誰かが、恐ろしい、と言った。
人間は老いる。病む。誰しもいずれ、必ず朽ちて灰になる。
どんな賢人も死ねばそこで終わり。
生涯を費やして究めた秘術も、継承という朧気な慰めで手放すことを余儀なくされる。
誰かが、恐ろしい、と言った。
死ねばこの信仰も失われ、尊いと信じた"大神"のことも忘れてしまうのだろう。
あってはならぬ。生涯は死で結ばれるからこそ価値があるなどと嘯くなら脳が膿んでいる。
死は、遠ざけねばならない。人生は、続かなければならない。
誰かが、恐ろしい、と言った。
生きたい。
その日まで。
生きていきたいのだ。
その先までも。
ならば死力を尽くして修めよう。
仮に当代で叶わぬとしても、いつか子々孫々がこの恐怖から解き放たれるよう祈って積み上げよう。
異邦の魔術師から秘術を盗み出せ。文献を集めよ。吸血種を家系に招き、脳を暴いてでも賢者の石を見つけ出せ。
目指すカタチは決まっている。それは、最初から我らの暮らしの中にあった。
数多の脳を開き。
数多の毒をあえて取り入れ。
魔術回路そのものに細工を施し、血の滲むような苦しみと共に我らは永遠へ近付いていく。
大義のためなら妻子を捧げよ。尚も足りなければ町から攫って用立てろ。
犠牲なくして結実はならず。我らは無数の死を足場として、生きながら神原に辿り着くのだ。
誰かが、恐ろしい、と言った。
負け惜しみを、と嗤ってまた頭蓋を開く。
研究は着々と進み、我らを忌むべき死から遠ざけ続けている。
見よ、この瞳を。見よ、この牙を。
月に吠える神々しき我らの雄姿を、おまえたちは草葉の陰で羨んでいるがいい。
――我らは大神の仔。
――いずれ未来仏の来臨を見る、現人神の一族なり。
◇◇
千切れ飛んだガードレール。
踏み砕かれたアスファルト。
それを汚す、かつて誰かの中身だった血肉。
時刻は深夜三時。
此処が郊外で、この時間であればまず人通りのない場所であることが幸いした。
仮にもっと時間が早ければ、もっと活気ある土地だったならば、死者を出さずに鎮圧することは不可能だったろう。
「何だったんだ、コイツは……」
息を切らし、戦慄を露わにしながら男はそう呟いた。
被弾した時に肋骨が折れたのか、身じろぎするだけで胸がひどく痛む。
対魔術犯罪者用の特殊防護服。
物理、魔術双方に対して強力な耐久性を発揮し、スラッグ弾の直撃を受けても凌げる代物を着用しておきながらこの有様になっている。
その事実を噛み締めつつ、公安特務隊の『隊長』は顔を顰める。
視界の先には頭部が潰れたトマトのように弾け、倒れ伏して動かない"容疑者"の姿。
日本の警察にとって被疑者の殺害は敗北と同義だが、それでも此処までの過程を見てきた人間なら誰も異を唱えはすまい。
それほどまでの怪物だった。特務隊の存在に未だ難色を示し続ける上層部が、一も二もなく話を出動を命令してくるほどには。
「……魔術師、だったんですかね?
どう見ても正気じゃなかったし、何か超常的な薬物を服用してた可能性もありそうですが」
「鑑識に任せるしかねえな。ただ、こんな奴がもし他にもいるなら脅威だ。それだけは間違いねえよ」
死傷者ゼロで済んだことは奇跡。
そもそも特務隊は、このレベルの脅威と相対することをまだ想定していなかった。
隊長である彼も含め、作戦に参加した少なくない人員が当面入院生活を余儀なくされるだろう。
悪の絶滅を大義としているわけでもないのだ。
後味悪い結末にはなったが、重ね重ねこうするしかなかったと強くそう思う。
もはや物言わぬ骸となった"それ"は、人間の形を保ったままでその範疇を逸脱していた。
鋭く尖った乱杭歯。爛々と輝いたまま虚空を見つめる眼球。辺りに撒き散らされた、明らかに一人の人間の限界量を数倍上回る量の鮮血。
隊長はよろめきながらも細心の注意を払って近付き、完全に絶命していることを確認の上で、"それ"の懐をまさぐった。
すると、血でべっとりと濡れた革財布が出てくる。
中には数枚の小銭と、復元不能なほど滲んだ紙幣が一枚。
そして。
「先輩。それは」
「ああ。免許証だ」
身分証明書。
やはりひどく汚れていたが、辛うじて名前の部分は読み取れた。
「華村、尚文――」
あるいはこの時から、いつかこうなることは決まっていたのかもしれない。
時計じかけの陰謀ではなくとも、運命の支流は未来の本流との合流に向け流れ出していたのか。
だとすればそれはきっと、ある愚かな男が子を成してしまった時から始まっていたのだろう。
――いつか夜月に吠える、野良犬の物語は。
◇◇
月夜の下で見るその女は、初対面なのに他人の気がしなかった。
中性的な顔は男女のどちらを名乗っても通じ、かつ眉目秀麗の評価を恣にできるだろうそれで。
よく言えば浮世離れしていて、悪く言えばどこか気障ったらしい。
不良少女である悠灯は後者の印象が強かった。
つまるところ、やけに現実感のない女であった。
壁などない筈なのに、自分と彼女の間にスクリーンに似た断絶を感じる。
華村悠灯の人生には、今まで一度だって現れたことのないたぐいの人間。
だが、知っている。アタシは、この女のことを知っている。
自分が此処でコイツと出会うことはきっと最初から決まっていたのだと、根拠もないのにそんな直感があるのだ。
「名前を、聞いてもいいかな」
「……悠灯。華村、悠灯」
「いい名前だね。洒落ている」
「テメェも名乗れよ」
「薊美。伊原薊美」
その上で、彼女に対して抱く感情はひとつだった。
「そんな可愛い名前が似合うツラかよ」
「非道いな。漢字で書くとなかなか様になるんだけど」
「聞いてねえ。そんで興味もねえ」
アタシは――この女が嫌いだ。
対面しているだけで心が不快感に包まれて、手は自然と拳を形作る。
コイツが目の前にいるだけで腸が煮えくり返って仕方ない。
融和も取引もあり得ないと確信しているから、敵意を剥き出しにすることに躊躇は要らなかった。
「やれやれ……初対面でこんなに嫌われたのは初めてだな。でも仕方ないか。君も、"理解ってる"ようだしね」
そしてそれが如何なる理由に裏打ちされた現象かを、悠灯はもう理解していた。
無言を保つシッティング・ブル。深い哀しみを胸に抱く、孤独な自分にとっての片翼のような存在。
彼の沈黙と、その静寂のままに醸し出す張り詰めた気配が、悠灯に嫌悪の訳を察させる。
「うん、じゃあ芝居は此処まで。出てきていいよ、ライダー」
ああ、思えば実に"らしい"相方ではないか。
お高く止まり、気障ったらしく芝居めかして不遜に振る舞う茨の貴公子。
やはり、こいつは――こいつが。
改めて確信するのと、薊美の傍らに異装の軍人が顕現するのはほぼ同時のことだった。
「"Oh, say can you see,by the dawn's early light(おお、見えるだろうか、夜明けの薄明かりの中で)"
"What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming?(我々は誇り高く声高に叫ぶ)"」
早朝、日も昇らない交差点に響き渡る勇壮のメロディ。
我らこそは偉大な大国なりと高らかに謳うナショナルアンセム。
これ以上この男に相応しい音楽はこの世になく。
これを以って、彼は悠灯とその英霊に示すべき態度を暗に語っていた。
「"Whose broad stripes and bright stars,through the perilous fight.(危難の中、城壁の上に雄々しく翻る)"
"O'er the ramparts we watched were so gallantly streaming?(太き縞に輝く星々を我らは目にした)"」
小気味よく曲がった鬣に、丁寧に整えられた顎髭。
精悍に鍛え抜かれた体格は、彼が"兵士"であることを一目で表す。
青い騎兵服に身を包み、トレードマークのように鍔広のハットを纏った偉丈夫だった。
その威風堂々とした佇まいが示すものは、希望、勇気、誇りと強さ。
かの国が尊ぶ概念をヒトの形に纏めたかの如く、男は実にそれらしい。
されども彼の背後に敷き詰められたのは無数の屍と嘆き、罪と業。
人間は"理解できないもの"に対してどれほど残酷になれるのか。
そんな素朴な問いへの模範解答こそこの男。
「And the rockets' red glare,the bombs bursting in air,(砲弾が赤く光を放ち炸裂する中で)
Gave proof through the night that our flag was still there,(我らの旗は夜通し翻っていた)」
将の出陣に付き従うように、軍馬の蹄音が無数に響く。
朝靄の向こうから現れるのは、彼と同じく青い騎兵服を纏った戦士達だ。
勇ましく、残酷に。きらびやかに、惨たらしく。
「"O'er the land of the free and the home of the brave(ああ、星条旗はまだたなびいているか? 自由の地、勇者の故郷の上に)――!"」
祖霊の大地を死への行進(ゴースト・ダンス)で踏み荒らす、ソルジャー・ブルーがやってくる。
「はァーッはッはッはッはッ! 久しいな、シッティング・ブル!! 我が宿敵、忌まわしき"大戦士"よ!!!」
「そういう君は変わらないな、ジョージ・アームストロング・カスター。我が宿敵、忌まわしき"将軍"よ」
サーヴァント、ライダー。
真名、ジョージ・アームストロング・カスター――堂々の降臨である。
いいや、再来と言うべきか。少なくとも、シッティング・ブルにとってはそうだった。
カスターズ・リベンジ。百年余りの時を超え、合衆国の英雄と先住民の大戦士は再び邂逅する。
「会いたかったかどうかで言うと半々だがね。それでもこうして巡り合ったということは、やはり宿縁というやつなのだろう」
彼らは宿敵であって、決して好敵手(ライバル)などではない。
言うなれば永遠の不倶戴天。シッティング・ブルも、そしてカスターも、互いに再会など望んではいなかった。
前者については言わずもがな。後者も、出来るなら見えたくはないと考えていた。
それでもこうして、引かれ合う。
ある蛇は、都市における因縁/運命を引力と評したが。
ならばやはり、カスターとシッティング・ブルの間には赤い糸が引かれていたのだろう。
誰にも望まれない、血と宿縁の赤い糸が。
「とはいえ、すぐ殺し合うのも些か芸がない。
お互いのマスターの目もあるのだから尚更だ。
そういうわけで、どうだね大戦士。此処はひとつ積もる話というやつをしてみないか?」
「君と私が何を話すというのだ。まず、君は人の話など聞かないだろう」
「よし、ではまず私から話そう!」
「……、……」
そら見ろ、と、僅かに動いた眦が大戦士の心中を代弁していた。
「正直同胞以外に使役されるなど虫酸が走ると思っていたのだが、いざ出会ってみるとなかなか捨てたものじゃなくてな。
いやはや、得難い体験をしたよ。虫は嫌いでも甲虫(Beetle)にはなんとなく唆られる、あの感覚だ」
悠灯は、言葉を交わす二人を信じられないという顔で見つめる。
奪った側と奪われた側。殺された側と殺した側。
どれほどの歳月を経たとて氷解する因縁ではないだろうに、共に相手へ恨み辛みをぶつける気配がまったくないのだ。
それどころか、ソリの合わない知人同士のような奇妙な気安ささえある。
カスターはともかくシッティング・ブルの方も、辛辣だが軽口のようなものを滲ませて。
宿業の元に邂逅した男達は、殺意なく久闊を叙していた。
「大っぴらに言うのは恥ずかしいが、私は彼女に魅入られてしまった」
「……君が? 己の栄光の為なら赤子でも踏み潰す男が、か?」
「然り。おっと少女趣味に目覚めた訳ではないぞ、勘違いしてくれるなよ!!
輝ける勝利を我が手に。微笑みながらそう謳う彼女の覇道にこそ惚れ込んだのだ!!」
カスターの告白に、シッティング・ブルは少なからず驚かされた。
彼の知るカスターという男は、一言で言うならば自己顕示欲の怪物。
星の御旗と神への信仰、それらを免罪符に己が野心を正当化する極限の利己主義者(エゴイスト)。
人としての裏表を恥じることなく一緒くたにしているから、彼個人は非道であっても下劣ではない。
嘘がないのだ。父の顔で人を慈しみ、同じ顔で敵を鏖殺する。
そんな男が、白人でもない異邦の少女への傾倒を口にしている。
「何だ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。そんなに意外な発言だったか?」
「君にそこまで言わしめる人間が現代にいるとは思わなかった」
シッティング・ブルは、周鳳狩魔という男を思い出した。
十字軍の聖騎士と対等な関係を築き、最後まで刀凶聯合の怒りを前に一歩も退かなかった凶漢だ。
彼もまた冷酷非道。カスターとはベクトルが違うが、敵への非道を躊躇しない点では同類だろう。
彼の周りにも、常に大勢の人間がいた。
命を懸けた抗争にさえ付き従い、手を血に染める手駒に囲まれていた。
カリスマ。将として他者の心を惹きつけ、導く天賦の才能。
カスターが侍る令嬢(マスター)の彼女もまた、周鳳狩魔と同種の素質を持っているのか。
「流石にそうまで驚かれるのは心外だな。
私個人としては、それほど不思議なことでもないと思っているのだが」
「……と、言うと?」
「恍けるなよ大戦士。この私が気付くことを、聡明な君が見落としているとは考えられん」
くつくつと笑って、上機嫌にカスターは言う。
かつてソルジャー・ブルーを終わらせた男に対し、彼が向ける表情は鷹揚だった。
理由は無論、語るに及ばない。
「この世界は神の子宮だ。闘争を羊水に育った新造の神を、産声と共に外へ送り出すのが目的なのだ」
「……、……」
「今もあちこちで神の受精卵が揺蕩っている。
私も幾つか実例を見たがね、いやはやアレらは凄まじい。
信仰を抱く者として慎むべき発言だが、まさしく神の如き少女達だ」
カスターの指摘通り、シッティング・ブルは既にそれを知っていた。
人の形をした、限りなく神の座に近い少女を観測している。
"神を産む箱庭"。よって、神の子宮。
言い得て妙だと思うし、実際自分も形容しろと言われたら同じニュアンスに辿り着いただろう。
では、ふたりの間で決定的に異なる点があるとすれば。
「君の契約者も、星(そう)だと言うのか」
「残念ながら違う。"まだ"、ね」
「――そうか。派手好きも相変わらずらしい」
「そういう君は恵まれなかったようだな、シッティング・ブル」
互いが出会った運命の、その形。
彼らがそうであるように、彼女達もすべてにおいて正反対だった。
恵まれた家庭で育った、薔薇色の将来が約束された王子と。
掃き溜めで育った、明日も知れない都会の野良犬。
いつか星を超えると豪語する神殺しの勇者。
星に阿り、同類になるだけで甘んじようとする生ける屍。
気が合わないのも当然だ。彼女達は、あまりにも違いすぎる。
生まれも、環境も、辿る未来も。
「老婆心ながら忠告するが、その子は星になれないよ」
カスターの形容には、あからさまな嘲りが滲んでいた。
人種的なものだけでなく、悠灯という個人が持つ値打ちを揶揄する爽やかな嘲笑だ。
華村悠灯は星になれない。どうあがいたって、痩せた餓狼は夜空に昇れない。
「この聖杯戦争は異質すぎる。そも、聖杯戦争と呼ぶこと自体が適当ではないと思うんだ」
「……聞こうか」
「遥か英霊の座から我々を呼びつけておいて、此処での主役は圧倒的に我らより今を生きる女達だ。
だがその腹立たしい矛盾も、星神を産み落とすことが目的だとすれば頷ける。
分かるかな、賢者よ。この戦争に勝とうと思うなら、将に据えるのは星の娘でなければならない。
"在る"だけで他人を圧倒し、微笑むだけで英雄をねじ伏せる。そんな神の受精卵でなければ論外なのだ」
つまり、資格も持たない人間を大事がっている時点で勝者の資格はないと。
かつての敗者は、勝者を諭していた。
「弱く、見窄らしく。鬱蒼に紛れなければ首ひとつ取れない……おお困ったな。あの時の君と同じじゃないか」
「その卑劣な民族に敗れた男が、ずいぶん饒舌に話すものだ」
「過去を偽る気はないとも。それは弱者の行いだからね。
が、私は既に思考を変えている。そして君は、あの日見た残骸のままだ」
どこまで行っても過去は過去。消えるものではないが、未来を決定づけるものでもない。
シッティング・ブルは過去の勝者で。ジョージ・アームストロング・カスターは過去の敗者だ。
が、二人は今を戦っているのは今現在。時代も違えば持てる力も違う、何より共に戦う味方が違う。
「――もはや君は、私に勝てんぞ」
サーベルの切っ先を突きつけて、芝居がかった調子でカスターは宣言する。
勝利宣言。この後始まるだろう宿縁の清算、その結末を自信のままに断じた。
ラッキーパンチは二度とない。
リトルビッグホーンの奇跡は二度と起こらない。
不吉な予言は、成就しない。
嘯く宿敵に、シッティング・ブルは動じず。
「君と私は、根本的に価値観が違いすぎている。
だからいくら対話しても分かり合えることも、歩み寄れることもない。
確かに君は変わったようだが、過去に学ぶことはできなかったようだな」
意趣返し、あるいは礼儀のように、突きつけられた切っ先に向けトマホークを翳した。
そう、彼らの対話など茶番に過ぎない。
合衆国の英雄と先住民の大戦士が分かり合えないことは歴史が証明している。
これはただのオープニング。
時を超え再び同じ舞台に上がった二人の、せめてもの互いに対する敬意の時間だ。
「私は、産み落とされる神などに興味はない。悠灯にそうなってほしいとも思っていない」
「ほう。では、勝利を放棄すると?」
「そこがまさしく君の悪癖だと言っているのだ、カスター。
君は勇猛な男だが、故に早合点し過ぎる。
聖杯戦争への見解については私も概ね同意だよ。しかし……その結論は論外だ」
英霊を主役とせぬ聖杯戦争。
本来あるべき主役の座は、星を胸に抱く少女達に委ねられた。
ならば、誰も彼もが星々の周りを回遊して燃え尽きるデブリになるしかないのか。
輝きを持たない者たちには、舞台に上がる資格もないのか?
――断じて違う、とシッティング・ブルは静かに首を振る。
「此処が神の子宮であるならば、尚のこと未来は平等だ。私はそう確信している。発想からしてズレているのだ、君は」
「今度は私が聞こうか。その根拠は?」
「神寂祓葉は、結果の見えた勝負など愛さない」
「――――」
対極な彼らの共通点、そのひとつ。
彼らは神寂祓葉を、〈この世界の神〉を知っている。
カスターは祓葉の強さを。そしてシッティング・ブルは、彼女の人格を垣間見た。
誰が見ても大仰な可能性など持っていない、襤褸切れのような少女にさえ真剣な顔で寄り添って。
話を聞き、道を示し、神託を授ける。
そこにあったのは万人への博愛。
その上で最悪の道しか選べないからあの神性は恐ろしく、哀れなのだ。
「たとえ己が舞台を端役に破壊されても、あの娘は笑って受け入れるだろう。
造物主たる彼女が赦すなら、未来への可能性はやはり平等にあるのだと私は考える。
よって君の発言は否定させて貰おう。得意げになるのは勝手だが、私の友人(マスター)を甘く見るな」
「く――」
カスターは悔しがるでも憤るでもなく、大理石のように白い歯牙の隙間から笑いを漏らした。
堪えきれなくなったのだろう。もしくは、改めて実感でもしたのか。
相容れない自分達が、勝者と敗者が、先住民(インディアン)と合衆国(アメリカ)が――対話などしてることの可笑しさに。
「そうか。君にとっては"友"なのか」
「そういう君は、"令嬢"なのだな」
「然り。悔しいが私は、彼女の花道をもっと見たいと感じている」
「つくづく、らしくないことだ」
「おや、怯えているのかな? 此処にいる私が、もはや君の知るカスターではないと知って」
それを見、聞く悠灯は、息を詰まらせていた。
自分を味噌っかす扱いするカスターに言いたいことはあるが、口にする気も起きないほど本能がけたたましく警鐘している。
爆発寸前のダイナマイトを前にしているような緊張感。
なのに薊美の方は動じた様子もなく、相変わらず薄笑みを浮かべて飄々としている。カスターが言う役者の差なのか。
「では、そろそろ」
「……ああ。始めよう」
敬意の時間は終わり。
久闊を叙すなんて背中が痒くなるほど似合わない。
彼ら自身が、誰よりそう自覚している。
「"再演"とは行かんぞ、座せる雄牛」
「それは君次第だ。明けの明星の息子」
肩を揺らすカスター。寡黙を保ちつつも、瞳に悠灯の知らない色を滲ませたシッティング・ブル。
長い問答と語らいの末に、嘘みたいな沈黙が一陣の風となって吹き抜けた。
もうじきに朝が来る。もうじきに夜が終わる。
これはそんな狭間の時間。黄昏ならぬ彼は誰時。
されど、次の日の出を見るのはどちらかひとり。
今宵この合戦を以って、彼らのいずれかが都市を去るだろう。
「いざ――」
「いざ――」
吹いた風が何処かへと去り。
もう一度静寂が戻ってきた瞬間、男達は爆ぜるように吠え上げた。
「『駆けよ、壮烈なる騎兵隊(グロリアス・ギャリーオーウェン)』ッ!!!」
「『謳え、猛き紅馬(グリージー・グラス)』ッ!!!」
謳うは勇猛。共にするのは、茨の王子。
秘めるは嘆き。共にするのは、都市の餓狼。
百年の時を経て、合衆国の復讐(リベンジ)が開幕した。
◇◇
壮大な軍楽の音色が、朝焼けの渋谷に響いている。
軍楽隊の演奏だ。戦意と愛国心を鼓舞する旋律は、無論星条旗を背負う英雄達をのみ助ける歌。
大義は第七騎兵隊にこそあり。インディアンは繁栄を妨げる害悪であると恥も外聞もなく奏で奉る。
構図はあの時と完全に同じ。今も昔も、彼らの立つ階層(ステージ)は何ら変わらない。
「さあ、行くぞお前達!! 物言わぬ身でも覚えているだろう、あの日の屈辱を!!
合衆国の英雄達が、卑劣な先住民の魔の手に敗れた無念を!!
しかし我々は幸運である!! 悠久の時を超え、その雪辱を果たす好機に恵まれたのだからッ!!」
騎兵隊の先頭に立ち、高らかに叫ぶはカスター将軍。
彼は恥じない。悔いない。後世が自分をどう謗ろうが知ったことか。
私が信じた道こそ正道であり、批判など賢しらな戯言でしかない。
そう疑わないから、彼はぶれないのだ。
「Oh we can dare and we can do(我々は挑み、戦うことが出来る)!!
――いざ行かん、狩りの始まりだ!!!」
《Garry Owen, Garry Owen, Garry Owen――!!!》
突き進むギャリーオーウェン。
踏み潰すクォーターホース。
これぞ大義と信じ疑わない、大将譲りの勇猛果敢。
第七騎兵隊再び進撃す。壮烈な行軍が、いつか屈した死を超えるべくひた駆ける。
対し、無機質な都市の風景の彼方で待ち受けるのは、変わり果てた戦士達の残骸だった。
立ち上がる腐敗の色彩。
命を失くして尚戦い続ける首のない騎士(デュラハン)。
救われぬ者達が、それでもと大戦士の元に結集し、迫る騎兵隊を迎え撃つ。
カスターの軍勢は魔力尽きぬ限り無尽蔵だが、シッティング・ブルのもまるで負けていない。
リトルビッグホーンで第七騎兵隊が見た絶望をなぞるように、幽々と揺れる亡霊の戦線を具現させていく。
「亡霊どもめ――良かろう、死に切れぬなら再殺してくれる!!」
響き渡る銃声は双方の陣営によるものだった。
火を噴くライフル、南北戦争の主役達。
騎兵隊もインディアンも一秒ごとに風穴を穿たれていくが、将たる二人だけがその例外。
一つたりとも傷を負うことなく、血を流すことなく、ただ宿敵との距離を詰める。
「Garry Owen, Garry Owen, Garry Owen――!!!」
「……つくづく、変わらん男だ。その声も歌も聞き飽きた」
サーベルとトマホークが激突し、劈くような高音を奏でた。
すぐに二合、三合と応酬し、織りなした剣戟の数だけ火花を散らす。
実力は拮抗している。片や力、片や技。足りない分をもう片方と気力で補うから容易には攻め落とせない。
「再殺すると言ったな。こちらの科白だ」
「……! ほう……!」
均衡を崩すのは、地から這い上がった一匹の大蛇。
軍馬を頭から呑み込めるほど大きく口を開け、毒液滴る牙を剥き出して襲いかかる。
が、カスターもさる者だ。感嘆は一瞬、しかし刹那にして首を刎ね蛇を殺してのける。
「"あの時"は見なかった芸当だな。いや、むしろそっちが君の本分なのか?」
「これが我らの信じる神秘(カミ)だ。ワカン・タンカ。君には理解できぬ概念だろうが」
「ははははは――当然だろう!! 蛮人共の語る神秘論なぞ与太話にもならん!!」
霊獣を一撃で斬殺し、馬の突撃でシッティング・ブルを跳ね飛ばす。
が、これは彼にとって僥倖だった。衝撃を殺しながらあえて吹き飛び、指笛で鷲を呼ぶ。
その背に跨り飛行して、戦場で取り残されていた悠灯を掠め取る。
カスターは非戦闘員は見逃すなどという高潔な精神性を持っていない。
戦争のルールが厳に定められる前の時代でさえ嫌悪されるほどの非道をやってのけた怪物将校。
シッティング・ブルは彼も、彼に連なる騎兵達も、何ひとつとして侮らない。
「すまない、悠灯。私の宿縁に付き合わせることになる」
「謝んなよ。そりゃあのいけ好かないキザ女に比べりゃ、アタシなんかできの悪い雑魚かもしれないけどさ」
銃火の音を聞きながら語らう主従。
伊原薊美と対峙して、悠灯は改めて自分の凡庸を思い知った。
死ぬほどいけ好かない女だ。
たとえ百時間話し合っても、自分がアレを好きになることはないだろう。
けれど、だからこそその才覚については嫌というほど理解させられた。
優れている。抜きん出ている。一目見ただけで、自分とは違うと問答無用に分からされた。
華村悠灯(アタシ)は、たとえ逆立ちしたって伊原薊美に敵わない。
器としての貧富の差を、あのわずかな時間だけで悠灯は心底噛み締めたのだ。
「ムカついてんのはアタシも同じだよ。お高く止まりやがって、何様だこいつらって思ってる」
「……悠灯」
「だからさ、ぶっ倒しちまおうぜ。手始めにあの偉そうな髭面を泣かせりゃ、勘違い女もちょっとは胸のすく顔してくれんだろ」
星だ神だと、何を酔っ払ったような話をしているのか。
悠灯もまた、祓葉を知っている。その点ではカスターにも悠灯にも遅れを取ってはいない。
そして、知った上で思うことがひとつ。
「髭野郎にしこたま煽られたからな。アタシも、煽り返さないと気が済まねえよ」
――あんな傍迷惑(キレイ)な女が、そうそう居て堪るか。
悠灯は祓葉に魅入られている。彼女という希望に、既に憑かれている。
狂気にはまだ至らねど。六つの衛星に肩を並べる未来は遥かに遠くとも。
ヒカリに灼かれた網膜は、星を目指す茨の王子に対して嘲りにも似た感情を抱かせた。
「"寝言は寝て言え。テメェのどこが星なんだよ"……ってさ」
テメェは祓葉に届かない。
アタシはテメェを認めないし、鼻っ柱をへし折りたくて堪らない。
彼女に救いを示された者として。華村悠灯という、ひとりの人間として。
伊原薊美に勝ちたい。シッティング・ブルを勝たせたい。
それらの動機が、つい先刻までしみったれていた悠灯の魂に火を点ける。
「だからアタシのことは気にすんな。好きなように戦って、そんで勝てよ。キャスター」
故にこうして、戦端は深化を確約されたのだ。
空のシッティング・ブルへ放たれる鉄風雷火(ギャリーオーウェン)の一斉掃射。
逃げる獣を追うような銃撃だったが、端から逃げるつもりなどない。
「……恩に着る」
転回/旋回(ターン)。
鷲の翼で弾雨を斬り、風圧さえ斬撃化させて弾幕を抉じ開ける。
「多芸だな!」
「もう、憚る必要もないのでな」
カスターに口を返しながら、彼が選んだのは突撃だった。
穏やかな賢者めいた男が取る、敵を撃滅するための吶喊。
「堕ちろ明星。私はもう、おまえに何も奪わせない」
同時に、地を踏み締めて立つ先住民の残骸達が雪崩と化した。
死の河だ。第七騎兵隊の罪業を突き付けるように、百や二百では利かない死の軍勢が溢れ出す。
時に武器で、時にその骸で、触れた青服の騎兵はことごとく押し潰されていく。
正気を失うようなおぞましい光景だったが、カスターは臆するどころか、より高揚した様子で笑う。
「いいや、残念ながらすべて奪う!! 我々が前に進むために、今度こそ礎となれ先住民(インディアン)!!!」
次の瞬間、失った分を補充するかのようにカスターの後方から騎兵隊の進軍が始まった。
Garry Owen, Garry Owen――恐れることはない、たかが死人。
我らは大勢であるが故に、神の愛はいかなる艱難の山岳も踏破する。
そう信じるカスターの精神性に依って成る第七騎兵隊は、シッティング・ブルがかつて相手取ったのより余程凶悪な暴力装置だった。
背中から見れば誉れ高き勇士。だが正面から見れば、悪逆非道の虐殺者。
死の河に挑む人の業、青い疾風。鼓膜を引き裂くような銃声の狂喜乱舞は、もうどちらの軍勢が放ったものか区別がつかない。
そして、そんな合戦の最前線(フロントライン)で。
「《星条旗よ、長きに渡り翻らん――自由の地、勇者の故郷の上に!》」
「……!」
両雄激突――サーベルとトマホークが、侵略者と先住民が火花を散らす。
華々しく舞うカスターと、長年の研鑽に裏打ちされた正確無比な体捌きで応戦するシッティング・ブル。
「不謹慎だが嬉しいぞ! 前回はこうして、正々堂々とはいかなかったからなァ!!」
「……自覚はないのか。君に一番似合わん言葉だぞ、それはッ!」
両者の実力は、傍から見る分にはほぼ互角と言ってよかった。
感情任せに思いのまま攻め立てる将軍の剣を、キャスタークラス特有の脆さを感じさせない技量でいなす大戦士。
攻と防。矛と盾。互いの性格をこれ以上ないほど明確に表した対照的な殺陣は、周りの友軍(ギャラリー)を忘れそうになるほど燦然だ。
「スー族の文化に歌はないのか? 折角の晴れ舞台だ、君も陽気に歌えばよかろうに!!」
「殺戮に誉れを見出す趣味はない。何度も言わせるな、君と私では価値観が違うのだ」
「陰気な男め。ならば独りで歌うとしよう!! 私は敵を追い詰める時、踊り出したいほど昂ぶるのだよ!!」
カスターの軍馬が前身を跳ね上げ、前脚の蹄でシッティング・ブルを打ち据えた。
途端に崩れる均衡。攻撃のためのクールベットでカスターの重心も大きく揺らぐが、これに動じる騎兵はいない。
右手にサーベルを握ったまま、余った左手でライフルを片手持ちして。
引き金に指を載せ、少年将校は激しく破顔した。
「《Through the street like sportsters fight,Tearing all before us(まるで極星の瞬きのように、すべてを引き裂く)!!!》
至近距離での銃撃。反動など物ともせず、それどころか二発、三発と重ねて片手撃ちで連打する。
そうしながら馬を手繰り、銃を投げ上げながら剣舞に移った。
シッティング・ブルは迫る銃弾を、呪術により風の膜を生成することで素早く防御。
反動までは殺し切れなかったのか小さく喀血するが、弱さは見せても隙は見せない。
「Garrrrrrrrrrrry、Oweeeeeeeeeeeen――――!!!」
いやそれどころか、役目を終えて霧散した風の膜を自らの両腕に纏わせ、即席の強化呪術を施した。
これによりステータスを1ランクほどアップさせ、技だけでなく力でもカスターの上を行けるよう工作する。
嵐の如き剣戟を、彼が用立ててくるより圧倒的に少ない手数で防ぐ様は歴戦の英傑に何ら劣らない。
将軍のサーベルは肌一枚裂くことなくすべて阻まれ、次は大戦士が攻勢に移る。
「ぬッ――」
カスターはその時、信じられない光景を見た。
シッティング・ブルの腕が、ゴムのようにぬらりと伸びたのだ。
咄嗟に切り落とそうとするが一手遅れた。宿敵の指先が彼の胸に触れ、口が小さく数節の呪言を吟ずる。
「ぐ、が……ッ!? ぉ、ぐ……ァ――!?」
英雄の胸元に、血のように赤い民族的な図形が浮かび上がり。
今まで勇猛果敢に戦っていたカスターが、突如身を傾がせて苦しみ出す。
軍馬がたたらを踏み、嵐を思わす攻め手が呆気なく途切れた。
「これ、は……! そうか、"まじない"……!」
敢えて答えはしなかったが、正解だった。
シッティング・ブルの本領とは武術でなく呪術。
Aランクの神秘接続スキルを持つ彼が駆使するそれは非常に高等な御業だ。
今仕掛けたのは心臓に作用し、毒で蝕む暗殺用の呪いである。
英霊相手には心許ないが、近代の英霊であるカスターの対魔力はランクが低い。
即死はせずとも効果自体は殺せず、結果としてダメージを被ることになった。
「小癪な真似をッ!!」
「言った筈だぞ。もう奪わせないと」
トマホークが軍馬の首を一息に斬首して、カスターは好機に続き乗騎までも失う。
崩れ落ちる馬の背から離脱しなければならない彼を、無論シッティング・ブルは待ちなどしない。
ぴゅう、と指笛が鳴った。第七騎兵隊を死へ行進する蟻の群れに変え、英雄の名声を終わらせた不吉な音色。
リトルビッグホーンから百年の時が過ぎた今でも、その旋律は彼らにとって純然たる凶兆だった。
「私は……再び君から"奪う"がな」
大戦士の呼び声に呼応して、自然の精霊が像を成す。
彼らにとっても、カスター率いる第七騎兵隊は怨敵だった。
祖なる大地を踏み荒らし、友として触れ合った民を殺し、侮辱した"侵略者"。
三メートルを超える巨大なグリズリーが激しく咆哮する。
同時に振るわれた憤怒の拳が、無防備なカスターを塵屑のように吹き飛ばした。
「ごッ、がァ――!」
血反吐を吐きながら、無様に地面を転がる"将軍"。
這い蹲って口元を拭う姿は、あの日のように誉れとは無縁。
死して学ばぬ仇敵を、シッティング・ブルはただ冷ややかに見下ろしていて。
「はぁ、はぁ……ッ。やはり、やるな……。
怪物なら色々見てきたが、今が一番焦っているよ……」
対するカスターは、劣勢だというのに笑みを絶やさない。
勝者が沈み。敗者が嗤う。これも含めて、この光景は過日の再現めいていた。
「だが……今、その顔を見て確信した。
やはり君は、喪われゆく物のためにしか戦えないのだな。
君の言を借りて言うなら、悪癖というやつか」
虚無と諦念に満ちた、誉れとは無縁の寂しい眼差しを覚えている。
「人がわざわざ忠告してやったというのに……過去に学ばぬのは、果たしてどちらなのかな」
虐げられ、歴史の波に呑まれ消えるしかなかった同胞達のために。
今は、枯れ果てる時を待つのみの少女のためにも。
戦い続ける彼の根底は何も変わらないと、カスターは這う格好のままで揶揄していた。
「知っているか。この時代では、君は"リトルビッグホーン"にいなかったというのが定説らしい」
「……、……」
「しかし我々が敗れたのは君だ。
クレイジー・ホースといったかな、あの戦士もなかなか見事な奮戦だったが……それでも大戦士シッティング・ブルの活躍に比べれば幾分霞む。
せっかくの再会なのだ、問わせてくれよ戦友。
君は何故、インディアンの宿敵を打破した名誉を固辞したのか。君の同胞達は何故、その勇姿を後世に伝えないことを選択したのか」
シッティング・ブルは、儀式によって第七騎兵隊の落日を預言した。
されど彼は戦い自体には参加せず、蚊帳の外でカスターの戦死を知った――と、歴史はそう語っている。
"リトルビッグホーンにシッティング・ブルは参加しなかった"。
それは米国へ投降したインディアン達が、ひとりの例外もなく語った言葉。
が、この通りカスターと彼の間には因縁と呼ぶのも生易しい宿縁が存在していて。
それが奇妙な、なんとも据わりの悪い矛盾を生み出していた。
宿敵の問いに、座せる雄牛は応えない。
だがカスターは、彼の沈黙から答えを読み取ったらしい。
思い描いた通りの回答だったのか、精悍な髭面に改めて嘲笑を浮かべる。
「答えないなら暴いてやろう。
君はあまりに聡明だ。降伏か死か(Dead or Alive)、どちらが自分達に有益かも分からない先住民の中では抜きん出て賢者だった。
端から分かっていたんだよな。この抵抗に意味などないと。逃れられない結末を、わずかばかり先延ばしにするだけの駄々でしかないと」
「――――」
「たかだか数年……長くても数十年。それだけの延命のために、今此処にある命を山のように擲って戦う。
その欺瞞に君は耐えられなかった。より正しくは、同胞を律せなかった自分の力不足に。
おおそうだ、あの日の"呪い"をかけ直そうか」
人間の欲望と、それを叶えるための悪意に底はない。
誇りを傷付けられ、同胞達が命をかけて守った土地を奪われ。
慰めのような新興宗教の隆盛を、ただ眺めるしかなく。
最後の最後まで、奪われて、奪われて、奪われて――手のひらに残った"守りたかったもの"はことごとく零れ落ちた。
「君は英雄になれない。誉れを抱かないのではなく、抱けないのだ。その重さに耐えられるほど、君という人間は強くないから」
シッティング・ブルという英雄を生まない。
伝えず、語らず、決して後世に残さない。
未来に継がれる"呪い"を生まないために。
そしてこれ以上、彼を傷つけないために。
そんな慈悲こそ、歴史の空白と矛盾の真実。
そこに誉れはなく、目を瞠るような驚きの背景などない。
あったのは人の弱さと、優しさだけだ。
死体と共に埋められた真実を暴いて、簒奪者は満足げに嗤う。
「私は君達を尊敬するよ。残念ながら尊重されるべき命ではなかったが、実に健気でいじらしい」
ゆらり、と立ち上がるカスターにシッティング・ブルが銃を向けた。
それでも彼はやはり、そんなもの微塵も恐れてはいないのだ。
「傷を舐め合うことにかけて、君達以上優れた民族は居るまい」
尚も畳みかける、この世のどんな悪罵にも勝る"同情"に。
大戦士と呼ばれた男はただただ無言だったが、しかし――
「……黙れよ」
彼の代わりに、耐えかねて口を開いた少女がひとり。
「黙って聞いてれば、したり顔でべらべらごちゃごちゃうるせえな。
えらい長く喋ってくれたけどよ、結局テメェ、この陰キャジジイに負けたんだろうが」
華村悠灯は、南北戦争のことなどほぼ何も知らない。
シッティング・ブルはもちろん、カスターと第七騎兵隊のことさえ調べるまでは聞いたこともなかった。
無学、浅学。そんな彼女は、どの歴史書にも載っていない"シッティング・ブル"の素顔を知っている。
放っておくと本当に何も喋らないこと。
現代の食い物を渡してやると、意外と美味そうに食べること。
自分がどれほど迷い悩んでも、ちゃんと隣にいてくれること。
「うちの国じゃそういうの負け惜しみって言うんだわ。
日本語分かる? 分かんねえか、じゃあざっくり教えてやるよ。要するに、クソダセえってこと」
口喧嘩は得意ではない。
よってこれは、ほとんど先輩の猿真似だった。
凶手に斃れ、雪の中に消えていったあの人。
シッティング・ブルほどではないが口数少なく、けれどスイッチが入ると多弁に相手を追い詰める。
そんな反社しぐさを記憶の奥から呼び起こして、月並みな恐怖を虚勢の奥に塗り込めて、平和な時代の少女が戦の時代の英雄を嗤う。
「それより命乞いしなくていいのか? 負け犬の王様。このままじゃ"また"殺されちまうぞ、えぇ?」
そうまでしてでも場に一枚噛みたかった理由は、どうしても我慢がならなかったからだ。
聖杯を獲れる見込みもなく、そのくせしっかり厄ネタを抱えてる面倒臭い小娘。
そんな自分の相棒で居続けてくれた男を、偉そうに大上段から寸評してくる賢しらさがひどく鼻についた。
できるなら顔面をぶん殴ってやりたかったが、人間の身で出来るわけもない。
なので悠灯は、言葉に逃げた。鬱陶しいほど誇示してくる彼ら騎兵隊の栄光に、幼稚だろうが泥を塗ってやりたくなったのだ。
「……私もヤキが回ったな、お猿さんに痛いところを突かれるとは。
ううん返す言葉もない。なるほどなるほど、確かに"負け惜しみ"かもな」
それを受けたカスターは、怒るでもなく目を瞑って髭先を弄くる。
馬は奪われ、数は拮抗し、何をどう見ても現状は彼の不利。
だがシッティング・ブルだけが、この先に起こるであろう展開を予想していた。
「しかし見くびらないで貰いたいものだ。私はね、負けることが嫌いなのだよ」
彼は、覚えている。
蹂躙の限りを尽くす騎兵隊を。
その先頭で高らかに吠える合衆国の英雄を。
覚えているから侮らない。屈辱を味わって再起した英雄が、単なる二の舞で終わるなんてあり得ないと確信している。
「だから――」
そして、彼の預言はやはり的中するのだ。
カスターが歯を剥き出す。
同時に、津波のような轟音が朝ぼらけの街を揺らして。
「――此処からは少々、なりふり構わず行く」
刹那、濁流と化した騎兵隊の突撃が戦場のすべてを押し流した。
「悠灯ッ!」
「う、わ……っ、何だこれ、やけっぱちにも程があんだろ……!」
カスターの策は、決して複雑なものではない。
此処まで殲滅戦のフォーマットに則っていた第七騎兵隊を、策も糞もなく突撃させただけだ。
言うなれば神風特攻。自他の損耗を一切顧みない破滅的な進軍は、悠灯の言う通り自棄に等しい。
が、それは実際に驚くべき戦果をあげていた。
首のないインディアンの軍勢が、騎兵隊の特攻に潰されていく。
防衛線が破壊され、ソルジャー・ブルーの侵略を許してしまう。
互角以上に戦えていた筈の先住民軍が、此処に来て急に旗色を悪くした。
シッティング・ブルはカスターにとどめを刺さんと発砲するが、軍馬を失った司令官は最前線に辿り着いた騎兵隊に掻っ攫われる。
やがて新たに軍馬を得たカスターも軍勢の中に加わり、わずか一瞬にして、ほぼ結末が決まっていた筈の戦況が百八十度塗り替えられた。
「君達は猿だ。哀れには思うがね、結局のところそれだけは変わらない。
狩る者と、狩られる者。その関係性は一度や二度の番狂わせでは覆らないのだよ」
悠灯にしてみれば意味がわからない。
明らかに策を捨てた様子の第七騎兵隊が、なぜか勝つ。
なぜか前線が押し上げられて、インディアンの抵抗がことごとく無為と帰す。
しかし、シッティング・ブルには理解る。理解ってしまう。
彼は騎兵隊の恐ろしさも、その過ぎ去った後に残される惨状も識っているから。
「Where’er we go they fear the name(我々が何処へ行こうと、君達はこの名を畏れる)――そうだろう、先住民」
シッティング・ブルは、リトルビッグホーンの戦いにて第七騎兵隊を下した。
が、それは最後の最後で勝ち取れた勝利。一度きりの番狂わせ。
そこに至るまでの過程であまりにも多くの先住民が殺され、犯され、あらゆる尊厳を奪われた。
確かに、シッティング・ブルはジョージ・アームストロング・カスターの天敵であるが。
同じかそれ以上に、第七騎兵隊は先住民(かれら)の天敵である。
これが戦闘であるならば、リトルビッグホーンの呪いは彼らの足を引き続けるだろう。
しかし、そうでないのなら。
「――Of Garry Owen in glory(我らこそは栄光の第七騎兵隊である)!」
――――虐殺ならば、第七騎兵隊は先住民に対し無敵である。
「さあやろうぜ皆の衆! 慣れた趣向だろう、いつものように踏み潰そうじゃないか!!」
《Garry Owen, Garry Owen, Garry Owen――!!!》
蘇る悪夢。
青い死神達が、一瞬にして先住民のトラウマに化ける。
後先考えない突撃は優位性の証明。
これぞ猛進の騎兵隊。勝利を妄信する彼らは、あらゆる障害を踏破する。
地平線の果てからやってくる虐殺者。そこにある文明を踏み潰す侵略者(コンキスタドール)。
《Garry Owen, Garry Owen, Garry Owen――!!!》
――ラッパの旋律を、響かせて。
《Garry Owen, Garry Owen, Garry Owen――!!!》
――けたたましく、合唱しながら。
《Garry Owen, Garry Owen, Garry Owen――!!!》
――青き騎兵たちが、いつものように荒れ狂う。
《Oh we can dare and we can do(我々は挑み、戦うことが出来る)!!!》
その悪夢の訪れに、シッティング・ブルが指を構えた。
霊獣を召喚し、『謳え、猛き紅馬』の軍勢を援護させるためだ。
理屈は通っているが、悪あがきは悪あがき。こんな破滅的な突撃がいつまでも続くとは思えない。
大戦士はひどく冷静だった。腕に相棒を抱きながら、静かのままに策を弄する。
しかしそんな彼さえ、勘定に含めていなかった計算外がひとつ。
あるいはそれこそ、此度の再戦における両者の最大の差。
「うん、よかった。もう一回檄を飛ばす必要はなさそうですね」
響く声はカスターのように勇ましく、シッティング・ブルのように知的であった。
「大丈夫。貴方達は勝ちます。だって私がいるんだもの」
騎兵達でも先住民でもない。戦場の外からすべてを見据え、事の行く末を見守っていた誰かの声。
響いた声音を聞いた瞬間に、先住民の大戦士は不明な悪寒に全身を震わせ。
しかして彼の続く行動を待つことなく、王子は満を持して舞台に上がる。
「――――跪け(Kneeling)」
その瞬間。
朝焼けも、騎兵隊も、先住民も。
過去も現在も未来も、誉れも嘆きもすべてすべてすべて――
薙ぎ払うような、神々しい炎が轟いて。
あまねく全部が、赤の一色に踏み潰された。
「なッ……!?」
肉の焼ける匂いが爆風に乗って戦場を席巻する。
驚愕の中、シッティング・ブルは見た。
夜明けを告げる太陽のように煌々と、しかしてそれ以上に禍々しく煌めく荘厳な"炎の剣"を見た。
薊美の炎剣が炸裂させた業火は、もはや爆風と呼んで余りある勢いだ。
屍骸の先住民を焼き、味方の騎兵隊すら焦がしているが茨の王子は一顧だにしていない。
強すぎる光はありのまま振る舞うだけで破壊を生む。
雑魚は主役たる己についてこられないのだと、陶酔するように君臨する少女の姿は傑物めいていた。
(神の卵。星座に並ぶことを目指す、人工の星――!)
戦慄したが、決して怯むことなく冷静に対処する。
耐火の呪術を発動し、かつ霊獣を防御陣形で配置。
これにより炎の被害を最小限に留めつつ活路を見出す心算だった。
「はははははは景気がよくて素晴らしい!! 良かろう令嬢(マスター)、君も林檎の絨毯で踊るがいいさ!!」
「そのつもり。私、辛気臭いのって嫌いなんです」
燃え上がりながら尚も突撃を留めない騎兵隊と、並び立つふたりの簒奪者。
彼らは共に華々しく、不遜で、だからこそ圧倒的に主役らしい。
「でも、リベンジは譲ってあげる」
「ほう! いいのかね?」
「彼の首を獲らないと、いい加減貴方も奥さんに顔が立たないでしょう」
これまで数では拮抗、質では優位に立っていた先住民。
それが薊美の出撃によって本格的に揺らぎ始めた。
魅了と蛮勇(カリスマ)の二段がけで恐れを失った騎兵隊は屍兵のお株を奪うウォーモンガーの群れ。
シッティング・ブルの頬を、一滴の冷や汗が伝い落ちる。
《Garry……Oweeeeeeeeeeen……!》
《Garry……Oweeeeeeeeeeen……!》
《Garry……Oweeeeeeeeeeen……!》
亡者の歌が響くその絵面は、さながら地獄。
殺し殺された不倶戴天同士が命なくして殺し合う、墓場の乱痴気騒ぎ。
「――――?」
だがそこで、ひとつの違和感がシッティング・ブルを凍らせた。
薊美はカスターに、リベンジを譲ると言ったのだ。
それはつまり、あくまで自分の相手は彼であるということ。
では茨の王子が相手取るモノとは、一体何なりや?
「まさか……ッ」
悪寒。
弾かれたように霊獣を呼び寄せ、腕の中の悠灯を逃がそうとする。
しかし遅い。だが、無理からぬことだった。
「再演・色間魔術(Re-Screening:Two-Tone)」
何故ならシッティング・ブルは、黒白の魔女を知らない。
途端に組み替えられる世界の色彩。
すべてが白と黒の二色に腑分けされ、膨大な情報量が薊美の脳を駆け抜ける。
ヒートショックにも似た頭痛はしかし、王子の魔手を止める理由にはならなかった。
「――――崩れ落ちろ(Blackout)」
世界が、文字通り崩れていく。
これは薊美の我流。おそらくイリスも出来るのだろうが、独力でその境地に到達した彼女の才能はやはり凄まじいといえるだろう。
凶悪な炸裂の衝撃は、それでも攻撃魔術の範疇に収まっている。
シッティング・ブルに重傷を負わせ得るものではなかったが、彼に守られる無力な少女は別だった。
「あ……っ」
「悠灯……!」
宙を浮き、守るべき者が離れていく。
「隙だらけ」
感動的でさえある離別の光景を前に、茨の王子は剣を振り上げ。
主の死を防ぐために、巨躯の霊獣が身を挺して立ち上がるが。
それさえ、愛いとばかりに主役は嗤う。
こんなもの、ものの障害にもなりはしない。
神殺しの英雄を獣畜生如きが防げる道理など、ある筈もないのだから。
「――――『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』」
真名(コマンドワード)の解放を以って、今度こそ英霊の域に届く焦熱地獄を轟かせた。
◇◇
痛い。全身、痛くない箇所がない。
うぅ、ぐぅ、と呻きながら、華村悠灯は這っていた。
窮地にあって尚、霊獣は大戦士の命を忠実にこなしたらしい。
本来なら全身を骨まで焼かれてもおかしくない火力だったことを踏まえると、彼女の負傷は軽微の域に留まる。
そう、死ぬのに比べれば。たとえ全身を血に塗れさせ、身体の一部が欠けていたとしても……十分すぎるほど軽傷だろう。
「ぇ……」
だめだ。彼から離れてはいけない。
痛くて仕方ない身体を本能的に動かし、手を突いて身を起こそうとする。
なのに手応えがない。正確には右の手が、どうしたって空を切る。
視線を落として、血の気が引いた。
体温が異常なほど上がっているのに、氷河の真ん中に落とされたみたいだった。
――右の手首が、どこにもなくなっていた。
傷口は半分ほど黒ずんで、出血量が抑えられている。
前に似たものを見た気がした。
そうだ、焼肉だ。ついつい取るのを忘れて、網の上で黒焦げになってしまった骨付き肉。
「よかった。少し手間が省けたよ」
声がする。顔を上げると、そこには美しい死神が立っていた。
中性的な顔立ち。凛とした佇まい。涼やかな微笑みと、自分にはもうない右手で握り締めた紅の太刀。
伊原薊美が、逃げ場のない悠灯を見下ろしている。
「正直、こっちも疲れていてね。今更追いかけっこは御免だったんだ」
「お……まえ、ッ……」
「そんな目で見ないでほしいな。一息に焼き殺してあげられなかったのは、私も悪かったと思ってる」
右腕に刻まれていた令呪も、今やどこかで焦げた肉塊の一部になっているのだろう。
令呪は何も、サーヴァントを統率するためだけの道具ではない。
英霊に限界を超えた行動を実現させる、言うなれば緊急避難のワイルドカードでもある。
悠灯はそれすら失ってしまった。
だから彼女にはもう、逃げ場などどこにもないのだ。
「正直、君には別に興味ないんだ」
「……、は……?」
「私のサーヴァントにとって、君のキャスターは"運命"だった。
でも、私にとっての君はそうじゃない。
こうして命を奪うとなっても、あまり感じるものはないな」
痛い。怖い。死ぬのは、終わるのは、嫌だ。
そんな当然の感情が、目の前の女への怒りに塗り潰される。
「強いて言うなら、自分が慙愧の念とか感じない人間だって知れたのはよかったかも。
これなら後々誰を殺しても大丈夫そうだよ。そこについてだけは、ありがとうだね」
何が腹立たしいって、こいつの言っていることがすべて本音だと分かってしまうことだ。
噛み締める価値もないような端役相手には、逆に偽る意味もない。
だって殺すから。舞台から弾き飛ばしたら、後はもう思い出すこともないんだから、無駄に心を尽くす理由がない。
薊美の饒舌は悪意などでは決してなく、単に手慰みに投げかけている戯言に過ぎないのだと知り、悠灯は強く牙を軋らせた。
あの暗殺者まがいの魔術師ですら、確かな動機を持って自分を殺した。
しかし茨の王子にはそれさえない。
単なるついで、シッティング・ブルという英霊に付いてきた余分なパーツ。
自分がそうとしか思われていない事実にかつてなく憤激する。
「ふっ……ざけ、んじゃねえ……!」
時に怒りは、どんな栄養にも勝る燃料になる。
気付けば悠灯は、隻腕の身体を揺らしながら立ち上がっていた。
眼球を血走らせ、初めて抱く本物の殺意を双眸に沸騰させて。
「何様だ、テメェ――!」
「私は、茨の王子」
そんな行動に対してさえ、薊美の向ける眼差しは変わらない。
酔っている。演じている。
古今東西あらゆる舞台の、"主役"の座に相応しい理想形がそこにはある。
「お姫さま。女王さま。正義の味方、燦然たる悪、悲劇の英雄、救国の騎士、求められたなら何様にだってなるけれど」
血に塗れ、泥に塗れ。
顔を歪めて震える野良犬とは、どこまでも違う風格と気品。
彼女が佇めば薄汚い路傍でさえ、お城のレッドカーペット。
彼女が笑えば血風荒ぶ戦場でさえ、女王を慰める薔薇の庭園。
「――――今なりたいのは、お星さまかな」
鋼の惑星。
茨の戴冠。
資格なき身で、夜空に挑む華の貴公子。
それが、伊原薊美という女だ。
路傍の犬などとは、何もかも違いすぎている。
生まれも、覚悟も、格も、値打ちも。
よって華村悠灯は、絶対に薊美に勝てない。
シッティング・ブルとカスター将軍の因縁とは別枠で、そこには揺らぐことのない巨大な壁が存在するのだ。
「私は恒星(スター)になる。誰も敵わない、超えようとする気さえ起こらない、本物の"極星"に」
だから。
「あなたのことも、踏み潰す」
「……、……」
「大義じゃないよ。
足元にいられると、邪魔なんだ。それだけ」
私のために死んでいけと、無感情に言い放った。
なのに手も足も動かさず、直立不動を保っている。
剣を構える様子すらなく、炎を出す気配もなかった。
対する悠灯は、残りひとつになった拳を血が滲むほど握り締める。
全身の痛みも死への恐怖も、今はもう気にならない。
「酔っ払ってんじゃねえよ、クソ女……」
初対面なのに虫が好かなかった理由が分かった。
この女は、自分のことを見ているようで見ていない。
王子の冒険を阻む敵役A。台本に名前さえ記載されない端役中の端役。
転がっていて邪魔だから踏み潰す、落果のひとつと大差ないのだ。
舐めている。
侮辱されるのは慣れっこだが、今のが一番許せなかった。
「テメェが、どれほどのものだってんだ」
アタシはアタシだ。
華村悠灯だ。端役ではあっても名無しの林檎なんかじゃない。
踏み潰されなんてするものか。
とことんコケにするのなら、無理やりにでも認めさせてやる。
それに――
「祓葉に嫉妬してるだけの雑魚が、イキり腐りやがって」
駄目だ。
その夢だけは認められない。
祓葉さえ踏み潰すというのなら、それは自分(アタシ)の未来の否定に等しい。
生きたいのだ。
どうしようもなく死にたくないし、同じだけ生きていきたいのだ。
「踏み潰されるかよ……」
それを阻むというのなら、是非はない。
アタシはここで、この女を殺す。
「テメェ如きが!! 思い上がってんじゃねえッ!!」
握った拳だけを寄る辺に、力強く地面を蹴った。
キャスターに助けを求めないのはプライドじゃなく、それだと遅すぎるからだ。
令呪に頼れない以上、カスターを相手取っている彼が駆けつけるまでに目の前の女は自分を五回は殺せる。
だから此処は覚悟を決める必要があった。
しかし、薊美は動かない。
知っているからだ。
動く必要などないと。
――――たぁん! と、肉の弾ける音がした。
「ぎ――が、ぶっ」
悠灯の右足。
その膝から下が、乱暴にえぐり取られていた。
銃声が聞こえるよりも早く訪れた、予兆なき射撃。
それを以って野良犬の反逆は呆気なく幕を下ろす。
「ほら、やっぱり林檎だ」
薊美は、自分の足元で止まった悠灯を冷めた瞳で見下ろしていて。
「邪魔だな。踏み潰さないと」
最後まで、何も成し遂げることなく。
ひたすら生き汚く無様にのたうち回った端役に、ようやく剣を振り上げた。
◇◇
「――命中(Hit)!
困ったなあ大戦士。だが己のクジ運を恨みたまえ」
戦場の質が、明らかに変じていた。
単なる気迫や心持ちの問題ではなく、実際に理がひとつ変わったのだ。
そしてそれをやった者がいるとすれば、ジョージ・アームストロング・カスターを除いて他にはない。
「『朽ちよ、赤き蛮族の大地に(インテンス・ソルジャーブルー)』。
"ワシタ川の虐殺"だよ。私の第二宝具は、領域内のあらゆる敵を全自動で射撃し続ける」
薊美が一騎打ちの状況を作ってくれた時点で、カスターは第二宝具を発動していた。
既に交差点一帯の土地は彼の領域と化し、第七騎兵隊に仇成す二人は殲滅の対象だ。
これから先、シッティング・ブルとそのマスターは射手のいない銃撃に晒され続ける。
いつまで? いつまでもだ。騎兵隊の敵が、合衆国の敵が視界から消え去るまで。
華村悠灯が令呪を失った今、この絶望の世界を抜け出る術は存在しない。
詰みだ。対城宝具のような打破策を持たないシッティング・ブルではどうあがいてもこれを覆せないし。
それどころか――銃撃と暴力から逃げ惑い、撃ち抜かれて悶え苦しむ相棒を救うことさえ出来やしない。
「何やら強がっていたが、結局君の敗因は引き当てた演者(アクター)の格だ。
言っただろう、勝てんぞと。君は反論したが、結果はごらんの有様じゃないか」
無様なり先住民。
無様なり、シッティング・ブル。
カスターは嘲りをもはや隠そうともしない。
いや、それは単なる悪罵というよりも。
まるで押し黙る大戦士の内から、何かを引き出そうとしているようにも見えて。
「どうした。何か言えよ、陽気に行こうぜ」
そんな宿敵に、シッティング・ブルはようやく口を開いたが。
「……そうか。よく分かった」
「――――ッ!」
漏れた声は、カスターでさえ思わず慄然としてしまうほど冷え切ったものだった。
背を這い上がる戦慄と、魅了魔術の酔いさえかき消えるような圧倒的既視感。
そうだ、これだ。
あの時、私は――第七騎兵隊(われわれ)は。
「私はいつも、気付くのが遅すぎる」
この顔をした先住民達に負けたのだ。
氷の瞳と、そこに横溢させた極限の殺意。
必ず殺す、此処で討つ。もはや赦さないと寡黙に語る、そんな剣呑に。
「……いい顔になったじゃないか、戦友。
やはりその顔の君を殺さなくては、真に雪辱を果たしたとは言えんよなァ!!!」
カスターは込み上げた畏怖を、何倍も漲っている戦意で粉砕した。
これでこそのリベンジだ。此処に、真の意味であの戦いのすべてが再現された。
であれば後やるべきことはひとつだけだ。
先住民の大戦士を破り、第七騎兵隊、何より己自身が負った汚名を払拭する。
――揺るぎない、絶対の勝利を以ってして。
「来るがいい、先住民達の偉大な戦士よ!!
カスターは此処にいるぞ!! 第七騎兵隊は健在だぞ!! はははははははは――!!!!」
「そうだな。……そこにいるのなら、滅ぼさねばな」
再び立ち上がる、先住民の遺骸達。
一時は騎兵隊に圧倒された彼らは、大戦士の覚醒と共にあるべき殺意を取り戻していた。
しかしソルジャー・ブルーも負けてはいない。
朝闇の向こうから蹄音を響かせながら頭数を追加して、本番の合戦に備える。
今回は、地形の有利も無様な油断もない。
正真正銘、騎兵隊と先住民による全面戦争だ。
「行くぞ」
「……来い」
四方八方を銃眼に囲まれているも同然の状態にも関わらず、シッティング・ブルは不退転。
カスターを討ち悠灯を助ける。そのためだけに、壊れたる大戦士は"それ"すら忘却した。
嘆きも痛みも今は忘れよう。守るべき友を救うために眼前の敵を討ち滅ぼそう。
カスターの悪意が、あの日の英雄を蘇らせた。
騎兵隊が突撃する。先住民が迎え撃つ。
開幕の一瞬、雄々しく叫ぶ筈の二人はしかし――
「――なんだ?」
「ッ……悠灯……!?」
隣の戦場で起きた予想だにしない事態に、目を見開く羽目になる。
◇◇
『――先祖返り?』
『ええ。おそらくは』
華村尚文の暴走を鎮圧してから、一ヶ月ほど経ってのことだった。
警視庁のオフィスで部下の報告を受けた"隊長"は眉を顰める。
『進化の過程で失くした形質が、遠く離れた子孫で突然蘇ることです。
ただ、正確にはたぶん"隔世遺伝"ですね。まあどっちにしろ、失われたものが急に蘇ったのには違いないでしょう。
華村尚文の家は衰退した魔術師の家系でした。尤も彼の頃には、もう秘術の継承すら途絶えていたみたいですけど』
被疑者は既に死亡済。
今となってはもう、断片的な情報を辿って真実に迫るしかできない。
『尚文は事件のおよそ一ヶ月前に、チンピラに腹を刺されて搬送されています。
そこで生命の危機に瀕した際、偶発的に魔術師の血が呼び起こされたのかもしれませんね』
そんな中でなんとか見つけた事件の背景こそ、彼の言う先祖返り/隔世遺伝だったらしい。
『だとすりゃ気の毒だが……先祖返りでああなるって、どんなろくでもない魔術だったんだ?』
『そこのところはなんとも。華村本家にもまともな記録は残ってませんでした――ただ、推測はできます』
先祖の形質が蘇ったとして、あそこまで破滅的な暴走を繰り広げるのは不可解だろう。
考えられるとすれば本人の生まれ持った気性か、もしくは蘇った力そのものがろくでもなかったか。
何度傷を負わせても構わず立ち上がり、素手で街並みを破壊する姿は今でも時々夢に見る。
『かつての華村家は、狼信仰の名家だったようです』
『狼――、っていうと。まさか』
『まあ、十中八九そうですよね。あの暴れぶりともなんとなく結びつきますし』
正しくは、彼らの信仰対象は大口真神という聖獣だった。
祀れば厄を退け、火と窃盗から家を守ると伝えられる"お犬さま"だ。
が、どこかで何かを間違えたのだろう。
家は貴い信仰を、宿願を叶えるための"手段"に変えてしまった。
『ヒトの狼化――獣性魔術の亜種か!』
『そこにいろいろちゃんぽんした結果、ってのが答えかもですね。何にせよ、ろくでもないことには変わりないですが』
獣の力を借り受けるのではなく、自らがそれになり替わる。
海外にはこの道を徹底的に極めた名家もあったが、華村家のは比べるのも烏滸がましい。
適性や限界を無視して、様々な技術や外的アプローチの結集で人狼のカタチを追い求めた。
ヒトの身で大神(オオカミ)になるための手段を模索し続け、しかして叶うことなく家は途絶え、秘術は後世の子を壊す黒い染みと化した。
実態はそんなところだろうと、彼らは考察を締めくくる。
愚かな先祖の業の帳尻合わせのために使い潰された華村某は気の毒だ。
が、もうすべては終わったことである。特務隊は彼を殺害という手段で鎮圧するしかなかった。
だからこその後味の悪さが立ち込める中、呟いたのは"隊長"だった。
『……なんつーか、やりきれねえな』
『悔やんでも仕方ないですよ。あの場ではああするしかなかった。雪村さんの判断は間違ってません』
『そうじゃねえよ』
何しろ本家で秘術の継承さえされていない有様なのだ。
華村尚文も、魔術の知識などほぼ持っていなかったに違いない。
お世辞にも素行のいい男ではなかった。
女遊び、暴力沙汰、賭け事に違法薬物の影。
夫婦喧嘩も絶えなかったらしく、近隣では厄介者扱いだったらしい。
そんな男が、事件の半月ほど前から急に姿を晦ました。
自宅に寄り付かなくなり、ほぼ浮浪者同然にあちこち彷徨って、暴走するまでついぞ寄り付くことはなかったそうだ。
先祖の業とも分からぬまま、日増しに自分が自分でなくなっていく名状し難い感覚と戦いながら。
生き地獄の中で、男が家庭からの蒸発という――ある意味では助けを遠ざけるような選択を取ったのは何故だろう。
その答えを、"隊長"は知っていた。
『たとえバケモノになりかけても、最後の一線は守ったんだって思ってさ』
これは単なる推測に過ぎない。
だが彼はもうこの世にいない憐れな男に思いを馳せ、窓の外を見つめた。
◇◇
――ありえない。
振り下ろした剣が前にも後ろにも動かない状況で、伊原薊美は静かに戦慄していた。
炎で焼き、右腕を奪い、足も片方もぎ取った。
出血も疲労も致死量、それどころか痛みだけでショック死ものの激痛な筈。
なのにどうしてか、踏み潰す剣(あし)が止められている。
足元の林檎が受け止め、掴み取っているのだ。
「……おい、どうしたよ?」
いいや、可怪しいのはそれだけではない。
焼き切られ、ねじり切られた四肢が泡立つように蠢いて形を取り戻していく。
「――――踏み潰せて、ねえじゃねえかよ」
にぃ、と引き裂くように広げられた口元から乱杭歯が覗いていた。
先端が尖った、獣を思わせる狼牙だ。
日本人離れした琥珀色(アンバー)の金眼が爛々と煌めき、視線だけで本能的な威圧感を与えてくる。
死にかけの木っ端とは思えないほど暴力的に漲った生命力。
魔術で強化を施している筈の腕力が、隻腕だけで止められそれ以上得物を動かせない。
「あなた……」
気付けば、言葉が漏れている。
ただの林檎、取るに足らない端役(エキストラ)。
そう嗤った相手に、前言を翻すような問いを投げてしまう。
「あなた、何も――」
の、と呟く前に、舞台の主役は視界の空転を見た。
何が起きたのかわからなかった。
感じたのは衝撃と、剣を掴んだまま引きちぎれそうになった右腕の激痛だけ。
「か……ッ!? げほ、ごほっ、ぁ゛――!」
地面に叩きつけられると同時に、腹の奥に強烈な鈍痛が込み上げる。
胃液が一筋、顎を伝って地面へ垂れ落ちた。
だが屈辱など入り込む余地もない。
あったのは驚愕と戦慄。それらを除いて他にはなかった。
「二度も名乗らせんなよ。酔っ払うのは勝手だが、人の話くらいちゃんと聞いとけ」
四肢の復元を終えた、さっきまで人間だった何かが立ち上がる。
消えかけの月を背景に立つその姿を、薊美は明確に別人と認識していた。
(力を、隠していた……? いや、あの必死さは演技なんかじゃなかった筈。
だとしたら何故、いったい、何が――)
薊美はこの戦いに臨むにあたり、色間魔術の模倣による防御装甲を仕込んでいたのだ。
服の内側に仕込めて、かつ傍目にはまずバレない薄皮程度のもの。
しかし防御力は折り紙付きだ。少なくとも防弾チョッキなどとは比較にならない。
それが、たった一撃で木っ端微塵に砕け散った。
振り下ろされた剣を押し退け、薊美の腹を殴ったというのがあの一瞬の真実。
内臓がことごとく悲鳴をあげ、身体を動かしただけで顔が歪みそうになる。
装甲が機能した上で尚、これほどのダメージ。もし生身で受けていたら、自分は確実に――
「華村悠灯。見ての通り、どこにでもいる普通の人間だよ」
死んでいた。
自覚した瞬間、薊美の殺意が爆発的に膨れ上がる。
「……君に感じるものはないと言ったけど、撤回しようかな」
こんな路傍の塵に、この自分が死を想わされたのか。
許せない。認められない。茨星の矜持が閾値を超えた嫌悪を噴出させる。
痺れたままの腕に知ったことかと力を込め直し、炎剣を持ち上げ構えを取った。
「私も今、"あなた"のことが大嫌いになったから」
刹那、解き放つ神殺しの炎。
近代兵器のお株を奪う炎熱噴射が、悠灯ごと周囲の景観を焼き払わんとする。
サーヴァントの宝具にも匹敵する火力は、茨の王子が振るうデウス・エクス・マキナ。
その歩みを邪魔立てするすべての不遜者を踏み潰す、主役の特権に他ならない。
「そうかよ、そりゃ残念だ。
アタシは今の吠え面かいてるテメェなら、ちったあ好きになれそうなんだけどなァ!」
「……!」
が、それに対する悠灯の行動はやはり常軌を逸していた。
初速から自動車の最高速度を超える超高速で駆動し、炎の壁を構わず全身で突き抜ける。
狂喜にも似た形相で乱杭歯を覗かせ、吶喊の勢いを維持したままドロップキックで薊美へ反撃。
無論薊美は『災禍なる太陽が如き剣』で受け止めるのだが、改めて味わう敵手の怪力に唇を噛む。
重い。重すぎる。衝撃を殺しきれず身体が後ろに追いやられ、刀身から爆熱を発散させての緊急回避を余儀なくされた。
「く……!」
「格好悪いなぁ王子様よぉ! 何になるんだったっけぇ!?」
「いい気に……なるなッ!」
再演・色間魔術。
過剰演算にだけは気を配りつつ、地面を染め上げて即席の地雷原に変える。
針山地獄めいて突き出す白黒の槍は、拳闘士(グラップラー)にとって悪夢に違いなかったが。
「あぁ――なんか、気分いいや」
数にして百を超える死の針山の上を、悠灯はアスレチックのように躍っていた。
かすり傷ひとつ負わず、超人的な域に高められた身体能力に物を言わせて跳び超える。
だが途中でそれにも飽きたのか。
躊躇いもなく槍の上に着地し、両足を貫かれながら、その金眼で獲物を見据えて。
「――――ッ!」
負傷した足など一顧だにせず、砲弾の如く薊美目掛けて疾駆する。
わずかな時間の間にも傷は治りかけており、少女を止めるしがらみは何もない。
人体の最適化じみた超強化は、伊原薊美が持つ拭えない弱点をものの見事に突いていた。
「強えってのは気持ちいいなぁ、狩魔サン」
すなわち、戦闘経験の少なさ。
蝗害の魔女にも指摘された点だ。
文字通り生まれ変わったように豹変した悠灯の圧倒的暴力に、茨の王子は後手後手になってしまっている。
悠灯としてはあるがままに振る舞っているだけだったが、逆にその無軌道が功を奏していた。
突撃からの拳撃でガードを揺るがし、手数に物を言わせて正面から圧倒し続ける。
いつか剣を握れなくなるまで。あるいは、守りそのものに重大な穴が生まれるまで。
薊美が抵抗のために放つ炎はまるっきり無視し、焼損と回復を瞬きの度に繰り返しながら華村悠灯は嵐と化す。
そして。
「オラァァッ!」
「が……ッ、あ……!」
順当にやってきた綻びを、悠灯の回し蹴りが突いた。
脇腹を文字通り一蹴され、薊美が吹き飛ぶ。
土に塗れ、口端から血を流す。茨の王子が、血を。
「やっぱり、お前は祓葉になれねえよ」
悠灯は、何も特別なことなどしていない。
ただ走り、耐え、殴っているだけだ。
規格は普通の人間と同じ。違うのはエンジン、それを駆動させる根幹の部品。
――かつて、ある愚かな一族があった。
狼を信仰し、地域に根ざしながら脈々と血縁を続けてきた内はよかったが。
ある時、誰かが病に冒されてしまった。
ありふれた病気だ。人が誰しも、生きていく内にいつか折り合いをつける普遍的な恐怖。それを受け入れられなくなる、恐怖症の代表格。
死恐怖症(タナトフォビア)。
死は恐ろしい、死にたくない、我は永久に生きていきたい。
当主が憑かれて以来、傲慢だが無害だった一族は毛色を変えた。
昼も夜もなく、手段も選ばず続けられる秘術の探求。
信仰と魔術を融合させ、死徒を題材に試行錯誤を繰り返し、偏執的な自己改造に総力をあげて邁進した。
しかして、死の克服に至ることはできず。
一族に汚名を塗った当主達は絶望の中で天命に沈み、不死の夢は泡沫に消え。
向こう見ずな邁進の代償として、熱を失った一族は急速に衰退していった。
されど。
永遠の命を望んだその血筋だけは、見る影がなくとも現代まで続いていたのだ。
華村の魔術とは死"狼"魔術。
拝跪して崇めるべき大神(オオカミ)を、現世利益の不死のモデルケースに貶めた醜悪な冒涜。
血筋が薄れ、回路が衰退しても、かつての妄執は種火となって血脈に残っていた。
起動条件は、死に対する極度の恐怖を抱くこと。
それが先祖返りへの道筋を拓き、華村の業を呼び起こす。
悠灯からすれば記憶も朧な父親は、刃傷沙汰で。
そして娘たる彼女は、肉体の摩耗で。
道は開き、死を遠ざけ――否、ねじ伏せる力が回帰した。
華村悠灯が死を強く自覚したのは三度。
一度目の死は緩慢だった。
二度目の死は一瞬だった。
だが三度目の死には、恐れる暇があった。
そこが分水嶺。華村の血は、死を恐れると化けるから。
「あの女になるのは、このアタシだ」
華村の人狼が、数百年の時を経て再び蘇る。
狼信仰、死霊魔術、獣性魔術、死徒の細胞、その他語るもおぞましい我流の改造を一七六。
きわめて粗悪。幻想には程遠く、目指した不死も遥かの彼方。
されど。死を誤魔化し、元凶を遠ざけることにかけて、華村の秘術は節操がない。
「……理解したよ」
血で胸元を汚しながら、立ち上がる茨の王子。
剣を握る手は痺れたままで、蝗害の魔女戦の疲労も手伝って今にも崩れ落ちそうだ。
しかし薊美は、悠灯を見据えて立つ。
そこには迷いも、わずかほどの恐れもない。
あるのは彼女が"星"に向けるそれにも近い、執念深い憎悪だった。
だが違う。
決定的に違う。
これは宇宙(そら)ではなく、大地の戦い。
「やはり君は人間だ。星などではない。
なのに私の前に立ち塞がって、この歩みを阻もうとしてる」
たかが人間に足を引かれるような三下が。
成層圏を超え銀河のステージに上るなど、出来る筈がないのだから――!
「邪魔だ。徹底的に打ち負かして、それから改めて踏み潰してあげる」
「ハ――少しはいい顔出来るじゃん。上等だよ、路上の喧嘩なら慣れたもんだ」
狼が地を蹴る。
王子が剣を構える。
主役は伊原薊美。
歌劇の題名は『The Werewolf』。
勝とうが負けようが、茨の王子が地上で演技するのはこれが最後。
人が空に挑む前の最終試練。
腐敗した林檎の獣が、王子の喉笛に牙を剥く。
◇◇
「ふぅーッはっはっはっはっはァ!!! 面白くなってきたじゃないか!!! やはり戦争は派手に限るなァ!!!」
哄笑。突撃。その弾幕は暴風雨。
虐殺者(ソルジャー・ブルー)が津波と化す。
蹂躙走破、撃ちてし止まん。
殺せ、殺せ、大義のために。偉大なる星条旗を未開の大地に打ち立てるのだ。
対するのは、首のない腐乱死体の軍勢。
騎兵隊を絡め取る沼地の泥濘となって、先住民(インディアン)が受けて立つ。
誰も死を恐れない破滅的な戦闘であることは、しかし明らかに騎兵隊側に味方していた。
無茶な特攻の代償に七割方は『謳え、猛き紅馬』の人海に埋もれて死んでいたが、三割踏破できたなら御の字だ。
――そして彼らを統率する"将軍"は、変わらず最前線で宿敵と切り結んでいる。
「ぬぅぅぅんッ!」
「はぁぁぁぁッ……!」
互いに剣士ではないのだ、手練れの太刀筋とは言い難い。
が、だからこその激しさが他の誰にも介在する余地を与えなかった。
片や気合。片や悲憤。動静二種類の戦意がカンフル剤となって彼らを魔人に変えていく。
大上段からの唐竹割りを受け止めたシッティング・ブルの足元が傾げば。
そこを見計らったカスターがライフルを抜き、やはり片手撃ちで至近からぶっ放す。
間合いにして一メートルもない超至近での銃撃は音速を大いに超えていたが、弾は奇妙な軌道を描いて彼を避けていった。
「"矢避けの加護"か――多芸だな!!」
「そう大したものではない。単なる真似事だ」
避けられる筈のない弾が不発に終わる不可解に、しかしカスターは驚かなかった。
大いなる神秘との接続を強め、幻視の強化版として対飛び道具の加護を賜ったのだ。
次いで第二宝具による虚空からの弾幕が彼を横殴りにしかけるも、やはり当たらない。
即席で呼び出した霊獣に守護を任せ、一撃も被弾していないにも関わらず、虚空からの射撃が帯びている"とある性質"をも察知して対処する。
蝗害の魔女さえ不覚を取った虐殺領域の悪辣な罠など、彼の智慧の前では小細工に等しい。
本気のシッティング・ブルはかの"血濡れの悪鬼(ジェロニモ)"にさえ匹敵する。
それを知っているのはわずかな同胞と、彼ら第七騎兵隊のみ。
加えて更なる霊獣召喚。バッファローの大群を呼び出し、もはや残り三割の騎兵にさえ先住民の人垣を超えさせない。
無論、カスターに対しても圧倒的物量の暴力は等しく襲いかかっていく。
恐るべし"座せる雄牛"。彼はたったひとりの業だけで、先住民の悪夢を完全に封殺しきっていた。
「いや、実に素晴らしい。やはり君の戦いは芸術的(Artistic)だ!!」
怒り狂う獣の群れに直面しながら、限界を超えた馬術で無理やり生存圏を作り出すカスター。
誰の眼にも分かる苦境だったが、しかしその笑みは消えない。
「が――君こそ弱点が変わっていない。
いつだって"守るべきもの"が、君の美点を台無しにする」
シッティング・ブルの眉が少し動いた。
刹那、空を引き裂く無数の銃声が再来する。
ただし今度は大戦士を標的にしたものではない。
彼の宝具は強襲虐殺。その凶弾は、醜悪なまでに貪食だ。
「さあ撃て我が朋よ、家族よ、兄弟達よッ!!
女子供に銃弾など過ぎたものだが、ジョージ・アームストロング・カスターが赦すッ!!
Garry Owen,Garry Owen,Garry Owen,Garry Owen――――!!!」
弾幕が、薊美と戦う悠灯に向け襲いかかる。
それが敵であるのなら、この領域はあらゆる命を許容しない。
高らかな歌唱と共に確定する、ある少女の死。
されど。
「だからうるせえよクソ髭。こっちはこっちで盛ってんだ、茶々入れてくんじゃねえ――ッ!!」
カスターは、再び信じられぬものを見た。
「Garry O――何ッ!?」
少女の姿をした人狼は、咆哮と共に空へ躍った。
四方八方では利かないほど多数の方角から襲来する弾丸を、雑技団めいた身のこなしで避けていく。
無論すべては避け切れず、躱し損ねた弾が指や耳を抉り取ったが、彼女は一切頓着しない。
虐殺領域の銃撃は全弾が魔弾。
あらゆる守りを貫通し、矢避けの加護さえ無為と帰す。
攻性の究極めいた力であるが、凌ぐ手段も確かに存在する。
何のことはない、ただひたすらに常軌を逸した生命力と再生力。
神寂祓葉をこの領域で斃せなかったように、カスターの切り札は"死を拒絶する者"相手には二の足を踏む。
弾幕を凌いだ悠灯が、たん、とステップを踏む。
次の瞬間、人狼は身を水平に屈めながらカスターへ迫っていた。
バッファローの背を足場に水切り石の如く滑走し、将軍は冷や汗を流しながらサーベルを構えるが。
「■■■■■■■■■ァァァァ――――ッ!!」
「が、ぐゥ……!?」
予想の遥か斜め上を行く回答/攻撃に、早くも三度目の驚愕を晒す。
単なる咆哮だ。
しかし魔術師として先祖返りを完了させた悠灯が行うのでは意味合いも本質も異なる。
常人の鼓膜を破壊する爆音は物理的破壊力さえ帯び、英霊にさえ通用した。
カスターほどの男が歯を食い縛り、眼球を血走らせ、鼻から一滴の血を流している。
驚きに次いで彼の脳に去来するのは焦燥。
まずい流れになっている。その予感は、すぐさま的中した。
「まぁでもよ。よくよく考えりゃ、テメェがいなくなった後でもアイツとは戦り合えんだよな」
獰猛に破顔した悠灯が、虚を突かれたカスターに高速で接近。
単純明快な拳の一撃を振り下ろし、サーベルとせめぎ合う。
「いいや。まずテメェから殺してやる」
「――ほざくな猿めッ!!」
今の悠灯の連撃は、それそのものが魔力を帯びた銃乱射に等しい。
重い。速い。優れた攻撃が備えるべき要素を共に満たしている。
が、流石に正面対決ではカスターに分があった。
一皮剥けたといえど、そんなランナーズハイで押し切れるほど人理の影は甘くない。
それでもカスターは今、確かに綱渡りの真っ最中だった。
理由は華村悠灯ではなく、この領域に存在する本当(メイン)の獲物。
「歴史は繰り返し、結末は変わらない」
「ちィ……!!」
「君を待つ聖杯など無い。汚名を抱えて君達の"地獄"に還るがいい」
悠灯に続いて吶喊してきたシッティング・ブルの手斧が、虐殺者への断頭台になる。
咄嗟に身を躱すカスターだが、右肩を浅く切り裂かれた。
サーベルを持つ腕を刻まれたことで力が緩み、その一瞬を華村の人狼は見逃さない。
人として培った喧嘩の経験と、歪なる狼の生への渇望。
今の華村悠灯はもはや、彼女が見てきたどのマスターも上回る人型の魔獣と化していた。
「ッうぅううぅらぁぁああぁ――ッ!!」
「ご、あ、あぁああぁッ……!!!」
拮抗を乗り越えた悠灯のアッパーカットが、カスターの顎を跳ね上げる。
軍馬から吹き飛んで、またも地面を転がる"将軍"。
その姿を見送りながら、シッティング・ブルは歓喜とは縁遠い波長で念話を送る。
(やめろ、悠灯。君まで傷つく必要は――)
(そういうの、今はいいだろ。心配するなら後にしてくれ。
それに、ぶっちゃけ見てくれほど気ぃ狂ってるわけでもないんだ。
……いや、死ぬほどハイになってる自覚はあるんだけどさ)
対する悠灯は、意外にも少しばつ悪そうだった。
人狼として荒れ狂う姿は狂的の一言なのに、内側では案外理性が残っているらしい。
彼女の父・華村尚文が先祖返りを起こした際は、本当に何の意思疎通も通じない狂狼として暴れ狂った。
彼は結果として公安特務隊に射殺される末路を辿ったわけだが、悠灯は件の事案とまるで様子が異なっている。
対魔装備で武装した警官隊程度に鎮圧された父と、英霊さえ手を焼く大立ち回りを演じる娘。
完全に理性を失って暴れた尚文と、暴れるのは同じでも根本的な理性を残している悠灯。
この差異を説明できる理屈は、ひどくシンプルだ。
――明日も知れない暴力の日々の中で、悠灯は自分でも気付かない内に、華村の業を受け入れる"器"を完成させていたのだ。
(さっきも言ったろ。それより今はアイツらに勝ちたい。
で、……まぁ、その。アンタのことも、勝たせたいんだよ)
オルフィレウスが起こし、神寂祓葉がきっかけを作り、シッティング・ブルが支え続けた規格外の器。
それが華村悠灯。この都市において最も強く死を拒絶する"人間"だった。
(手ぇ生やし直しても令呪は復活しないみたいだしな。勝つしかねえだろ、どっちみち)
(――私達の戦いだ。君が責任を負う必要は)
(だーかーら! アタシがどうとかじゃなく、あっちの自称王子様がもう火ィ点いちゃってんだよ!
……今まで言わないようにしてたけど、お前ちょっと辛気臭すぎるぞキャスター。笑ったとことか一度も見たことないし)
そんな悠灯にとって、勝手をやって嫌味を言われるのは承服できても、同情されるのは甚だ不本意だった。
だって今、自分は本当に楽しんでいる。
生きるのが楽しいなんて、人生で初めてのことかもしれない。
そのくらい心が躍る。胸が沸き立つ。力が漲り視界が鮮明に開ける度に、この先に広がる見果てぬ未来の鼓動を感じてやまないのだ。
(ある人の受け売りなんだけどさ。友達に同情するのは、背中を刺されるより酷い裏切りなんだって)
だから悠灯は、シッティング・ブル以上に目先の勝利を切望していた。
カスターを討つ。伊原薊美をねじ伏せる。
そうしてこの世界で唯一の極星に辿り着き、ああやって楽しく面白おかしく生きられる未来を勝ち取りたい。
(何せ、ひと月も一緒にいたんだからな。アタシはお前のこと、相棒(ダチ)だと思ってるよ)
正しい生き方ではないと謗る者もいるだろう。
人生とは終わりがあるから素晴らしいのだ。
苦しみながらがむしゃらに生きて、いずれ来る天命に従い事切れるからこそ人間は素晴らしい。
その手の綺麗事を聞いた時、悠灯が抱く感想はひとつだった。
うるせえよ。
本気で"生きたい"と思ったこともない分際で、知った風な説教垂れてんじゃねえ。
(お前は……違うのか? だったら結構残念なんだけど)
生きたい。死にたくない。生きていきたい。
百年でも二百年でも、千年でも万年でも。
それこそ、華村悠灯の唯一不変の根源で。
願望を自覚した彼女に、もはや恥も外聞もありはしない。
華村の一族は、そういう感情と袂を分かった愚かの血脈なのだから。
(アタシはもうお前だけに背負わせない。アタシ達二人で、ちゃんとこの街を生きていこう)
彼女の言葉を聞いて、噛み締めるようにシッティング・ブルは沈黙した。
彼は嘆きの男だ。とうに壊れ果てた、残骸の影法師だ。
世界は虚しい。すべては虚しい。己の手は、どこにも届きなどしないと。
そう信じ、何よりも己自身と戦ってきた男にとって。
脳裏に直接響く少女の声は酸のように痛く、砂糖水のように甘かった。
(……いいのか?)
だから、問うてしまう。
(こんな男が――君の。友などでいて、いいのか?)
願いはある。そのために戦う気概もあった。
だが、いざ始めてみて気付いた。
自分は、もはやそれすら望み切れない男になってしまったのだと。
戦う度に血が、失ったモノが、奪われたモノが脳裏をよぎる。
未練という麻薬に酔って、ふらふらと彷徨うだけの亡霊。
聖杯戦争が独りきりの戦いだったならどれほど良かったかと、思わなかった日は存在しない。
ずっと罪の意識があった。こんな呪わしい男に、生きたいと願う彼女を付き合わせることへの。
(アタシは言ったぞ。アンタの手を取るって。
で、アンタも言った筈だ。アタシの手を取る、って)
そんな女々しい言葉に、念話でも分かるような苦笑を返して。
(――――約束くらい守ってくれよ。男だろ?)
差し伸べられた見えざる手が、シッティング・ブルに答えを与える。
この身は救われるべきではない。
たとえ虐げられ傷ついた同胞の全員が救われても、己だけはその例外であるべきだ。
そんな気持ちは変わらない。
変わらないが、無限に続く闇路の中にひとつだけ標識らしいものが見えた。
(……そうか。いや、そうだな)
彼らしくもない、悠灯の声へ応えるような苦笑いを漏らして。
瞬間、両者の同調が目に見えて深まる。
月の冷気が太陽のような絆の熱に置換され、シッティング・ブルは立ち上がる仇敵を見据えた。
(私も、勝ちたいよ。この男にだけは負けられないんだ)
負けられない、そんな宿命がそこにある。
初めて聞く相棒の地金に、悠灯は。
(――じゃあ、やっつけないとな)
そう応え、そこで主従の会話は打ち切られた。
もはや、これ以上の言葉は要らない。
勝つにしろ負けるにしろ、自分達はすべての想いを通わせ終えたから。
「YeeeeeHaaaaaaaw……!!」
鼻血を拭いながら、虐殺の将軍が再起する。
ああもやり込められたというのに、むしろ今の彼は先刻以上に滾って見えた。
「認識を改めよう。君達は、ますます油断ならない敵になった」
それもその筈、勝ちたいと願うのは虐げられる側だけではないのだ。
虐げ、殺した側もまた、再来した運命を今度こそ打ち破りたいと希っている。
聖杯でいかなる願いを叶えるにせよ、目の前の仇敵の首級をあげなければスタートラインにすら立てやしない。
彼は生粋のアメリカ人。フロンティア・スピリットに殉じた男の中の男は、負けっぱなしなど承服できない。
「というわけで、此処からは趣向を変えよう。
思えば再演など芸がない――曲がりなりにも、これは"聖杯戦争"なのだから」
両手を挙げ、カスターが吠える。
それに呼応して、一時の劣勢は容易く切り裂かれた。
「なあ――令嬢(マスター)よ!! 情けないが嘆願しよう!! 至高の勝利を献上するから、どうか力を貸してくれッ!!!」
「仕方ないですね」
地が、音もなく再び白黒に覆われる。
その爆散を以って、既存の布陣はすべて洗い流された。
霊獣も、騎兵隊も、先住民も、すべてが等しく後退を余儀なくされる中。
彼女のために開けた一本道を、炎の剣を携えた王子は威風堂々と闊歩する。
「でも……負けるわけにいかないのは私も同じ。
私の乗り越えるべき宿命は、此処よりもっと先にある。
こんな前座で泥に塗れているわけには、いかないの」
彼女の役柄は神殺し(スルト)。
自分自身でそれを見出し、北欧最高の奇術王に太鼓判を押された。
あの月と、その相棒ならいざ知らず。
今更人間と、その延長線などに足を取られている場合ではない。
「者共、跪け」
言葉とともに吹き荒れる王者の魅了。
今更、こんなもので眼前の人狼と、それに付き従う大戦士を平伏させられるとは思っていない。
よってこれは、彼女なりの様式美のようなものだった。
「――――主役(わたし)の時間だ」
それはある意味で、華村悠灯に対する最大の敬意でもあったのかもしれない。
どうせ殺すとしても、主役の躍進に有意な敵なら優れているに越したことはないから。
優れた役者は、自分の当て馬にだって時に崇敬を払うのだ。
すべては、素晴らしき己のために。
◇◇
【渋谷区・北東部 交差点/二日目・早朝】
【華村悠灯】
[状態]:生命活動停止。固有の魔術が発動中。人狼化。肉体疲労(極大/無視)、魔力消費(大/無視)、生への渇望
[令呪]:喪失
[装備]:精霊の指輪(シッティング・ブルの呪術器具)
[道具]:なし
[所持金]:ささやか。現金はあまりない。
[思考・状況]
基本方針:アタシは、死にたくない。そして、生きていきたい。
0:運命に勝つ。
1:行くぞ、キャスター。
2:狩魔さん、ゲンジ――死んじまったのか。
3:山越風夏への嫌悪と警戒。
4:あの刺青野郎ってば最悪!!
[備考]
神寂縁(高浜総合病院院長 高浜公示)、および蛇杖堂寂句は、それぞれある程度彼女の情報を得ているようです。
華村悠灯の肉体は、普通の意味では既に死亡しています。
ただし土壇場で己の真の魔術の才能に目覚めたことで、自分の魂を死体に留め、死体を動かしている状態です。
いわゆる「生ける屍」となります。
強いて分類するなら死霊魔術の系統の才能であり、彼女の魔術の本質は「死を誤魔化す」「生にしがみつく」ものでした。
自覚できていた痛覚鈍麻や身体強化はその副次的な効果に過ぎません。
この状態の彼女の耐久性や、魔力消費などについては、次以降の書き手にお任せします。
→魔力消費の影響をある程度無視できるようです。ただしあくまで誤魔化しているだけなので、度が過ぎると多分死にます。
→華村家の魔術は『死狼魔術』です。
狼信仰をベースとし、死霊魔術や獣性魔術、死徒の細胞などを取り込んで作り上げた継ぎ接ぎのパッチワーク。
覚醒した華村の魔術師は擬似的に人狼化し、超人的な身体能力と再生能力を得ます。
ただし、あくまでも死を誤魔化し、蓋をして無理やりねじ伏せているだけに過ぎません。華村の魔術は失敗作です。
腕を切断された際に、残りの令呪と『精霊の指輪』を失いました。
【キャスター(シッティング・ブル)】
[状態]:疲労(極大)、全身にダメージ(大)、額と右耳に軽傷、腹に刺傷(止血済)、覚悟、アルマナへの憐憫と共感
[装備]:トマホーク
[道具]:弓矢、ライフル
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:救われなかった同胞達を救済する。
0:運命に勝つ。
1:アーチャー(スカディ)からの逃走。
2:神寂祓葉への最大級の警戒と畏れ。アレは、我々の地上に在っていいモノではない。
3:復讐者(シャクシャイン)への共感と、深い哀しみ。
[備考]
※ジョージ・アームストロング・カスターの存在を認識しました。
※各所に“霊獣”を飛ばし、戦局を偵察させています。
【伊原薊美】
[状態]:魔力消費(大)、頭痛と疲労(大)、胴体にダメージ、静かな激情と殺意、華村悠灯への殺意(極大)、魅了(自己核星)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:騎兵隊の六連装拳銃、『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
[所持金]:学生としてはかなりの余裕がある
[思考・状況]
基本方針:全てを踏み潰してでも、生き残る。
0:踏み潰す。貴方達は、私の運命なんかじゃない。
1:私は何にだって成れる、成ってやる、たとえカミサマにだって。
2:殺す。絶対に。どんな手を使ってでも。
3:高天小都音たちと共闘。
4:仁杜さんについては認識を修正する。太陽に迫る、敵視に相応しい月。
5:太陽は孤高が嫌いなんだろうか。だとしたら、よくわからない。
6:同盟からの離脱は当分考えていない。でも、備えだけはしておく。
[備考]
※マンションで一人暮らしをしています。裕福な実家からの仕送りもあり、金銭的には相応の余裕があります。
※〈太陽〉と〈月〉を知りました。
※自らの異能を活かすヒントをカスターから授かりました。
→上記ヒントに加え、神寂祓葉と天枷仁杜、二種の光の影響によって、魅了魔術が進化しました。
『魅了魔術:他者彩明・碧の行軍』
周囲に強烈な攻勢魅了を施し、敵対者には拘束等のデバフ、同盟者には士気高揚等のバフを振りまく。
『魅了魔術:自己核星・茨の戴冠』
己自身に深い魅了を施し、記憶した魔術や身体技術の模倣を実行する。
降ろした魔術、身体技術の再現度は薊美の魔術回路との相性や身体的限界によって大きく異なる。
ただし、この自己魅了の本質は単なる模倣・劣化コピーではなく。
取得した無数の『演技』が、薊美の独自解釈や組み合わせによって、彼女だけの武器に変質する点にある。
※ウートガルザ・ロキから幻術による再現宝具を授かりました。
・『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
対神、対生命特攻。巨人の武具であり、神の武具であり、破滅の招来そのものである神造兵装――の、再現品。
ロキの幻術で生み出された武器であるため、薊美が夢を見ている限り彼女のための神殺剣として機能を果たす。
逆に薊美が現実を見れば見るほど弱体化し、夢見ることを忘れた瞬間にカタチを失い霧散する午睡の夢。
セキュリティとして術者であるロキ、そして彼の愛しの月である天枷仁杜に対して使おうとすると内蔵された魔術と呪いが担い手を速やかに殺害する仕組みが誂われている。
サイズや重量は薊美の体躯でも扱える程度に調整されている様子。
【ライダー(ジョージ・アームストロング・カスター)】
[状態]:疲労(大)、心臓にダメージ(中)、複数の裂傷、脳震盪(軽度)、魅了、『朽ちよ、赤き蛮族の大地に』展開中
[装備]:華美な六連装拳銃、業物のサーベル(トバルカインからもらった。とっても気に入っている)
[道具]:派手なサーベル、ライフル、軍馬(呼べばすぐに来る)
[所持金]:マスターから幾らか貰っている(淑女に金銭面で依存するのは恥ずべきことだが、文化的生活のためには仕方のないことだと開き直っている)
[思考・状況]
基本方針:勝利の栄光を我が手に。
0:運命を踏み潰す。さよならだ、我が宿敵。
1:神へ挑まねば、我々の道は拓かれない。
2:やはり、“奴ら”も居るなあ。
3:“先住民”か。この国にもいたとはな。
4:やるなあ! 堕落者(ニート)のお嬢さん!!
[備考]
※魔力さえあれば予備の武器や軍馬は呼び出せるようです。
※シッティング・ブルの存在を確信しました。
※エパメイノンダスから以下の情報を得ました。
①『赤坂亜切』『蛇杖堂寂句』『ホムンクルス36号』『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報。
②神寂祓葉のサーヴァントの真名『オルフィレウス』。
③キャスター(ウートガルザ・ロキ)の宝具が幻術であること、及びその対処法。
※神寂祓葉、オルフィレウスが聖杯戦争の果てに“何らかの進化/変革”を起こす可能性に思い至りました。
※“この世界の神”が未完成である可能性を推測しました。
前の話(時系列順)
次の話(時系列順)
最終更新:2025年12月08日 00:10