んで軸をズラしつつ、頭上で両腕を交差させてパンチを防御する)重、ッ……!!(パンチの重さ故に受け切れず、ガードした両腕ごと右肩に打撃を受け、体勢を崩して後方によろめく)
ジョナス「大人しく…死んどけやァッ!(森ノ宮が怯んだのを見逃さず、左足を軸に強く、深く踏み込みながら左のジョルトブローを森ノ宮の鼻先に打ち込む)
森ノ宮「――東雲流、"旋風返し"(一瞬で森ノ宮の身体が蒼い"気"に包まれ、先程とは比べ物にならない程の速度で身を翻し、ジョナスの左拳を受け流しつつ背後に文字通り廻り込み…回転の勢いを乗せた強烈な裏拳をジョナスの後頭部に叩き込むッ!)
ジョナス「ガッ…!?(突然鋭くなった森ノ宮の動きに完全に不意を突かれ、裏拳が後頭部に直撃。大柄な身体が吹き飛ばされ、そのまま受け身も取れず地面に倒れ込む)
狐目の男「……ほウ、錬氣ですカ(幾分かの嘲笑を含んだ視線を森ノ宮に向け)道理で動けル訳でス。あのチンピラ、油断しましたネ……(煙草を地面に吐き捨て、立ち上がり)"岸波"サン!ほら、倒れちゃいましタヨ!!(ヘラヘラとした表情は崩さないまま、難波似……岸波と呼んだ女性に呼びかけ)
難波似の女→岸波「何やっとんねん!ンの豚ァ!(倒れ伏すジョナスを罵倒しながらスタンガンを懐から取り出し)……ったく、わぁーっとるわ!ウーゼイ!!黙っとけ!!(狐目の男…ウーゼイにがなり立てながらスタンガンを自らの左手に押し当ててスイッチを押し)
岸波「―――変身ッ!!(素人目に見ても明らかに改造を施されているであろう、強い発光を伴う大電流がスタンガンから流れると共に岸波の全身に電光が奔り、直後……修道女を思わせる黒衣を身に纏い、右手に身の丈程の電光を帯びたハルバードを携えた姿に変わり)
森ノ宮「(後は二人……少しばかり良いのを貰ったが、逃げるか、もう一人叩きのめすか……)(狐目の男……ウーゼイが立ち上がるのを視認し、再び構えを取りながら岸波に目を向け)……えぇ!?(自らの手にスタンガンで電流を流し、あまつさえ"変身"した岸波に面食らい)……うちのより多少身体が締まってるのと口が悪過ぎるだけだと思ったが……こいつは……
岸波「ええから……黙っとけや!!(電光を帯びたハルバードを横一文字に振り回し、周囲一面を薙ぎ払う程の巨大な雷の刃を森ノ宮に向けて飛ばす)
狐目の男→ウーゼイ「っと、危なイじゃないですカ(軽く飛び上がって雷の刃を避け、倒れるジョナスの傍に着地し)ほら立っテ、役立たズ晒しシテばっかりじゃないでスカ(ジョナスを足で軽く小突きながら)
森ノ宮「(防御は……無理だな、避けた方が無難か)(地面に倒れ込むように雷の刃を避け、直後に起き上がると同時に超高速、超低空の跳躍―――"紫電"で岸波に向かって飛び込み、至近距離から勢いのまま岸波の右膝を狙って拳銃の予備マガジンを投げ付ける)(直接蹴りを入れるのは不味そうだが、これなら…!!)
岸波「い…っだぁっ!てめッ、こいつ…(マガジンが右膝に直撃し、倒れ込むが咄嗟に石突を森ノ宮に向け)痛ェやろボケ!くたばれ!!(森ノ宮に向けられた石突から、雷撃を一直線に森ノ宮へと飛ばす)
ジョナス「(小突かれ、呻き声と共に身体を起こし)……あの野郎、舐めやがって………ウーゼイ!てめえ手ェ出すなよ!!(懐から赤い塗装を施された手榴弾を取り出し、ふら付きながら森ノ宮へと歩いて行き)"実験台"にしてやるよォ!オッサン!!(手に持った手榴弾を森ノ宮の顔面向けて投げ込む)
森ノ宮「い゛っ!?(岸波の雷撃を受け、感電して一瞬足が止まる)(……痛い、が、動けない程じゃない…このまま強行突破で此処から逃げ…)……ぐッ!?(動きを止められた、その一瞬が仇となり――ジョナスの投げた手榴弾が森ノ宮のこめかみに直撃する)
ウーゼイ「クッ……フフ、良いですねェ、面白くなりまシタ、岸波さーン、離れテー(ジョナスの投擲に噴き出し、その後も喜色を声に滲ませながら、岸波に呼びかけ)
(ナレーション)直後、森ノ宮に当たった手榴弾が炸裂する、が――爆風と熱波、殺傷用の鉄片ではなく、夥しい量の"血液"が森ノ宮を中心に飛散する
森ノ宮「……(反射的に頭部を庇う様に防御姿勢を取っており、その体制のまま静止していたが、自身が爆風で吹き飛んでいない事、代わりに手榴弾から血液が撒き散らされた事に困惑した様子で防御姿勢を解き)……何だこれ……血……?
(ナレーション)困惑する姿を他所に、血に塗れた森ノ宮に"雷"――岸波の攻撃ではなく、空からの"落雷"――が直撃する。直後、森ノ宮の周囲が赤く発光し、森ノ宮の身体が少しずつ浮き上がる――
岸波「……やっべぇ!!てめっ、バカ!!此処で使ってどうすんねん、ボケ!!(ゴロゴロと転がりながら森ノ宮から離れ)
ジョナス「言ったろうが、"実験台"にしてやるってなァ!!(森ノ宮に掌を向け、睨むとともに笑みを浮かべながら勝ち誇った様に声高に叫び)
森ノ宮「(雷で傷を負った様子は無く、只困惑と焦りの混じった表情で周囲を見回し)……不味い、不味い…!何かの魔術か!?(懐から拳銃を抜き)アレ投げたのと……術者は……アイツか!(身体が浮き続けるのにも構わずジョナスに銃の狙いを定め、引き金を三度引く)(何の魔術かは分からんが、術者を止めれば…!)
(ナレーション)森ノ宮が放った3発の銃弾が正確にジョナスの身体を抉った、その瞬間――――森ノ宮の周囲が更に強い光を発した直後、一筋の巨大な"雷"と化し……森ノ宮が周囲の血液と共に跡形も無く"消える"
ジョナス「アバーッ!!?(胸に二発、頬に一発の弾丸を受け、その場に崩れ落ちる)
ウーゼイ「アー……アレ?消えテ終わリ?(期待と喜びから一転、呆気に取られた表情で倒れ伏していくジョナス、次に岸波を見)……失敗しテマセン?コレ?
岸波「おい、ジョナス!?あのオッサン、銃持っとったんかよ……あの体制からちゃんと当てて来よるし…(立ち上がろうとするが、投げられたマガジンが直撃した右足を庇い、その場に座り込むに留まり)……消えてそのまんま……?失敗やんけ……元々不安定やから使うな、言うとったのに…術者が撃たれて術式中断しとるがな……
ウーゼイ「……みたいでスねエ、まア……とりあえズ拠点まではすぐソコですカラ、移動しましょウカ。あのチンピラは……仕方ないノデ運んであげましョウ、岸波サン後でお金宜しク頼みまスヨ(軽々とジョナスを持ち上げて担ぎ、大柄な男を担いでいるとは思えない程軽い足取りで目的地の工場へと向かう)
岸波「私を運べや!膝やられとるやんけ!!……あーもう、クッソ、痛ったぁ……(右足を庇ってよろよろと立ち上がり右足を引き摺ってウーゼイに続いて目的地への工場へと向かう)
―――――――――
―――――――――
―――――――――
三人が工場のシャッターを開けて中に入った、その更に暫く後――森ノ宮が落雷と共に消えた場所に、再び閃光と爆音と共に雷が轟く。
その後――稲妻が消えて閃光と煙が晴れ、其処には―――桃色の長い髪の少女が、明らかにサイズの合わない複を纏って横たわっていた。
少女「……あぁ、畜生………何が起こった……?(目を開け、頭を抱えながら起き上がり)……?……視界も声も、おかしいな…クソ…一体何された……?
少女「…………(何かを察した様子でスッと表情が消え、胸元から足元、そして両手を視界に入れ、暫く固まっている)
少女「………………マジで……?(見るからに青褪めた顔で、途方に暮れた様に天を仰ぐ)
――――――――――――――――――"K" -奴の名は-――――――――――――――――――
――――――――――――――――Prologue,Side"A" END――――――――――――――――
←————To be continued
最終更新:2021年05月22日 12:01