緋月の夜叉姫 ログ1

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その世界ではごく当たり前に輪廻が循環し

その世界ではごく当たり前に誰もが安らかに死ねる 眠るようにして

私はこの世界で目覚めた 在らぬ心臓は鼓動を刻み 時を持て余す

私は生きる 生き続ける

明日を憂い 未来を尊み 歴史を呪う








水の国レサーティア大三島国大和 ー天岩城ー



『儂は永くないかもしれん』

“大和”の地平を兼ねてより照らし、広く見渡す大君。『将軍』が 御簾越しにポツリとこぼした囁き。この一石を投じたその瞬間に私は悟った

『ああ、この古狸めやってくれたな』と。永劫不滅、不夜の象徴、尽きぬ太陽と崇められた彼が、その以降ゆえにこそ臣民の一切を従えてきたその彼が、自らの滅びを予感させる一石を投じた

波ひとつない、穏やかな大海原に山を落としたかのような一石だ。『現在』の大和を支える老中は、それを嘆くか、それを喜ぶか。嘆きに膝をつくか、換気に咽ぶか

なんにせよ、次の国政を担う座をかけて将軍の名の下に沈黙を守った平成の化け物共がこの小国で烈火の如く『国士無双』と謳われた手勢を揃え動き出すだろう

およそ数百年振りか。この大和で、太平の世で『国取り』が、天下統一をかけた決戦の火蓋が切られようとしている

「ああ、見事!見事やってくれたなこの古狸め!」





          クレナ イ ノヤシャヒメ
      —— 緋月の夜叉姫 ——


     終末確定因果率B+ 文明壅塞島 大和









—————水の国レサーティア・本島 サンレスガーデン—————


———潮風香り、活気と賑わいを乗せて頬を撫で、色鮮やかな屋根が軒を連ねる露店街。見渡せば人、人、ヒト、その向こうには群青一色の水平線。海沿いの港町のありふれた光景

「ラッサイーラッサーイ!!ヤッスイヨー!!」「オジョッッスァンドウデスカコレ トレタテデスヨー!!」「キュケオーンヲオタベ!!キュケオーンヲオタベ!!」「マイドアリャサシッスター!!」「ブキヤボウグハジッカリソウビシナイトイミガナイゾ!!」

ジゼル「(行き交う人の波、差し出される商人の手、新鮮な幸を掻い潜り先ゆく者の背を追う)————資源にも経済にも恵まれ、貿易業が盛んな先進国とは聞き及んでおりましたが……ここまでとなるといささかやり過ぎでは。あー結構です!結構です!鮭は間に合ってます!はいっ!(押し付けられる生鮭の生臭さに眉をしかめながらその腕を突っ返し)」

リズ「(足取りを追うジゼルの困惑する様を愉快に眺め、口元に手を当ててクsクスとすす笑う)以前と変わらずな。母上と何度か訪れたが、いや色褪せぬ景色というものは存在するのだな。ご覧よジゼル。この国は『文化』が意地や矜持等といった理念めいたものではなく、各個人の営みの元に成り立っている。各々が、幸福を『築く』のではなく幸福に『気付く』事で、この国家の幸福は成り立っている。」

リズ「一件が片付いた暁にはここへ拠点を移す……いや、ここへ『帰る』と決めていたが、予定調和だったとしても感動は一塩というものさね(軽快なステップで人々の間を掻い潜り、時折進められた食材には手を伸ばし、呼吸するかのように会計を済ませ背後のジゼルへノールックでパスする)」

ジゼル「なんと見事な……流石です っとと……!(とっさにそれを手に取り品定めすると、その間に距離を離されていることに気づき見失うまいと冷や汗を浮かべ慌てて駆け出す)———お言葉ですが、予定調和であったなら今頃お嬢様はここでこのように華やぐ笑みを浮かべていることも、私がそれをみることもなかったでしょうに(まだあの一夜のことを根に持っているのか頬を膨らませ肩を竦める)」

リズ「——————(豊かに変化する表情を、人として向けられる感情を視界に収め、それを認識するとき常につままれたかのような顔をし)ク……ははは、確かに。おかげさまで今はこうしてお前が年頃の娘らしく振る舞う様を眺められている。(人の波を抜けると、分島が遠くに見える海岸へ出、海猫が空を泳ぐ。くるり、両腕を広げステップを踏んでジゼルへ向かって踵を返し、屈折のない笑顔を咲かせた)」

リズ「私はこの結果に満足しているし、それを絶やさぬよう、生きて、姉としてではなく党首としてではなく『エリザベス・ヴァンシュタイン』一個人の意思で……愛しいお前たちと共に在れるよう振る舞う訳だよ。ひとまずはこの誓いを以ってよしとしてくれないか」

ジゼル「————ええ。その誓いがある限り、私は私の意思で、ただ一振りのジゼル<剣>であり続けると誓いを持って返しましょう(頬を緩ませ、目を伏せる。絶えず水平線より流れる潮風に銀の髪が揺れるとも、凛として佇み真っ直ぐに返した)———さ、リストにあったものは記憶にある限りひとしきり買い揃えましたがこれから如何されますか。家具類が拠点に届くまでまだ時間があるようですが」

リズ「ディナーは頼まずともメイドとシェフが腕によりを効かせて人数分作ってくれる。ただその生活が続くと冗長で飽きるだろう。とりあえずはランチにしないか。うまい中華食堂を一件知っている、お前が加入する前に立ち寄ったのが最後だし残っていればの話だが(くいと親指を海岸沿いに続く坂道へ向け首をくいと捻り)」

ジゼル「それなりに月日が経過していますね。お嬢様のお目付なれば経営難になるとは考えにくいので、杞憂でしょう(首を縦に振って『お伴します』と伝え肩を並べるようにして歩き出そうとするが————)————それで、如何されるおつもりですか」

リズ「—————トキワ姫だったか (ピタリと前へ赴く足を止め、肩をガックリと落としうみねこが輪を描く空を仰ぐ)お前が念押しするということは、まぁそうだろうさ。正直整理がついてないといったところだ。入国早々種族間の外交における仲介役を務めろなどと、ご老中直々に指名されたりでもしてみろ。はいそうですかと、己の身分を変えみりえばおいそれと付いていく訳にもいかんだろう

ジゼル「姫様と合流されては如何でしょう。この一件で『瑠璃』のバッグには国政の力が存在している事は明らかになりました。ともすれば大和、もといレサーティアは余すとこなく彼らの縄張りです。杞憂かもしれませんが念のため一旦アジトに全員を集め安否を確認し、その上で行動方針を練るという方向で動くのが無難ではないかと」

リズ「————。———そうだな(一瞬、迷いを見せるように彼女を一瞥し不安げに口を固く結んだ)今の所こちらがそれを承諾するメリットはリスクと割に合わない。かといって今の根無し草の我々にとって、『瑠璃』にせよ『大和』にせよ、いずれも敵に回したくない相手だ。かといって不安材料を野放しにしたままという訳にもいかないからな……。」






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最終更新:2019年05月16日 21:01