緋月の夜叉姫 ログ1.5

水の国、大和某所 


人間と白鬼、この二つの種族の血塗られた歴史が、水の国の美しい景観の影に潜み、今宵の街に深海の静けさをもたらしていた。


深淵の中から現代のこの国を覗き込む、散っていった者達の命と想いは、今ではただならぬ妖気を放つ亡霊のように掴み所の無い『国風』として海の波音と共に長きにわたってこの国に染み渡っていた


そんな中、1人の少女が闇夜に紛れ、己が使命を胸にビルとビルの間を飛んでいた。


ジャック「(月無き夜に白銀の髪を揺らしながら宙を舞う。黒いマントはカラスの翼のように黒く雄々しく。軽やかな着地とジャンプを繰り返しながら進路を進めていく、)……わたしたちが頑張らなきゃ。あのヒトが残したあの場所を守るには、この国の力が必要ッ!(これまで飛んだ中で最も高いジャンプ。綿毛のように脱力した身に優しい風が不意に包み込む。一種の心地良さを感じた彼女は目を伏せながらそのまま地上へと落下していく)――――ズッッ!! (数秒後、石床の上に勢いよく着地。轟音ではなく、まるで高い所から落ちてきたボールのようにそれは軽やかな音だった) 」

ジャック「(飛び降りた場所、それは人気のない路地裏。数日前に配られたであろう新聞が丸めて乱雑に捨てられ、荒野を転げる草のように風に乗って端の方まで渡っていくのが見えた)……ここをこえて、偉い人に会えば、きっとわかってくれる。(マントの裏側に仕込んだ文書をそっと撫でて、そのまま靴音もならさぬ独特の歩法で進んでいく。―――――が) 」


ジャックの背後から強い気配を感じた。思わずナイフを引き抜き振り返るが、そこには誰もいない。あれほどの気配を、ただ気のせいで片付けることが出来ないのは、ジャックの生まれ持っての性だ。……ジャックは能面のようにかたまった表情のまま、ある可能性をを脳内に提示する。

ジャック「(誰かに、着けられてる? いや、そんなはずはない。でも、あれ?)……(ここへ来て急な出来事。確かに数日ほどここに潜伏していたが、足が出るようなことはしなかったはずだ。しかし、この鋭いメスのように心に刺さる違和感がどうもぬぐえない。)まさか、初めからわたしたちが来ることを……でも、情報は全部消してある。なんで? 」


ナイフを手に、気配のした方を警戒しながら、尚も進もうとした直後


   「俺はお前に近づかない」

ジャック「(その言葉とは裏腹に、発現の内部には明確な殺意があった。それに気づいたジャックはナイフをもう一本。二刀流で眼光鋭く、周囲に視線を回しながら相手の出方を探る。姿は見えない。だが、たしかにここにいる)……誰? わたしたちは急いでる。邪魔しないで 」

????「それはこちらの台詞だ(暗闇の中から、まるで黒く塗りたくられたキャンバスから出てきたかのように、黒いトレンチコートをまとった白黒が反転した目をした男が現れる)……貴様のような奴にチョロチョロ動かれるのは面倒なんだ。おっと、とぼけようとしても無駄だ。我々の情報網から逃れられると思ったか? この国の陰でコソコソと動き回る連中の情報はすでに把握している。貴様もそのひとりだ。……もっとも、グラナードの連中同様、貴様もかなり変わった組織の者らしいが、な 」

ジャック「――――!!(暗闇から現れた男の言葉に一瞬反応する。なにより、彼の口からグラナードの言葉が出てきた為、肝を冷やす)どう…して……? アナタは、誰?(怯えたようにナイフを構えながらも、彼女の脳内では無数のパターンを用意している。これはブラフだ。情けない姿を敢えてさらし、相手を油断させている) 」

????「(…………)一見か弱そうな半人前にすら見えてしまうその仕草。相当訓練されたものか、果ては元来持つものを天性のものをそのまま次の一手につなぐための手段として使っているだけか。とにかく貴様のそれには油断ならない気配がある。俺の決断は変わらない。……尋問は専門外だが、それもやらなければならないというのが暗殺という仕事の理不尽さだ(男の気配から濃密なまでの精神力が溢れ出てくる。)――――来るがいい。ここで俺を殺して見せろ。でなければ。 」


「 お前はここで死ぬ 」


ジャック「(お互い向き合って数秒、男に至っては一向にこちらに対し攻撃行動をとってくる気配はない。それが余計に不気味だった。銃を持っているわけでもなければ、なにか刃物を持っているわけでもない。)……動かないんだね。能力者ってわけじゃなさそうだけど。それじゃわたしたちは殺せないよ? 」

????「勘違いをするな。まだ殺しはしない。だが、お前は俺を殺さなければヤバいことになるぞと言っているだけだ(黒白目から覗く明確な意志が眼光となってジャックに向けられる。こうして立っていること自体が、自分の全ての行動だとでもいうように) 」

ジャック「(目の前の男の発言に眉をしかめる。同時にもう一本ナイフを引き抜く。どちらにしろ油断ならない相手だ。路地裏という狭い世界でこうして退治している以上お互い逃げ場はない。あぁして無造作に立っているだけなら、こちらの素早い動きを以て急所を抉れば問題はない)わたしたちの邪魔……しないでッ!!(ジャックが先に動く。いかに狭い通路とは言え、小さな体を持つ彼女からすれば十分な広さだ。直線に駆け抜けたかと思えば、何度も壁を蹴って宙を移動しながら翻弄。そして一気に背後から頸動脈を刈りに行く) 」

「一向に突っ立ったままのこの男を殺すことは、彼女自身容易かと思っていた。 」

「後はこのナイフの刃を頸動脈に滑らせれば全てが終わる。自分の速さにはついてこれないだろうと思っていた。――――だが。 」

????「貴様の得物はナイフ類。小さな身体を使って相手を翻弄し、素早く相手の急所を突く。暗殺者として相応しいかもしれんが射程はせいぜい1m前後といったところか。……それさえはわかればやり方は……『できている』 」


その直後だった。ジャックの両腕に激痛が走る。それは思わず得物であるナイフを手放してしまうほどに悍ましい痛みだった。少女の美しくきめ細やかな肌をした両腕からなにかが筋肉や血管を突き破って外部に這い出てきている。――――剃刀、釘、メス、その他諸々の金属類。それがジャックの腕を食い破るようにし一気に飛び出た。


ジャック「うぐッ! ……あ、ぁ、ああ゛!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!?(突然内部から出てきた金属によって腕をズタズタに引き裂かれた彼女はバランスを崩し、????を斬ること叶わずそのまま彼の真前にまで勢いよく落下した)あがッ!! あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!(断末魔が木霊する。腕からは大量の血液と無数の金属類。自分が何をされたかもわからぬまま、涙を流し、嘔吐でもするかのように顔を歪め叫び散らす) 」

????「(叫び声をあげ無様に泣き叫ぶジャックに近づいていく)貴様がなぜここへ来たのか。誰に会うつもりだったのか。興味がある。―――フンッ!!(そう言って倒れている彼女の腹部目掛けて強烈な蹴りをいれる)……ん? これは(彼女のマントから筒を見つける)これは、中身は文書だな。 」

ジャック「――――おっぶぅうッ!!(腹部を蹴られ、小さな体は血を巻き散らしながら壁に激突する。その際、大切に持っていた書類を奪われ、瞳を極限まで収縮させる)か、げふ……かえし、て……やだ、やだよぉ。ひどいこと、しないでぇ…・(そうしてグズグズと泣き始めながらも、ズタズタの腕を伸ばした) 」

????「――――(ジャックを無視しながら、筒の中の文書に目を通す。そこには悪霊山が水の国との関わりを持つこと、並びに今後の方針などがキッチリとまとめられていた)……これを誰に渡そうとしていたかはしれないが、そうはさせない(そう言ってマッチを取り出し文書に火を点ける)さて、話してもらおうか? 誰に会おうとしていた? でなければ……(そういってジャックをにらんだ直後、彼の持つ"力"の根源が発動した) 」


   バ   サ     ッ    (その刹那であった。一陣の旋風が巻き起こり黒羽が円を描くようにして夜景に溶ける。紙吹雪のような羽は???の視界を遮ると、ジャックの姿は彼の視線の先から消失していた) 」 


ジャック「やべて…・・あぁ、かえ、して。おねが――――(またしても異変を感じる。喉の奥から込み上げてくる鋭利な異物感。そして、左足の太ももから感じるザクリとした衝撃と激痛。)うぎゃッ! あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! いだい、いだいよぉおおお!!! やめて、いやぁあいだいやぁああああああッ!!!(左足の太ももから一気に突き破るように出てくる巨大な刃、それが太ももを切り落とした)あぁぁあああああッ! …う、うげぇえええ、ぐぇえええああああああッ!!(喉から口へ、無数の剃刀が濁流がごとく吐き出る。喉や口の内部を鋭い切れ味で痛めつけ、大量の血をジャックからそこなあわせた。彼女の意識が激痛と噴血により飛びかける)) 」

巨大な烏「―――――ギャーハッハッハッハ!!見ろよべによるチャーン!?こいつで雑巾掛けしたら床真っ黒になるぜってぐらいスタボロだァ!なあいいかな?実際試してみていいかなぁ!!?(ジャックよりかは一回り小さいが、それでも通常の認識にある烏よりかは巨大な黒影が、下卑た笑い声と、あろうことに人語を発し月光を浴びていた。両足にはジャックを吊るすようにして捕まえ、すでに???より10m以上離れている)おいおいおい、なんんか四次元ポケットよろしく物騒なもん吐き出してるぜこの嬢ちゃん。大丈夫か? 」

????「――――ッ!!(突然現れた巨大なカラスに度肝を抜かす。一瞬何が起こったかわからなかったが、即座にジャックの援軍かなにかと察知する)何者だ貴様……なぜ俺の邪魔をする? 」

紅夜「――――鳥の血に悲しめど、魚の涙に哀れみは覚えず。声なき者にこそ救いあれ(闇夜に一筋の紅が記される。その頭髪をなびかせ皮表紙の本を片手に、その紙面に隈を作った窪んだ瞳を落とす。歌うようにしてその一節を読み上げ、その抑揚に合わせるようにして手にした杖を回転させ、恐ろしくゆっくりと、???と一定の距離を保ちつつ歩み寄った)――――彼女は声なき魚だ。例によって、俺は救わねばならない……『お前さえもだ』 」

巨大なカラス「だ、そうだぜ?悪いなこいつ詩人ちゃんだから面倒な言い回ししかできないの。要するにこの城ちゃんも『てめーも』救ってやるってこったよ!ヒヒヒッ!!(大げさに翼を上下させると紅夜の手前まで高度を下げ、ジャックを手ごろな岩の上にそっと下ろし寝かせた) 」

????「――――救う、だと? その小娘だけでなくオレもか?(ほんの数秒の沈黙。その間、彼の黒白目は彼等をじっと映していた。だが、その眼光の鋭さは変わらず)なにを言っているののかは知らんが、要するにだ。お前は俺の邪魔をするということだな? (ユラリと男の雰囲気が更に殺気で濃密な物へと変化していく。ジャックと同じように攻撃するつもりだ) 」

紅夜「―――――(ジャックを流し目で二秒ほど一瞥すると、すぐさま眼前の男へ視線を戻し、杖を軽く宙に浮かせてから持ち直し、再びペン回しのように玩びながら皮表紙の本を閉じ懐に仕舞うと)―――間合いだ。俺は『お前に近づかない』。鉄分だ、『今の俺と魔獣にはそれが通用しない』(ジャックを、小柄な子供の彼女さえも億劫そうになんとか抱え上げ、聖書の一節を読み上げるような掠れた声で述べる)だが俺にはお前に勝つ手段はない。だからあえて言おう。やめろ、無駄は好まない 」

????「……(紅夜の観察眼を前に、自らの力を推察されても尚表情を崩さない)そこまで見抜いたことは褒めてやる。――――だが、それがなんだ?(射程外なら近づけばいいと言わんばかりに、小さく一歩踏み出す)貴様がその小娘とどういう関係かはわからん。そしてお前のそれは誰かに命令されたものではない。自分の意思での行動によるものだ。……だが、問題はそれ"以外"だ。気になるな。その小娘を助けた後、貴様がそいつをどこへ連れて行くのか? 見た所医者でもない。そもそもそいつは医者で治せるような存在でもない。それを分かったうえで助けようとしている。―――――貴様は、そいつを連れて、どこへ行くのか。 」

紅夜「――――俺がお前に与えにきた情報は”それではない”(あたかも、他に渡す情報があるとでも言いたげな、含んだものいいを、月光差し込む表通りを挟んで、???の潜む暗がりと大局的に位置する裏路地で銀の瞳を光らせる)まあいい、質問には答えるさ……それがお前への礼儀であり信頼だ。”救いたい人がいる”、”彼女”ならこの娘を治せる。どこへは言えない、だがこの大和国内だ(距離を詰めることを厭わないと言わんばかりに一挙一動を注視しつつも微動だにしない) 」

????「……見ての通り俺は殺し屋だ。殺し屋を相手に礼儀だ信頼だと情報を渡すとは。(フードから覗く銀色の髪を指でいじりながら、踏み出した一歩をそっと柔らかく引いた)……俺も仕事でな。"クローバー"の指示に背くわけにはいかない。――――が、俺に与えに来た情報とやら。それの内容次第では考えてやってもいい。 」

紅夜「命のやり取りにおいても、互いに『信条』があるなら礼節が生まれる、俺はそれに準じるだけだ。(???が一歩間合いを話したことを確認すると小さく頷き)俺が優先とするのはいつだって、この愛すべき故郷『ケイオス』だ。お前もその一部であり、この娘も例外ではない。闘争はいかなる時もあり得るが、だが今『ケイオスではないここ』で『ケイオスの民同士が流血を流し合う必要はない』。ここまで言えば察しがつくだろう、この大和は―――― 」

紅夜「――――― 『 大 和 帝 国 』 は ケ イ オ ス で は な い 」

????「―――――(一陣の風が彼と自分の間を通り抜けていく。その言葉に嘘の気配はなかった。一見素っ頓狂にも思えるこの発言に、ガラにもなく彼は冷や汗をひとつ)……大和がケイオスではない。仮にそれが真実として、どうなるというんだ? ――――と、言い返すのは野暮か。この大和がケイオスではない。……イイだろう、信じてやる。 」

紅夜「――――大前提を思い出して欲しい、俺は『ケイオスを最優先する』(杖の先端を???へ向け、軽く上下させると)『大和』の繁栄を阻止する必要がある。そうだろう? ある意味俺とお前の利害は一致している。だが、お前はプロだ。獲物を見逃せというのは無理な相談だろう(掌の上で杖の腹を弾ませ)パシッ(それを握ると)―――だから提案だ。『優先順位』を変えないか。俺はお前の任務を遂行する上で優先して抹消すべき対象をリークする。それら全てを抹消してからが、そこからがこの娘をどうするかだ 」

????「(大和の繁栄、か。)――――優先順位の変更か。簡単に言うがそれこそが仕事の難しい所だ。時間や場所によって、状況は大きく変わる。アルバイトのシフト変更のように軽い問題ではないのだ。それに、誰を殺すか否かの情報はすでに俺は頭に叩き込んである。貴様にリークされようとされまいと関係はない――――だが、そうだな。俺も貴様に敬意を払い…"一人"だけ。そう、一人だけなら変更可能かもしれない。どうだ? 対象一人分だけ、その小娘は長生きできるかもしれない。――――どうだ?(黒白目が一瞬鋭くなる) 」

紅夜「―――――いいだろう(トンと自身の首筋に指を当てて捻り、軽くノックさせ挑発的にシャフ度で目を細める)ただし鵜呑みにはできない。そこでどうだろう……―――――『  』を最優先にする……というのは。先に断っておくが、あれが現存する限りお前も俺も、『この大和から出られはしない』 」

????「――――(『  』の名を聞き、一瞬目の色を変える。なぜなら、それは彼の最終目的。無論、『  』も殺すつもりでやってきたのだが、これを最優先にしろと言われて半ば曇ったような表情になる)……ふん、最優先にしろ、か。(ここで初めて軽く乾いた笑みを見せる)……貴様自身、自分が無理難題を言っているのは承知の上でのことだろう。現実はかなり切迫した状況である、というのがお前の口調からヒシヒシと伝わる。――――が、だ。無論それも対象には含んでいる。だが、その為には段階というモノがある。将棋やチェスで最初の一手から王手(チェックメイト)を取れないように、まずはそのまわりの敵を刈り取る必要がある。理屈はわかるだろう? ――――そこでだ。その小娘を長くもう少しだけ長く生きさせてやる。だから、教えろ。―――ある人物の居場所を。それならどうだ? 最優先ではないが、お前にとっても、これは"近道"となる。どうだ? 」

紅夜「――――(ある人物と聞き眉を潜める)――――人物か(一切変えなかった目の色を一瞬曇らせ杖の先端を床に付ける)――――確かに、駒を積むのは手順の一つだ。だがその駒もまた生かすことで毒壺の蛇となり得る。『誰でも」という訳にはいかないが、対象を聞こうか 」

????「……候補は二つ。大和見廻組、『伊蒼義隆』。情報統制がきつくてな、俺の『網』ですら掻い潜るほど情報戦に長けた奴だ。コイツの首を取る。そして――――……グラナードファミリエ首領、『エリザベス・ヴァン・シュテイン』。俺の網にかかった連中の中でも飛びぬけて存在感のある奴等だ。この時期に連中がくるのには大体想像はつくが、訳がある。―――――好  き  な  方  を  選  べ(目を見開き、紅夜の輝く目とは対照的な眼光を見せる) 」

紅夜「――――――――ニッ(????の提案に対し口元をほころばせ)   『   』  (彼は快くその名を告げた) 」





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最終更新:2020年10月04日 19:14