ニュースが、戦争の話題を告げている。
 撒き散らされる鉛弾。
 降り注いでは家々を焼く粘ついた炎。
 子ども達が泥水を啜り、臨月のように膨らんだ腹と座頭虫のようにか細い手足でぐったりと横たわっている。
 悪意。虐殺。浄化という名の鏖殺。
 衣食住が保証されることが当たり前のこの国にとって、それはすべて遠い異国の話。
 自分たちとは関係のない、どこか非現実的な物語の悲劇でしかない。

 テレビの電源が、おもむろに落とされた。
 少女がそれを見つめていることに気付いたのだろう。
 恰幅のいい、いかにも裕福な身分であるのが明らかな男が笑顔を見せた。
 男は少女の父親であった。戸籍上の絆ではあるが、彼が彼女に屈託のない愛情を注いでいるのは間違いない。
 身寄りのない少女を受け入れ、今までに見たこともない豪奢な料理と家で育ててくれている。
 辛い記憶、失ったものを少しでも埋め合わせられるようにと。
 肌の色の違い、生まれた国の違い。血の繋がりの有無など、何のその。
 人が人を想う気持ちがあれば、そこに人種など関係はないのだと、男は少女に対して日々証明し続けていた。

 もう眠りなさい。

 そう告げる父に、家事を終えた母も同調するように微笑む。
 優しい家庭だ。銃火も、餓えも、ここには何もない。
 夜空の向こうから、野蛮な虐殺者たちが乗り込んでくることもない。
 少女は、アルマナは、優しい両親に小さく頭を下げて踵を返した。
 階段を上って、二階にあがる。そこにはアルマナの部屋がある。
 "日本の"両親が与えてくれたキャラクターグッズで可愛らしく彩られた部屋に入ると、アルマナは静かに窓を開けた。

 ――時間だ。王さまのところへ行かなければならない。

 開かれた窓から、ぴょんと夜空に身を躍らせる。
 降りしなに片手で窓を閉め、向かった先は少し離れた廃寺だった。
 いかに外国人とはいえ、夜中に近づきたいと思わせる風体ではない。
 それでもアルマナは恐れるでもなく寺の門を潜り、中へ入る。
 地下の土蔵に続く階段を降りて、青銅の扉を押し開けた。


 ……そこに。
 寺の地下という、ただそれだけの筈の空間に。
 巨大な、地底湖を思わせる雄大な空洞が広がっていた。


「――遅い。何をしていた?」


 明らかに構造上の理屈を無視して広がる大空洞。
 よく見るとその壁面は土壁ではなく、厳かな青銅で構成されているのが見て取れる。
 地面も然りだ。空洞の全体が青銅から成り、ある種シェルターのような様相を呈している。
 アルマナは知っている――これは玉座の間であると。天上にあるか地底にあるかの違いで、偉大なる者が座す空間であることに違いはない。

 その証拠に、空洞の奥には玉座が誂えられていた。
 そこに腰掛け片肘を突くのは、アルマナの集落で〈長老〉と呼ばれていた人物よりも老齢に見える枯れた老人だ。
 皮膚の張りは失われ、白い髪も髭も水気らしいものは一切残していない。
 されど痩せぎすの身体は老いさらばえながらも、まるで小ささ、弱さというものを見る者に感じさせなかった。
 それは彼の肉体が"痩せている"のではなく、筋肉を限界まで引き締まらせた結果の細身、華奢さである故のことだ。
 生涯に渡り、鍛錬を決して怠らなかった者。
 そうでなくてはあり得ない肉体の完成度を、この老君はひけらかすでもなく当然として有していた。

「ごめんなさい。父母と過ごす時間が長引いてしまいました」
「おまえは暗示の魔術も使えぬのか。早々に人形に変えてしまえば良かろう」
「ですが――」
「ですが、ではない」

 そして何より、その双眼に宿る光だ。
 爛々と輝く、覇者の輝き。
 あまたの栄光と武勲を滲ます冷眼が、この男が単なる耄碌爺ではないことを何より如実に物語っていた。

「王が白と言えば、黒い鳥も白になるのだ。
 それがこの世の道理で、仕えるということなのだ。
 おまえは儂の何だ? アルマナ・ラフィー。淘汰されし穢血の者よ」
「……アルマナは、臣下です。ランサーさま、あなたの」
「然り。おまえは儂の臣として仕え、身を粉にして働くと誓った。
 その見返りに儂はこうして、おまえのような小娘に兵と力を貸してやっているのだ」

 対峙しているだけで骨の髄までが痺れる。
 びりびりと、本能的な震えを帯びる。
 まさしくこの老君は、神話の国の王者だった。
 栄光を掴み、"統べる"ということの意味を知り尽くした男。

 逆らう考えなど、起きるはずもない。
 いや、そうでなくてもアルマナはこの王に逆らえなかった。
 彼に仕え、彼のために働き、その力に肖る必要があった。
 そうでなければ、今ここで生きている意味がない。
 あの地獄を生き延びて、針音の仮想都市に足を踏み入れた意味がない。

「明日までに木偶へ変えておけ。儂は既におまえの意を汲んでいる。過ぎた慈悲を望むなら、儂は臣下でも躊躇なく殺す」
「……わかりました。では、そのようにします」

 跪いた格好のまま、小さく頭を下げる。
 それでようやく老王は、ランサーのサーヴァントは溜飲を下げたらしい。
 ふん、と小さく鼻を鳴らして足を組む。
 尊大に尽きるその態度にも、思うところは特になかった。
 心を乱し、怒りに震える。
 そんな情動を最後に起こしたのははて、いつのことだったろうか。

「して。成果はあったか?」
「はい。練馬区の方で、魔術師の〈工房〉を確認しました。
 子どもの失踪事件が盛んに騒がれており、魂喰いで戦力を肥やしているようです」
「フン。下賤の輩が取りそうな策よ。おまけにこのような小娘に気取られるとは、余程の三流と見える」

 手を伸ばし、槍を手に取る。
 その石突でランサーが地面をかつん、と小さく打った。
 それが合図になる。玉座の前方で、青銅の床がごぼごぼと泡立つように蠢いた。

 ――そしてそこから、五体の人型が立ち上がった。
 顔はない。性別の区別もつかないし、そもそもあるのかも窺えない。
 竜牙兵、という言葉をアルマナは知っていた。
 アルマナの集落は魔術という文化が遥か昔から根付いており、彼女もまた幼い頃からそれに親しんで育った身だ。
 だが、知識として知っていた〈竜牙兵〉と比べても、王に傅く五体のそれはいささか精強すぎる風に見える。
 無機質な外見でありながら、そのボディにはまるで長い収斂を積んだ勇士のような趣が宿っていた。

「王たる我が名のもとに命ずる。朝日が昇るまでに、下奴らを誅殺し首を持ち帰れ」

 王の下す誅殺命令。
 それは彼らにとって、至上の意思(オーダー)。
 アルマナの知る限り、ランサーはこれまでこの〈玉座の間〉から一度も出たことがない。
 戦闘のすべてを従者たる五体の竜牙兵に任せ、それでいながら戦果を挙げ続けている。
 その事実こそが、この老王の放つ威光が単なる見せかけなどでは断じてなく。
 今も微塵たりとて衰えることない、覇道の顕れなのだということを示していた。

 もしこんな人がいたら、あの集落の結末も変わっていたのかもしれない。
 ふとアルマナは他人事のようにそう思う。
 誰かが容赦のない、"戦える"王さまとして君臨していたなら。
 何もできず、逃げる背中を撃たれて、逃げ込んだ穴ぐらを燃やされて、なぶり殺しのように奪われていくこともなく済んだのだろうか。

 そこまで考えて、アルマナはその思考を"意味がない"と切り捨てた。
 すべては既に終わったことで、あの集落は滅びるべくして滅んだのだ。
 歴史と宗教の問題が複雑に絡み合った地獄の釜。
 その中で暮らすには、あの人たちは皆優しすぎた。穏やかすぎた。
 魔術なんてすごい力を極めてきたのに、それを〈誰か〉に向けることに慣れていなすぎた。
 政争も暗闘もない、平和でのどかな集落の中で受け継がれてきた神秘。それを扱う者の精神性。
 彼らはあまりにも、この世界で生きることに向いていなかった。
 だから、みんな死んでしまったのだ。アルマナはそれを知っている。

「……アルマナよ。おまえの願いは既に聞き及んでいる」
「はい」
「鏖殺された同胞の蘇生と、集落の平穏。
 何とも惰弱な願いよ。滅ぶべくして滅んだものを蘇らせたとて、その結末は決まっている。
 明日訪れる終わりを一月引き伸ばすようなものだ。聖杯はおまえたちの揺り籠を守る乳母などではないというのに」
「ごめんなさい。王さまの言う通り、なのだと思います」

 あの集落の中で、アルマナだけが戦うことの意味に気付いた。
 戦わなければ、なにも守れない。
 なにもかもを奪われて、そして朽ちていくだけだ。
 だからアルマナはあの日、あの夜。
 自分の上に覆いかぶさってきた〈敵〉を、自分の意志で殺した。
 やってみると、事は意外なほどに簡単だった。

 ――〈守るため〉なんかより、〈殺すため〉に使う方がよほど簡単だ。
 父が、母が、きょうだいが、長老さまが教えてくれた優しい生き方。
 彼らは、知っていたのだろうか。
 この力を内ではなく外に向けたなら、あんな終わり方なんてせずに済んだことを。

「ですから、あなたの言う通りにします。
 あなたに仕え、あなたのために働きます。
 なんでもします。そうすればきっと、愚かな私の願いも叶うでしょうか」
「儂の知ったことではない。おまえはただ何も考えず、馬車馬のように働いておればそれでよいのだ」

 アルマナは顔を上げない。
 頭を下げて、王の機嫌を取る。
 "感じる"ことは、もうやめた。

 感情とは、運命とは、にわか雨のようなものだ。
 頭を下げて耐えていれば、いつか何もなくなっていく。
 雨の降る中に外へ出るから、風邪を引くのだ。怪我をするのだ。銃で、撃たれるのだ。

「アルマナよ」
「はい」
「おまえは……」

 自分も、そう。
 あの竜牙兵のようであればいい。
 すべてが終わるまで、機械のように従い続ける。
 やるべきことをやる。いらないことは、しない。
 この世に尊いものなど何もありはしない。
 そこには、自分自身も含まれている。

「おまえは、恐ろしくはないのか」
「……?」
「……いや、いい。引き続き儂のために励め。聖杯が欲しいのならば」

 言葉の意味が分からず、一瞬沈黙してしまった。
 が、ランサーはそれを叱りはしなかった。
 王さまがいいと言うのだから、これ以上考える必要はない。
 アルマナは「はい」とまた短く返事をして、静かに立ち上がった。
 玉座に座り、小さな褐色の身体を見つめる老いさらばえた王さま。
 その眼に宿るものの意味も、"感じる"ことを忘れたアルマナにはわからないのだった。



◇◇



 栄光を掴んだ時、覚えたものは高揚だった。
 己の国を手に入れた気分は爽快だった。
 女神の寵愛はいつだとてこの矮小な心を癒やしてくれた。
 誰もが己を喝采と、畏敬の念にて迎え入れる。

 ああ、まさに己こそは英雄。
 神の怒りをも恐れず、荒ぶる竜を討ち、自分の国を手に入れた理想の王。
 小さな悲劇など、失楽など、何も感じぬ。
 この国があればいい。この名誉があれば、それだけで自分はいつ如何なる時も、どんな苦境の中でも笑っていられる。

 男は、すべてを有していた。
 この世の喜び、そのすべて。
 富があった。名誉があった。
 愛する者がいた。素晴らしい子孫にも恵まれた。
 これぞまさに幼い日に憧れた英雄の生涯そのもの。

 恥じることなど何もない。流す涙など、一滴たりとてありはしない。
 永い生涯の中、喜劇もあれば当然悲劇もある。
 喪失など、挫折など、何のその。
 誇り高き過去さえあれば、どんな嘆きもたちまち失せる。
 過去とは美酒であり、そして麻薬だ。
 いかなる苦しみでも等しく慰め、明日に希望を抱かせてくれる。

 息子が死んだ。
 娘が死んだ。
 孫が死んだ。
 だからどうした、己はこうも優れている。
 我が国はこうも栄えている。まさに黄金の繁栄。実に素晴らしい。
 地上のいかなる悲劇さえ、この栄光の礎と思えば安いものだ。
 我は素晴らしく、我の国も素晴らしい。
 この世にそれ以外、感じるに足る情動なぞ存在するものか。

 我こそは理想の英雄、理想の王。
 偉大なる栄光の国を築き上げた、竜殺しの英傑。
 美しい女神に愛され、あまたの子孫を産み落とした黄金の系譜。
 至上の英雄たる己は当然、その死後さえ祝福されている。
 この肉体、この魂は必ずや死後、楽園に招かれるだろう。
 そして永遠の幸福を噛み締めながら、穏やかな時間を永久に過ごすのだ。

 思い上がりが裁かれることもなく。
 その怠惰に応報が下ることもなく。
 男の生涯は、その通りになった。

 迎えに来た蛇。
 手渡された楽園への切符。
 老いた身体で受け取った、幸福の権利。
 妻たる女神とともに見据えた"幸福な死後"を前にして、男は笑った。
 英雄は笑った。腹を抱えて笑った。

 それ見ろ、ざまを見ろ運命。
 結局おまえは、最後まで我が罪を裁けなかった。
 我が傲慢も慢心も、ただの一度として裁けはしなかったのだ。
 おまえにできたのは、気まぐれに殖やした子を孫を貶めることだけ。
 そんなもの、一体何になるという。
 子をいくら殺そうが、孫をいくら穢そうが、己の栄光は何も変わらない。
 一切不変、絶えず流れる大河の如くにこの黄金は輝き続ける!
 であれば後は楽園に渡るのみ。楽園にて、ついぞ我が身に手を触れることの叶わなかった〈悲劇〉を永久に――


『…………………………………………ふざけるな』


 願い、焦がれた楽園を前にして。
 時にはそこへ逝けないことを恐れ、情けなくも震えたこともあったというのに。
 いざ実際に蛇に導かれ、旅立つことを許された楽園の景色を見て。
 老いた英雄は、栄光の国の王は、泣き笑いのようにその言葉を絞り出していた。

『私のどこが、この身のどこが、楽園に能う命だというのだ?』

 傲慢とは、すなわち逃避で。
 無愧とは、すなわち麻痺である。

『血を分けた子も救えぬ者が。目に入れても痛くない孫も見送るしかできなかった者が。
 溢れる悲劇を止められもしなかった愚かな王が――何故に、死後の救いなど賜われるというのだ』

 ずっと殺してきた。
 悲鳴をあげる、この心を。
 息子たちが死ぬたびに。
 娘たちが嘆くたびに。
 孫たちが果てるたびに。
 栄光の影を、見るたびに。

 心が軋む。悲鳴をあげる。
 それはまるで、塞がりかけた古傷に刃を入れて穿り返すような。
 忘れかけた罪の記憶が、寝入りばなに蘇っては心を苛むような。

 だから王は、感じることを捨てた。
 過去に酔い、現在から目を背けた。
 素晴らしきかな、テーバイの繁栄。
 勇ましきかな、竜殺しの英雄たる我。
 軍神に唾を吐きながら、神罰を微塵も恐れず楽園に向けて歩む益荒男よ。

『楽園の切符など要らぬ。儂が欲しかったのは、断じてこんなものなどではない。
 儂は、儂は――』

 麻痺させてきた傷の痛みが。
 楽園の手前で、一気に開く。

『儂は、ただ……幸せな国を創れれば、それでよかったのだ』

 慟哭は願いに変わり。
 そして、時は流れた。
 英霊の座から引きずり出された玉座。
 悔恨と、嘆きを抱えて。
 まろび出た現世で王が対峙したのは、硝子のような瞳で自分へ傅く幼子だった。

 心を殺し。
 感じることをやめ。
 そうして、傷の痛みを誤魔化している。
 奇しくもそれは、かつての己のように。
 愚王たることに腐心して、恥を知らぬと他でもない己自身に言い聞かせることで心を守った弱い男のように。

 悲劇は起きる。
 必ずや。
 それはもはや、決まりごとなのだ。

 あの日、泉の竜を殺した時から。
 軍神の怒りを買った時から、ずっと。
 この身は、テーバイの国は、あまたの悲劇に囲まれている。
 であればきっと、この娘も。
 いずれは悲劇に喰われ、その命を惨たらしく散らすのだろう。

 であれば。
 であるの、ならば……



『――問おう、愚かなる娘。卑しくも見窄らしい人形よ。おまえが、儂を招いた者か』



【クラス】
 ランサー@ギリシャ神話

【真名】
 カドモス

【ステータス】
 筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:C 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
神性:D
 その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
 ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。より肉体的な忍耐力も強くなる。
 カドモスは女神ハルモニアの寵愛を受けている。

竜殺し:B+
 竜種を仕留めた者に備わる特殊スキルの一つ。竜種に対する攻撃力、防御力の大幅向上。
 これは天から授かった才能ではなく、竜を殺したという逸話そのものがスキル化したといえる。

青銅の王:A
 青銅の発見者として知られるカドモスは、魔力を用いて青銅製の武具を作成することができる。
 低ランクの宝具に相当する神秘を持ち、貸与することも可能である。

悲劇の源流:A
 軍神アレスの泉を侵し、アレスの怒りを買った時からカドモスの悲劇は始まった。
 死後、テーバイの滅亡まで続く悲劇の源流。
 カドモスは存在するだけで自身も含めた周囲に不幸を振り撒くが、しかし彼本人は強くしぶとく生き続ける。
 自己保存スキルの劣化版。ただし老いたるとはいえ英雄であるカドモスがこのスキルを持つ意味は大きい。

調和の寵愛:A
 女神ハルモニアの加護を受けている。
 このスキルにより、カドモスの行動に伴う魔力消費は驚異的なほどに小さい。
 宝具の真名解放すら容易く行うことができるが、しかしそのハルモニアでさえも彼に付き纏う凶兆をどうにかすることは――

【宝具】
『我過ちし栄光の槍(トラゴイディア・カドメイア)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
 アレスの泉にて果たした竜殺し――彼の栄光と悲劇の始まりである罪を遂げさせた一槍。竜属性の敵に対しては特攻効果を発揮する。
 一見すると単なる鉄槍だが、カドモスが握ることによって神をも貫く切れ味と竜の息吹をも凌ぐ強度を手に入れる。
 担い手へ魔力の自動供給と損傷の自己回復機能を与える効果を持ち、これにカドモス個人の武芸と生存力の高さが加算されることによって、英雄の戦陣は堅牢な城塞のように難攻不落のしぶとさを実現する。
 真名解放は先述の回復機能を攻撃に回し、魔力放出を兼ねて行う神速の一刺し。

『我が許に集え、竜牙の星よ(サーヴァント・オブ・カドモス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 女神アテナの勧めに従って退治した竜の歯を大地に蒔き、精強なる五体の従者(スパルトイ)を得た逸話が宝具化されたもの。
 現界直後にのみ使用可能で、逸話通り五体のスパルトイを生み出して使役する。
 スパルトイ達はカドモスに服従し、彼の命令に従って戦いやその他行動を行う。
 スパルトイの性能はサーヴァントにも匹敵するが、カドモスはあえて彼らに人間性を与えることなく使役するのを好む。
 ヒトに近づければ悲劇が生まれる。であれば我が従者は、もはや無我の歯車仕掛けでよい。悲劇はもうたくさんだ。

【Weapon】
『我過ちし栄光の槍』

【人物背景】
 古代ギリシャの都市、テーバイの創設者にして王。
 エウロペの兄であり、女神ハルモニアの夫でもある。

 若年の頃、ゼウスに拉致されたエウロペを連れ戻す命を受けて国を放り出される。
 しかし結局命令は果たせないまま、カドモスはアレスの泉で竜殺しを成し遂げ、女神アテナから後のテーバイとなる土地を与えられる。
 その後前述のハルモニアを娶り、晴れてテーバイを建国する。

 その生涯は多くの勝利と栄光、そして子宝に恵まれたものだった。
 最期は妻のハルモニアと共に竜となってエリュシオンへ移住し、幸福な時を過ごした――だが。

 カドモスとその子達は、玄孫に至るまであらゆる不幸に見舞われた。
 栄光の中で築いたと思っていたテーバイの地は、悲劇と破滅を生み出し続ける呪われた土壌と化していた。
 英霊となったカドモスはエリュシオンへ旅立つ直前の、年老いた身で召喚されている。
 老王カドモスが望むのはただひとつ。すべての始まりとなった最初の過ち、泉の竜殺しの栄光を破棄すること。
 ひいては自身の築いたテーバイを否定し、自分の咎で生まれた悲劇と、嘆きの中で死に絶えるしかなかった命をすべて無に帰すこと。

 英雄になど、ならなければよかったのだ。
 己など、最初からあるべきではなかった。
 それが英雄(カドモス)が長い生涯の果てに行き着いた真理であり、願いであった。

【外見・性格】
 白の長髪に長髭の老人。シルエットこそ華奢だが、痩せているのではなく引き締まっている。その肉体は老いて尚衰えを知らない。
 威厳溢れる誇り高き老君。冷徹だが誇りの残り火は消えておらず、度の過ぎた残虐には静かに嫌悪を示す。表には出さないが。

【身長・体重】
 175cm/75kg

【聖杯への願い】
 泉の栄光を破棄し、すべての悲劇を否定する

【マスターへの態度】
 哀れな娘。常に厳しく当たるが、深い憐憫を抱いている。
 何故この期に及んで、己のような不良物件を引き当ててしまうのか。
 悲願がある故に聖杯戦争を放棄するのはあり得ないが、その幼身が悲劇に喰われる光景を想像するだけで死に果てたくなる。
 だからあえて厳しく当たり、間違っても敬愛など寄せられないように努めている。
 自分はあまりに老いてしまった。人は歳を取ると、小鳥の骸にさえ泣き出したくなるものだ。


【名前】アルマナ・ラフィー
【性別】女性
【年齢】11
【属性】中立・中庸
【外見・性格】
 プラチナブロンドのショートカット、褐色肌の少女。白みがかったベージュのワンピースを着用している。
 穏やかというよりは無機質に近い性格。表情が変わることがほぼなく、特に笑顔を浮かべることはない。
 その根底にあるのは世界への諦観。無感であれば、悲劇に傷つくこともない。
【身長・体重】
 135cm/30kg
【魔術回路・特性】
 質:B 量:D
 特性:熱を伴う光の操作
【魔術・異能】
 光弾の射出、及び成形しての不定形武器創形。
 幼く、経験値も不足しているが実力は高い。
 治癒魔術など、様々な分野に精通している。

【備考・設定】
 とある異国の集落に生まれ、生まれながらに魔術に親しんで育ってきた少女。
 しかしながら政変による内紛と虐殺に直面し、自身より優れた魔術師であった父母と集落の仲間を失う。
 以後は浮浪児のような暮らしを送るが、その中で既に彼女の価値観は完成されていた。
 失って泣く時間に意味はなく、ただ歯車のように粛々と"やるべきことをやる"。
 そうしていればもう二度と、おもむろに響き渡った銃声や爆音に涙を流すこともないのだから。

 追ってきた虐殺者たちを殺戮した時、肉片の中で〈古びた懐中時計〉を見つける。
 何か惹きつけられるようなものを感じてそれを手に取り、仮想都市へと転移した。
 ロールは虐殺を逃れた生存者。日本の裕福で善良な金持ちの養子になり、穏やかに暮らしている。

【聖杯への願い】
 虐殺で失われた集落の復興。

【サーヴァントへの態度】
 縋るもの。敬意を以って扱い、彼の忠実な従者たれるように振る舞う。
 厳しく扱われても特に気にしてはいない。
 運命とはにわか雨のようなもの。いちいち恐れたり悲しんだりすることに、意味はない。

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最終更新:2024年06月05日 23:47