EVOKE -舞- セルド編第3話

PM21:00  ――キュラリア・広間――


一樹「ォ ォ ォ ォ ォ ォ … ! ! (夜風に煽られながら、腕を束ねて、ただの高校生らしからぬオーラを放っている)」

セルド「―――――ザッ。(石畳の床を踏み鳴らし、一樹が佇む広場へと姿を現し鋭い視線を送る)」

一樹「(足音のした方へ視線を向ける)…よぉ、まさか本当に来るとはな。…準備はできているんだろーな。(不敵に笑みながらセルドに)」

セルド「あれだけ真正面から吹っ掛けられたら、尻尾巻いて逃げる訳にもいかないだろ?…ああ、大丈夫だ。(シャツの襟に指をかけ、ネクタイを緩める) 」

一樹「(鼻で笑いセルドと並ぶ)もう一度おさらいしとくぜ。…これは俺とお前の勝負。先にあの塔(ツキミガハラタワーを指し)についた方が勝利だ。俺は長距離と、お前らの仲間の妨害というハンデを背負っている。そしてお前らが仮に勝ったなら、なんでも言うことを聞いてやる。…さあて、はじめるか。合図は俺が出す。 」

結香「ぬー…(ヒロお兄ちゃんが、セルドお兄ちゃんが「勝負する」と言ってたから気になってきてみたけど…何の勝負なんだろ??)(広場のベンチに座ってセルドと一樹を見る)」

セルド「わかった、なんでもだぞ。フライングはなしだからな。(軽口を叩き、足を半歩引いて構える) 」

一樹「俺はイカサマは嫌いなんだよ。(真顔になってセルドとは反対の方向へと向く)………On your mark(位置について)…! ズザザァ…!!(クラウチングスタートの構えを取る)……(このクラウチングスタートは…およそ100年前、アテナオリンピックでトーマス・バークが初めて開発した構えだ。この構えから繰り出される爆裂的な速度は――――従来のスピードを遥かに超越(こ)える!) 」

メモリア「・・・。(自分に出来る事を、自分の、出来る限りを・・・)(コツ、コツ、と歩いてくる) 」

セルド「…悪かったよ、となれば俺も全力だ――――。(一樹の合図を待ち、神経を研ぎ澄ます) 」

一樹「…Get set(よーい…)!―――――――― "Go"!!    ド  ッ  !    (地面を蹴って爆発的な速度を解き放ち、一瞬にして姿が消えてしまった) 」




セルド「 ダ ッ ! !(一樹が巻き起こした風圧にネクタイと髪が揺られ、勢い良く駆け出す) (地図でツキミガハラタワーまでの最短ルートは把握してる、直線距離6kmだが街路の障害を含めばプラス数百メートルってところか―――まずはこの大通り!)……!メモリア!!悪い、一樹は頼んだぞ!!(メモリアを見つけて叫び、大通りを駆けて行く) 」

結香「ひゃっ…?!(二人が一斉に駆け出したのを見てびっくりする)…か、かけっこ…なのかな…?? 」

メモリア「・・・私に出来る事は、たかが知れている・・・ましてや相手は能力者、・・・だけど、それでも出来る限りを・・・ぶつける・・・。 」

一樹「クィン―――――クィン―――クィン――――――――クィン―――――クィン―――クィン―――――――――(街の建物や住人を正確に避けながら高速で走っている)(さぁーて……まずは第一ポイント…。)ザッ―――――――ドォゥッ!!!!!!(キュラリアの街を出て、右側へと走り出す。) 」

サージェス「へ~・・・かけっこ、かい?しかも・・・よほどの勝負と見た。(いつのまにか結香の隣に) 」

メモリア「この日の為に、コースに仕掛けた細工・・・場所はもう分からないけれど、音なら聞こえる・・・!(グイッ、と透明なピアノ線を引く) 」

サタナエルさん「(リラックスした態勢で寝そべって道を陣取ってる)ハーブの香っりー 」

一樹「シュァッ―――――(ぶっ飛ばすぜ相棒…!)(前回のようにシューズが輝きを徐々に帯びていく)――――――キイィィ―――――――ン…ッ…!!!!!(―――――【-the Speed-】解放だ!!!)(一樹のシューズが更なる輝きを帯び、そして…)――――――――――――――(もはや風を切る音すら無くした速さでキュラリアの外側を駆け抜ける。現在、四分の一。) 」

結香「うん、そうらしいよ!(サージェスに)どっちが勝つんだろう~。 」


ピィンッ!!(透明なピアノ線が切れると、街に仕掛けられた小規模で邪魔にならない程度のピタゴラ的装置が作動していく)


セルド「ダッダッダッダッダッ!!(力の限り地面を蹴り上げ、ただ自身の体を一歩でも早く前へ進めることに集中する)(始まった瞬間に振り向きはしなかったが、あれだけ風を巻き上げたんだ…振り返ったってもう姿は見えなかっただろうな。もうどこまで走ったんだ…アイツは…!)(狭い路地へと入り込むが、そこには人や木箱などが積み上げられていた) ――――っと、ごめんよ!!うぉっ!?(ぶつかりそうになる人をかわし、積まれていた木箱に手をついて飛び越して先へと進んでいく) 」


装置が終着点に辿り着くと、突如としてキュラリア外周に水が放たれる、地面が濡れて転倒を誘発しようとしているのがすぐ分かる。


ふなっしー「 なにごとなっしィィー!?(木箱から飛び出る) 」

サージェス「はーっはっはっは!こりゃあいいねぇ!酒の一つでももってこりゃよかったが・・・まぁいいや。見物だよ。 」

一樹「―――――――ッ!!(内部から流れ出る水を見て)(しゃーねぇー…――――――――『十倍速』だ…!!!)―――――――――――――――――(もはや地面との摩擦、重力を無視した完全的な光速状態となる)(駆け過ぎた風はやがて空間そのものを貫いて――――――"光"となる…ッ…!!!!)(現在、四分の三。あともう少しでキュラリアに復帰) 」

市長「 ターゲットっ、ロックオン……(100階のビルの窓からスナイパーライフルを構える)しねぁ!(一樹に発射) 」

メモリア「後はこっちの仕掛けを・・・!(二つの透明なピアノ線を一気に引っ張る) 」

結香「おもしろくなりそうだね♪結香はジュースでも飲みたいかなー…。」


ピンピンッ!!(二つのピアノ線が切れ、再びピタゴラ的装置が作動していく)


二つの装置が終着点に辿り着くと、キュラリア外周に硬いピアノ線が、無数に張られる、単純に移動阻害が目的であろう。


一樹「ヒュォ――――――――――――(当然、光速状態となった一樹には一切のものは届かない)(このカーブで少しずつスピードを落として…一気に街へ突っ込む…!)(早くも外側の周回が終盤にかかり、徐々に速度を落としながら入口へと向かう) 」

サージェス「(ん?あれは・・・あんときの演奏家、か?・・・へぇ、こりゃ、ちょいと絡むかな?)(そしてある場所に立つ、そこは・・・”入口”) 」

ヒロ「…うわっ、もう始まってる!(結香の方へ走ってくる) 」

セルド「どわぁっ!!?梨の化け物!?(汗)(肩越しに振り返り、ふなっしーを見て驚愕) く、そっ!意外とクるな…!!日頃の運動不足が憎いねッ!!(路地を抜けては通りを走ることを繰り返し、一層狭い路地に身を滑り込ませる)(覚悟はしてたけど、建物の障害がキツいな……家の人には悪いけど、やるしかない―――――!!)ダッ、ダンッ!!ガシャンッッ!!(路地の壁へ跳び、跳び込んだ壁を強く蹴って対面している家の屋根へと跳び上がる三角飛びを繰り出す。屋根の瓦を踏み鳴らして地形を無視して先を急ぐ)ああクソッ!瓦割れませんようにィィィッ!!(現在、3km走破。折り返し点に入る) 」

一樹「チッ――――――(さっそく出迎えに来やがったか…!…だが―――――――)グルンッ――――――ブチィッ!!(減速と同時に前転し、踵落としの要領でピアノ線を貫通する)ザザァーーーッ…!!!ドゥッ!!!!(入り口前に到着し、そして爆発的な脚力を持ってキュラリア内部へ特攻する) 」

結香「あっ、ヒロお兄ちゃんだ~♪(ヒロに手を振り)」

メモリア「く・・・突破された・・・、万策、尽きたか・・・(項垂れる) 」

サージェス「(様々な彩の宝石を宙に散りばめる)目には目を・・・光には”光”、だ!!(その瞬間宙に散りばめられた宝石が太陽のように輝く)・・・オッケー行くよバカ息子共ッ!!(それを合図に、宝石たちがレーザー光線のように一樹に向かって隙間なく追尾しながら飛翔する。) 」

ヒロ「ふぅっ…やぁ、結香ちゃんっ!今、どうなってる?(結香のところまで着き、足を止める) 」

ウィルソンフィリップ上院議院「(ディアボロを乗せて車を爆走させ一樹の目の前に躍り出る)ワハハハハーッ!こ…ここまで法廷速度を無視したんです!私の命はッ!この上院議院わたしの命だけは助けてくれますよねェェェェーッ!!(運転席を一樹が貫通し撥ね飛ばされる) 」

一樹「――――――ッ!!??(アイッツ゛…!妨害は認めたが俺を殺す気かよッ!!)(迫りくるレーザーを高速で駆けながら潜り抜ける)――――――(当たんなきゃ意味はねえ…だがっ、当たったら"死ぬ"…!俺もここで覚悟を決めるしかねえ…!!)クィン―――クィン―――――――クィン―――クィン――――――(再び障害物を避けながら走る) 」

ディアボロ「(今日のボス タクシーの中の賞味期限切れの肉を食って死亡していた) 」

結香「うーんー…わかんない。でも、ボクは…なんだか面白くなってきちゃったな♪(ヒロに)」

メモリア「落ち着け、まだ何か・・・私に、何か出来る事は・・・(焦りと焦燥に満ちた表情で、思考する) 」

サージェス「はっはっは!総額億越えだったんだけどねぇ、見事にかわされちまったかい。アタイはこれくらいでいいかな?あとは・・・男共にまかせようかね。あ、演奏家どうしたかなぁ。 」

セルド「ダッダッダッダッダッ――――ダッ!ガシャンッ!!ダッダッダッダッ―――――(屋根伝いに街を駆け抜け、離れた屋根へと跳び移っていく)(遠くの方で音が聞こえた…まさかもう街を周って来たっていうのかよ!!)(直線の最短ルートを走り、着実にツキミガハラタワーへと接近していく) 」

メモリア「くぅぁぁぁあああッ!!!(だんッ!!とアコーディオンのケースを叩きつける)私にできる事は、これしか、無い・・・届かないのだろうけれど、せめて、この思い、音にのせて・・・!!(そしてアコーディオンを取り出し、演奏を始める) 」

ヒロ「おぉ、そうか!じゃあ全力でセルドを応援してやってな!(笑顔で結香に)さて、俺はどうするかねーっと… 」

一樹「ん――――――(メモリアの姿が視界に入る)(アイツはたしか…あの時いた奴だ…。)どきなッ!ぶっ飛ばされたくなかったらなぁ!!!(メモリアをあえて避けようとせず、そのまま彼に向って一直線に駆けだす) 」

サージェス「(あー・・・またフォールに怒られちまうかねぇ)あ、演奏家あんなとこにいた。・・・アコーディオン、ここで演奏する気かい?(遠目に) 」

メモリア「・・・スゥゥゥーッ―――『嫌だッ!!』(温厚なメモリアらしからぬ台詞を口にし、仁王立ち) 」

ヒロ「…さて、俺もそろそろ手助けに行くかね…(大量の土を発生させ、浮きあげさせる) 」

一樹「――――――――(……何ムキになってやがるんだ、俺は… …いつもの調子ならあんな奴、避けたってかまいやしないだろうに… ……まさか俺は…"焦って"いるのか…?? …んなハズは……) 」

メモリア「ぉぉぁぁぁぁぁッ!!!!(こちらに一直線に向かってきたのを見て、アコーディオンの重さを乗せた体当たりを仕掛ける) 」

一樹「―――――ニタァ…!!(メモリアに不敵な笑みを浮かべる)なら特別に見せてやるぜ…―――――【-the Speed-】の誇る最高速をなッ!!!『十倍速』……いや――――『十五倍速』だ!!!!ゴッ――――――――――(キュラリアの外側を一瞬で駆け抜けたあの光速状態を上回る形態となり、彗星の如くメモリアに突撃する) 」

結香「うんっ♪(ヒロに)レイヴンおじちゃんだねー!よろしくー! 」

一樹「―――――――――(……何故だ…あんな奴を相手に…何を本気になってやがるんだ俺は…!?……正気になれ、佐々木山一樹。迷いこそが…不運を招くッ…!!落ち着け…落ち着け……落ち着け…―――――) 」

メモリア「・・・!!!―――かはっ・・・。(当然、能力者でも何でもないただの一般人がその速度の突撃をアコーディオンを含めても受けきれる訳も無く、血を吹いて宙を舞う) 」

サージェス「へぇ・・・・啖呵をきるたぁ・・・男魅せたじゃないかい!(こりゃ・・・アイツに応えてみようかねぇ) 」

一樹「―――――――(吹き飛ぶメモリアを節目に、そのまま駆け抜ける)――――――――(……アイツは…馬鹿なのか…!?何故、妨害如きで自分の身を犠牲に… ……何が……何が、お前をそうさせたんだよ……。)(メモリアのことを思い出しながら、建物を避けて走り続ける)――――――(今頃アイツ(セルド)は5kmくらいか?…んなら、ここからがクライマックスだ…!!!) 」

メモリア「が・・・ッ、ゲホッ・・・ゴホッ・・・。(そして地面と激突、その場に真っ赤な血溜りを作り出す) 」

セルド「ひゅうっ―――ゴロッ ダッダッダッダッダッ……!!(住宅街を抜けて屋根が無くなったので、屋根から飛び降りて受け身を取り街の通りを疾走する)ハァッ…ハァッ、ハァッ!(既に肩で息をしており、ペースが徐々に劣っていく)(現在、5km走破。正面にタワーが見えてくる) 」

サージェス「――――ッ!!(メモリアが吹っ飛ばされたのを見て)・・・やるじゃん、演奏家。漢だよ、アンタ。 」

サージェス「ちょいと・・・あの演奏家に応えてやるか!!(また大量に宝石を取り出し、宙に飛ぶ。しかし、標的は一樹ではなくセルド) 」

メモリア「ヒュー・・・ヒュー・・・(苦しそうに呼吸しながらも、指だけを動かそうとする、その先にはアコーディオン)せ、セルド・・・さん・・・ゲホッ・・・。 」

一樹「ダッ―――――――(ここから…突き抜ける…ッ…!!!)(広場へ到着し、そこから一気に速度を上げる)――――――――(……駄目だ…何だ、この感じは…!? …今までに感じたことのあるような…… ……不思議だ… …あんだけぶっ飛ばしたっていうのに…まだ……まだ走り続けることが溜まらないでいる…!!) 」

メモリア「音・・・よ、届けて・・・が、ゴフッ・・・この、思い・・・。(血を吐きながらも、手だけを動かし、曲を奏でる) 」

結香「…あっ…!?(一樹が広場に姿を現したの見て)……。(あのいじわるなお兄ちゃん…嫌いだけど… ……何で、かな…。走っている時のお兄ちゃんの顔、すごく…『楽しそう』…!) 」

ヒロ「…んっ、はやい…!(広場に到着した一樹を見て)…セルドは一体どこまで行ってる…!?(一樹が走って行った方を向く) 」


傷ついた体の、必死の演奏、勇ましいメロディーが街に響き渡る。


ヒロ「(…あのメロディーは、もしかして…)メモリアはもう来てるの?(結香に) 」

セルド「ハッ、ハッ、ゼェッ…ハァッ!!(――――駄目だ、胸が痛い。苦しい。足を止めてしまいたい。どうせあんな化け物みたいな速さのヤツに勝てっこなんかないだろ。いいか、もうペースを落として――――)――――――――。(サージェスの放つ宝石。そして届くはずもないメモリアの奏でがセルドの意識へと鮮明に入り込んでくる)……ああ、そうだよな。何が勝てっこないだよ、俺。……簡単に諦めてんじゃねぇよ――――ッッ!!(限界からの、一歩。ペースが上がり全力疾走を始める) 」

一樹「―――――――(……!……そうか、『楽しい』んだ… ……中学ん時の、部活に没頭していた頃のようだ… ……あの時と同じなのか…!?…楽しい…楽しすぎるぜ…ッ…! ずっと、この瞬間が来るのを待ち望んでいた…!――――――――――俺は"風"になったんだ…!!!)(今まで張りつめていたものから解放され、清々しい表情を浮かべる) 」

メモリア「運べ・・・この、思い・・・を・・・(必死に演奏を続ける、そして・・・)うっ・・・が、ガハッ・・・。(大量に吐血し、アコーディオンは、鮮血に染まる) 」


勝利を確信させるかのような、勇ましく頼れる音色が響き渡り―――まるで、糸でも切れたかのように、音色はぷつりと途絶えた。


サージェス「いいねぇ!よく吠えた!!(無数の宝石が一つに塊り、巨大な宝石となる)歯ぁくいしばんなバカ息子ッ!!そんで・・・そのまま突っ走れ!!!(そして、巨大な宝石をセルドの背後にズドンと落とすように飛ばす。その瞬間、セルドの背中を押すようにすさまじい爆風が起こる) 」


一樹が向かう先には、セルドによる騒ぎで駆けつけてきた住人たちでいっぱいで、道はほぼ完全にふさがれてしまっている。




一樹「―――――!!!(完全に封鎖された道を見て驚愕するが…)……何もそこにある路上だけが…俺の道じゃない…!!ダンッ、ダンダンッダンダンッ!!!――――シュダァッ!!(建物の壁を"蹴って"登り始め、屋上を飛び越える) 俺が道だと決めつけたら―――――そこが俺の"栄光路"(みち)だ!!! ダンッ!!シュドォッ!!!!(着地すると同時に爆発的に駆けだした)ぬ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁーーーーッ!!!!!(徐々に速度を増していき、一気にセルドとの距離を詰める) 」

結香「ふぇ?メモリアお兄ちゃんなら…さっき見かけたけど…。(あたりをきょろきょろ) 」

セルド「(走れって声が聞こえる…俺を奮い立たせる音が聞こえる!!)言われなくてもぉぉぉおおぉおッッ!!(爆風が背中を押し、足がもつれそうになっても走ることをやめない) だ゛あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁぁーーーーーッッ!!!!(一樹の咆哮に呼応するように絶叫する) 」

男子高校生等『(ツキミガハラタワー前でたむろしている)…お、なんか聞こえたぞ…? …一樹の奴じゃねえのか!やっぱあいつが勝つに決まってるし! いや待て、今のはどう聞いたって一樹の声じゃねえ!たぶん…セルドっていう人じゃないのか!? うおっ、マジかよww』

サージェス「(ストンと降りる)ふぅ・・・こんぐらいでいいだろう。あーでも、結構使ったなぁ・・・おこるだろうなぁ・・・。 」

一樹「(こうなりゃ自棄だ…!!最後の賭けに出てやるぜ…ッ!!)――――『十倍速』…『十五倍速』―――――――に…『二十倍速』ッ!!!!!!(限界を超越した速度で駆け抜けることにより、視界にようやくセルドの姿が見え始めた)しゃああああああらぽああああああああァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!!!!!!!」

ヒロ「そっか。…どっちの方に行ったとか覚えてない?(結香に)」

メモリア「・・・。(真っ赤な血溜りの中心に倒れており、そのすぐ近くには鮮血に染まったアコーディオン、呼吸が浅い)」

サージェス「さて・・・(そのままそっと去ろうとするが)ん?おい、演奏家。大丈夫・・・・なわけないか。(メモリアに歩み寄る)」

メモリア「(人の気配を感じ、ゆっくりと顔を上げてサージェスを見る、喋っていいような状態ではない)」

男子高校生等『おおおおっ!!!一樹が追い付いてきたぞ!!行けるんじゃねえのか!? 待てって、あのセルドって人もスピードあげてきたぞ!! こうなりゃもうどっちが勝つか分らねえ…!! どっちでもいい!!もう少しだあああぁぁーーー!!!!』

結香「たぶん……あっ!きっと、ツキミガハラタワーだよ!(広場から見える巨大な電波塔を指して)行こう、ヒロお兄ちゃん!」

ヒロ「ツキミガハラタワー…確かゴール地点の……うん、行こう!(塔に向かって駆け出す)」

結香「うんっ!(ヒロに続く)」

セルド「(もう何だっていい、正真正銘―――意地と意地の張り合いだッ!)なあああああああありゃあああああああッッ!!!オトナの意地なめんなあ゛ッ、一樹イイイイイィィィィーーーーーッッ!!!!!(背後に一樹の気配を感る。無様に四肢を振り、"意地"という言葉が似付かわしいような表情でがむしゃらに突っ走る) 」

サージェス「・・・、いい男になったじゃないか。と、ゆっくり褒めてやりたいんだが・・・その状態、時間がなさそうだね。(懐から何かのスイッチを取り出し、メモリアの前に置く)メディカルスイッチってぇらしいよ?最寄りの病院や医療施設に即時に救急信号を送れる。・・・あとは、アンタの運次第ってねぇ。(そういってケラケラと笑みながら去っていく) 」

ヒロ「(…メモリア…大丈夫だといいんだが…)(走りながら一瞬心配そうな表情になる)) 」


タ ン ッ ―――――――――(セルドの足が一樹よりも逸早く、ゴールに踏み込んだ)




一樹「ああああああァァァァァァァーーーーッ!!!!―――――――――――――!!!??(あと一歩のところでセルドを追いぬけそうになったが、彼が先にゴールしたことによって意識が途切れかけ、そのまま突っ走って木に激突した)…づぇ…ッ……!!(ぶつかった個所を抱えながら仰向けに倒れ込んでいる) 」

男子高校生等『……お……おおおおぉ!!! セルドって人が…勝っちまったぞ…!! う、ウソだろ……まさか、あの一樹が負けちまうなんて…。 すげぇいい線行ってたな、最後…。いやすげぇって…。』

メモリア「・・・。(スイッチを見て、それを回収、懐からゆっくりと注射器を取り出してそれを自らに打つ) 」

セルド「俺が―――――勝った…!!(ゴールを超えて緊張が一気に解ける。これまでの疲労も溜まり、くらっと目眩が襲いかかり仰向けに寝転がる)…お、おいっ一樹!?(汗 木に激突した一樹を寝転がったまま見て) 」

男子高校生等『うお~い、一樹~!生きてっか~!? 一樹最後ぶっ飛ばし過ぎワロタww あのー…お疲れ様です。ていうか、おめでとうございます。 すげぇな!一樹の野郎に勝っちまうなんてよ!!(二人がセルドのもとに寄っていく)』

一樹「いっつー…… ……!…チッ…あんたの…勝ちだ……!(不貞腐れたような顔でセルドに)…ぜぇ………はぁ…… ……はぁ…(息をついたのは…いつ以来だったかな……)うおっ!!なんだお前ら、来んなって!(苦笑しながら高校生らに) 」

ヒロ「…決着は着いたのか…?(走りながら) 」

メモリア「・・・か、カハッ、ゲホッ・・・。(吐血する口を手で抑え、よろよろと立ち上がりアコーディオンを回収)・・・薬を、貰って・・・おいて、よかった・・・。(よろよろとタワーに向かって歩いていく) 」

結香「わおっ!セルドお兄ちゃん!…に、あのいじわるのお兄ちゃんも!(ヒロの背後から) 」

セルド「あ、あー…ハハ、一樹のお友達か…(苦笑しながら)まぁ、とんでもないハンデをつけてもらったんだけどな(自嘲気味に笑いながら男子高校生に) ははっ…そんな不貞腐れるなよ(若干誇ったような表情で一樹に) 」

セルド「ヒロ…!…ああ、勝ったぜ。(寝転んだまま不敵に笑んでヒロに) 結華!お前も来てくれたのか、ありがとな(横たわったまま笑って) …メモリアはまだ来てないのか?(ヒロと結華に) 」

一樹「……けどまあ…(「よっこいせ」と上半身のみを起こす)……あんた、良い友達持ってるんだな…。…あいつらには一杯食わされたわ。(その一言を呟くと、メモリアのことが脳裏に浮かぶ) 」

ヒロ「おおっ、勝ったか!おめでとうな!(セルドに)……ん?来てない?…俺らより先に向かったと思うが…(セルドに)…(何かあったのか?…まさか、あの音楽が突然途絶えたのはやはり…!?) 」

結香「セルドお兄ちゃんが買ったんだね!おめでとう~♪ ………。(セルドに喜びの顔を見せた後、ふと、一樹の方を見る) 」

セルド「やっぱり皆のお陰だったんだな……。ああ、心から自慢できる仲間だよ(柔和な表情を浮かべる) ああ、サンキュー!(上体を起こし、ヒロと結華にVサイン) …お、おい。そりゃ確かなのか…!?(ヒロに。奏でが途絶えたことを思い出す) 」

男子高校生等『あ、そうだ…一樹お前、負けたら何でも言うこと聞くんじゃなかったっけ? っしゃー!メイド服着てこの俺にご奉仕しろォ!! テメーはネカフェでシコってろや。 セルドって人の勝ちだもんなー…文句はないよなー。』

一樹「(セルドのその表情を見てふっと笑う)やっかましいわお前ら!!(高校生らに)ったく……約束通り、何でも言うこと聞いてやるさ。(腕を組んでセルドと向かい合う) 」

ヒロ「…あぁ、俺が広場に着いたころにはもういなかったし、広場にいたときその先の方で音楽が聞こえてきたし…(セルドに) 」

メモリア「ハーッ・・・ハーッ・・・、っくぅ・・・、左腕が・・・動かせない・・・。(よろよろと重い足取りで、ようやくセルド達の下へ辿り着く、体中自分の血で真っ赤に染まっている) 」

結香「あっ!メモリアお兄ちゃ――――きゃっ!?(重症なメモリアを見てびっくりし、尻もちをついた) 」

セルド「あっ……(そうだ、と今思い出したような表情)(そうだな…特に聞いて欲しい願い事なんて…いや―――)……アイスのこと。まだ謝ってなかっただろ?(緩慢な動きで立ち上がり、結華を一瞥して一樹に) そう、だな…それなら納得するしか…(ヒロに)……―――ってメモリアァ!?おい、大丈夫なのか!!?(ギョッとした顔でメモリアを見る) 」

ヒロ「…!?(身体中が血で染まっているメモリアを見て目を見開く)…おい、大丈夫かメモリア!(メモリアの方へ駆け寄る) 」

一樹「……。(重症のメモリアを節目に捉え)……ああ、そうか…。そうだったなぁー……。(立ち上がって結香のもとへ歩く)…あ、おい。(その途中、男子高校生らに合図する) 」

男子高校生等『…ん?ああ、そうか…。 『アレ』持ってくりゃあいいのか。 何処置いたっけ? その辺にあったろ?』 」

結香「あ…(歩いてくる一樹を見上げる) 」

一樹「(結香と向き合う)……。……昨日は悪かった。…その、ごめん…。(結香に頭を下げ)…それから… …あんたにも。すまない……本当に。(メモリアにも頭を下げ) 」

メモリア「う・・・驚かせて・・・ガハッ、ゲホッ・・・。(結香を驚かせてしまい、謝ろうとして声を出したところ、吐血する)あ、は・・・は、だ、大丈・・・ぶっ・・・。(また吐血、明らかに大丈夫ではない) 」

ヒロ「…全然大丈夫じゃないじゃねえか!…待ってろ!今救急車を…!(電話を取り出す) 」

玲華「―――――お待ちください!(颯爽とその場に現れヒロを呼び止める)…私が彼を病院までお送りします。 」

男子高校生等『おーい、一樹ー!持ってきたぞー! たくっ、すげえ量だぜ…。(大量のスーパーの袋を持ってくる)んげげげっ!?生徒会長!! なっ、なんでこんなとこに…てか、知り合い!?この人らと?』 」

結香「…うーうん♪もういいよ。いじわるなお兄ちゃんだったけど……走っている時のお兄ちゃんを見ていたら、本当はいい人なんだろうなーって思ったし…。……うん、許すっ!(ふんすっ)メモリアお兄ちゃん…!!だ、大丈夫なの…??いっぱい血が出て……あっ!玲華お姉ちゃん! 」

ヒロ「あ、玲華ちゃん!…頼んだぞっ!(電話をしまい玲華に) 」

セルド「………(謝る一樹の姿を見てフッと笑む) 待てメモリア…!わかったから喋るな、もっと酷くなるぞ…ッ!今ヒロが救急車呼んでくれてるから大人しくして――――れ、玲華さん…っ!?(メモリアの背を擦りながら) う、うおっ何だそれ…!?(白目)(男子高校生が持ってきたスーパーの袋を見て) 」

一樹「……はっ…。(結香の笑顔につられ、自然に笑みを零す)お、サンキュー。(袋を受け取る)…まあ、あれだ…。お詫びと言っちゃなんだけど…これ…。(結香に、大量のお菓子が入った袋を渡す)…んげっ、生徒会長…!?(大汗)」

男子高校生等『ニヤニヤ…(一樹の奴、勝っても負けてもあの娘に謝るつもりだったんだぜ) ヒソヒソ…(えっ、まじで!?んなこと聞いてねえぜ…。) ヒソヒソ…(なんだよ一樹の奴、いいとこあんじゃねえか) ヒソヒソ…(ったく、人騒がせな奴だぜ。)』

玲華「この付近に病院があります、そこへ連れて行きますね。…メモリアさん……。(メモリアの腕を取って、悲しそうな表情で彼の姿を見つめる)貴方達も、もう遅いですから…早く帰宅してください。(一樹と男子高校生等にそう言って、メモリアを連れて歩いて行った)」

男子高校生等『へ~い! は~い! ほ~い! 会長マジ美人hshs』

結香「ふぇ…?(渡された袋を覗き込んで仰天する)うわぁー♪♪お菓子がたくさんだぁー♪…えへへ、ありがとうー♪お兄ちゃん!(一樹に嬉しそうに笑う)うぅ…メモリアお兄ちゃん…。(心配そうに玲華とメモリアを見送る)」

セルド「お菓子、か…(事前に用意してたってことは、つまりそういうこと…だよな。)…男だな、一樹。よかったなー結香(一樹の行動と結香の歓声で頬を緩ませる) すみません、メモリアをよろしくお願いします…!(歩いて行く玲華に頭を下げる) 」

メモリア「・・・(結香を見て、『私は大丈夫』と言いたげに、空元気の笑顔を見せる)・・・。(セルドの言葉に、こくり、と頷く)・・・。(玲華に連れられていく) 」

一樹「何で生徒会長がこんなところに… …まあいいか。(…あいつ(メモリア)も、無事だといいがな…。) …へっ、食い過ぎて虫歯になるなよ。(結香をからかい)……さぁーてと、ダル… …俺達も帰るかぁ!…とぉ、その前に…まだあんたの名前聞いちゃいなかったな。(セルドと向き合い) 」

ヒロ「たくさんお菓子食べれるじゃん、良かったな!(結香に微笑む)…(メモリアと玲華を心配そうな表情で見送る) 」

結香「うんっ♪セルドお兄ちゃんとヒロお兄ちゃんにも分けてあげるー♪(二人に三個ずつお菓子を渡す)あとはー…そうだ!メモリアお兄ちゃんの為に取っておこっ。 」

男子高校生等『っしゃー!帰るぜー! なあ、今日一樹ん家に泊まっていかねー!? いいうぃね~♪あいつん家、学校近いしちょっとくらい夜更かししても大丈夫だしな。 てなわけで、一樹ー!先にお前ん家行っとくぜー!!(げらげら笑いながら去っていった)』

セルド「ん……そういえばちゃんと名乗ってなかったっけ。俺はセルド、こことは別の街だけど弁当屋をやってるんだ(緩めたネクタイを締め直し、身なりを正して一樹に) ……メモリア………(メモリアを見送る) うわ、いいのか?悪いな…ありがたくもらっとくよ、ありがとな(ニッと笑う) 」

ヒロ「え、俺にもわけてくれんの?…ありがとな、大切にいただくわ(ニコッと結香に) 」

一樹「ちょ…wてめぇ等勝手なこと言ってんじゃ……かぁー!しゃーねえなぁ…。(呆れ顔)セルドってのか、しかも弁当屋かよ。機会があればちょっくら行ってみてえな。…んさてと、じゃあ俺もこの辺で!あばよー。(だらしなく手を振りながら去っていった) 」

結香「うんっ!わけっこわけっこ♪みんなで食べたらおいしいもんねー♪(ニコニコ)あ、お兄ちゃんたちバイバ~イ! じゃあボクも帰ろっかな!セルドお兄ちゃん、ヒロお兄ちゃん、バイバイ!また今度ね~♪(袋を両手に持って可愛らしい足取りで歩いて行った) 」

ヒロ「あ、またねー!(手を振りながら結香に)ん、あばよ!(一樹に) 」

セルド「案外評判もいいんだぞ、今度食事でも振る舞ってやるよ。それじゃあなー(軽く手を振る) ああ、気をつけて帰るんだぞー(結香に手を振る) …んじゃ、俺たちも帰るかヒロ。それじゃあまたなー(ヒロの肩をトンと叩いて通り過ぎ、宿へと向かっていく) 」

ヒロ「おう、お疲れさん!(セルドを見送る)…さて、俺も帰るかな(歩いていく) 」




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … ッ … (セルドたちが去った後、ツキミガハラタワーに二つの影が姿を現す)


××××(男子)「んねー、んねー さっきの柄の悪そうな兄ちゃん(一樹)と競争してた奴――――――あいつも『覚醒能力者』なのー?(タワーの鉄柱に腰かけている) 」

××××(女子)「そんなこと知らないわー。見た感じ、最後の方で大分へばってたし…ただの人間だと思うよ。 」

××××(男子)「いくらハンデを背負った相手とは言っても、あの兄ちゃんは『覚醒能力者』… 普通、ただの人間に負けるはずないよね? 」

××××(女子)「そんなこと知らないわー。…ただ一つ感じたことは、あの人間を取り巻く者たちが『異常』だということ。そして、そんな者たちを味方につける彼もまた―――――『異常』の一つ。 」

××××(男子)「ふーん… …よーするに、厄介者であることに変わりはないということだっ。(立ち上がる)……ちょうどいい、この街に『アイツ』を呼んでやろうよ。ついこの間も、"一国を沈めて"退屈そうにしてたしね。 」

××××(女子)「そーねー… …まあ、『アイツ』にぜんぶ任せておけば私たちも後々楽ちんだしねー。厄介者の始末なんて面倒くさいしねー。 」

××××(男子)「決まりだねっ♪…じゃあ、さっそく『餌』を捲かないとね。――――――――ふふっ♪この世には、『僕たち』以外の存在なんて不要なのさ。みぃんなまとめて――――――――― 」


――――『アイツ』の餌食になっちゃえ―――――




――キュラリア・病院・メモリアの病室――


メモリア「(病室にてベッドの上でアコーディオンを磨いている)血の匂いが、染み付いてしまった・・・。 」


コン、コン… カララ…(病室のスライド扉の奥からノックの音が聞こえ、誰かが入室する)


メモリア「・・・おや、これは、一体・・・?(アコーディオンを磨く手を止め、扉の方を見る) 」

玲華「こんばんは。(優しい笑みを浮かべながら部屋へ入ってくる)容態の方は落ち着きましたか? 」

結香「わぁー!メモリアお兄ちゃんこんばんは♪(玲華に続いて入ってくる) 」

メモリア「ええ、お陰様で・・・。(ぺこり、と玲華に会釈)どうも、こんばんは。(結香にも会釈) 」

玲華「結香ちゃん、ここは病院ですので静かにお願いしますね。(苦笑) はあ、それはよかったです。…失礼しますね。(ベッド付近のパイプ椅子に腰をかけ) 」

結香「あうぅ…ごめんなさい。(しゅん)メモリアお兄ちゃん、お怪我は大丈夫なの?今日はね、ボクと玲華お姉ちゃんでお見舞いに来たんだー♪(果物やお菓子(一樹からもらった)の入ったバスケットを見せ) 」

メモリア「ええ、どうぞ。(ニコ)あまり動けませんが、こうして安静にしているのなら特に問題無い程度にはなりました。(微笑む)おや・・・これはまた、色々と・・・。(果物やお菓子を見て、少し驚く) 」

玲華「そうですか…。回復は順調に進んでいるようですね、良かった…。(両手を胸元に添えて、メモリアに安堵の色を浮かべる) 」

結香「うんっ♪メモリアお兄ちゃん、早く元気になってね♪(にこにこしながらバスケットを棚の上に置いた)そだっ、メモリアお兄ちゃんが元気そうだったのをセルドお兄ちゃんたちに教えてあげよっ。またね!(颯爽と病室を出ていく) 」

ヒロ「レッツゴーコーディーランサームランサームランサーム…(キュラリア内を歩いている)…そういやメモリアってどこに入院してるんやろ… 」

メモリア「このまま無理をしなければ、特に問題も無いとの事です。(落ち着いた表情で)ええ、また・・・。(出て行く結香に軽く手を振る) 」

結香「(病院から出てくる)♪~♪~ ……?はれ~!ヒロお兄ちゃんだー♪(「おーい」と呼びかけ) 」

玲華「あ…帰りは気をつけてくださいね。(結香が出ていったのを確認し、ふぅと一息つく)……お話は今日、うちの学校の男子生徒からお聞きしました。なんでも、セルドさんとうちの生徒が競走をしていとか。それで、メモリアさんもそれに妨害の役として参加していたことも…。 」

ヒロ「…ん?(呼びかけに気づき結香の方へ)あ、ヤッホー、結香ちゃん!こんばんわー!(ニコッと結香に) 」

メモリア「ええ・・・見事に吹き飛ばされてしまいました。(苦笑いする) 」

結香「こんばんはー♪ヒロ兄ちゃん、散歩?? 」

玲華「(メモリアの発言を聞いて物苦しそうな表情を浮かべる)…その……まず、うちの学校の生徒が、貴方を傷つけてしまったことを…生徒代表として深くお詫び申し上げます。(メモリアに深々と頭を下げて謝罪する) 」

ヒロ「うん、散歩だよ!食べ歩き…とも言うかな! 」

結香「わぁ~♪ボクも食べ歩きしたいなぁ♪♪……あっ、そうだ!ヒロお兄ちゃん!メモリアお兄ちゃん、元気そうだったよ~♪ 」

メモリア「え、ええ…あの、えっと…別にいいですよ、そこまでしなくても。(謝罪に少し驚くが、笑顔で返す) 」

玲華「私は生徒会長なんです…生徒が犯したことは、私の責任でもあります。ましてや彼(一樹)は一般の人間とはかけ離れた異常な身体能力を持つ人…そうであるなら、私もちゃんと警戒しておくべきでしたのに…… 」

ヒロ「ん、一緒に行くかい?(ニコッと)あ、お見舞い行ってきたんだ!そうか、元気そうだったか!良かったぁ…! 」

結香「うんっ、もう行ってきたんだぁ~。昨日貰ったお菓子とフルーツをお見舞いで持って行ったんだ♪今は、玲華お姉ちゃんが病院にいるよ? 」

メモリア「既に過ぎた事・・・それに、私はこうして生きています、だから私はもう大丈夫ですよ。(にこ、と微笑み) 」

ヒロ「へぇ、玲華ちゃんが…じゃあ俺もお見舞い行こうかなー! 」

玲華「メモリアさん… ……。……私は… …貴方のことが心配でした…。初めてお会いした際も、お身体がよろしくなかったというのに…(メモリアと初めて出会った時のことを回想しながら、愁いの色を浮かべている) 」

結香「うんっ!きっとメモリアお兄ちゃん喜ぶと思うよ~! 」

メモリア「・・・私は大丈夫です、これぐらい、すぐ治りますよ。(心配させまいと笑顔を絶やさない) 」

ヒロ「そうだ、なんか持ってこうかな!この辺にデザートとか売ってる店あったっけ?(結香に) 」

玲華「(メモリアの笑顔を見て、それに応えるように、弱弱しくではありながらも…できる限りの笑顔を浮かべる)…では、また…(そっとメモリアの片手に自分の両手を添え、優しく持ち上げる)……お祈りです。(自分の額をメモリアの手に当てて、そのままじっとしている) 」

結香「ふぇ?うーんー…えーっと…でもヒロお兄ちゃん、この時間帯だともうどこのお店も閉まってるよ? 」

メモリア「・・・この祈りに、感謝を・・・。(玲華を見て、胸にもう一方の手を当てて一礼) 」

ヒロ「…(時計を見る)あ、そっか、もう深夜だもんなー…うーん、どうすっかなー、今持ってる中だと…あ、食べ歩きん時に買ったドーナツが余ってたような…(ドーナツの箱を取り出す) 」

玲華「……ス…(しばらくしてメモリアの手をそっと下ろし、柔らかい微笑みを見せる)無事退院なされた時には… ……今度こそ、メモリアさんの奏でる音楽をお聴きしたいですわ…。(そう言って立ち上がり、扉の取っ手に手を伸ばす)……また明日もお伺いしますね、メモリアさん。では、おやすみなさい…。カララ…(手をふりながら病室を出ていった) 」

結香「おおぉぉーっ♪♪(ドーナツの箱を見て目が輝き)…はっ、ブンブン そ、それはメモリアお兄ちゃんへのお見舞いに…だよ!えへ、えへへへ…(苦笑) 」

メモリア「ええ、今度こそは・・・。(去る玲華に軽く手を振り、ベッドに横になる)・・・しっかり、治さないと・・・。 」


―――――コン、コン…(玲華が出て行った直後、また誰かがメモリアの病室の扉にノックする)


メモリア「・・・おや、今度は一体・・・?(上半身を起こし、扉の方へと目をやる) 」

××××(男子)「ガララー(勢いよく扉を開け、病室に入ってくる)はじめまーしてー、こーんばんは。……にこっ(初対面のメモリアを見て笑う) 」

ヒロ「そうだね!これメモリアにあげるか!…そして結香ちゃんにはこれをあげるよ!(さらにケーキの箱を取り出す) 」

メモリア「おや、・・・あなたは・・・?(見覚えの無い顔に、首を傾げる) 」

結香「えっ!?(ケーキの箱を見てびっくりする)い、いいの…??ヒロお兄ちゃん?(ヒロの顔を見上げ) 」

××××(男子)「僕が誰かってー?そんなことはどーでもいいんだー。君、メモリアっていうんだ。廊下のネームプレートに書いてあったからすぐに分かっちゃったよ。…てか、うっはぁー…すごい怪我だねー。そりゃあそうか、なんたって【覚醒能力者】(イヴォーカー)の攻撃をその身に受けたんだもんねー。そうなるのは当然だねー、ははっ♪ 」

ヒロ「うん、いいよ!(ニコッと結香に) 」

結香「うわぁ~♪ありがとーっ♪♪嬉しいなぁ~♪(ケーキの箱を貰って小躍りしている) 」

メモリア「覚醒・・・能力者・・・?(言ってる事も、誰かさえも理解できていない) 」

××××(男子)「(メモリアの様子を伺いニタリと嗤う)その様子じゃー…なぁーんも知らないって感じだね。いいさ、いずれすべて知ることとなるんだし。今更君に全てを語ったって仕方がない。……なあ、メモリア、昨日、どんな、気分だった?友達の為に何かしてやりたいとは思いながら、無力な自分には結局何もできやしなかった、それ、どんな気分だった?(少年らしからぬどす黒い邪気を含んだ笑みがメモリアを凍てつかせる) 」

ヒロ「いやー、そんな喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなっちゃうなー!ハッハッハ!!(高笑いする) 」

メモリア「・・・私はどこまで行っても無力だ、一介の一般人には力なんてありはしない、それを理解した上での行動・・・覚悟なんて、できてました、結果は・・・まあ、見ての通りです・・・。(背筋を通る冷たい感覚に目を逸らしながら、答える) 」

結香「ヒロお兄ちゃんって優しいんだね!本当にありがとう♪…はぅ、そろそろ眠くなってきたし、ボク帰るね!またね、ヒロお兄ちゃん!(ケーキを箱を抱えて走っていく) 」

××××(男子)「ニタァ… …そうでしょ、そうでしょ?覚悟を決めた君の雄姿に人々は称賛するだろうね。でもね、能力者相手からすればそれは単なる「愚行」でしかないんだ。弱ければ何もできない。護りたいものがあるこそ人は強くなれると綺麗事を吐くようになった世の中だけれども、結局は"力"がなきゃなーんにもできないんだ。そうだろ?…あの時、もし君に"力"があったなら?今頃どうなっていたのかな?あっははは♪ 」

ヒロ「お、そっか!お休みー!(手を振りながら結香に)さて、そろそろメモリアのお見舞いにでも行くかな…(病室に向かっていく) 」

メモリア「力・・・私に、力が・・・あったら、・・・。(黙り込む) 」

××××(男子)「カシャ♪(いつの間にかスマホを取り出し、メモリアの表情をカメラに収めていた)いいね…その顔…!力を渇望するその表情(かお)!!いいね!♪でも安心していいんだよ。何故なら、明日から君はもうそんな煩わしい気持ちを抱かずに済むんだから。(スマホをポケットにしまい、背を向けて両腕を広げる)今、この瞬間、世界の何処かで新たな"力"が誕生している。"力"に覚醒した人間は…人間という領域を超えて、ある一種の存在にへと進化を遂げる!君も今から、開花するんだ…!喜べよメモリア!!!――――――――明日から君も覚醒能力者(僕ら)の仲間だ―――――――(振り返った時には、その両目は真っ赤な血の如く、歪な光を怯えていた)」

メモリア「え、え・・・?私・・・も・・・?(あまりにも多く、唐突なその言葉に、わけもわからず。) 」

××××(男子)「とりあえず――――――――――寝ろ。 」


―――――バシッ!!(何者かがメモリアのうなじに衝撃を与え、メモリアを気絶させる)


メモリア「うっ・・・―――。(意識が途切れ、そのままベッドに伏す) 」

××××(女子)「(窓から侵入し、メモリアの背後を襲った)…んで、『餌』捲きは終わったの?(男子に) 」

××××(男子)「ちょうど今、ね。ふふっ…この子がいったいどんな能力に目覚めるのか…楽しみだね。 」

××××(女子)「この街にこれだけの覚醒能力者(イヴォーカー)がいれば…『アイツ』は必ず釣られてやってくる。ここが滅ぶのも時間の問題ね。……行くわよ。バッ(窓から飛び降りる) 」

××××(男子)「へいへい…(窓に手をかけて、メモリアの方へ振り返る)…いい夢見ろよメモリア。これからその夢が"現実"になるんだからね。…バッ(飛び降りる) 」

ヒロ「…あー、エレベーターがなかなか捕まらなくて遅くなってしまった…!(××××達が飛び降りてしばらくして病室に入ってくる) 」

ヒロ「…しまった、ノックしてなかった…あ、寝てたのか…じゃあ、これだけでも…(ドーナツの箱を病室に置く)…じゃお大事に、な…(メモリアに語りかけるように病室を去る) 」



…何も無い、まっさらな空間に、ぽつりと一人、取り残された子供。


近くに、同じくして取り残されたような、綺麗なアコーディオン。


子供には重過ぎる、一人という現実と、アコーディオン。


寂しさを紛らわせる為に、つたない演奏でも、するしかなかった。


ただ、ひたすらに、演奏するしかなかった。


認めてくれる人も、褒めてくれる人もいない。


…空虚だ、ああ、…空虚だ。


何も無い。・・・私には、何も無い・・・。




メモリア「・・・!!(がばっ、と病室のベッドにて起き上がる。)夢・・・か、・・・久しぶりに、昔の夢を見た・・・。 」


病室に、風が吹き込んでくる――――――――


メモリア「・・・一人、・・・か。(吹き込む風に、身を震わせる)・・・寂しい。 」

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最終更新:2020年09月10日 08:47